61 冒険者って思われないの?
「おーい、ルディーン。金の話は終わったぞ」
お父さんの声を聞いて、僕は目の前にあったジュースを慌てて飲み干す。
そしてカウンターに居るおじさんにお礼を言ってから、お父さんたちがいる方へ駆けて行ったんだ。
「お父さん。お話、おわったの? ならもう村にかえる?」
「ああそうだな。思わぬことで時間を取られてしまったし、そろそろ帰らないとな」
お父さんはそう言うと、ルルモアさんとカルロッテさんの方を向いて、
「それでは俺たちは、そろそろ村に帰るとします。お世話になりました」
こうお別れの挨拶をしたんだ。
だから僕もお父さんに続いてお別れの挨拶。
「ルルモアさん、カルロッテお姉さん、またね」
「はい。また会えるのを楽しみにしてるわ」
「私はルディーンさんが次にこの街に来る時はもう冒険者ギルドへの出向は終わってるかもしれないけど、もし神殿に寄る様な事があったら顔を見せてね」
すると2人はお別れの挨拶を返してくれたんだけど、僕はカルロッテお姉さんのお別れの挨拶を聞いて、あれ? って思ったんだ。
だっておかしいもん。
昨日はあんなに僕が魔法を使えるのを隠さなきゃいけないって言ってたルルモアさんが、何で今日は何も言わないんだろうって。
特に神官が使う癒しの魔法は攻撃の魔法よりも、もっと隠さないって言ってたよね? なら余計に変だよ。
それが気になった僕は、帰る前にルルモアさんに聞く事にしたんだ。
「ねぇルルモアさん、ちょっと聞いていい?」
「ん? いいわよ。何が聞きたいの?」
「あのねぇ、きのうはぼくがまほうを使えるのをあんまりしゃべっちゃいけないって言ってたのに、何で今日はよかったの? ぼく、いっぱいキュアとキュア・ポイズン使っちゃったよ? キュアとかはマジックミサイルよりもっとひみつにしないといけないんじゃないの?」
「ああ、その事か」
僕の話を聞いて、ルルモアさんはうんうんと頷いてる。
そんな姿を見て、お父さんも独り言のように疑問を口にしたんだ。
「そう言えば神官の魔法が使えると言う事は、村の司祭様もなるべく秘匿するようにって言ってたよなぁ。って事は今日ルディーンが回復魔法を使いまくったのはちょっと不味かったのか? でも、ルルモアさんのその表情からすると、そうでもなさそうだけど」
「ええ、今回に限っては大丈夫だと思いますよ」
そんなお父さんの独り言にルルモアさんはこう返事をして、その理由もその後に説明してくれた。
「実はカールフェルトさんたちが来る前に、この冒険者ギルドから中央神殿や近くの薬局、それに錬金術ギルドへ救援要請を出したんです。流石に冒険者ギルドにある薬の備蓄や、神殿から出向しているカルロッテちゃんだけではどうしようもない状況でしたから。そしてその後にルディーン君がこの冒険者ギルドを訪れて、その惨状を見てすぐに治療を開始したでしょう? だからきっと冒険者たちはこう思ったはずです。ああ、神殿からの救援なんだなって」
「えっ、でもルディーンですよ? まだこんな小さな子供だし、そんなルディーンを神殿からの救援だと考えますか?」
ルルモアさんはそう言ったんだけど、それを聞いたお父さんは僕はこんなに小さいのに冒険者さんたちがそんな風に考えるかなぁ? って聞いたんだ。
そしたらルルモアさんはフフって笑って、だからですよって言ったんだよね。
「ルディーン君がまだ小さいからこそです。これが立派な装備に身を固めた冒険者然とした人だったのなら治癒魔法が使える希少な冒険者だと考えるでしょうけど、こんな小さな子がそんな存在だなんて普通は考えません。むしろ、まだこんなに小さいのにもう毒消しの魔法が使えるなんて、なんて将来有望な神官見習いなんだって、みなさん考えたと思いますよ。それにもし中央神殿から神官が到着するにしてもこれは流石に早過ぎるだろうって思った人がいたとしても、きっと街の各地にある小さな神殿から駆けつけてくれたんだろうって考えるんじゃないですか?」
そっか! そう言えばグランリルでも冒険者登録するのは10歳くらいからだし、それより小さい僕を見て治癒魔法が使える冒険者が来てくれたって考えるより、神官見習いの子供が来たんだって考える方が自然だよね。
「それにですね、通常の回復量より少ない不完全なキュア程度ならともかく、独学で毒消しの魔法まで使えるようになった冒険者なんてAとかSクラスに所属している人しかいませんから。だからこそ、ルディーン君を見て冒険者だなんて誰も思わないんですよ。ましてやこの歳でとなると、神殿で修行したとしか考えられませんからね」
「確かに。普通は神官の使う魔法を神殿以外で覚えるのは難しいと言う話でしたからね。言われてみれば納得です」
僕が小さな子供で、そのうえキュア・ポイズンまで使ったと言う事で、余計にみんなが勘違いする事になるんだってさ。
そっかぁ、ならみんなにばれても何の心配も無いね。
「と言うわけなのよ。ルディーン君、解ったかしら?」
「うん。ぼくがまほうをいっぱい使えたから、みんなぼうけんしゃって思わなかったんだね」
こうして僕は、疑問の答えが解って気持ちよく冒険者ギルドを出る事ができたんだ。
この後僕たちは若葉の風亭に戻って預けてあった馬車を受け取り、酒屋へ。
そこでお酒やセリアナの実を積み込んでから今度は近くの食料品を扱う商会へ行って塩や砂糖などの調味料、それに村で採れない野菜や果物を買って積み込んでもらった。
と、そこで僕の目に止まったのはお砂糖と塩の値段の差。
この二つは並んで売っていたんだけど、そこについている値札を見るとどっちも同じ単位で書かれた重さなのに、その後ろに書かれた金額が大きく違っていたんだ。
「へぇ、おさとうって、おしおよりすごく高いんだね。2000セントもするって書いてあるよ」
この都市は内陸で海から遠いからお塩も十分に貴重だと思うんだけど、お砂糖はそれよりもずっと高いんだよね。
見た感じ、さらさらとして物じゃなく粒の大きめなザラメのような砂糖なんだけど、それでも塩よりもかなり高くて僕はびっくりしたんだ。
「おっ、そんな所に目が行ったか。ああ、確かに砂糖は高いな。でも村ではみんな結構使うし、高いと言っても買えないほどの金額じゃないから今まで気にした事もなかったよ」
言われて見れば銀貨20枚程度なら村近くの森にいっぱいいる一角ウサギが持ってる米粒程度の魔石の半分の値段だし、いっしょに書いてある単位はよく解んないけどお父さんが買ってる量から考えて多分1キロくらいでその値段だろうから、買うのを悩むほど高くはないんだろうね。
この後も色々なお店へ寄ってはそこで買ったものを馬車に積み込んでもらい、そうして全ての買い物を終えた僕たちはイーノックカウを後にして、グランリルの村へと向かったんだ。
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