632 なんか遊びに使うような道具でやるんだね
風でもみ殻を飛ばしちゃった後、残った種の入ったざるを取り出したルルモアさん。
その中の一粒を手に取ると、こんなこと言ったんだよね。
「見た目は短い麦って感じですね。ちょっと薄めだけど同じような色をしているし」
言われてみると確かに、玄米って麦に似てるかも。
「でもこれは、粉にするのではなくこのまま食べるのですよね?」
「うん。でも、この周りの黄色いのを取らないとおいしくないんだ」
確か玄米のままでもおいしく食べる方法があるって言ってた気がするんだよ。
でも僕、そのやり方を知らないもん。
だからちゃんとお米にしてから食べた方がいいと思うんだ。
「確か、お菓子を作る時に使う麦のように、周りの硬い部分を取り除くのよね」
「うん。ここは小麦粉屋さんだから、その道具もあるんでしょ?」
ルルモアさんの言う通り、お菓子を作る時に使う白い小麦粉はお米とおんなじように周りの黄色い所を削り取って作るんだよ。
だからその道具もあるんでしょって聞いたんだけど、そしたらルルモアさんがちょっと変なお顔をしたんだ。
「どうしたの?」
「あるにはあるんだけど、このエリィライスに使えるかどうかはちょっと解らないのよ」
ルルモアさんはそう言うと、お部屋の隅っこの方へ歩いて行ったんだ。
そこにあったのは、大きな布がかぶさったなにか。
「これがその道具なんだけど、エリィライスって小麦と違って粒のまま食べるんでしょ? 割れてしまわないかとちょっと心配で」
布を取ると、その下から出て来たのは大きな石でできた臼と……。
「シーソー?」
それは前世の僕が小さい頃に公園で遊んだシーソーみたいなものだったんだ。
ただそのシーソー、ちょっと変わった形をしてるんだよ
普通は左右が同じ長さなのに、これは片方だけがすごく長いんだもん。
それにね、長い方の先には先っぽが細くなってる杵みたいなのが付いてて、それが石の臼の中に入ってるんだ。
「これで麦の周りの硬いとこを取るの?」
「ええ。ちょっと見ていてね」
ルルモアさんはそう言うとシーソーの短い方へ歩いて行って、いきなり踏んづけたんだよ。
だから僕、ちょっとびっくりしたんだ。
「それ、ふんじゃっていいの?」
「こうして使うものだからね」
そう言って踏んづけてた足をどかすルルモアさん。
そしたら持ち上がってた反対側が落っこちて、こつんって音がしたんだ。
「こうして臼の中に入れた麦を突くことで周りの硬い部分をこすり取るんだけど、その衝撃でエリィライスが割れてしまわないかと思って」
そっか、あんなのでとんとんしたらせっかくのお米がみんな割れちゃうかもしれないもん。
これは使えないかもしれないなぁ。
僕がそんなことを思ってたらね、近くでお話を聞いてたノートンさんが笑いながら大丈夫だよって。
「見た目だけで判断するとそんな風に考えてしまうかもしれないけど、たぶんそんな心配はしなくてもいいと思うぞ」
「そうなの?」
「ああ。ほら、この杵は先が丸くなってるだろ。それに先に行くほど細くなっている。だから麦やこのエリィライスのような粒の小さなものを入れて突いても、そのほとんどは下敷きにならずに横に逃げてしまうからな」
麦やお米は小さくて丸っこいでしょ。
こういう形の杵で突くと、それが落ちてく力に押されて横に逃げちゃうんだって。
それにね、この道具を使うことで麦が割れるのを防いでるんだよってノートンさんは言うんだ。
「例えば俺が杵を持って、臼の中に入れた麦を突くとするだろ? すると力が強すぎて少しだけだが下敷きになった麦がつぶれてしまうんだ」
「これを使うとつぶれないの?」
「ああ。これは杵とそれを支える木の重さだけで突くし、何より杵が持ち上がる高さが低い。だから下敷きになった麦への衝撃も小さいんだ」
そう言えばさっきルルモアさんが踏んづけた時も、あんまり大きな音、しなかったっけ。
「それにこのエリィライスの種、触ってみた感じ結構堅いからな。これなら割れたりつぶれたりする心配はないだろう」
ノートンさんはお金持ちのロルフさんちで料理長をやってるでしょ。
そのノートンさんが大丈夫だって言ってるんだもん。
それなら絶対大丈夫だよね。
「ルルモアさん、大丈夫だって」
「ええ、そうね。それならばやってみることにしましょう」
ってことで、ざるの中の玄米を石でできた臼の中へ。
でね、全部入れ終わったところでルルモアさんがさっきのように短い方を踏んづけてから足をどけてみたんだ。
ズシャ。
そしたらさっきみたいなこつんって音はしないで、そんな変な音がしたもんだからびっくり。
慌ててノートンさんの方を見ると、大丈夫だよって言いながらニカッて笑ったんだ。
「今の音はな、杵に押されて横に逃げたエリィライスの種どうしがこすれた音だ。何度か突くことでこすれ合ううちに、周りの硬い所がはぎとられて行くんだよ」
さっきのズシャってのはその音だったのか。
そう言えば小麦がいっぱい入った皮袋を机の上に置くと、同じような音がしたっけ。
「それにこつんって音もしなかっただろ? ということは杵の力が硬い石製の臼に直接伝わらなかったということでもあるんだ」
「なるほど。それならば、種がつぶされて割れる心配もありませんね」
ノートンさんのお話を聞いて、ルルモアさんはほっとしたみたい。
「それなら引き続き作業をしても大丈夫ですね」
そう言って何度もシーソーを踏んづけてはズシャズシャって玄米を突き続けてくれたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ちょっと短めですが、この先を書くとなるとお米の調理に入ってしまうので今回はキリがいいここまでで。
さて、実を言うとお米の精米と白い小麦を作るための精製とではやり方が大きく異なります。
麦の場合、本当は砕くことで中の白い部分を取り出し、それだけを挽くことで作るんですよね。
ですが、お米は割ったら味が大きく落ちるのでそんな方法は取れません。
そこで実際に使われていた米つき臼という道具のようなものを考えて出すことにしました。
これだと白い小麦を作るのには向きませんが、現在のような上質な小麦粉なんて今のように機械で作っているわけではないこの世界では贅沢すぎて王族でも食べられません。
なにせ、小麦から採れるほんの少しの部分だけで作られてますからね。
それならばこの方法でもいいのではないかという、私の勝手な解釈からこのお話は生まれました。
なので、小麦も精米と同じやり方で作られているなんて勘違いはしないようにお願いしますw
さて、前回のあとがきで先週末に2巻につく短編を二本仕上げるなんて偉そうなことを言ってましたよね。
すみません、うぬぼれてました。やってみたところ、1本しか書けませんでした。
そして週末に1本しか書けない私が、なろうの原稿を考えながらもう一本書くなんて事ができるはずもありません。
そんな訳で今週末に残りの一本を書こうと思っているんですよ。
申し訳ありませんが、そのような事情なので次の月曜日の更新もお休みさせてください。
次回更新は24日の金曜日になります。




