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60 大金だけど大金じゃない


 普通だったらとすごい金額のはずなのに、ルルモアさんからは安くすんで大助かりなんて言われちゃったもんだから、僕はびっくりして少しの間ぼーっとしちゃったんだ。


 そしたらそんな僕の様子を見て、お父さんはここでいっしょにお話を聞かない方がいいって考えたみたい。


「まぁお金に関してはお父さんがルルモアさんと話をするから、ルディーンはあっちで休憩してなさい。いくらそのつど回復していたとは言え、あんなに何度か魔法を使って疲れてるだろうからな」


 そう言って冒険者ギルドの隅にある酒場になっている一角を指差したんだ。


 で、どうやらルルモアさんもその意見には賛成みたいで、


「そうね。それがいいわ。ねぇ君、ルディーン君をテーブルまで案内してジュースと軽食を用意してあげて。あれだけ助けてもらったんだから、経費は当然ギルド持ちでね」


 近くにいたギルド職員の制服を着たお兄さんに声を掛けて、僕をテーブルで休ませるようにって指示を出した。


「解りました。では此方へ」


「うん」


 僕もさっきの事でもらえるお金にどれくらいの価値があるか解んなくなってるし、何よりいっぱいお金がもらえたとしても大人になるまでは使えないようにしてるってお父さんが前に言ってたから、詳しい金額を知ってもびっくりするだけで意味がないんだよね。


 だからお兄さんに連れられるまま、僕はテーブルへと向かう事にしたんだ。



 ■



「それでは内訳を言うわね。まずキュア・ポイズンの使用回数が39回。今回ギルドに運び込まれた冒険者は全員が毒状態で人数も64人と考えられないくらい多かったのに、その半分以上をルディーン君が治した事になるわね」


「そんなに治したのか」


「ええ、これは驚異的な数字よ。ルディーン君が魔力の回復方法を知っていてくれたからこその人数ね。だって回復しなければ、ルディーン君の魔力は最初の13人で尽きていたはずですもの。と同時に、私の見立てではもしルディーン君がそれだけの人数しか治せなければ最低でも4~5人の死者が出ていたでしょうね」


「回復無しでも13人ですか。魔力量も多いんですね、ルディーンさん」


 この話を聞いて、私たちとは違った所に驚いているカルロッテちゃん。


 まだ魔力量が少ない見習いの彼女からすればそんな感想を持つのも解る気がするけど、実を言うとこれは3レベルの魔法系ジョブ持ちなら極端に多いという数字ではないのよね。


 なにせ生命力と魔力を含む各ステータスはジョブが発現した瞬間、大きく跳ね上がるもの。


 それだけにルディーン君が最初に治療した13人と言う人数はそれ程驚く事じゃない。やはり特筆すべきは魔力の回復方法の発見だろう。


 それに今回この情報がルディーン君によって齎されたおかげで、カルロッテちゃんも底をついた魔力を回復する事ができてまた治療に参加してくれたのも大きかったわ。


 そのおかげで下級ポーションの消費を大きく減らす事ができたんですもの。


 やっぱりルディーン君に黙って名前を登録しちゃおうかしら? でも、それが後でばれて嫌われるのもいやだしなぁ。


 まぁそんな事はとりあえず横に置いて、ここは話を元に戻そう。


「さて続いてキュアの数だけど、こちらは29回ね」


「えっ、そんなに少ないんですか? ルディーン君にキュアをかけてもらった人の殆どは、生命力がほぼ全快になっていたんですよねぇ? でもその数字だと重症の人相手でさえ、1回ずつしかかけていない計算になるんですけど……」


 そうなのよねぇ。


 最後のほうに治療を受けた軽傷の人たちならともかく、瀕死だった人たちまで一度のキュアで生命力がほぼ全快しているのを見た時は、私も本当に驚いたわ。


 これがカルロッテちゃんだったら5~6回はかけないと全快にはならないだろうから、これは凄いとしか言いようがないわね。


「ええそうよ。う~ん、本当は業務で知ったステータスを人に話すのは禁止されてるんだけど……カールフェルトさん、ルディーン君の回復魔力だけ、ここで喋っちゃってもいいですか?」


「回復魔力ですか? まぁ、この面子なら話したところでルディーンが困る事もないでしょうからいいですよ」


 ルディーン君はまだ成人前だから親の承諾が得られれば情報を開示する事ができる。そしてその承諾を得られたと言う事で、私はカルロッテちゃんにルディーン君の回復魔力の数値を話す事にしたの。


 見習いとは言え、神官であるこの子ならその凄さが解ると思ったから。


「ルディーン君の回復魔力をさっき確認したら、なんと140になってたわ」


「ひゃっ、140!? なんですかそれ、中級神官なんてものじゃないですよ。普通、キュア・ポイズンが使えるようになったばかりの神官ならその半分、70前後位のはずなのに」


 そうなのよねぇ。


 私も職業柄定期的にイーノックカウの中央神殿に行ってステータス確認をしているんだけど、回復魔力が100を超えてる人はほんの一握りだし、140を超えるとなると本当に数人しかいない。


 そしてのその殆どが結構な年齢になっている人たちばかりなのよ。


「私は人のスキルまでは見る事ができないからはっきりとは言えないけど、多分ルディーン君は回復魔力上昇のスキルを持っているんだと思うわ。それも常時発動のをね」


「なんですかそれ。神官でそんなスキル持っていたら、すぐに中央から使者が来て帝都に連れて行かれちゃうレベルじゃないですか」


「そうね。持っている人が1万人に1人居るか居ないか位のスキルですもの。それを持っていて、なおかつ治癒魔法が使えるのだからルディーン君が孤児や神殿生まれだったら間違いなく中央で英才教育を受ける事になったでしょうね」


 この手のスキルを持ってる人って生まれた時からそれを身につけている事が殆どなんだけど、そんなスキルを持って生まれてきたからと言っても、その誰もが自分のスキルに適した職業についているわけじゃないのよね。


 例えば体力が向上するスキルを持って生まれたのに露天商をやっている人もいれば、知力が上昇するスキルを持っているのに農民をやっている人もいる。


 たとえ優秀なスキルを持っていたとしても、殆どの人は自分やその周りにスキルを見る事ができる人がいないから、死ぬまでそのことに気づかないと言う方が普通なのよねぇ。


 だからこそルディーン君のようにスキルと職業が合致している人の方が稀なのよ。


 ん? いや、ルディーン君からすればやっぱり合致してないのかな?


「ただ、私たちからするととても有効なスキルに思えるけど、彼の場合は狩りを生業にしたいみたいだから、あまり意味がないスキルと言えるかもね」


「確かになぁ。今回は役に立ったけど、ルディーンにとっては意味がないスキルかもしれん」


「そうですか? ルディーンさんって魔物を狩るお仕事に付くつもりなのでしょう? なら回復魔力が上がるのはいい事だと思うんですけど」


 うん、これが普通に魔物を狩るのならそうだろうね。

 でもルディーン君はその点、特別だから。


 そう思ってはみたものの、その事をうまく言葉にできそうに無かった私は、カールフェルトさんに説明してもらえるよう目線を送る。


 すると彼はその視線の意味を察して、カルロッテちゃんに理由を話してくれた。


「ルディーンは俺たちと違って魔物に近づくことなく狩りができるんだよ。何せ魔法で、確か”まじっくみさいる”だったかな? そんなので急所を打ち抜いて狩るのだから怪我をする心配がない。だからいくら回復魔法がうまくても宝の持ち腐れってもんなんだ」


「……えっ? ルディーンさんのジョブって神官なんですよね? ならマジックミサイルを使えるはず、ないじゃないですか」


「それが使えちゃうのよねぇ。彼」


 それから少しの間ルディーン君のジョブの話になったんだけど、これに関してはいくら話し合ったところで答えが解るものじゃない。だってこの街にはジョブを見る事ができる人がいないのだからいくら気になるからと言っても確かめる事ができないもの。


 そしてルディーン君の能力は私たちの知っているどのジョブにも当てはまらないものだから、この話題は最終的にはどうやっても答えが出ずに全員が悶々とする事になると言う悲しい結果に終わった。




「さて、それじゃあさっきの数字を基に金額を算出するわよ。まずキュア・ポイズンが39回で58万5千セント、それにキュアが29回でで17万4千セント、合わせて75万9千セントね。貨幣で言うと金貨75枚と銀貨90枚」


「わぁ、凄い大金ですね」


「ああ、村にある小さな家なら買える金額だな」


 確かに子供に持たせるには大きすぎる金額よね。


「そっか、ルディーン君はあの歳でお金持ちになったんですね」


「それがねぇ、そうでもないのよ」


「えっ、何故ですか? ルルモアさん。この金額なら十分お金持ちじゃないですか」


 ええ、普通ならそうなのよ。

 でもこれがルディーン君となると、この金額ではお金持ちとも言えないのよねぇ。


「ああ、なるほど。確かにルディーンの場合は、この程度の金額が入ったからと言っても、これで金持ちになれたとは言えないだろうなぁ」


「えっ? それってどういう事なんですか?」


「えっとそれは……。ねぇ、カルロッテちゃん。昨日ギルドにブレードスワローが持ち込まれたって話、聞いてる?」


 自分の質問に対して一見何の関係も無い事を聞き返されたカルロッテちゃんは、一瞬ぽかんとする。


 でもすぐに立ち直って、興奮したような口調で私にこう答えてくれたのよ。


「はい、知ってます。ブレードスワローってかなりの数が生息しているはずにもかかわらず、この街周辺では年間に3~4羽獲れるか獲れないかって言うほど貴重な魔物なのに、それが一度に6羽も入荷したって話題になってましたから。凄いですよね」


「ええそうね。あれは潜伏って言うスキルが使える16レベル以上の狩人が、偶然木に止まっているブレードスワローを見つけると言う幸運に恵まれない限り狩る事が出来ない魔物ですもの。そんな希少な魔物が6匹も一度に入荷したのは本当に前代未聞だわ」


「16レベル!? それってギルド基準で言うとAランクか、Bランクでもかなり上位の人って事じゃないですか。そんな凄いレベルの人、この街にいましたっけ?」


「いないわね。そんな高レベルの狩人ならこんな街じゃなく、もっと稼げる場所に移動してるはずですもの」


 そう、そんな高レベルの狩人にとって自分の実力に見合う価値の獲物が、偶然に左右されないと獲る事ができないブレードスワローしか居ないこのイーノックカウに居つくはずがない。


「えっ? じゃあ、あのブレードスワローは誰が……って、まさか」


「ええ、ルディーン君よ。彼が魔法で探し出して、魔法で狩ったらしいわ。そうよね? カールフェルトさん」


「ああ、ルディーンの魔法は弓を弾く音もしなければ、飛んでいく風切り音もしないからな。横で見ていたけど、本当に面白いように獲れたぞ」


 如何に臆病で音に敏感なブレードスワローでも無音で近づく魔法の弾丸に気づく事はできず、見つけたものは全て狩る事ができたそうなのよね。


 そしてその数が6匹だったのは別にそれだけしか見つからなかったからではなく、それ以上の数になると運ぶのが大変そうだったからと言うのだから開いた口が塞がらない。


「あのぉ、ルルモアさん。ブレードスワローって、買い取り価格が物凄く高かったんじゃ?」


「ええそうよ。国内全体でも年間に十数羽しか獲れないのに、貴族の間ではその羽根がかなりの人気を集めているもの。昨日の買い取り価格は税金を引いても1羽、約100万セント、金貨で100枚と銀貨数十枚だったわね」


「それが6羽って事は、金貨600枚以上!?」


「それと微々たるもんではあるが、ジャイアントラットを買い取ってもらった金も全部ルディーンのギルド預金に入れたからなぁ。魔法一回の金額を聞いた時には驚いたけど、ルディーンの預金は引き出し上限が設定されてるし、全体的に見ても今更金貨が75枚程度増えたからと言っても大して変わらないだろう」


 太っ腹と言うかなんと言うか。


 普通ならその内のいくらかは自分の預金に入れそうなものなのに、カールフェルトさんは全額ルディーン君の預金に入れたんですもの、驚きよね。


 そんなカールフェルトさんはと言うと、未だその金額に驚いているカルロッテちゃんに向かって、


「そうだなぁ、これだけの金額があれば、この街でも庭付きの豪邸が買えるんじゃないか?」


 なんて言いながら笑ってたりするのよねぇ。


 まぁ実際の所、イーノックカウで庭付きの豪邸を買うとなると流石に金貨2000枚以上はするからこれだけでは無理だけど、昨日のブレードスワローも1時間ほどで狩ったって言うし、ルディーン君がその気になれば庭付きの豪邸、本当に数日で買えちゃうかもね。


読んで頂いてありがとうございます。

 

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