623 僕はまだちっちゃいから普通の装備は作れないんだよ
昨日はみんなでぬいぐるみを作って、とっても楽しかったでしょ。
だから僕、今日もみんなで遊びたいなぁって思ったんだ。
でもね。
「それじゃあ、俺とシーラ、それにキャリーナとルディーンは森へ行ってくるから留守は頼むぞ」
朝ご飯を食べてる時、お父さんがお兄ちゃんたちにそう言ったもんだからゴブリンの村を探しに行かないといけないことを思い出したんだ。
「そっか、今日は森へ行くんだった!」
「あら、ルディーンは忘れていたの?」
僕、村だといっつも森に行きたいって言ってるでしょ。
だからお母さんは、僕が忘れてるなんて思ってなかったみたい。
「うん。だって昨日はみんなでお裁縫して遊んでたからね」
でも僕がぬいぐるみを作るのが楽しかったから忘れてたんだよって教えてあげたら、あらあらって笑ったんだ。
「私たちだけで探索に行けたら、ルディーンは今日も遊んでいられたのにね」
「ううん。僕、森に行くの好きだもん。だからいっしょにゴブリンの村を探しに行くよ」
みんなと遊ぶのも楽しいけど、お父さんたちと森に行けるのなんてそんなにないもん。
連れてってくれるのなら、絶対森に行きたいよね。
「俺としても、本当なら置いて行きたいんだが。でも行く以上は、準備をしっかりするぞ」
「そうよね。そうすることが一番安全につながるもの」
ってことで、出発前の準備。
「お父さん、これでいい?」
お父さんに見せた僕の装備がどんなのかって言うとね、まず皮の袖なしチュニック。
これ、ぺらぺらだからとても防具には見えないんだけど、実は前にやっつけたブラウンボアのお腹の皮でできてるんだよね。
だからすっごく軽くて柔らかいのに、イーノックカウの防具屋さんで売ってる革の鎧よりも丈夫なんだって。
僕がショートソードでえいやぁって斬りつけても、傷がつかないくらいすごい装備なんだよ。
次に、と言っても僕が付けてるのは防具は後一個だけなんだけどね。
それは前に買ってもらった、皮ひもを巻いてつける足装備。
今日はゴブリンの村を探しに行くでしょ。
これはお父さんが、ゴブリンに待ち伏せされても大丈夫なようにって買ってくれたんだよね。
だから多分足もこれで大丈夫。
あとは腰に、いつものショートソードをぶら下げてるだけ。
なんとなく少ないようにも思えたんだけど、僕、これしか持ってないもん。
だからそれを全部つけてお父さんに見せたんだよ。
「よし、ちゃんと付けてるな。森の奥まで分け入るかもしれないが、イーノックカウの森だからな。それで十分だ」
そしたらお父さんも大丈夫だよって言ってくれたんだ。
「お母さん。私もこれでいい?」
「ええ。キャリーナのはグランリルの森で使っている装備だもの。十分すぎるわ」
キャリーナ姉ちゃんの装備はね、革の胸当てと腰だれ、それに革のブーツなんだ。
これって全部ブラックボアのなめし皮でできてるんだよ。
そう言うと僕のチュニックよりも弱いように思えるかもしれないけど、それが違うんだよね。
だって僕のはお腹の皮をなめしたのでできてるもん。
それに対して、お姉ちゃんのは全部背中の皮。
厚さが全然違うし、硬いからドーンって叩かれても痛くないんだって。
そりゃあ傷の付きにくさで言ったら僕のチュニックの方がすごいけど、柔らかいから叩かれると痛いもん。
どっちの方がおケガをしないかって言ったら、キャリーナ姉ちゃんの防具なんじゃないかなぁ。
「キャリーナ姉ちゃん、いいなぁ。僕も革の鎧がいいのに」
「ダメだよ。だってルディーン、まだ小さいもん」
それは僕も解ってるんだよなぁ。
キャリーナ姉ちゃんもまだそんなのおっきくないけど、女の子でしょ。
だからちょっと大きめに作っておいて、あとは皮ひもで調節すれば大人になっても使えるんだよね。
でも僕、男の子だもん。
お父さんはおっきいし、お兄ちゃんたちもおっきいんだよね。
ならきっと僕だっておっきくなるはずでしょ。
「ルディーンが本格的な装備を作るのは、早くても15歳くらいだろうな」
「可哀そうだけど、それまでは簡易装備で我慢してね」
お兄ちゃんたちもそうだったもん。
お父さんとお母さんの言う通り、僕の装備はおっきくなるまでお預けなんだ。
「さて。みんな準備はできているようだし、出かけるぞ」
お父さんのそんな掛け声をきっかけに、イーノックカウの僕んちを出発。
今日は何のご用事もないから、冒険者ギルドに寄らずにイーノックカウの北門を出て森へと向かったんだ。
途中のおっきな川を渡り、そのまま歩くこと数分。
僕たちは、いつも賑やかな森の入口にある露店屋台街に到着したんだ。
するとそこには冒険者さんたちがいっぱいいたんだよ。
だから僕、お父さんにすごいねって。
「お父さん。前来た時はそんなにいなかったのに、今日は人がいっぱいいるね」
「まだ朝早いからな。ここで待ち合わせをして森に入るやつらも多いんだよ」
そんなお話しながら、僕たちはその露店屋台街の中を素通り。
そのまま道沿いに歩いて行くと目の前に、おっきな天幕が見えてきたんだよ。
「あっ、商業ギルドだ。あそこを超えたら森なんだよね」
キャリーナ姉ちゃんの言う通り、あの商業ギルドの天幕が森の入口なんだ。
なのにお父さんが、今日はあそこにはいかないって言うんだよ。
「今日の目的は狩りや採取じゃないからな。あそこは通らないぞ」
「そうなの?」
普段なら入口にある商業ギルドの天幕を通って中に入っていくでしょ。
でも今日はちょっと違うみたいなんだ。
「ああ。冒険者はあそこから伸びる道を通って扇状に分かれて森に入っていくからな。そこを通っていては、探索する場所にたどり着くまでに今日が終わってしまう」
「じゃあ、どうするの?」
「とりあえず今日のところは、森の外縁を周ろうかと思っているんだ」
お父さんは前に、ゴブリンは弱っちいから冒険者が来ないところに村があるはずって言ってたでしょ。
だから僕、森の外から見える場所なんかにあるのかなぁって思ったんだよ。
「森の外から見ただけで見つかるの?」
「いや、流石に見つからないだろうな」
「それじゃあ、ダメじゃないか!」
森の外は中と違って魔物どころか動物も出ないもん。
ただそこを歩くだけだったら、おさんぽと一緒でしょ。
だから僕、何でそんなことをするのって聞いたんだよ。
そしたらお父さんはちょっとあきれたようなお顔でこう言ったんだ。
「外から見ただけではまずダメだろうが、お前の魔法ならある程度の深さまでは探れるんじゃないか?」
「あっ、そっか!」
お父さんはね、森の外っ側を歩きながら僕に魔法でゴブリンの村を探してもらおうと思ってたんだって。
それだったらお外から見えないところまで解るもん。
お父さん、頭いい!
ってことで、道からそれて森の外っ側を歩くことにしたんだけど。
「お父さん。どっちにいくの?」
森は天幕の右にも左にも広がってるでしょ?
だからお父さんに、どっちに行くのか聞いてみたんだよ。
そしたら考えてなかったってお返事が返ってきてびっくり。
「えー、それも考えてないの?」
「仕方がないだろ。何のヒントも無く探せと言われているんだから」
解ってるのは、ゴブリンがいつもと違っていっぱい集まって行動してたってことだけでしょ。
だからほんとに村ができてるかどうかも解んないんだよってお父さんは言うんだ。
「あくまで街を危険にさらす可能性をつぶすというのが目的の探索だからな。初めからこうだと決めつけるより、この方がいいんだよ」
ここって決めて探したって、そこにあるとは限らないでしょ。
だからお父さんは、とりあえずフラフラしながら、怪しい所があったらそこを探そうって言って歩き出したんだ。




