622 みんなで作ると楽しいよね
ニコラさんが布を切るお仕事を変わってくれたから、僕は切った布をくっつけるお仕事をしようと思ったんだよ。
でもね、そこでユリアナさんが声を掛けてきたんだ。
「ねぇ、ルディーン君。私も何かやることないかな?」
キャリーナ姉ちゃんとアマリアさんは目にする石を拾いに行ったでしょ。
それにニコラさんまで、布をチョキチョキするお仕事を始めちゃったもん。
なのに一人だけ見てるのはヤだから、ユリアナさんもなんかお手伝いがしたくなったんだってさ。
「う~ん、なんかあったっけ?」
でもね、もう他にお手伝いすることなんか無いんだよね。
だから僕、どうしようかなぁって考えたんだよ。
そしたらさ、とってもいいことを思いついたんだ。
「そうだ! ちっちゃいのは僕がくっつけるから、ユリアナさんはこっちのおっきいのを縫ってよ」
ブラックボアのぬいぐるみって、お顔はちっちゃな布を何個かくっつけるから大変だけど、体はおっきな布をくっつけるだけなんだよね。
これなら魔法じゃなくっても、針と糸で簡単に縫えるでしょ。
それに僕だけで全部くっつけようと思ったら、かなり時間がかかっちゃうもん。
だからそのお仕事をやってって頼んだんだよ。
そしたらさ、こんな答えが返ってきたんだ。
「ごめん。私、縫物をしたことが無いんだ」
ちょっと気まずそうに言うユリアナさん。
そっか、やったこと無いと大変だもんね。
「じゃあさ、ニコラさんが縫って」
はさみでチョキチョキするのは、初めてでもできるでしょ。
だからユリアナさんに代わってもらって、ニコラさんに縫ってもらおうと思ったんだよ。
でもね、ニコラさんはダメって言うんだ。
「ダメよ。私は布を切るという仕事を完遂する気満々なのだから」
「そっかぁ」
僕が頼んだんだもん。
そのお仕事がやりたいっていうのなら、代わってもらうわけにはいかないよね。
「でも、僕一人だとくっつけるのに時間がかかっちゃうしなぁ」
ユリアナさんのお仕事のこともそうだけど、僕だけだと布をくっつけるだけでもすっごく大変だって気が付いちゃったんだよね。
そりゃあ縫うよりは早いけど、曲がらないように気を付けながら魔法を使うでしょ。
クリームさんがずばばばぁって縫ってった時より、かなり遅いんだよね。
そう思って周りを見ると、さっきまで近くにいたはずのルルモアさんが、なぜか窓を開けてお外を見てたんだ。
「ルルモアさん?」
「ダメよ。私は今、外を見るのに忙しいから」
だから声を掛けたんだけど、そしたらこんなお返事が返ってきたんだ。
……そっか、ルルモアさんもお裁縫、できないんだね。
だってお外を見てるはずなのに、ルルモアさんは下を向いちゃったんだもん。
でも困ったなぁ。
朝からやってたのなら何個か作れただろうけど、今日はお出かけしてたでしょ。
僕一人だとそんなに早くくっつけられないから、このままだと1個か2個くらいしか作れないし。
そんなこと考えてたらコンコンコンって音がして、お部屋のドアがガチャって開いたんだ。
だから僕、キャリーナ姉ちゃんたちが帰って来たのかなって思ったんだよ。
でもね、入ってきたのは二人のメイドさん。
それを見て、何で来たのかなぁって頭をこてんって倒したんだけど……あれ? このメイドさんたち、どっかで見た気がする。
「ルディーン様、メイド長に言われてお手伝いに来ましたよ」
あっ、そうだ! この人たち、裁縫のお部屋にいたメイドさんだ。
「お手伝いに来たの?」
「はい。メイド長から、布の分量から考えて、手伝わないと夕食にはとても間に合わないと言われまして」
ストールさん、さっき来た時にみんなが布を選んでるのを見て、こんなにいっぱい作れるのかなぁって思ったみたい。
だからお仕事に戻る前に裁縫の勉強をしているお部屋に行って、手伝ってあげてって頼んでくれたそうなんだよ。
「それで私たちは何をすればいいですか?」
「えっとね、今から板に絵を描くから、ブラックボアのお顔を縫って」
「はい、解りました」
お顔はいっぱいくっつけないとダメだけど、1個1個はちっちゃいでしょ。
僕の魔法だとおっきくてもちっちゃくても、くっつく時間はおんなじだもん。
だからお顔はメイドさんたちにお願いする方がいいと思うんだよね。
「えっと、ルディーン君。私は何をすればいいのかな?」
「ユリアナさんはね、ニコラさんが切ったのを解りやすいようにわけて」
僕一人の時はよかったけど、これからはメイドさんと三人でやるでしょ。
だからちゃんとどこにくっつけるやつなのかを仕分けしないとダメなんだよね。
ユリアナさんにはそのお仕事をやってもらうことにしたんだ。
「うん、解ったわ」
お仕事ができて、うれしそうなユリアナさん。
そんなわけで、みんなでぬいぐるみを作り始めたんだけど。
「わぁ、メイドさん、すごく早く縫えるんだね」
メイドさんたち、縫うのがとっても早くってちょっとびっくりしちゃった。
「ルディーン様の魔法に比べたら、はるかに遅いですけどね」
メイドさんはこんなこと言ってるけど、ほんとすごいんだよ。
クリームさんみたいにずばばばばぁっては縫えないけど、ずばばぁって感じで縫ってくんだもん。
僕はまだすーすーってしか縫えないから、それを見てすごいなぁって思ったんだ。
「ルディーン、石ひろって来たよ!」
「あっ、キャリーナ姉ちゃん、お帰りなさい」
それからちょっとしたらね、キャリーナ姉ちゃんたちが石を拾ってお部屋に帰ってきたんだ。
という訳で、ぬいぐるみ作りはいったん中止。
「みんなどの色の石がいいか、えらんでね」
ひろって来た石を見ながら、どの色の目にするかってみんなでワイワイ。
全員が選んだところで布をくっつけるお仕事はメイドさんに任せて、僕はその石で目を作っていったんだ。
「ルディーン、私もなんかやりたい!」
「じゃあさ、キャリーナ姉ちゃんとアマリアさんはできあがった頭や体に、ブルーフロッグの皮を詰めてって」
「うん、わかった!」
メイドさんが手伝ってくれたおかげで、ぬいぐるみのお顔も体も、もう結構できあがってるのがあるんだよね。
だからキャリーナ姉ちゃんたちは、それにブルーフロッグのなめし皮を詰めてったんだよ。
でね、僕は目を作り終わった後、次にぬいぐるみの足や牙なんかのちっちゃなところを作って、それをお姉ちゃんたちが詰めてくれた体にくっつけて行ったんだ。
そして。
「やったぁ! みんなの分もできたぁ!」
今日中には1個か2個しか作れないと思ってたのに、なんとみんなの分のぬいぐるみが全部完成。
おまけにストールさんやメイドさんたちの分まで作っちゃったんだもん。
ホントにすごいよね。
「私が切ったからなのかなぁ。同じ形の布で作ったはずなのに、なんとなく表情が違ってる見える気がする」
「でもみんな違っている方が、私はかわいいと思うわよ」
ニコラさんの言う通り布の切り方なのか、それともメイドさんが手で縫っていったからなのかな?
出来上がったぬいぐるみは、みんなお顔がちょっとずつ違ってるんだよね。
みんなで自分が選んだ端切れでできたぬいぐるみを見せ合いながら、この子は顔はちょっと怖いとか、にっこり笑ってるねとか。
夕ご飯の時間だよって他のメイドさんが呼びに来るまで、僕たちはそんなおしゃべりをしながら楽しく過ごしたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
みんなで作ったブラックボアのぬいぐるみ。
これはこれでみんな大満足なのですが、後日裁縫ギルドに飾られた座るくまのぬいぐるみの存在を知ってびっくり。
あれも作りたいと言いだすのはまた別のお話ですw




