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616 お手紙を書けばお兄ちゃんたちでも大丈夫だよね


「ニコラさんたち、行っちゃったね」


 早くぬいぐるみが欲しかったのかなぁ?


 そんなことを考えながら、キャリーナ姉ちゃんが抱っこしてるブラックボアのぬいぐるみを見たんたよ。


 そしたら僕、大変なことに気が付いちゃったんだ。


「あっ、布だけあってもダメじゃないか!」


 ぬいぐるみがふかふかしてるのは、中にブルーフロッグの背中の皮が入ってるからでしょ。


 だからニコラさんたちが端切れを買ってきても、ぬいぐるみを作れないんだ。


「どうしよう。ニコラさんたち、がっかりしちゃう」


「それはどういうことだ、ルディーン?」


 僕がどうしようって慌ててたらね、それを見たディック兄ちゃんがどうしたのって聞いてくれたんだよ。


 だからぬいぐるみには、中に入れるものがいることを教えてあげたんだ。


「なるほど。布以外にもいるものがあったんだな」


「うん。だから僕、今から買ってくるよ」


 せっかく端切れを買いに行ったのに、ぬいぐるみが作れなかったらニコラさんたち、しょんぼりしちゃうでしょ。


 だから冒険者ギルドまで行って、ブルーフロッグの背中の皮を買って来ようって思ったんだ。


 でもね、ディック兄ちゃんは行っちゃダメって言うんだよ。


「待て、ルディーン。お前が出て行ったらアマリアさんたちが端切れを買ってきても、それを布にできないじゃないか」


「あっ、そっか」


 ニコラさん、端切れ屋さんは僕んちの近くにあるって言ってたもん。


 冒険者ギルドはここからちょっと離れたとこにあるから、今から行くと僕の方が絶対遅くなっちゃうんだよね。


「でも、どうしよう? ブルーフロッグのなめし皮が無いと、ぬいぐるみ作れないよ」


「う~ん、俺が行けたらいいんだけど、ギルドカードにお金があまり入って無いんだよなぁ」


 ディック兄ちゃんはあんまりイーノックカウに来ないでしょ。


 だからギルドカードには、あんまりお金が入って無いんだって。


「それは僕も同じなんだよね」


「わたしも」


 それはテオドル兄ちゃんやキャリーナ姉ちゃんもおんなじなんだ。


 だからどうしようってみんなで考えたんだよ。


 そしたらさ、キャリーナ姉ちゃんがいいこと考えたって手を叩いたんだ。


「あっ、そうだ! ルディーンのギルドカードを借りてけばいいよ」


「なるほど。ルディーンのギルドカードなら、お金が入ってるな」


 僕、お兄ちゃんやお姉ちゃんと違ってよくイーノックカウに来るでしょ。


 だからギルドカードにお金が入ってるんだよね。


 でもさ。


「僕のギルドカードを借りてって、お兄ちゃんがお金を使えるのかなぁ?」


 そんなのやったことないもん。


 だから僕、大丈夫かなぁって思ったんだよ。


 そしたらさ、それを聞いたディック兄ちゃんがこう言ったんだ。


「ルディーン、お前字が書けたよな。他の店とかならともかく、冒険者ギルドなら俺たちのギルドカードも一緒に出せば兄弟であることは証明できるだろ」


「なるほど。僕たちが代わりに買い物に来たとルディーンが書いてくれれば、使える可能性は高いね」


「ああ。受付にはルルモアさんがいるだろうから、彼女に見せればまず間違いなく使えるはずだ」


 そっか、ルルモアさんは僕たちの家族のこと知ってるもん。


 ちゃんと僕がお願いしたんだよって書いたのを見せれば、きっと買ってもいいって言ってくれるよね。


「わかった! 僕、お手紙書くね」


 イーノックカウの僕んちには、どのお部屋にもメモを書くためのちっちゃな板とペンが置いてあるんだ。


 そこにタッタッタって走っていくと。


『ルルモアさんへ


 ブルーフロッグの背中の皮をなめしたのを小っちゃく切ったのが欲しいです。


 でも僕はご用事があっていけません。


 僕のギルドカードをディック兄ちゃんたちが持ってくから、これで売ってください。』


 ちっちゃな板にこう書いて、ギルドカードと一緒にはいってディック兄ちゃんにわたしたんだよ。


「これでいい?」


「ちゃんと俺たちが代わりに買いに来たと書いたな?」


「うん」


 ディック兄ちゃん、僕と違ってあんまり字が読めないんだよね。


 でも僕がちゃんと書いたよって言うと、それなら大丈夫だねって。


「じゃあテオドルと二人で行ってくるから、アマリアさんたちが帰ってきたらちゃんと言っておくんだぞ」


「うん。ディック兄ちゃんが買いに行ってくれたって言っとくね」


 そう言うとディック兄ちゃんはニカッて笑って、僕の頭をガシガシってなでてくれたんだよ。


「それじゃあ、行ってくるな」


 でね、そう言ってテオドル兄ちゃんと二人で出てったんだ。



「ルディーン。ニコラさんたちが帰ってくる前に、糸をもらいに行こ」


 ディック兄ちゃんたちが出てくと、今度はキャリーナ姉ちゃんがこんなこと言いだしたんだよね。


「糸?」


「うん。だって糸がないと、端切れを布にできないでしょ?」


 どうなんだろう?


 クリエイト魔法って、材料にかけると思った通りのものが作れちゃう魔法でしょ。


 だから糸が無くっても端切れを布にできるんじゃないかなぁ?


 そう思った僕は、そのことをキャリーナ姉ちゃんに教えてあげたんだよ。


 そしたらさ、それならやっぱり糸がいるよって言うんだ。


「材料がいるんでしょ? クリームさん、端切れを縫って布にしてたから、糸も材料じゃない」


「あっ、そっか」


 僕、端切れにクリエイト魔法をかければ布になるって思ってたけど、普通は糸で縫わないとダメだもん。


 キャリーナ姉ちゃんの言う通り、糸が無いと布を作れないのかも。


 そう思った僕は、糸をどうしようって思ったんだよ。


「でも、どうしよう。お母さん、糸持ってるかなぁ?」


「お母さんはお父さんとお話してるでしょ。だからメイドさんからもらおうよ」


「メイドさんにもらうの?」


 僕は知らなかったんだけど、メイドさんってお仕事によってやる人が決まってるんだって。


 例えばお洗濯をする人はずっとお洗濯をしてるし、お掃除をする人はずっとお掃除をする。


 キャリーナ姉ちゃんはね、その中に縫物をするメイドさんもいるんだよって教えてくれたんだ。


「このお家に来てるメイドさんの中には、お裁縫のメイドさんもいるの。その部屋に行けば糸がもらえると思うよ」


「キャリーナ姉ちゃん、そのお部屋知ってるの?」


「うん。このお家を探検してる時、ストールさんに教えてもらったのよ」


 キャリーナ姉ちゃんに手を引かれて、僕たちは裁縫のメイドさんたちがお勉強しているお部屋へ。


 そこはね、僕んちの中でもちっちゃめのとこだったんだ。


「このお部屋?」


「うん。じゃあ、入ろっ」


 こんにちはって入っていくと、中には5人のメイドさんがいたんだ。


 でもね、僕はそのメイドさんたちより、そのお部屋の中にあったものに目が行ったんだよね。


「わぁ、布がいっぱいある」


 そのお部屋は壁一面が全部棚になってて、そこにはいろんな色の布がいっぱい置いてあったんだ。


 僕、服屋さんには行ったことがあるけど、布屋さんには行ったこと無いんだよね。


 それに裁縫ギルドにだって、こんなにいっぱい布は無かったもん。


 だからその棚を見て、すっごくびっくりしてたんだよ。


「あら。あなたは確か、この間メイド長が連れて来た……。ということは、そちらはルディーン様ですか?」


「うん、そうよ。ルディーン、ご挨拶は?」


「こんにちわ。ルディーン・カールフェルトです。8歳です」


 キャリーナ姉ちゃんに言われてご挨拶すると、メイドさんたちもご挨拶してくれたんだよ。


 だから僕、ここすごいねって。


「こんなに布がいっぱいあるの、僕、初めて見た」


「初めて見ると驚くでしょうね。でもこれくらいの量が無いと、練習にならないのよ」


 メイドさんに教えてもらったんだけど、ここにある布は服を作るためのものじゃなくって、壁とかテーブルを飾るものなんだって。


 それを用意するお勉強をするには、こんな大きさの布がいっぱい無いとダメなんだってさ。


「それで今日は何のご用事でここに来たのかな?」


「あのね、端切れを布にするのに糸がいるの。だからもらえないかなって思って」


 キャリーナ姉ちゃんがそう答えると、メイドさんは頭をこてんって倒したんだよ。


「端切れを布に、ですか?」


「うん。これを作るの」


 そう言ってブラックボアのぬいぐるみを見せるキャリーナ姉ちゃん。


「まぁ、かわいい」


「動物の形をしたまくら? いえ、布製のお人形かしら?」


「ぬいぐるみって言うんだよ。ほら、端切れが布になってるでしょ。これを作るのに使うんだ」


 それを聞いたメイドさんたちは、よくそんなことを思いついたねってびっくり。


 だから僕、クリームお姉さんに教えてもらったんだよって言ったんだ。


「クリームさんって言うと、裁縫ギルドの?」


「なるほど。あの人なら思いつきそうね」


 そしたらメイドさんたちはうんうん頷きながら、あの人なら解るって。


「それなら糸だけじゃなく、針もいるわね」


「貸してあげるけど、刺さると危ないから気を付けるのよ」


 メイドさんたちは一通り納得すると、そう言ってお部屋の奥に置いてあった棚から糸と針を出してくれたんだ。


 でね、それを僕たちの前に置くと。


「後、せっかくだからこれも持って行く?」


 そう言って、きれいな端切れがいっぱい入ったかごを一緒に出してきたんだよ。


 これには僕とキャリーナ姉ちゃんもびっくり。


「何でこんなにいっぱい端切れがあるの?」


「さっきも言った通り、ここにある布はテーブルや壁を飾るものでしょ?」


「サイズによって布を裁断するから、端切れもかなり出るのよ」


 おっきなものは他に使うこともあるけど、殆どは捨てちゃうのよねって笑うメイドさんたち。


「だから遠慮なく持って行っていいわよ」


 こうして僕とキャリーナ姉ちゃんは糸だけじゃなく、かご一杯のきれいな端切れを手に入れることができたんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 勉強に来ているメイドさんとはいえ、その教材に使う布代はロルフさんの家から出ています。


 伯爵家なのですから、当然出た端切れを売るなんてことは無いんですよね。


 捨てるものなんだから、必要ならばとメイドさんも気軽にくれたりします。


 最初にここに来れば、ニコラさんたちも買いに行かなくてもよかったのにw


 さて、お気付きの方もおられると思いますが、メイドさんたちは一つ大きな勘違いをしています。


 ルディーン君は、端切れをつないで布が作れるのをクリームさんから教えてもらったと言いましたよね。


 でもメイドさんたちは、ぬいぐるみをクリームさんが考えたと思っています。


 当たり前と言えば当たり前なのですが、流石にこんなものを目の前の子供が考えたなどと想像するはずもありません。


 だからこそ、ぬいぐるみの存在を知っても彼女たちが他に漏らすことは無いのです。


 自分たちが知らないけど、これは裁縫ギルドの新作なのだろうと普通は考えますからね。


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― 新着の感想 ―
[一言] 親族とはいえ他人のギルドカードを利用しようとするって トラブル案件になるんじゃ…
[一言] 買い物で貢献ポイント1進呈(笑)。 あとでルディーンの発案だと知って驚く、と。 ホットケーキ、食用薬草、うなぎの蒲焼に続く魔道具以外の製品(笑)。 魔道具もクーラー(エアコンディショナー・空…
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