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601 これってそんなにすごい事なの?


 ストールさんとお茶を飲みながら待ってたら、ドアからコンコンコンってノックの音がしたんだよ。


 でね、そのノックにストールさんがどうぞって答えると、ドアが開いてルーシーさんが入ってきたんだ。


「旦那様がお着きになりました」


「解りました。それではルディーン様、先ほどのお部屋へまいりましょう」


 今お茶を飲んでるのは、お客さん用のお部屋でしょ。


 ここだとロルフさんが来てもフロートボードの実験ができないからって、僕たちはさっきまでいた二階のお部屋へと移動する事にしたんだ。


 そしたらね、お部屋の前には他のメイドさんに案内されてきたロルフさんと、なぜかバーリマンさんが居たんだよ。


 だからそれを見たストールさんは小走りで近づいていって、ロルフさんにペコってお辞儀したんだ。


「旦那様、わざわざご足労頂きありがとうございます」


「うむ。して、何があったのじゃ? 使いの者によると、何やらルディーン君が新たな発見をしたとの事であったが」


「それについては、こちらの部屋に入ってからご説明いたします」


 ずっと立ったまんまだと疲れちゃうでしょ。


 だからとりあえずみんなでお部屋に入る事にしたんだけど、その時に僕、ちょっと気になる事があったから聞いてみる事にしたんだよ。


「ねぇ、ロルフさん。何でバーリマンさんがいるの? メイドさん、ロルフさんを呼びに行ったんだよね」


「おお、それはじゃな、使いの者が錬金術ギルドに来た時、ちょうどわしの近くにおってな」


「伯爵の向かう先がルディーン君のお家と聞いて、多分君が絡んだ何かしらが起こったのだろうと思ったからペソラに店番を任せて一緒に来たのよ」


 バーリマンさんはね、何か僕がすっごい事をやったんじゃないかなぁって思ってるみたいなんだ。


 でもさ、僕がやったのはフロートボードを机の上で発動させると、机の外に出ても落っこちないってだけの事でしょ。


 だから僕、もしかしたらがっかりさせちゃうかも? って思ったんだ。


「あのね、僕がやったのはそんなすごい事じゃないんだよ。だから別に来なくってもよかったんじゃないかな」


「う~ん、ルディーン君がそう言うのならそうなのかもしれないけど、私としては何か新しい発見があればそれがどんな物なのか知りたいもの。だから例えそれが大した事じゃないと予め知っていたとしても、やはりロルフさんと一緒に来たと思うわよ」


 そっか、確かにフロートボードが机の外に出ちゃっても落っこちない事を、ストールさんは今まで誰も知らなかったんじゃないかなぁって言ってたもんね。


 全然すごくないけど、新しい発見ではあるからバーリマンさんが気になるのは当たり前なのかも。


「と言う訳で、ルディーン君。一体何を見つけたのか、教えてくれるかな?」


「うん。あのね、さっき実験してみたら、フロートボードが落っこちない事が解ったんだ」


 僕がさっき実験して解った事を教えてあげるとね、それを聞いたバーリマンさんはきょとんってお顔になって、こう聞き返してきたんだよ。


「えっと、フロートボードが落ちなかったの?」


「うん。僕が乗っても落ちなかったんだよ」


「あー、ライラよ。すまぬが、どういう事か説明をしてもらえるかな」


 ロルフさんはね、僕とバーリマンさんのお話を聞いても何のことだか全然解んなかったみたい。


 だからストールさんに何があったの? って聞いたんだよね。


 そしたらストールさんが、僕たちがやってたフロートボードの実験の事をロルフさんに教えてあげたんだ。


「なんと。テーブルの上から出しただけでなく、窓の外に移動させてもその敷物は落下せなんだのじゃな」


「はい。そしてその後の実験ではルディーン様が敷物の上に座り、そのままわたくしが引っ張ってテーブルの外に移動させてもそのまま落下せず宙に浮いたままでした」


 これを聞いたロルフさんは、すっごくびっくりしたお顔をしてるんだよ。


 でもさ、これってただ足場の外に出ても落っこちないからこれからはそんなに気を付けなくってもよくなるよってだけの話だよね。


 なのに何でロルフさんはあんなびっくりしたお顔をしてるんだろう?


 そう思いながら頭をこてんって倒してると、バーリマンさんがそんな僕の肩をポンって叩いてこう聞いてきたんだよ。


「ルディーン君。フロートボードは、重い物を少しだけ浮かべて運ぶための魔法よね。なのになぜ、こんな事ができると思ったの?」


「あのね、フロートボードは魔法をかけた時に浮かぶ高さが固定されるんだって。だから机の上で使えばそこから出ても落っこちないんじゃないかなぁって思ったんだ」


 僕が何で実験をしようと思ったのかを教えてあげたらね、聞いてきたバーリマンさんじゃなくって横にいたロルフさんがこんな事を言ったんだよ。


「なるほど、少しだけ浮くというのは発動時の現象であって、魔法の効果そのものではなかったと言う事なのじゃな」


「伯爵、どういう事なのか、説明していただけますか?」


「うむ。要は今まですべての者がフロートボードという魔法の効果を勘違いしておったというだけの話じゃよ」


 今まではみんな、さっきバーリマンさんが言っていた重い物をちょっとだけ浮かせて簡単に運べるようになるというのがフロートボードの魔法だって思ってたんだ。


 でも本当の効果はそれとは全然違うという事が、僕がやった実験で解ったんだよってロルフさんは言うんだよね。


「フロートという魔法文字が浮くという意味を持つのはギルマスも知っておろう? 要はこのフロートボードという魔法は、文字通り浮かぶ板を作り出す魔法であったという事じゃな」


「えっと、もう少しわかりやすく教えて頂けると助かるのですが」


「それに関しては言葉よりも実際に見た方が解りやすいじゃろうな。ルディーン君。すまぬがそのテーブルの上に物を置いて、フロートボードをかけてもらえるかな」


「うん、いいよ」


 僕は腰からポーチを外すと、机の上にのっけてそれにフロートボードの魔法をかけたんだ。


 そしたらロルフさんはそのちょっと浮いてるポーチを使って、バーリマンさんにさっきの説明の続きをしたんだよ。


「ほれ、このようにフロートボードをかけられたものは少し浮くじゃろう。今まではこれを見てフロートという魔法文字の効果が出ておると考えられておったのじゃ。しかし」


 ロルフさんはそう言うと、そのポーチを動かして机の外まで移動させたんだ。


「ルディーン君が実験して証明した通り、テーブルの上から外へと出してもフロートボードに乗ったポーチは落下せずに浮いておるじゃろ」


「ああ、確かに浮かんでいますね。なるほど、この魔法は間違いなく浮かぶ板を作る魔法ですわ」


「うむ。そしてこれが解った事により、この魔法の価値が大きく変わる事となるじゃろうな」


 ロルフさんはこんな事言ってるんだけど、僕にはよく解んなかったんだ。


 だってさ、これってただフロートボードがちょっとだけ浮かせる魔法じゃなかったのが解っただけの事でしょ?


 なのにロルフさんたちは、これがすごい事みたいに言ってるんだもん。


 だから僕、ロルフさんに何がすごいの? って聞いてみたんだ。


「ロルフさん、フロートボードが浮く板を作る魔法だと、何がすごいの?」


「そうじゃのぉ」


 ロルフさんはちょっと考えるとね、僕にフロートボードの新しい使い方を教えてくれたんだ。


「例えば橋のかかっておらぬ深い谷の先に村が在ったとして、今まではそこに物資を運ぶ方法は無かったのじゃ。しかしこの魔法を使えば、谷を越えて物資を運ぶことが可能となるじゃろう?」


「えー、そんなのできないよ。だってフロートボードって、誰かが押したり引っ張ったりしないと動かないもん」


 お空を飛ぶ魔法と違って、フロートボードはただそこで浮いてるだけでしょ?


 だから誰かが押したりしてあげないと動かす事ができないもん。


 僕、谷の上だと誰も押せる人がいないから、フロートボードで物を運ぶなんてできっこないと思うんだ。


「ふむ。確かにフロートボードに載せたものをそのまま手で押す事はできぬ。じゃが、長い棒などを使ったらどうじゃ?」


「そっか。フロートボードにのっけると、重い物でもすーって動くもんね」


「それにこの魔法を使えば、橋を架けるのも今よりもはるかにたやすくなるじゃろうな」


 橋を作る時に一番大変なのは、最初に反対の岸までひもを渡してどっかに括り付ける事なんだって。


 でもこの魔法を使えば、それがすっごく簡単になるんだよってロルフさんは言うんだ。


「物を軽くする魔道具は生きてるものを軽くする事はできぬから、この魔法で多くの者を対岸に送る事はできぬ。しかし一人二人ならそれほど強い魔力を持たぬ魔法使いが使ったフロートボードでも乗せる事はできるからのぉ。その者にひもを持たせて対岸に送ればその作業もたやすかろうて」


 それにね、一度ひもを渡しちゃえばそれをフロートボードに乗った人がそれを伝って動かせるもん。


 そしたら物を運ぶのもすっごく楽になるから、それだけ橋をかける工事が楽になるんだってさ。


「軽く考えただけでも、この魔法にはこれだけの価値があるのじゃ。この発見がどれだけすごい事か、ルディーン君にも解ってもらえたかな?」


「うん。僕、こんなの全然すごくないと思ってたけど、ほんとはすごい事だったんだね」


 僕たちが住んでるアトルナジア帝国でも、橋を作れたらいいなぁって思ってるとこがいっぱいあるんだって。


 ロルフさんたちはね、この魔法の事をみんなが知ってたらそれがすっごく楽になるから、早く教えてあげないとダメって言うんだよ。


「とりあえず、ギルドに戻って書面に起こしませんと」


「うむ。一刻を争うというようなものではないが、早いに越した事は無いじゃろうからな」


 そして二人はこんな事を話しながら、お部屋を出て行っちゃったんだ。



 読んで頂いてありがとうございます。


 ルディーン君が自分より背の高い草が生えているところを探索するためにと考えて実験したことが、最終的には大事になってしまいました。


 まぁ、この魔法の本来の使い方が広まれば、いろいろな用途に使えそうですからね。


 そしてこの魔法の報告により、またルディーン君の資産が増える事になるとw


 ホント、今いくらくらいあるんだろう、ルディーン君のギルド預金。


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― 新着の感想 ―
[一言] 風魔法で推進力を得られるのなら、マギクラフト・マイスター(作者:秋ぎつね)の浮揚機(飛行機)やバックトゥザフューチャーのホバーボードみたいなものを作れるかも。
[一言] 国が行なう公共事業は莫大な予算が動くからなぁ。 仮に数%だとしても、 (今までクーラーの魔石などの対個人販売と比べると) 文字通り桁が違いそう。
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