596 バリアンさんたちのパーティじゃできないんだって
ちょっと待ってたらね、ルルモアさんがギルドの受付に帰ってきたんだ。
「カールフェルトさん、ギルドマスターがお呼びです」
「やっぱり。もう! ハンスが余計な事を言うから」
「そうは言うが、気付いた以上、流石に報告しない訳にはいかないだろう」
お母さんはね、お父さんが余計な事を言ったからお仕事が増えたじゃないのって怒ってるんだよ。
だけどそれを聞いたお父さんは、気がついちゃったんだから仕方がないじゃないかって。
でもね、何でか知らないけどお顔だけはお母さんの方を向かずに、ずっと下を向いてたんだ。
「えっ、僕も行くの?」
「ええ。ギルドマスターから、ルディーン君も連れて来てってお願いされたのよ」
お父さんたちがギルドマスターのお爺さんのとこに行く事になっちゃったから、僕たちは先にお家に帰ろうと思ってたんだよ。
でもね、何でか知らないけどルルモアさんから、僕もいっしょに来てって言われちゃったんだ。
「でもでも、僕が一緒に行かないと、採って来たベニオウの実をお家に持ってけないよ」
「そうなの?」
「うん。だってベニオウの実を入れた箱、僕が魔法で浮かせて持ってくんだもん」
ベニオウの実って、とっても柔らかいでしょ。
だから運んでく途中でつぶれちゃわないように、僕がフロートボードの魔法を使って揺らさないようにお家まで持ってかないとダメなんだよね。
「なるほど。でもギルドマスターの用事も大事だから、ベニオウの実はマジックバッグに入れたままにしておいてもいいかな?」
「バリアンさんが持ってるの、領主様のマジックバッグなのに入れたまんまにしといていいの?」
「ええ。それくらい大事な用事みたいだから入れたままにして置いて、後でバリアンさんにルディーン君の館まで運んでもらう事にするわ」
マジックバッグはね、中が別空間ってのになってるからどんなに揺らしたって中のベニオウの実は大丈夫なんだよ。
そのマジックバックに入れたまんまで持って行ってくれるなら安心だもん。
だから僕、お父さんたちと一緒にギルドマスターのお爺さんのところに行く事にしたんだ。
「急に呼び出して、すまなかったな」
「ああ。それで何の用なんだ? 大体の想像はついているが」
「その予想通りだ。ゴブリンの集落ができている予兆があったというのが本当なら、その真偽を確かめてきてほしいのだ」
さっきお父さんがルルモアさんに、もしかしたらゴブリンの村ができてるかもしれないよって教えてあげたでしょ?
だからそれが本当にあるのか、森の奥に行って探して来て欲しいって頼んできたんだ。
でもね、そんなギルドマスターのお爺さんにお父さんは、なんで自分たちが行かないとダメなの? って。
「何故、俺たちなんだ?」
「恥ずかしい話なのだが、今のイーノックカウには森の奥まで分け入って探索できるパーティが居ないのだよ」
そしたらギルドマスターのお爺さんは、他に行ける人がいないから行ってほしいんだよって教えてくれたんだよ。
でもそれを聞いたお父さんは不思議そうなお顔になって、親指で近くにいたバリアンさんを指さしたんだ。
「いや、こいつがいるじゃないか。確かに錬金術ギルドにいる金持ちの爺さんのところの専属なんだと言うけど、イーノックカウの危機なんだから、事情を話せば貸してくれるだろ?」
「ああ。間違いなく許可はもらえるだろうな。だが、こいつらには無理なんだ」
バリアンさんたちはロルフさんの専属ってやつなんだけど、ゴブリンの村ができてるかもしれないんだよって言えば絶対貸してくれるでしょ?
だからお父さんはバリアンさんたちでいいじゃないの? って聞いたんだけど、そしたらギルドマスターのお爺さんがそれは無理だよなんて言うんだもん。
それを聞いたお父さんは、そんなはずないじゃないか! って怒っちゃったんだ。
「なぜだ? 一緒に行動したから実力はある程度把握しているつもりだが、このレベルの冒険者ならイーノックカウの森の中程度なら何の問題もなく探索で来るはずだろう?」
「うむ。このバリアンの実力なら、たとえ大規模のゴブリン集落ができていたとしても何の問題もなく偵察をしてきてくれるだろうとわしも思う」
ギルドマスターのお爺さんはね、バリアンさんの実力ならお父さんの言う通りゴブリンの村を調べる事はできると思うよって言うんだ。
でもバリアンさんたちじゃ、ゴブリンの村を探し出すのはやっぱり無理なんだよってもういっぺんお父さんに言ったんだよね。
「だがな、それはどう考えても不可能なのだ」
「だから、何故なんだ? 実力はあるんだろ?」
「ああ、事戦闘力という点で言えば間違いなくある。だがな、こやつのパーティは、これ以上ないほど探索に向かないのだ」
ギルドマスターのお爺さんはね、バリアンさんのパーティがどんな構成なのかをお父さんに教えてあげたんだよ。
「盾役の重戦士が二人?」
「ああ。こ奴らはその二人が魔物の注意を引いて攻撃を防ぎ、その間に他のものが攻撃して倒すという狩りを得意としているパーティなのだ」
「なるほど、それじゃあ探索なんてとても無理だな」
そう言えばバリアンさんとこのパーティって、すっごく重い鎧を着た人が二人いたっけ。
ギルドマスターのお爺さんから構成を聞いて、流石にお父さんもバリアンさんたちのパーティーじゃゴブリンたちの村を探すのは無理なんだって解ったみたい。
だってさ、僕と一緒にベニオウの実を採りに行った時も鎧が重くって大変だからって、行く途中で何度かお休みしてたくらいだもん。
あれじゃあギルドマスターのお爺さんの言う通り、森の中を歩き回ってゴブリンの村を探すなんてできるはずないもんね。
「そしてこやつらのパーティが、このイーノックカウの冒険者ギルドに所属しておる冒険者の中では一番の腕利きなのだ。これを聞けば、わしがおぬしらに依頼した理由も解るだろう?」
「ああ、そうだな。森の中を分け入ってゴブリンの村を探すとなると、生半可な腕のものを差し向けたら帰ってこない可能性がある」
ゴブリンって、普段でも草むらとかに隠れて冒険者さんたちを襲ったりするでしょ?
もし森のどこかにゴブリンの村ができてたりしたら、その近くには村を守ってるゴブリンが絶対隠れてるはずだもん。
だから村を探す人は、そういう隠れてるゴブリンを見つけられる人じゃないと絶対ダメだよねってお父さんは言うんだ。
「そういう訳でな、ゴブリンの村の捜索を引き受けてもらいたいのだ」
「ああ。面倒だが、仕方がないな」
もしおっきなゴブリンの村ができてたら、早目にやっつけないとイーノックカウが危ないでしょ。
それが解ってるお父さんは、他に探しに行ける人がいないからお願いって頼んできたギルドマスターのお爺さんにいいよって頷いたんだ。
でもね、そんなお父さんたちに、お母さんはすっごく怖いお顔でちょっと待ってって。
「ちょっと待って。ここにルディーンを呼んだのはギルマスだって話だけど、もしかしてルディーンも探索に連れて行けっていう訳じゃないわよね」
「あっ、いや、ルディーン君は魔法で魔物を探せると聞いたのでな。連れて行けば探索が楽になると……」
「ギルマス! あなたは8歳の子供に、そんな危険な場所に行けというのですか!」
僕を連れてくって聞いたお母さんがすっごく怒っちゃったもんだから、ギルドマスターのお爺さんは大慌て。
「討伐ではなく、捜索だからな。ルディーン君の魔法ならば、近づかなくともゴブリンの集落を見つける事ができるではないか」
「それでも危険であることは変わりないでしょう!」
「そこを何とか頼む。もしできていたとしたら間違いなく、イーノックカウの大きな脅威になるのは解るだろう? だから一刻も早く集落の有無を確認せねばならぬのだ」
それからギルドマスターのお爺さんはね、すっごく長い間ペコペコしながら謝ったり何とかお願いしますって頼んだりして、何とか僕を連れてく事をお母さんに許してもらったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
シーラお母さんの予想通り、ゴブリンの集落を探す事になってしまいました。
ただ、その危険な探索に幼いルディーン君まで連れて行けと言うのですから、シーラお母さんが怒るのも無理ないですよね。
さて、実は来週から3週間ほど毎週土日に出張に行く事が結構前から決まっていたんですよ。
なのでその間は金曜日だけの週1更新になってしまうなぁと思っていたのですが、ここで急に納期が1か月も早まった仕事ができてしまいまして。
その調整のため、今度の金曜日分の原稿をとても書ける状態ではなくなってしまいました。
ですので申し訳ありませんが、次回の更新は10月6日の金曜日になります。
そして嫌な予告になってしまいますが、最悪の場合10月の終わりごろにも同じようにお休みする事になってしまうかもしれません。
なるべくその様な事にはならないように頑張ってみるつもりではありますが、その時はなにとぞご容赦を。




