563 僕が作った時はできたのになぁ
「ギルドマスターさん、バイバイ」
お爺さんギルドマスターは、最後までわしも行っちゃダメ? って言ってたんだよ?
でもルルモアさんが許してくれなかったもんだから、しょんぼりしちゃったんだ。
でね、僕たちはそんなお爺さんギルドマスターとバイバイして、錬金術ギルドに向かったんだよ。
カランカラン。
「ペソラさん、こんにちわ!」
錬金術ギルドに入るとね、いつもロルフさんが座ってるカウンターのとこにペソラさんが座ってたんだ。
だから僕、元気よくこんにちはしたんだよ。
そしたらペソラさんも、いらっしゃいって言ってくれたんだ。
「いらっしゃい、ルディーン君。でも今はあいにくギルマスもロルフさんも……あら、ご一緒でしたのね」
「ええ、留守中、何もなかったかしら?」
「はい。いつものように、静かなものですよ」
「そう。なら引き続き、ここは任せても大丈夫ね」
バーリマンさんがなんかあった? って聞いたら、ペソラさんは何にもなかったよって答えたでしょ。
だからお店の事はペソラさんに任せっぱなしでも大丈夫だからって、バーリマンさんは僕たちを連れて錬金術ギルドの中に入ってったんだ。
錬金術ギルドの作業場に入るとね、バーリマンさんとロルフさんは銅の塊とか魔石が入った箱とかを出してきたんだよ。
でね、それが一通りそろうとこう言ったんだ。
「それでは試作を始めましょうか」
「うむ。ではルディーン君、これくらいの太さの筒を作ってもらえるかな」
ロルフさんはね、近くにあった羊皮紙を丸めてこれくらいの筒を作ってって言ったんだよ。
でも僕、それを見てちょっとびっくりしたんだ。
だってその羊皮紙の筒、思ってたのよりもずっと太かったんだもん。
「あれ? ロルフさん、ほっそいやつを作るんじゃなかったの?」
「うむ。最終的にはそうするつもりなのじゃが、実験をするとなるとある程度の太さがあった方が結果が解りやすいと思ってな」
ロルフさんはね。完成品を作る時はちゃんと細い筒を使って作るつもりなんだって。
でも今から作るのは試作品でしょ?
だから出てくる風とかがどんな感じなのかよく解るように、ふっとい筒を使って作るんだってさ。
「そっか。うん、わかった! すぐに作るね」
それを聞いた僕なテーブルの上に置いてあった銅の塊を持って体に魔力を循環、クリエイト魔法を使ってロルフさんが持ってる丸めた羊皮紙とおんなじ太さの、ちょっとだけそれより長い筒を作ったんだ。
「これでいい?」
「うむ、上出来じゃ」
ロルフさんは僕が作った筒を見てニッコリ笑うとね、近くにあった箱の中から大豆くらいの大きさの魔石を取り出したんだよ。
でね、その魔石に魔力を注いでいって風の魔石に属性変換させたんだ。
「あれ? 風の魔石を使うの?」
「うむ。少々値は張るが、これはあくまで実験。かかる時間を考えると、風車の魔道具を1から作るよりもこちらの方が簡単じゃろう?」
そう言えば魔道具を作ろうと思ったら、羽根を作ったり魔道回路図を描いたりしないとダメだもん。
でも風の魔石だったら活性化させるだけで風が起こるから、そっちの方が絶対簡単だよね。
って事で、ロルフさんはさっそくさっき作った筒に風の魔石をつけて活性化させてみたんだけど、
「思ったより風が弱いのぉ」
でもね、風は起こってるんだけどあんまり強くなかったみたい。
だから風が出る方に手を当てながら、ロルフさんは頭をこてんって倒したんだよ。
「はて? これだけの大きさの魔石を使ったのだから、もう少し強い効果が出てもおかしくは無いと思うのじゃが」
「伯爵、もしかすると筒の中の空間というのが影響しているのではないでしょうか?」
バーリマンさんはそう言うとね、筒から風の魔石を取り出してそれを活性化させたんだよ。
そしたら魔石の周りに、さっきより強い風が起こったんだ。
「ギルマスよ、これは一体何が起こっておるのじゃ?」
「はい、これはあくまで私の仮説なのですが、風の魔石は火の魔石が熱を出すように活性化する事で風を生み出しているのではなく、近くにある空気を動かしているだけなのではないでしょうか」
バーリマンさんはね、筒の中には動かす空気が少ないからあんまり強い風が出てこなかったんじゃないかなって言うんだよ。
でもそれを聞いたロルフさんはびっくり。
「起こる風の強さは、魔石の魔力量だけで決まる訳ではなかったのか」
魔石ってその大きさによって魔力の強さが変わってくるから、おっきい風の魔石を使えばちっちゃいのを使うより強い風が起こるんだよね。
だからロルフさんは、筒の中でもおっきい魔石を使えば強い風が起こるって思ってたんだって。
「しかし、そうなると魔石を使っての実験は続けられぬな」
「はい。少々手間はかかりますが、風車を利用した方法を試してみましょう」
風の魔石だと固まった汚れを吹っ飛ばせないって事が解ったでしょ?
だから作るのに時間がかかっちゃうけど、羽根を回して風を起こす魔道具で実験を続ける事にしたんだ。
でもね、
「なんと、まさかこの方法でも失敗してしまう事になるとは」
「風車の大きさが小さすぎて、思ったように風が起きませんでしたわ」
筒の中に付けられるくらいの大きさの羽根だと、風の魔石を使った時とあんまり変わらないくらいの風しか起こんなかったみたいなんだ。
これにはロルフさんもバーリマンさんも大弱り。
「まさかこのような事になるとは」
固まった汚れは僕がフゥって息を吹きかけるだけでも飛んでっちゃうくらい軽いけど、今作ろうと思ってる魔道具は風の力で汚れの塊を集めるための物でしょ?
今くらいの風でもちょっとくらいは飛ばせるけど、一個一個に風を当てないとダメだからとても使えないんだよね。
だからロルフさんとバーリマンさんは、どうしたらいいかなぁって考えこんじゃったんだ。
「ねぇ、ルディーン君。私は魔道具の事はよく解らないのだけど、今のままだと強い風は起こせないって事なの?」
僕とルルモアさんは、ロルフさんたちが魔道具を作ってるのをただ見てただけでしょ?
だから思ったような風が出てこなくって困ってるロルフさんたちを見て、ルルモアさんは汚れを吹っ飛ばす魔道具が作れないのかなぁって僕に聞いてきたんだ。
「できるはずだよ。だって僕、うちでお母さんのために髪の毛を乾かす魔道具、作った事あるもん」
「へぇ、それはちゃんと風が出たのね?」
「うん。ぶぉーって出てたよ」
僕はね、ルルモアさんに家で作ったドライヤーの事を教えてあげたんだよ。
そしたらさ、それを聞いたロルフさんとバーリマンさんがすっごいお顔で聞いてきたんだ。
「ルディーン君、強い風を出す事ができたというのは本当なのか?」
「一体どうやって?」
二人ともすっごい勢いで聞いてきたもんだから、僕、ちょっとだけびっくりしたんだよ。
でも聞かれたんだからちゃんとお返事しないとダメだよねって思ったから、僕が作ったドライヤーの事を教えてあげたんだ。
「あのね。僕、ほんとは魔道オーブンを作ろうと思ってたんだよ。だから火の魔石があるとこに風を通してあっつい風を作ろうって思ったんだ」
「なるほど。ではその魔道具は、その副産物と言う訳じゃな。して、それはそのような形のものなのじゃろうか?」
ロルフさんがそれはどんな形をしてるの? って聞いてきたもんだから、僕は実際に作ってあげる事にしたんだよ。
「バーリマンさん。この銅、ちょっと使っていい?」
「ええ、いいわよ」
バーリマンさんがいいよって言ってくれたもんだから、僕はさっそくお家で作ったドライヤーを作り始めようと思ったんだけど、
「あっ、そうだ! ねぇ、ロルフさん。風の魔石のと羽根が回って風を起こすのと、どっちがいい?」
「なんと、風車を使ったものでも、同じように強い風を起こせるというのか!?」
「うん。だってそうじゃないと、髪の毛乾かないもん」
僕ね、実は2個ドライヤーを作った事があるんだ。
何でかって言うと、うちにあるのを見たヒルダ姉ちゃんが作ってって言ったから。
でもね、最初に作ったのだと火の魔石と風の魔石の両方がいるでしょ?
これだと使う魔道リキッドの量が増えちゃうからって、火の魔石だけで作れる羽根を回して風を作るドライヤーも作ったんだ。
「是非ともその両方を見てみたいですわね、伯爵」
「うむ。すまぬが、両方とも作ってもらえるかな?」
「うん、わかった!」
両方作ってって言われたもんだから、僕はまず簡単に作れる火と風の魔石を使った方を作ってみる事にしたんだよ。
「これ、ほんとに使うやつじゃないから持つとことかを作んなくても、あったかい風が出るだけでいいよね?」
「いや、温かくせずとも風が出るようにするだけでよい。わしらはただ、それがどのような仕組みで作られているのかが知りたいのじゃからな」
それを聞いて、それだけでいいの? って思ったんだけど、その方が簡単だからいいかってとりあえず作って見せたんだよ。
「ほら、こんな形だよ」
「なるほど、この形なら強い風が起きるのも頷けますわね」
「うむ。実際に見せられると、何故これを思いつかなかったのかと考えさせられる形じゃな」
僕が作ったのはね、筒の片方の入口のとこに針金をバッテンに張ってその真ん中に米粒くらいの風の魔石をくっつけただけのものなんだよ。
でもそれを見たロルフさんたちは、なんでこれに気が付かなかったんだろう? って言うんだ。
「筒の中と違って、この位置ならば魔力が作用する取り込む空気は無限にありますもの。魔石が大きければ大きいほど、強い風が起きる事でしょうね」
「うむ。と同時にギルマスの仮説が正しかった事も、これで証明されたと言う訳じゃな」
ロルフさんたちは、筒の中の空気を動かそうとしたから失敗したんだって。
でもこれだったらお外にある空気を風の魔石で筒の中に入れるでしょ?
だから小っちゃい魔石でも、反対側から風をぶぉーって出す事ができるんだ。
「さて、こちらは強い風が起きる理由が見ただけで簡単に解ったのだが」
「ええ。風車を使ってどのように強い風を起こすのかは、まるで想像ができませんわね」
ロルフさんたち、さっき風車を回して風を起こすのも作ったけど失敗しちゃったでしょ?
だから僕がどんな方法で強い風を起こすのか、すっごく気になってるみたいなんだ。
でもね、僕も何でできなかったのか解んないんだよね。
だって筒の中に羽根をつけるのは、僕のもおんなじなんだもん。
「それじゃあ、作ってみるね」
だからとりあえず作ってみようって、僕は銅の塊を使ってクリエイト魔法で風を起こす羽根を作ったんだよ。
でね、それを筒に付けようと思ったんだけど、
「何じゃ、その羽根の形は!?」
「もしかして、それが強い風を起こせた理由なの?」
ロルフさんたちが急にこんな事を大声で言ったもんだから、僕、すっごくびっくりしたんだ。
「どうしたの? なんか変だった?」
「変も何も、そのような形の羽根を見たのは初めてじゃ」
「ええ。風車と言うのはこういう形をしたものでしょ?」
バーリマンさんがそう言って見せてくれたのはね、まっすぐな板が斜めに5枚、中心のちっちゃな筒についてるだけのもんだったからすっごくびっくりしたんだよ。
だって僕が作った羽根は、ちっちゃい時に作って遊んでた魔道具の頃からおんなじ形だったんだもん。
お父さんもお母さんもそれを見て何にも言わなかったから、僕、これが普通の羽根だってずっと思ってたんだよ。
「しかし、見れば見るほど変わった形じゃな」
「ええ。長めの筒から斜めに羽が取り付けてあるのは同じですけど、数が3枚と少なく、それに3枚ともとても特徴的な形をしていますわ」
僕が作った羽根はね、前の世界にあった扇風機ってのとおんなじ形をしてるんだよ。
僕、その形しか知らなかったから普通に作ってたんだけど、そっか、みんなはこんな形の羽根、知らなかったんだね。
ロルフさんたちが一通り僕が作った羽根を見たもんだから、それを使って簡単なドライヤーを作ってみたんだよ。
でね、それを実際に動かしてみたら本当に反対側からぶぉーって風が出て来たもんだから、ロルフさんたちはびっくり。
「なんと、羽の形が変わるだけでまさかこれほどの違いがあるとは」
「伯爵、この羽根はいろいろな用途に使えるのではないでしょうか」
そのまま僕とルルモアさんをほったらかしにして、二人だけでこの羽根があればどんなものが作れるかって言うお話を始めちゃったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ルディーン君は今よりもっと小さい頃、ただ羽根が回るだけの魔道具を作っては、キャリーナ姉ちゃんと二人で回った回ったと笑ってましたよね?
当時は今の世界の事を何も知らない小さな子供ですから、当然その羽根は前世で見た事がある形でした。
でも扇風機とかに使われている羽根って、長い間研究されて作られた風を起こすための理想的な形なんですよね。
そんなものと、魔法のおかげで科学の進歩が止まっているこの世界の羽根とでは効果がまるで違うのは当たり前です。
でもそんな事をルディーン君が気が付くはずがありませんから、何も考えずにロルフさんたちに見せてしまって大騒ぎになったと言う訳です。
さて、今週末の土日なのですが、また泊まりでの出張になってしまいました。
ですのですみませんが月曜日はお休みさせて頂き、次回は来週の金曜日更新となります。




