53 ポーションはちょっことでも高い
「初めての成功じゃからのぉ、この火の魔石は坊やがお土産に持って帰るが良かろう」
「えっ、いいの?」
僕の興奮が収まるまで待ってから、お爺さんはそう言って出来上がったばかりの火の魔石を金色の鎖が付いた大人の指先くらいの小さなガラス瓶に入れて僕に差し出してきたんだ。
ビンの中でほのかな光を放つ真っ赤な火の魔石はなんか特別な宝石みたいでとっても綺麗だから、くれるって言うのならすごく嬉しいんだけど、魔石って高いんだよね? 本当にいいのかなぁ。
そう思って聞いてみたら、
「実を言うとな、貰ってもらわねばワシが困るんじゃよ」
お爺さんは、そう言って笑ったんだ。
ついさっきまでやっていた下位ポーション作りなんだけど、お爺さんが言うには僕が作るの初めてだから、きっと煮出した薬草の殆どをダメにしちゃうだろうなぁって思ってたんだって。
お爺さんとしては錬金術に興味を持った子供に会えた事が嬉しかったから今回失敗した分の薬草代くらい出してもいいやって気持ちになってたらしいんだけど、僕が最初の数回以外全部成功しちゃったもんだから作った薬草の煮汁の殆どが下級ポーションになっちゃって、逆に制作費を払わなきゃいけないくらいいっぱいできちゃったんだってさ。
「じゃからのぉ、この魔石は坊やが作った下級ポーションの代金の代わりと言うわけじゃ」
「そうなの? でもさぁ、かきゅうポーションのねだんって、ほとんどが薬草のねだんだって本に書いてあったよ? 小さいって言ったってませき1このねだんの方が高いんじゃないの?」
確か下級ポーションは駆け出しの錬金術師でも作れるから、薬草の値段に手間賃を足した位の値段らしいんだ。
それに対してこの魔石は銀貨40枚、4千セントもするんだから絶対魔石のほうが高いよねって僕は思ったから、お爺さんにそう訊ねたんだ。
だけど、それはちょっと違ったみたい。
「おお、本当に物知りじゃのぉ。確かに坊やが言うとおり下級ポーションの値段のほとんどを薬草代が占めると言うのは事実じゃ。じゃが坊やは肝心な情報が抜けておる。ただの薬草とは違い、即座に傷を治すポーションは下級と言えどもとても値段の高い物なんじゃ」
そう言うと、お爺さんはさっき作った下級ポーションが入ったガラス容器を僕の前に持ってきて、これだけで下級ポーション何本分くらいあるか解るかい? って言って聞いてきたんだ。
目の前のの容器に入ってる量は、僕が見た感じだと前世にあったペットボトル一本分、大体500mlくらいかな? 一回にできるポーションは少なかったけど、かなりの回数をこなしたからそれなりの量はあるんだよね。
でも薬なんだからそれなりの量を飲まないと効かないと思うし、1本でこの半分くらい使っちゃいそうだよね。
だから2本くらいかなぁ? って答えたんだけど、そんな僕の答えを聞いたお爺さんはとっても驚いた顔をして、
「うむ、流石にそんな少ない数を言って来るとは思わなんだ」
って言ったんだ。
そしてカウンターの裏から商品として売る時に実際に使われてるって言うポーション用のガラス瓶を取り出して、その中に普通だって言う量の下級ポーションを入れて僕に見せてくれた。
で、それを見て今度は僕がすごくびっくりしたんだ。だって、ガラス瓶の中にはほんのちょびっとしか入れなかったんだもん。
「そうじゃのぉ、駆け出しの錬金術師が作った品質の悪い下級ポーションなら少し多めに入れねばならんからこれだけあっても10本に少々足りぬと言ったところじゃろうか。じゃが坊やの場合は魔力の量を見ることができるおかげで熟練した錬金術師たちが作ったものと遜色無いできじゃから、これで大体16本分と言った所かのぉ」
1本でそんなに少ししか入ってないの? あっでもそう言えば、ドラゴン&マジック・オンラインでもポーションは一度に何本も飲んでたっけ。
もし缶ジュース一本くらいの量だったらそんなにいっぱい飲めないから、それくらいでもおかしくないのかも。
そう思った僕は1ビンにちょびっとしか入ってない事にも納得したんだけど、次のお爺さんの言葉で僕は量が少なかった事なんかよりもっとびっくりする事になったんだ。
「そして、その下級ポーションでも1本で銀貨20枚、2千セントで店に卸せるのじゃよ。如何に値段のほとんどが薬草だと言っても、それを16本も作ったのじゃから、製作にかかる手間賃が銀貨40枚でも安いとは思わんか?」
「かきゅうポーションって、そんなにするんだ……あっ待って! じゃあ、ぼくが全部しっぱいしてたら、たいへんだったんじゃないか!」
「ほっほっほ、確かに薬草を買ってそれを材料にしておったらその通りじゃな。じゃが安心せい。使った薬草は全てワシが自分で採取したものじゃから、そこまではせんよ。錬金術ギルドに下ろしたとしても市価の3分の1程度じゃろうから、坊やが思っているほどは掛かっておらん」
さっきお爺さんは薬草代くらい出しても惜しくないって思ったって言ったけど、じゃあもしかして全部失敗してたら金貨3枚くらい損してもいいって思ってたって事? って思ってびっくりしたけど、実際はその3分の1位だって言うから金貨1枚くらいで済んだって事かな?
まぁそれでもすごく高いのには変わらないけど。
「それにのぉ、そもそも坊やは錬金術師の手間賃を安く見積もりすぎておる。熟練者が材料は用意するから下級ポーションを銀貨40枚で16本分作ってくれと言われても誰もやらんよ。少なくとも金貨1枚は取るのが普通じゃ。まぁ、今回は煮出しを此方で行ったから銀貨20枚くらいは値引きできるかもしれんがな」
なるほど、薬草の値段はそこまで物凄く高いって訳じゃないんだね。
それを聞いて、僕はちょっとだけ安心したんだ。
「本来なら坊やが働いた対価はその魔石だけでは足らんのじゃが、色々と指導もしたしのぉ。授業料だと思って負けておいてくれるとありがたい」
「うん、いいよ。それにぼく、まだ始めたばっかりだもん。ほんとならもっとしっぱいしてたはずだし、おじいさんはその分のお金を出してくれるつもりだったんでしょ? ならこれがもらえただけで十分だよ」
そう言って僕は手の中にある赤い魔石の入ったビンを、見つめたんだ。
とその時、その赤い魔石を見て頭の中に、なにか引っかかるものを感じたんだよね。
それが何なんだろうって考えた僕は、次の瞬間ある事に気が付いて後ろを振り返り、入り口近くにあるものを見渡したんだ。
「あっそっか、あのビンに入った宝石みたいなのって、みんなぞくせいませきなんだ! それにあそこにあるお花やドライフラワーは薬草なんだね」
「ほっほっほ、そうじゃよ。ここは錬金術のギルドじゃから、売っているものがそれに関係したものばかりなのは当たり前じゃろう?」
何も知らなければ解らなかったここに売っている物たちだけど、改めて見渡すと確かに錬金術に関係しているものばっかりだ。
ん? ちょっと待って。って事は入り口にあった花壇も薬草が植えてあるって事か。
お店に入った時はギルドに見えないって思ってたけど、ちゃんと錬金術ギルドだったんだね。
あっでも。
「おじいさん。ぞくせいませきとかが売ってるのはわかったけど、ポーションは? それにまどうリキッドもお店にならんでないし。ぼく、ここに来てその二つがないから何でかなぁって思ったんだけど」
「ふむ、坊やは少し勘違いをしているようじゃが、ここにはポーションは売っておらん。売ってるのは薬局じゃな。それに魔道リキッドも売っておるのは魔道具屋や雑貨屋じゃな。ここは錬金術に使うものを売っているだけで、錬金術で作るものまでは手が回らないのじゃよ。じゃから当然魔道具もここには売っておらん。ここに売られているのは、錬金術師が使うものやその材料が殆どじゃな」
そっか、ここはギルドなんだから買いに来るのはみんな錬金術師だよね? なら自分で作れるものを買っていくはずないか。
あれ? それじゃあ入り口のあれは?
「えぇ~、でも入り口にアクセサリーみたいなものがならんでるよ! あれってまどうぐだよね?」
「ふむ、あれは正確には錬金術ギルドの売り物ではなくてのぉ。ギルドマスターが個人的に机を用意して、自分で作ったアミュレットを売っておるだけなんじゃ」
えっ、あれってお爺さんが作ったものを趣味で売ってるだけなの? そう僕は一瞬考えたんだけど、それにしてはちょっと言い方がおかしかった気がする。
だって、普通は自分で自分の事をギルドマスターなんて言わないもん。
「ねぇ、おじいさんがギルドマスターじゃないの? ぼく、ずっとそう思ってたんだけど」
「ほっほっほ、それはまた光栄な話じゃのぉ。じゃが考えてもみよ。冒険者ギルドや商業ギルドのギルドマスターが店番しているなんて話を聞いた事はないじゃろう? ワシは錬金術が好きなただの年寄りじゃよ。ふむ、そう言えばまだ名乗ってはいなかったのぉ。ワシの名はフラ……おほん。そうじゃなぁ、ロルフと呼んでくれると嬉しいのぉ」
「ロルフさん? うん、わかったよ。え~っと、じゃあ、ぼくもあいさつしないダメだよね。ぼくはルディーン・カールフェルトっていいます。これからよろしくおねがいします、ロルフさん」
「此方こそよろしく、ルディーン君」
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