51 凄くないけど凄い技術
「おっと、いかんいかん。坊やの珍しいスキルに驚いたせいですっかり忘れておったわ」
僕がもしかしたらお空を飛べるようになるかもしれないってわくわくしてたら、おじいさんが急にそんな事を言い出したんだ。
「どうしたの、おじいさん? 何かわすれもの?」
だから僕はそう聞いたんだけど、その様子にお爺さんは苦笑い。
「坊やもすっかり忘れておるようじゃのぉ。ワシらはさっきまで何をやっておった?」
「あっ、そっか。かきゅうポーションの作り方を教えてもらってるんだった!」
そう言えば薬草を煮だして、それを冷やしたものに魔力を込めると下級ポーションが出来上がるんだって目の前でやってもらってたんだっけ。
で、小皿に移したほんのちょっとの煮汁が下級ポーションに変わってたのを、僕が鑑定解析で調べたから話が別の方向へ行っちゃったんだった。
「坊やも思い出したようじゃのぉ。折角作ったのに薬草の煮汁は時間が経つと劣化してしまう。そうなったら魔力を込め難くなってしまうから、坊やの練習に使うのなら早くせねばなるまいて」
お爺さんはそう言いながら煮汁の一部を新しく取り出した小皿に移して、僕の前に差し出した。
「少々脱線してしまったが、やり方は覚えておるかの?」
「えっと、ちゅうしゅつされた薬草の成分にまりょくが集まるイメージ、だったよね?」
「うむ、そうじゃ。やってみてごらん」
そう言われたから僕は、薬草の煮汁が入った小皿に両手をかざして魔力よ入れぇ! って思いながら体の中の魔力を手の平から出してみた。
そしたらその魔力がどんどん煮汁に溶け込んで行ったんだ。
「魔力の操作が得意と言っておったが、本当にうまいんじゃのぉ。うむ、もうやめても良いぞ」
お爺さんの合図で僕は魔力を出すのをやめて、さっきまでただの薬草の煮汁だった物を鑑定解析で調べてみた。
そしたらちゃんと下級ポーションになってたんだ。
「やったぁ! ぼくもかきゅうポーション、作れた!」
そう言いながら僕は諸手をあげて大喜び! 目の前の下級ポーションがこぼれちゃうといけないからいつもみたいに飛び跳ねはしなかったけど、そうしたいくらい僕は嬉しかったんだ。
「これこれ、喜んでばかりではだめじゃ。まだどれくらい魔力を籠めればいいのか解ってはおらんじゃろう? ほれ、何度も繰り返してワシが声を掛けずとも完成できるよう練習するのじゃ」
「うん! ぼく、がんばるよ」
その後も下級ポーション作成をやったんだけど、お爺さんに合図してもらわずに自分1人でやると魔力を込めすぎて失敗したり、逆に足らなさすぎて失敗したりしたんだ。
でも何度かそうしてる内に、僕は魔力を注いでいる時に目の前の煮汁の中を流れる魔力を感じる事ができるようになって行った。
なんと言うかなぁ、お姉ちゃんに魔法を教えた時と同じような感じ? 自分以外のものの中にある魔力を感じる事で、どれくらい込めるのが一番いいかが解るようになってきたんだよね。
だからその量を目安に魔力を込めて行って、
「ここっ!」
僕が感じた一番の所で魔力を止めたんだ。
そして鑑定解析! ちゃんと下級ポーションが出来上がっていることを確認して、僕はにんまりとしながら、目の前に居るお爺さんの顔を見上げたんだ。
「なんと、もう魔力の適量を掴んだのか? いや、と言うより魔力を感じ取ったと言った所かのぉ。いやはや、本当に魔力操作が上手な坊やじゃ」
そしたらお爺さんはとっても嬉しそうな顔でそう言いながら、ほっほっほって笑ってた。
てっきりこうやって魔力を感じて必要な量を知る方法に僕が自分で気付くようにと何度もやらせてたんだって思ってたんだけど、お爺さんが言うにはこれ、ただ下級ポーションを作るのにどれくらい込めたらいいかを覚えるためだけの練習で、そんな高度な事までは求めてなかったみたい。
「目の前のものに込められた魔力量を感じ取るなんて事はのぉ、全ての者ができる訳ではないのじゃよ。坊やのように自分の周りにある魔力や他人の魔力さえ操れるほど魔力操作を身につけた者でなければまず不可能じゃからな。しかし、それほどの者でも普通はそう簡単には出来ないものなのじゃが……これはまだ坊やが幼く、思考が柔軟だからこそ大人のように難しいと感じることなく自然と正解にたどり着けたのかもしれないのぉ」
だってお爺さんは僕がこんな事をできるようになるなんて、まったく思ってなかったみたいなんだもん。
でもそっか、僕がやった事ってすごい事なんだね。
じゃあさぁ、この方法でポーションとか作ったら普通のよりもっと凄いのが出来ちゃったりするのかなぁ? そう思っておじいさんに聞いてみたんだけど。
「いや、この方法ならば誰の妨害も受けない場所で作業すれば確実に成功すると言うだけじゃよ。まぁ、魔力量が完璧に近いのじゃから少しは効果も上がるじゃろうが、1割も2割も効果が上がる訳ではないからのぉ。ポーションのようなものでは誤差程度の品質上昇しかしないと思うぞ」
「え~、じゃあぜんぜんすごくないじゃないか! もぉ~! さっきはぼくがすごいことをやったみたいに言ってたのに」
期待だけさせておいて、実は難しくて誰でもできるわけじゃないって言うだけの物だったなんて、ホントがっかりだよ。
そう思って僕は怒ったんだけど、
「いや、これは凄い事なんじゃよ」
ってお爺さんは改めて僕がやった事はとっても凄い事なんだって教えてくれたんだ。
「坊や、よくお聞き。そもそも錬金術と言うものはとてもお金が掛かる物なのじゃよ。例えば先ほどの下級ポーションだって、使っている薬草は貴重なものじゃから自分で森に入って取って来るのならともかく、冒険者に採取を依頼すれば結構な値になる。そんなものでもこれこの通り、先ほどの坊やのように魔力の付与に失敗すれば全て無駄になってしまうのじゃ」
そう言ってお爺さんは、僕が失敗して下級ポーションにならなかった薬草の煮汁を指差した。
今回は小皿に少量の煮汁を入れて練習したから失敗した量はたいした事ないけど、普通に下級ポーションを作ろうと思ったらこんな面倒な事はしないで一気に多くの煮汁に魔力を付与する事になるんだから、確かに失敗した時は大損害になっちゃうよね。
「それでも薬草ならたいした金額ではないからまだ諦めは付くじゃろうが、これが属性魔石の製作となるとそうはいかん。大きな属性魔石を作ろうと思えば、素材として用意する魔石は金貨にして数百枚、いや、物によっては数千枚の物まであるのじゃから一度の失敗で身を滅ぼしかねないというのは坊やにも解るじゃろう? じゃが坊やが先ほどやってみせた、どれくらいの魔力を込めればよいのかを作業中に確かめながら付与する方法なら作業中に妨害でもされない限りは絶対に成功するのじゃから、これをすごい事と言わずしてなんと言うのじゃ?」
そっか、言われてみれば確かに絶対に成功するって言うのはすごい事だよね。
特に僕が錬金術を覚えようって思った最大の理由は属性魔石を作りたいからで、そしてこの技術はその作成で失敗をしなくなるって言うものなんだから、がっかりどころか大喜びすべきものだったんだ。
「それにのぉ。上級ポーションを作る時のように材料の中に含まれる複数の物に魔法を付与しなければならない時にも、この魔力を感じ取れると言う技術は役に立つのじゃよ」
「そっか。実はすごかったんだね。うぅ~……やったぁ!」
ガタン。
僕は座ってた椅子を後ろに跳ね飛ばしちゃうほどの勢いで立ち上がって、飛び跳ねながらバンザイして喜んだんだ。
ただ、
「これこれ、そんなに勢いよく立ち上がっては、折角の薬草の煮汁がこぼれてしまうじゃろう」
「ごめんなさい」
その喜び方が激しすぎて、お爺さんに怒られちゃったけどね。
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