529 キャリーナ姉ちゃん、頭いい!
次の日の朝、いつものお手伝いが終わった僕は、昨日の続きをするためにお母さんと台所に集合したんだよ?
でもね、そしたらそこに、何でか知らないけどキャリーナ姉ちゃんまで居たんだ。
「あれ? キャリーナ姉ちゃん、なんでいるの?」
「だってルディーンとお母さんが昨日、二人だけでなんかやってたってレーア姉ちゃんが言ってたもん。私に黙って美味しい物を作ろうとしてたんでしょ!?」
キャリーナ姉ちゃんはね、僕とお母さんが台所でなんか作ってるって知って、おいしい物なら私も食べたいって来たんだってさ。
「ルディーンたちだけで美味しいもの食べるなんて、ずるいよ!」
「それは違うわよ、キャリーナ。確かに何かを二人で作っているというのは間違いないけど、私たちが作っているのは美味しいものじゃなくて、それを作るための材料ですもの」
「材料?」
「うん! あのね、僕とお母さんが作ってたのは、お醤油って言うお肉にかけたりお料理に入れたりしたらおいしくなるもんなんだ」
僕はね、キャリーナ姉ちゃんにお醤油の事を教えてあげたんだよ?
そしたらお姉ちゃんは、ちょっぴり残念そうなお顔になっちゃったんだ。
「そっか。お菓子を作ってるんじゃないんだね」
「ううん、これはお菓子にも使えるんだよ。だってこれにお砂糖を入れて、それをこないだ作ったお芋の団子につけて焼いたらお菓子になるもん」
こないだは大豆で作った粉でお菓子を作ろうと思ったからきな粉もちっぽいものになったけど、ほんとだったらお芋の餅はお醤油とお砂糖をつけて焼いたのを食べるんだって。
だから僕、キャリーナ姉ちゃんにその事を教えてあげたんだ。
「そうなの? なら、そのおしょうゆってのができたらお菓子も作るんでしょ? だったら、私も一緒に作る!」
「うん、いいよ。一緒にやろ!」
お母さんと二人だけでも楽しいけど、キャリーナ姉ちゃんと一緒でも楽しいもん。
だから僕とお母さん、それにキャリーナ姉ちゃんの3人でお醤油づくりをする事にしたんだ。
「流石に一晩漬けておいたから、塩水はちゃんとしみているみたいね」
「やったぁ! じゃあ発酵させるね」
お醤油づくりを再開する前に、お母さんが昨日塩水につけておいた大豆と小麦を確認したんだよ。
そしたらこれならもう大丈夫だよって言ったもんだから、僕は次の発酵をする事にしたんだ。
「ルディーン。これもやっぱり、発酵させたら昨日みたいになるの?」
「ううん。今度ちょびっとしか発酵させないから、見た目はあんまり変わんないと思うよ」
お母さんはね、僕が発酵させるねって言ったもんだから、中の大豆や小麦が昨日みたいになるんじゃないかって思ったみたいなんだよ。
でも昨日のは麹菌っての増やすために発酵させたけど、今日は違うもん。
だからおんなじ発酵スキルを使っても、昨日とは全然違う感じになるんだ。
「少しだけ発酵させるの?」
「うん。昨日のはね、麹菌ってのを増やすための発酵だったんだよ。でもその菌は塩水につけたら増えなくなっちゃうから、今度のはその菌が出す酵素ってのがちゃんと動くように発酵させるんだって」
この酵素ってのはね、塩水につけるとちょっとずつ発酵を始めるそうなんだよ。
でもそのまんまだとなかなか全部の酵素が働き始めないから、お醤油ができるまでにすっごく時間がかかっちゃうでしょ?
だから僕、スキルを使ってこのかめの中の酵母全部を働かせようって思ってるんだ。
「なるほど。じゃあ、その発酵が済んだら完成なのね?」
「ううん。違うよ。お酒だって熟成させないと飲めないよね? それとおんなじで、これも全部が発酵し始めたら、今度は熟成スキルを使わないとダメなんだ」
大豆や小麦にくっついてる酵母は、一度動き出しちゃったら火にかけてあっつくしないとずっと働き続けるんだって。
だから全部に回るくらい発酵させたら、すぐに熟成作業に入ればいいんだよね。
って事で、さっそく発酵スキルを発動。
でね、鑑定解析を使ってちゃんとかめの中全部で酵素が働き始めたのを確認してから、僕は熟成スキルを使ったんだ。
「お母さん。僕、ずっと熟成させてないとダメだから、昨日とおんなじようにかめの中をかき混ぜて」
「ええ、いいわよ」
塩水が入った大豆と小麦、これの事はもろみって言うんだって。
でね、このもろみってのを熟成させる時は、中にいる微生物ってのがちゃんと働いてくれるようにかき混ぜないとダメなんだよってオヒルナンデスヨでやってたんだよね。
だから僕、お母さんに手伝ってもらって、かき混ぜながら熟成させる事にしたんだけど、
「ねぇ、ルディーン。ルディーンはじゅくせいスキルってのを使ってるのよね? だったらかき混ぜなくってもできるんじゃないの?」
それを見てたキャリーナ姉ちゃんが、頭をこてんって倒しながらそう聞いてきたんだ。
「そっか! そう言えばさっきの熟成だって、かき混ぜなくってもちゃんとできたっけ。キャリーナ姉ちゃん、頭いい!」
「でしょ?」
キャリーナ姉ちゃんの言う通り、スキルを使って熟成させるんだから、わざわざかき混ぜなくっても大丈夫なのかも?
そう思った僕は、お母さんにかき混ぜるの大変だからやめていいよって言ったんだよ?
でもね、それを聞いたお母さんはダメよって。
「う~ん、確かにそうの通りかもしれないわよ。でもね、二人とも。材料を全部いっぺんに熟成させているのに、もしそれが間違っていたら後で困ってしまうんじゃないかしら?」
「そっか。もし失敗しちゃったら、全部ダメになっちゃうかも」
お母さんの言う通り、スキルを使ってるから大丈夫って思ってかき混ぜるのをやめちゃったら、もしかすると美味しいお醤油にならないかもしれないもん。
そんな事になっちゃったら大変だから、お母さんにはそのまんまかめの中をかき混ぜてもらう事にしたんだ。
「ルディーン。中に入ってるのが、なんか変な色になって来たよ」
かめの中に入ってるのは塩水につけた大豆と小麦なんだから、熟成を始める前は薄い茶色だったんだよ?
それが熟成スキルをかけてるとだんだん茶色になってって、その後もどんどん黒っぽい色になってっちゃったもんだからキャリーナ姉ちゃんはちょっとびっくりしたみたい。
でもね、こういう色になってくれないとダメなんだよね。
「あのね、完成したお醤油は黒く見えるくらい濃い茶色なんだ。だからこんな色になってっても大丈夫なんだよ」
「そっか。私、ルディーンが失敗しちゃったんじゃないかって、びっくりしちゃった」
僕がこれであってるんだよって教えてあげると、キャリーナ姉ちゃんはほっと一安心。
お母さんがかき混ぜてるかめの中を覗き込みながら、まだかな、まだかな? ってニコニコしながら出来上がるのを待ってたんだ。
でね、それからもうちょっと熟成を続けてると、なんとなくだけど、これくらいでいいんじゃないかなぁって気がしたんだ。
、
「ルディーン。できたの?」
「うん。とりあえず熟成はこれくらいでいいんじゃないかなぁ」
お醤油は料理に使うもんだから、料理人の一般職を持ってる僕がこれくらいでいいんじゃないかって感じたって事は、多分もう十分熟成したんだと思うんだよね。
だから僕、かめの中のもろみに鑑定解析をかけて、どれくらい熟成させたらいいのかを調べてみたんだ。
「う~ん。もろみは大体、1年くらい熟成させるといいっぽいのかな?」
「えっ!? ルディーン。もしかしてこれ、これから1年置いとかないとダメなの?」
「あっ、違うよキャリーナ姉ちゃん。あのね、ほんとだったらこれくらい熟成するのに1年くらいかかるんだなぁって言うだけ」
「そっか。あ~、びっくりした」
スキルを使った熟成はね、ほんとだったらこんなに時間をかけなくってもできるんだよね。
じゃあ何で今回はこんなに時間がかかってのかって言うと、それはどれくらい熟成させたらいいのかを解んなかったからなんだ。
「さっきキャリーナ姉ちゃんが、スキルを使って作るんだったらかき混ぜなくってもいいんじゃないの? って言ってたよね?」
「うん。それがどうかしたの?」
「あのね、僕、お醤油の熟成はかき混ぜないとダメだって思ってたんだ。でももしかき混ぜなくってもいいんだったら、最初っから一気に発酵や熟成をさせてもいいって事だもん。だからこれを見て、どれくらい熟成させたらいいのかを調べといたんだ」
熟成スキルはね、使う魔力によってどれくらい熟成するかが決まるんだよね。
だからこうやってどれくらい熟成させたらいいのかを調べとけば、次からはいっぺんに熟成させることができちゃうんだ。
「なるほど。じゃあ、次に作る時はこんなに時間がかからないのね?」
「うん。でも今みたいに一度にいっぱい作って、その全部がさっきお母さんが言ったみたいに失敗しちゃったらやでしょ? だから僕、今度ちょびっとだけの材料を使ってお醤油を作ってみよっかなぁって思ってるんだよ」
「そっか。それで成功したら、こんどからは簡単に作れるようになるもんね」
次に作る時だって、材料を蒸したり塩水につけたりするのはおんなじように時間はかかると思うよ?
でもスキルを使えばかき混ぜなくっても発酵と熟成ができるんだったら、他はすぐにできちゃうもん。
「そしたらお醤油を作るの、すっごく簡単になっちゃうよね」
お醤油があったら、おいしいものがいっぱい作れるはずだもん。
僕はかめの中でぐちゃぐちゃに溶けて濃い焦げ茶色になったもろみを見ながら、簡単に美味しいお醤油が作れたらいいなぁって思ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
前にお酒を熟成させた時、ルディーン君はあっという間に数百年分も熟成を進めていましたよね?
なのになぜ今回はこれほどの時間がかかっていたのかという、その説明のような回になってしまいました。
これ、本当はもっと簡潔に説明するつもりだったんだけどなぁ。
しかし相変わらず私に文才が無いため、このような結果に。ちょっと反省。
さて、次回の更新なのですが、実を言うと金曜日どころか来週の月曜日も無理そうなんですよ。
それどころか、本当ならその次の金曜日も危ないくらいなんですよね。
ただ流石にそれは休載しすぎだろうし、3日が祭日なので出張で疲れていてもなんとか書き上げようと思っています。
と言う訳なので続きは少し開いて11月4日の金曜日更新になってしまいますが、引き続き読んで頂けたら幸いです。




