526 小麦は粉にしないとおいしくないんだって
お醤油を作る事にしたのはいいんだけど、僕、一人で火を使っちゃダメって言われてるでしょ?
でもお醤油を作るにはどうしても火を使わなくちゃいけないから、お母さんに手伝ってもらう事にしたんだ。
「それでルディーン、そのお醤油ってのを作る材料は全部そろってるの?」
「えっとね、大豆は買って来たからあるでしょ? それにお塩とお水はあるし、後は……あっ、そうだ! お母さん、粉にする前の小麦ってある?」
そう言えば小麦粉は入ってるツボがどこにあるか知ってるけど、粉にする前の小麦がお家にあるかどうかなんて知らないもん。
だからお家にある? って聞いたんだけど、そしたらお母さんは不思議そうなお顔でこう聞き返してきたんだよね。
「ええ。小麦はうちの畑でも作ってるから当然あるけど、どうするの? 粒のままだと美味しくないわよ?」
「おいしくないの?」
「ええ。周りの皮がとっても硬いし、その皮が実に食い込むような形でついているから剥く事も出来ないの」
粒のまんまの小麦はね、周りの皮がすっごく硬いんだって。
だから煮ても焼いてもおいしくならないんだよって、お母さんは言うんだよね。
う~ん、そう言えば僕、小麦をそのまんまで食べた事無かったっけ。
でもさ、今は粒のまんまの小麦を食べたいんじゃなくって、お醤油を作るのに使いたいだけでしょ?
だから美味しくなくったって大丈夫だよって、お母さんに教えてあげたんだ。
「ああ、そう言えばそんな話だったわね。解ったわ。粒のままの小麦なら裏の倉庫に置いてあるから、すぐに取ってくるわね」
「ありがとう。じゃあ僕、その間に大豆を洗っとくね」
小麦を取りに行ってくれるお母さんにいってらっしゃいをした僕は、イーノックカウから買って来た大豆をおっきなボウルに入れて、その中にお水を入れたんだよ。
この大豆、とってもきれいだからほんとは洗ったりしなくってもいいんだ。
でもこうしてお水の中でガラガラって洗ってあげたら、ちょっとだけでもお水を吸ってくれるでしょ?
そしたらその分だけ、火を入れた時に中までしっかりと柔らかくなってくれるかもしれないもんね。
「ルディーン、小麦を持ってきたわよ。これはどうしたらいいの?」
「あのね、ほんとはこの小麦、こないだ大豆を粉にした時みたいに煎って欲しいんだよ。でも今はそれよりも先に、こっちの大豆をやんないとダメなんだ」
お醤油を作る時はね、この大豆を蒸して柔らかくしないとダメなんだって。
でも大豆って、すっごく硬いでしょ?
蒸しても柔らかくなるのにはすっごく時間がかかっちゃうから、先にこっちをやんないとダメなんだ。
それに小麦を炒るのは大豆を蒸しながらでもできるもん。
だから僕、お母さんにお鍋でお湯を沸かしといてねってお願いして、その間に昨日作っておいた秘密兵器を作業部屋に取りに行く事にしたんだ。
「ルディーン。これは何に使う物なの? 底に穴がいっぱい空いている鍋なんて、何に使うのかお母さんには全然解らないのだけど」
「あのね、これはお湯を沸かしてるお鍋の上にのっけるんだよ。そしたらその穴から湯気がいっぱい入ってきて、この鍋に入れたものをあっつくしてくれるんだ」
僕が作ったのはね、銅を使って作った鍋にのっけて使う蒸し器なんだ。
前に蒸すお料理を作ろうとした時は、水の入ったフライパンの中におっきめの石を何個か入れて、その上に穴を空けた板をのっけただけの簡単なので蒸したよね。
でも今回は大豆を蒸すから、穴が開いただけの板なんか使ったらコロコロって転がって板の上から落ちちゃうかもしれないもん。
だから僕、そうならないようにって昨日のうちに蒸す専用の道具を作っといたんだ。
「なるほど。じゃあ、同じものが何個もあるのは?」
「湯気は下から上に上がってくでしょ? だからお鍋の上におんなじもんを積んでったら、一度にいっぱいお料理する事ができるんだ」
大豆を蒸すのに使うっていうだけだったら、この蒸し器は一個しかいらないんだよ?
でも寒くなってきたら、いろんなものを蒸したいなぁって思うかもしれないよね。
なのに、もし今日は使わないからって積み重ねる事ができない蒸し器を作っちゃってたら、その時にまた最初っから作らないといけなくなっちゃうもん。
だから僕、そんな事にならないようにって、最初っから何段か積み上げられる蒸し器を作っといたんだよ。
だってこうしとけば、今日作った蒸し器だけじゃ入らないくらい一度にいっぱい蒸したいなぁって思っても、その時にこれとおんなじ蒸し器をまた何個か作ればいいだけだからね。
お母さんに蒸し器の使い方を教えてあげたから、それを使って早速大豆を蒸し始めようと思ったんだよ。
でも、、
「あら、この底に穴が開いている蒸し器って言うお鍋、思ったより便利なのね」
そしたらお母さんが、蒸し器の中にお水の入ったまんまの大豆をどばぁって入れたもんだから、僕、びっくりしちゃったんだ。
でもそれを見たお母さんは、ちょっと不思議そうなお顔でこう聞いてきたんだよ。
「どうしたの、ルディーン。このお鍋、下に穴が開いているし、手で持つところもしっかりとした造りで作ってあるから当然こうするものだと思ったんだけど……もしかしたらつけてあったお水も使うつもりだったの?」
「ううん。大豆を入れといたお水は捨てるつもりだったけど、僕、お水が入ったまんま蒸し器に入れちゃうなんて思わなかったもんだから、ちょっとびっくりしちゃったんだ」
そう言えばこの蒸し器、下に穴が開いてるんだからお水ごと入れても全部下から落ちちゃうよね。
それにお母さん、僕よりレベルが高いからとっても力持ちでしょ?
だからお水がいっぱい入ってるボウルだって、片手でひょいって持ち上げられるもん。
それならもう片方の手で蒸し器を持って、その中にどばってい入れちゃったほうが楽ちんだよね。
「えっと、これをお湯を沸かしている鍋の上に乗せればいいのね?」
「うん。ちゃんとはまるように作ってあるから、そのまんまのっけて」
蒸し器には取っ手が二つ付けてあるから、両手で持ってお鍋の上にまっすぐ乗せる事ができるんだよ。
それに大きさや形もうちにあるお鍋に合わせて作っといたから、乗っけてもぐらつく事は無いんだ。
「後はこのふたをしたら、後はほっとくだけで蒸しあがるよ」
「あら、この蓋にも小さな穴が一個空けてあるのね」
「うん。そうしとかないと蓋が外れちゃうもん」
お湯の入ったお鍋の上にのっけてると、段々中に湯気がたまってっちゃうでしょ?
そしたらその湯気で蓋が外れちゃうかもしれないから、そこからちょっとずつ抜けるように、蓋にはちっちゃな穴を空けとかないとダメなんだよね。
「それにこの蓋、ちょっと変わった形をしてるけど、これにも意味があるのよね?」
「うん。村のお風呂だって天井がまぁるくなってるでしょ? あれとおんなじだよ」
この蒸し器の蓋はね、浅いボウルをひっくり返したみたいな形をしてるんだ。
だってそうしとかないと、ふたに付いた湯気がお水になった時に上からぽたぽた落ちてきちゃうもん。
村にあるお風呂だって、天井から湯気が落ちてきたら冷たっ! ってなっちゃうから、そうならないようにこんな形になってるんだよ。
だからそれとおんなじだよって教えてあげると、お母さんはなるほどねぇって。
「村のお風呂の天井、だからあんな変わった形をしてたのね」
「お母さん、知らなかったの?」
「ええ。だってそんな事、今まで考えた事も無かったもの」
お母さんはそう言うとね、僕の頭をなでながら、いろいろな事を知っていて偉いわねって笑ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
醤油を作るつもりが、最後は蒸し器の話になってしまいましたw
まぁ、醤油を作るのにはかなりの工程が必要なので、初めから一話で終わるなんて思っていませんでしたけどね。
でもなぁ、このペースだと何話かかるんだろう? それだけがちょっと心配です。
さて、この頃続いている出張ですが、今週末もあります。
なのですみませんが月曜日の更新はお休みさせていただき、次回更新は来週の金曜日となります。
ただ、来週は今のところ出張はないとの事なので、その次の月曜日はちゃんと更新できると思います。
……本当に大丈夫だよな?




