519 ざいあくかんってのは、あんまりない方がいいんだよね?
キャリーナ姉ちゃんが早く早くって言ってくるもんだから、早速お菓子作り開始。
「最初はやっぱり、おいしくって簡単に作れるクッキーだよね」
「ルディーン、クッキーってこの豆の粉でも作れるの?」
「うん。作れるみたいだよ」
僕が作ろうと思ってる大豆を使ったお菓子はみんな、前の世界で見てたオヒルナンデスヨでやってたやつなんだよね。
その時も一番簡単にできるのはこのクッキーだって、教えてたお菓子職人さんが言ってたもん。
それに僕んちには魔道オーブンもあるでしょ?
生地さえ作ればこれですぐに焼けちゃうから、一番初めはそのクッキーを作る事にしたんだ。
「お母さん、マヨネーズ用に買ってある植物の油、持ってきて」
「油? クッキーを作るのならバターじゃないの?」
「うん。あのね、このクッキーはざいあくかんってのがあんまり無いって言うお菓子だから、バターじゃなくって植物の油を使うみたい」
なんかね、小麦粉とおんなじでバターもざいあくかんってのがいっぱいあるんだって。
だからこのクッキーは、バターは入れないでつくるんだよね。
「まぁ、そうなの。持ってくるから、ちょっと待っててね」
「じゃあ僕はその間に、お砂糖を細かくしとこっと」
僕はそう言うと、お砂糖のツボが置いてあるとこに行って、そこからお砂糖をおっきめのおさじで掬って木の器の中にどばって入れたんだ。
そしたらね、それを見たキャリーナ姉ちゃんがびっくりしたお顔で聞いてきたんだよ。
「ルディーン。クッキーにお砂糖、そんなにいっぱい使うの?」
「ううん、違うよ。これはね、今日作るお菓子全部の分なんだ」
折角お母さんたちが大豆をいっぱい粉にしてくれたんだから、いろんなお菓子を作んないともったいないでしょ?
って事はお砂糖もいっぱい使うって事だから、僕は最初にまとめて粉にしちゃう事にしたんだ。
「それじゃあ魔法でお砂糖を粉にしちゃうから、キャリーナ姉ちゃんはちょっと離れてて」
「うん、わかった」
粉にするのは魔法でやっちゃうから近くにいても大丈夫だと思うけど、今まで一度にこんなにいっぱいしたことないもん。
魔法で砕いた時に、もしぱぁって飛び散ったら大変でしょ?
だからキャリーナ姉ちゃんにはちょっと離れてもらって、僕は体の中に魔力を循環させていったんだ。
「クラッシュ」
でね、力のある言葉を唱えるといつもとおんなじように木の器の中のお砂糖が細かくなってたもんだから、それを見た僕は一安心。
それからあと2回おんなじようにクラッシュの魔法をかけると、ザラメみたいだったお砂糖はちゃんと粉のお砂糖になってくれたんだ。
「ルディーン、油はこれくらいでいい? ってあら、かなりいっぱいお砂糖を使うのね。これはバターを使わないからなのかしら?」
「違うよ。あのね、さっきルディーンに聞いたら今日はクッキーだけじゃなくって他にもいろんなお菓子を作るから、お砂糖もいっぱい粉にするんだよって言ってた」
「そう、それは楽しみね」
キャリーナ姉ちゃんが嬉しそうに教えてあげるとね、お母さんはいろいろなお菓子が食べられそうで楽しみねって。
そしたらそれを聞いたキャリーナ姉ちゃんは、体をゆらゆらと揺らしながらにっこり笑ってたんだ。
でね、僕はそんな二人を横目で見ながら大豆の粉とお砂糖を混ぜたものの中に、お母さんが持ってきてくれた植物の油をちょっとずつ入れながらこねこね。
「う~ん、このまんまだとなんか美味しくできなさそうな気がするなぁ」
一応これでもクッキーは作れるはずなんだけど、料理人スキルのせいなのか、このまんまだとあんまり美味しくないのができそうな気がするんだよね。
だから僕、お母さんに聞いてみる事にしたんだ。
「お母さん。牛乳、入れてもいい?」
「いいけど……ルディーンは、このお菓子の作り方を知っているのよね? どうしてそんな事を聞くの?」
「あのね、このクッキーは牛乳や卵を入れた方が美味しくなるそうなんだけど、その分ちょびっとだけざいあくかんってのが増えちゃうんだって」
さっき大豆でお菓子を作ると小麦で作るよりもざいあくかんってのが無いって教えてあげたら、お母さんとレーア姉ちゃんはすっごく喜んでたでしょ?
でも牛乳を混ぜちゃったら、そのざいあくかんってのがちょびっとだけ増えちゃうんだって。
そしたらお母さんたち、がっかりしちゃうかもしれないもん。
だから入れてもいい? って聞いたんだよって教えてあげたんだ。
「あら、そうなの? でも、牛乳や卵を入れたからって、小麦で作るクッキーより太りにくいのは変わらないのよね?」
「うん。そう言ってた」
「なら入れた方がいいんじゃないかしら。キャリーナもレーアも、せっかく食べるのなら美味しい方がいいでしょ?」
「「うん!」」
お母さんが美味しい方がいいよね? って聞いたら、レーア姉ちゃんとキャリーナ姉ちゃんは絶対その方がいいって言うんだよね。
そっか、僕、ちょっと間違えちゃったみたいだ。
「それで、ルディーン。これからでも修正は効きそう?」
「うん。まだこねはじめたばっかりだし、大豆で作ると小麦粉みたいにねばーってしないから今から混ぜても大丈夫だよ」
牛乳や卵を入れるからそれに合わせて大豆の粉やお砂糖はちょっと増やさないとダメだろうけど、いっぱい練っても小麦粉みたいに粘りが出すぎちゃうなんて事は無いから今から入れても多分大丈夫。
って事で冷蔵庫からを牛乳と卵を取り出すと、まずは卵を割って黄身だけをボウルの中に入れてから、そこにおんなじくらいの牛乳を入れたんだよ。
でね、そのふたつがしっかりと混ざるまでかき混ぜたら、今度はその中にお砂糖と大豆の粉、それにさっきまでこねこねしてた生地を入れたんだ。
「後はこれをしっかりこねってっと」
さっきの大豆の粉とお砂糖、それに油だけの時と違って、しっとりした感じになった生地をこねこね。
そうしてるうちにこねてた生地がしっかりとまとまって来たから、僕はそれをちょっと太めの筒状になるように伸ばしてったんだ。
でね、それが終わると僕はお母さんに、親指と人差し指を5ミリくらいの幅に開いたおててを見せてこう言ったんだよ。
「お母さん。この生地をこれくらいの厚さに切って」
「ええ、いいわよ」
お母さんにそう頼むと、今度は予熱するために魔道オーブンのスイッチオン!
その後僕は冷蔵庫からバターを取り出して、お母さんが切ってくれてるクッキー生地を乗っけるための魔道オーブン用の天板にぬりぬりし始めたんだ。
でもそしたらね、それを見たレーア姉ちゃんが不思議そうなお顔でこう聞いてきたんだよね。
「あれ? ルディーン、バターは使わないんじゃなかったの?」
「あのね、ざいあくかんってのが増えちゃうから生地の中に入れないけど、板にぬっとけばクッキーを焼いた時にバターの香りがつくもん。僕ね、油を塗って焼くより、絶対にそっちの方がおいしいんじゃないかなぁって思うんだ」
「そっか。なら絶対バターの方がいいよね」
バターを塗った方がいいにおいがつくから絶対おいしいよってレーア姉ちゃんに教えてあげてたら、それを横で聞いてたキャリーナ姉ちゃんが両手を上げて大賛成。
僕と一緒になって、魔道オーブンに入れる天板の上にバターを塗ってくれたんだ。
「ルディーン、切れたわよ」
「はーい!」
でね、その天板の上にお母さんが切ってくれた生地を、ちょっとずつ間が開くように並べてったんだ。
だってこうしないと、焼いて膨らんだ時に隣のとくっついちゃうもん。
「思ったよりもいっぱいできたみたいね」
「うん。後から卵と牛乳を入れたから、その分大豆の粉とお砂糖も足したからね」
このクッキー、他にもお菓子を作るつもりだから最初は天板2枚分くらいを作るつもりだったのに、並べてみたら3枚分よりちょっと多かったもんだからちょっとびっくり。
でもクッキーはその日に食べなくっても大丈夫だから、ちょっとくらい多くできたっていいよね。
そして魔道オーブンに予熱がしっかりと入ってることを確認した僕は、その天板を炉の中へ。
そのまま20分ほど待つと、大豆クッキーが無事焼きあがったんだけど、
「わぁ、いいにおい。ルディーン、もう食べてもいい?」
「だめだよ。あっついまんまだと、柔らかいからあんまり美味しくないもん」
そう、実はこれで完成じゃないんだよね。
このクッキーは、焼きあがったばっかりの時はまだ柔らかくって、食べてもさくってしないんだって。
だからオーブンから取り出した後、ちょっとの間冷ます事で大豆クッキーはやっと完成したんだ。
「ルディーン、もう食べていい? 食べていいよね?」
「うん、いいよ」
「やったぁ! いただきま~す」
キャリーナ姉ちゃんはそう言うと、早速一枚取ってパクリ。
「前にイーノックカウのお菓子屋さんで買って来たのよりもちょっと硬いけど、甘くっておいしい」
とっても美味しかったのか、キャリーナ姉ちゃんはほっぺたに手を当てながらにっこり。
でね、お母さんとレーア姉ちゃんも同じようにクッキーを手に取るとおんなじようにパクリ。
「確かに少し硬めだけど普通のクッキーよりもちょっと香ばしくって、これはこれで美味しいわね」
「この味で食べても太りにくいんでしょ? ルディーン、これから私の食べるクッキーは、みんなこれにしてね」
そしたら二人とも大満足ってお顔になって、とっても美味しそうに大豆クッキーをキャリーナ姉ちゃんと一緒にパクパク食べてくれたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
大豆のお菓子、第一弾のクッキーはみんな喜んで食べてくれたようです。
でも、これはあくまで簡単で一番作りやすいから最初に作っただけで、目新しいお菓子ではないんですよね。
と言う訳で、次回はちょっと変化球的なお菓子を出そうと思っています。
いや、あれはある意味王道のお菓子と言えるのかな?




