517 何でか知らないけど、お母さんとレーア姉ちゃんがちょっと怖いんだよ
お母さんがいいって言ったもんだから、お土産を調べるのは一旦やめにしてみんなでお菓子作り。
「それで、ルディーン。このかたい豆でどんなお菓子が作れるの?」
お母さんでも大豆で作るお菓子の事知らなかったでしょ?
だからキャリーナ姉ちゃんはどんなお菓子ができるの? って僕に聞いてきたんだ。
「えっとね。僕、何個か作れるお菓子を知ってるんだけど、この大豆で作れるお菓子はみんな、なんかざいあくかんってのがないって言われてるんだよ」
「ざいなくあん……ってなに?」
「キャリーナ姉ちゃん、ざいなくあんじゃなくって、ざいあくかん……あれ? ざいなくかんだっけ? とにかく、それが無いってのは食べてもあんまり太んないおかしの事をそう言うんだってさ」
今から作ろうって思ってるのは前の世界で見てたオヒルナンデスヨでやってたお菓子なんだけど、そこで教えてくれてたお姉さんがこの大豆で作るお菓子の事をざいあくかんが無いお菓子シリーズって呼んでたんだよね。
何でそんな変な名前なのかって言うと、何か前の世界では普通のお菓子より食べても太らない事をざいあくかんってのがないって言うからなんだって。
「普通の菓子って、小麦粉で作るでしょ? でもその代わりにこの大豆を粉にしたのを使うと、あんまり太らないんだってさ」
「ふ~ん、そうなんだ」
僕ね、キャリーナ姉ちゃんにざいあくかんが無いってのが何なのか、一生懸命教えてあげたんだよ?
なのにお姉ちゃんは、その事にあんまり興味がないみたい。
だからそのお話を聞いても、そうなのかぁって言っただけなんだよね。
でも、
「ちょっと、ルディーン。それってホントなの?」
「えっ? えっ?」
「だから、この豆でお菓子を作ると食べても太らないのは、本当なのかって聞いているのよ!」
その代わりに、横で聞いてたレーア姉ちゃんがすっごいお顔でほんと? って聞いてきたもんだから僕、すっごくびっくりしちゃったんだ。
「レーア、そんな勢いで聞いたらルディーンがびっくりしてしまうでしょ」
でもそんなレーア姉ちゃんを、お母さんがコラ! って叱ってくれたんだよね。
そしたらレーア姉ちゃんはちょびっとだけしょぼんとして、僕にごめんなさいしてくれたんだ。
「ごめんね、ルディーン」
「ううん、いいよ。でも、よかった。レーア姉ちゃん、とっても怖いお顔してたもんだから、僕、何か怒らせるようなことしたのかと思っちゃった」
聞いてみたらね、レーア姉ちゃんは別に怒ってたわけじゃないんだって。
でもさ、だったらなんであんな怖いお顔になったのか解んないでしょ?
だから僕、頭をこてんって倒して、レーア姉ちゃんに何であんなお顔になっちゃったの? って聞こうとしたんだ。
でもレーア姉ちゃんが答える前に、お母さんが僕にこう聞いてきたんだよね。
「それで、ルディーン。この豆を使ったお菓子は普通のものよりも太りにくいっていう話、もう少し詳しく聞かせてもらえないかな?」
その時のお母さんはにっこり笑顔だったんだけど、そのお顔を見た僕は、なんでか知らないけどさっきのレーア姉ちゃんのお顔より怖いって思ったんだ。
「さっきキャリーナ姉ちゃんにも言ったけど、この大豆から作った粉は小麦粉の代わりにする事ができるんだよ。でも大豆は小麦よりもかろりー? ってのが少ないそうなんだ。だから、そりゃいっぱい食べたら太っちゃうだろうけど、小麦粉を使って作ったお菓子よりは太らないから、そのざいあくかんってのが無いお菓子って言われてるんだってさ」
「なるほど。じゃあこの豆でいろいろなものを作れば、太りにくい食事も作れるって事なのね」
僕がオヒルナンデスヨでやってた事を教えてあげると、お母さんはそうなのかぁって納得してくれたみたい。
でもね、そしたら今度はキャリーナ姉ちゃんが聞いてきたんだよね。
「じゃあさ、なんでみんなこの豆でご飯、作んないの?」
「そう言えば、何でだろう? おいしくないのかなぁ?」
キャリーナ姉ちゃんにそう言われて、そう言えば何で作んないんだろう? って僕も思ったんだよ。
でもその答えは、思ったより簡単な事だったみたいなんだ。
「それは簡単な事よ。同じ量を食べても太らないって事は、それだけの力が出ないって事だもん。小麦の代わりにしようと思ったら、その分いっぱい食べないといけないって事じゃないの」
レーア姉ちゃんはね、だから大豆の粉からはパンじゃなくってお菓子を作るんじゃないの? って言うんだよね。
う~ん、そう言われると確かにオヒルナンデスヨでもお菓子しか作ってなかった気がする。
「そっか。だから大豆の粉はご飯じゃなくって、おやつの時に食べるお菓子を作るんだね」
「きっとそうだよ! だってこの豆で作ったら、普通のお菓子よりもいっぱい食べられるって事だもん」
そしてそんな僕たちのお話を聞いてたキャリーナ姉ちゃんは、いっぱい食べられるなんてすてきってすっごく嬉しそうなお顔をして、僕に早くお菓子を作ろうって言ったんだ。
と言う訳でお話はここまでにして、早速お菓子作り開始。
でもまずはその前に、この大豆を炒ってから細かい粉にしないとダメなんだよね。
「お母さん。この大豆をフライパンで炒って」
「いる?」
「うん。あのね、フライパンに油を入れないで火にかけて、中に入れた大豆をころころするんだよ」
「なるほど、この豆に火を入れたらいいのね」
僕、一人で火を使っちゃダメって言われてるでしょ?
だからどうやってやるのかを教えてあげたら、お母さんはなるほどって言って大豆を炒ってくれたんだ。
「ほら出来たわよ。でもルディーン。ここからどうやって粉にするの? 袋に詰めて木槌で叩いてからすり鉢でするとか?」
「う~ん、多分普通はそうするんだろうけど、こんだけ硬かったら魔法で細かくできるんじゃないかなぁ?」
僕、クラッシュって魔法が使えるでしょ?
あれって硬いものを細かく砕く魔法だから、柔らかいものにかけても効果が無いんだよね。
だから普通は種とかにかけても効果がない事が多いんだけど、この大豆くらい硬かったら多分大丈夫だと思うんだよね。
って事で、袋から出した大豆を木のボウルの中に入れてから、体に魔力を循環させて力のある言葉を唱えてみる。
「クラッシュ」
そしたらね、思った通り大豆は砕けて細かくなったんだよね。
だから僕、それから何回かクラッシュの魔法をかけてったんだよ?
でもね、
「う~ん。魔法じゃ、これ以上は細かくなんないみたい」
クラッシュって砕く魔法だから、ある程度の大きさになったらそれ以上は魔法をかけても細かくならなかったんだ。
でも見た感じ、粉って言うにはまだ粒がおっきいんだよね。
「なら後はすり鉢ですりつぶすしかないんじゃないの?」
「そうだけど、でもそれだとちょっと大変じゃないかなぁ?」
今日作るお菓子の分だけだったら、お母さんの言う通りすり鉢でもいいんだよ?
でも僕、イーノックカウでいっぱい大豆を買ってきちゃったもん。
始めはその殆どを醤油とか味噌を作る実験に使うつもりだったけど、でもさっきのお母さんやレーア姉ちゃんの事を考えると、お菓子を作るのにも結構使わないとダメなんじゃないかなぁって僕、思うんだ。
だったらさ、毎回すり鉢ですってたら大変だよね。
「なんかいい方法、無いかなぁ?」
そう思った僕は、木のボウルの中で細かい粒々になってる大豆を覗き込みながら頭をこてんって倒したんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
食べても太りにくいお菓子、そんなものの存在を知ったらお母さんたちが食いつくのは当然ですよね。
というか、ほぼすべての女性が食いつく話題ではないのでしょうか?
でもルディーン君はそんな事思ってもいなかったので、ついうっかり口にして怖い思いをする事になってしまいました。
……怖かったろうなぁw




