511 本当はもっと、ず~っと高いはずなんだって
「それで、ルディーン。イーノックカウにはどんな家を買ったの?」
「そう言えばまずはそれを聞かないといけなかったな。家族でイーノックカウに遊びに行ったとして、全員が泊まれるくらいの大きさはあるのか?」
僕、さっき居住権ってのとお家を買った事は言ったけど、それがどんなとこかまではまだ言ってなかったでしょ?
お父さんとお母さんはそれが気になったみたいで、どんなお家を買ったのか聞いてきたんだよね。
だから体全体を使って、すっごくおっきなお家なんだよって教えてあげたんだ。
「あのね、こ~んなにおっきなすっごいお家なんだよ。お部屋がいっぱいあるし、それにロルフさんちのメイドさんや執事さんたちがお勉強に来たりしてるんだよ」
「えっと……部屋がいくつもあるの?」
「それに、メイドや執事が勉強をしに来るって……ルディーン、お前、城でも買ったのか?」
「おっきなお家だって言ってるでしょ。お城なんか買えるはずないじゃないか!」
聞かれたからどんなお家なのかを教えてあげたのに、お母さんはよく解んないってお顔をするし、お父さんなんかお城を買ったの? なんて聞いてくるんだもん。
僕、ちゃんとお家を買ったって言ったよね?
それなのに間違えちゃうなんて、お父さん、大人なのにダメだなぁ。
僕がそんな事を考えてたらね、お母さんがお爺さん司祭様にホントはどんなお家なの? って聞いたんだよね。
「司祭様。ルディーンはどのような家を買ったのでしょう? 部屋がいっぱいあると言っていたところを見ると、いくつもの家族が一緒に住む、集合住宅のようなところなのでしょうか?」
「いや、そうではない。一軒の独立した建物だ。ただ錬金術ギルドのマスターが管理しておった家を格安で譲ってくれたものだから、ちと大きすぎるものではあるがな」
そしたら司祭様は、買ったのはみんなが住んでるとこじゃなくって僕だけのお家だよって言って、それからなんでそういうお家を買わないとダメだったのかまでお母さんに教えてくれたんだ。
「ただイーノックカウに住むというだけならばヴァルト、ここではロルフといった方が解りやすいか。やつの館の一部屋を間借りさせてもらったり、それよりも広い所がよいのであればどこかの建物の二階部分だけを買ったりしても問題は無い。しかしな、ルディーン君にはそれができない理由があったのだ」
「一軒家を買わないといけない理由ですか?」
「うむ。実は先ほど話した冒険者ギルドの特殊条項を適用させる条件の中に、引き取り手は居住権だけでなくイーノックカウに土地を含めた家を持っておらねばならぬというものがあってのぉ。そのため、ルディーン君はどうしても一軒家を購入せねばならなかったのだ」
お爺さん司祭様はね、ニコラさんたちを借金奴隷にしない為には借金している相手である僕が引き取らなきゃダメだった事を話したんだよ。
でね、その引き取る条件の中にイーノックカウの居住権を持っているっていうのと、引き取った人が住む事のできるお家を持ってるってのがあったんだよってお母さんに教えてくれたんだ。
「そうなのですか。ですが、それならば大きな家でなくともよかったのではないでしょうか?」
「うむ。確かにその通りなのだが、ヴァルトや錬金術のギルドマスターの話によると、今のイーノックカウは家が不足しておるような状況らしくてな」
イーノックカウの領主様はね、おいしいものを食べるのが大好きなんだって。
だからお仕事で遠くの街に行った時においしいお店を見つけると、イーノックカウにもお店を出してって頼んできちゃうそうなんだよ。
そのおかげでイーノックカウには美味しいお店がいっぱいあるようになったんだけど、でもお店を出そうと思ったらそこで働く人がいるよね?
だからその人たちが住むお家がいっぱいいるようになって、イーノックカウには空いてるちっちゃなお家がもうあんまり残ってないんだってさ。
「無理をして探せば見つからない事もないそうなのだがかなりの時間と金がかかるし、ルディーン君の家となると治安の悪い場所や不便な場所に建っているものを買う訳にはいかぬとヴァルトが言うものなのでな。それならばとギルドマスターが自分の管理している土地はどうかと申し出たのだ」
「それが、ルディーンの買った家という訳ですね」
「うむ。少々値は張るが、商業地区の一角にある館だから治安という点で言えば申し分ない。それに錬金術ギルドに近いという所も、ヴァルトが気に入ってのぉ」
錬金術ギルドの近くだったら、僕がジャンプの魔法で飛んでっても一人で行く事ができるよね。
それに僕、いつもはグランリルの村にいるでしょ?
だからイーノックカウのお家にはニコラさんたちだけが住む事になっちゃうから、何かがあった時にロルフさんやバーリマンさんに助けてって言いに行けるとこの方がいいもん。
それにお金だってバーリマンさんが安くしてくれるって言ったから、あのお家を買う事になったんだよね。
「なるほど。それでそのお屋敷はいくらくらいしたのですか?」
「建っているのが商業区域内というなら、壁の中並みの値段でもおかしくはないからな。大きめの屋敷となると金貨1700~1800枚はするんじゃないかと思うんだが」
僕がお家を買ったとこはね、イーノックカウの中でも値段の高いとこなんだって。
だからお父さんは、おっきなお家を買ったなら1800万セントくらいしたんじゃないの? って聞いたんだよね。
でもそれを聞いたお爺さん司祭様はにっこり笑って、そんなにはしなかったよって。
「先ほども言った通り、この物件は錬金術ギルドのマスターが管理しておったところらしくてのぉ。赤字の出ないぎりぎりの安値で譲ってくれたそうだ」
「まぁ! それでは1400万セントくらいですか?」
「いやいや、いくらなんでもそれは安すぎるだろう。1500万、いや流石に1600万くらいはしましたよね、司祭様?」
お母さんはそれならすっごく安くしてもらえたんじゃないかなぁ? って言ったんだけど、それを聞いたお父さんはそんなに安くなるわけないよって言うんだよ。
でね、あそこだったらいくらなんでも金貨1600枚はするよって言って、お爺さん司祭様に当たりでしょ? って聞いたんだよ。
でもそんなお父さんに、お爺さん司祭様はおっきなお口を開けて笑った後、
「それがなんと金貨1200枚。あのギルドマスターはあの一等地の、それも準男爵が事業に失敗して手放さなければならなかった貴族仕様の屋敷を、事もあろうに1200万セントで譲ると言ったのだぞ。驚きであろう」
「せっ、1200万ですか!? いくらなんでもそれは……」
「本当によかったのでしょうか?」
「はっはっはっ! そう心配せずとも良い。本人はそれでも損はしておらぬと言っておったからな。大方その借金準男爵から、かなり安く買いたたいて手に入れたのであろう」
お父さんもお母さんもまさかそんなに安く売ってもらったなんて思ってなかったもんだから、二人ともおろおろしてるんだよ?
でもそれが面白かったのか、お爺さん司祭様はさっきよりもっとおっきなお口を開けて笑いながら大丈夫だよって。
「錬金術ギルドのマスターがこれほどの事をしてくれたのは、ひとえにルディーン君の日ごろの行いがよいからであろう。今は遠慮などせずにそのご厚意に甘えればよい」
お爺さん司祭様はそう言うとお父さんたちに、でも次に会った時にお礼を言うのを絶対忘れちゃダメだよってにっこり笑ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ハンスお父さん、バーリマンさんが本当はこれ以上の金額で売らないといけないんだけどって言っていた2000万セントをズバリ言い当てました。
これはルディーン君の収入を知っているハンスお父さんだからこそ平然と出た数字なのですが、ただ、お父さんたちが考えている館は、イーノックカウにある普通の? 館なんですよね。
でもルディーン君の買った館はあれな訳で……実物を見た時、お父さんたちは一体どんな反応をするのでしょうねw




