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502 お引越しの日はお別れの日でもあるんだよ


「えっ! ルディーン君、帰っちゃうんですか?」


 イーノックカウで買った僕んちの探検が終わった後、僕はお爺さん司祭様やニコラさんたちと一緒に宿屋さんに帰ったんだ。


 でね、そこで夜のご飯を食べてる時に、お爺さん司祭様が僕たちは明日グランリルの村に帰るんだよってニコラさんたちに話したんだ。


「でも、なぜそんな急に」


 ニコラさんたちは、僕はいつか村に帰るんだろうなぁって思ってはいたそうなんだよ?


 だけど夜ご飯の時に突然お爺さん司祭様から明日帰るよなんて聞かされたもんだから、びっくりしちゃったみたい。


 でもね、これって急に決まった事じゃないんだよね。


「いやいや、別に急に帰る事になったのではない。これは元から決まっておった事でな」


「そうだよ。ニコラさんたちがお引越しする日に帰るよって、僕も聞いてたもん」


 ニコラさんたちは、僕んちの工事が終わったらそっちにお引越しする事になってたでしょ?


 その工事が終わって今日みんなで見て回ったらお家はちゃんとできてたし、ニコラさんたちのお部屋にももう家具とかが入ってたから、明日この宿屋さんを出てそのお部屋に引っ越そうねって事になってるんだ。


「ニコラさんたちが僕んちに引っ越したら、僕たちもこの宿屋さんにいなくっても良くなるでしょ? だから明日帰るんだよ」


「そっか。言われてみれば、確かにそうよね」


 僕がずっとここにいたのは、ニコラさんたちが泊まるためのお金を払わなきゃダメだからだもん。


 そのニコラさんたちがお引越しするんだから、僕がこの宿屋さんにいる意味、無いよね?


 だからそれを聞いたニコラさんは、しょんぼりしながらもそうだねって一度は頷いたんだよ。


 でもね、ユリアナさんが急に何かに気が付いたようなお顔になったと思ったら、僕にこんな事を言い出したんだ。


「あっ! でもルディーン君。洗濯物を乾かす魔道具を完成させる研究をしないといけないみたいなこと言ってたじゃない」


「そうよ、あれはどうするの?」


 でね、それにのっかるようにアマリアさんがどうするの? って聞いてきたんだけど、僕がそのお返事をする前にお爺さん司祭様が答えてくれたんだよ。


「あの乾燥機はまだ一番適しておる魔石の大きさが解っておらぬだけで、魔道具としてはすでに完成しておるのだ」


 お爺さん司祭様の言う通り、思ったよりもあっつい風が出てこなかったから魔石の大きさを変えようってお話になっただけで、中に入れた洗濯物自体はちゃんと乾いたでしょ?


 だからもっと短い時間で乾かすのにはどれくらいの大きさの魔石を使ったらいいのか調べなきゃダメなんだけど、乾燥機としては一応完成してるんだよね。


「そしてその実証実験自体は、ヴァルトひとりでも続けられるのだ」


「そうだよね。だってロルフさん、火の魔石を作れるって言ってたもん」


 これが氷の魔石だったら僕がいないと困っちゃうかもしれないけど、火の魔石は魔法が使える人だったら誰でも使えるちっちゃな火をつける魔法、イグナイトを覚えれば作れるようになるもん。


 だから乾燥機の実験は、お爺さん司祭様の言う通り僕がいなくってもできるんだよね。


「それに本来帰宅する予定だった日から、かなりの時が経っておるからのぉ。親御さんも心配しておるだろうか、いい加減村に帰してやらねば」


「ルディーン君が本当なら帰るはずだった日に帰れなかった。それって、私たちのせいですよね?」


「本来の目的自体はすでに達成しておるからのぉ。とはいえ、流石にそなたたちのせいとまでは言わぬがな」


 僕とお爺さん司祭様がイーノックカウに来たのて、ベニオウの実を使ったらお肌つるつるポーションと髪の毛つやつやポーションが作れるかもしれないって解ったからでしょ?


 そのふたつとも、僕が作ったのよりは効果が弱いけどちゃんとできたもん。


 だからほんとだったらその次の日には僕たち、グランリルの村に帰ってたはずなんだよね。


「しかし、滞在日数を伸ばしたおかげでいろいろと新たな発見があったようだからな、まったく無駄な時間であったと言う訳ではないから責任を感じる必要はないぞ」


 ニコラさんたちはね、自分たちのせいで僕が帰れなかったってちょっぴりしょぼんってしちゃったんだよ?


 だからそれを見たお爺さん司祭様は、イーノックカウにいたから作れたものもいっぱいあるんだから大丈夫だよって。


 確かに魔道乾燥機はそのまんまお家に帰ってたら作らなかっただろうし、魔道ボイラーのお話や井戸からお水を汲み上げる魔道具のお話だってお家を買ってなかったら多分聞いてなかったもん。


 それにね、お料理とかもここにいる時間が長かったおかげで新しいものが食べれたんだよってお爺さん司祭様は笑うんだ。


「あの独特な食感のオムレツ、確かスフレという名前だったか。あのようなものは、わしも初めて食べたな」


 お爺さん司祭様はね、ノートンさんにメレンゲの作り方を教えてあげた時に作ったふわふわのオムレツの事をすっごく気に入ったんだって。


 そう言えばメレンゲクッキーやケーキを初めて作ったのも、スフレオムレツを作ったのとおんなじ僕んちに入れた魔道コンロや魔道オーブンがちゃんと使えるかどうか実験してる時だったっけ。


 前から作ろうと思ってたケーキと違って、スフレオムレツやメレンゲクッキーは卵を泡立てるのが大変だから僕一人だったら絶対作らないと思うんだよね。


 もしニコラさんたちに会ってなかったらお家を買う事なんてなかっただろうし、そしたらあの二つを作る事も多分無かったんじゃないかなぁ?


「ニコラさんたちに会ってからちょっとしか経ってないのに、何か一杯やってるね」


「あら、私たちもルディーン君に会ってから、短い間に色々あったわよ」


「ちゃんとした武器の使い方を教えてもらったり」


「ストールさんにしごかれたり」


「何より、ルディーン君が通りかかってくれなかったら、私たち多分生きてなかったと思うしね」


 そんな話してたらなんかね、みんなしょんぼりしちゃったんだ。


 でもそんな僕たちにお爺さん司祭様は、寂しがらなくてもいいんだよって。


「別れるのがつらいという雰囲気のところ悪いのだが、ルディーン君はまたすぐにイーノックカウを訪れる事になっておってな。だからそのように寂しがる必要はないのだ」


「えっ、そうなの?」


 それは僕も知らなかったもんだから、びっくりしてほんと? って聞いたんだよ。


 そしたらお爺さん司祭様は困ったようなお顔で笑いながら、忘れちゃダメでしょって。


「これ。居住権は一人が取得すれば家族全体に共有されるから、近いうちにそろってイーノックカウまで来て欲しいとヴァルトたちから言われておったではないか」


「あっ、そっか! 冒険者ギルドのカードに書かないとダメだから、みんなで来てねって言われてたっけ」


 って事はさ、今はお別れでもまたすぐに会えるって事だもん。


 ちょっとの間のお別れだったら全然寂しくなんかないから、僕はすぐに笑顔になったんだ。


 そしてそれはニコラさんたちもおんなじだったみたいで、さっきはあんなにしょんぼりしてたのに、今はみんなニコニコ。


「あっ! って事は、ルディーン君に戦い方を教えたっていうご両親にも会えるって事よね」


「それはすごく楽しみかも!」


 だからそれからは僕のお父さんやお母さん、それにお兄ちゃんやお姉ちゃんたちのお話をしながらみんなで楽しく夜ご飯を食べたんだ。



 読んで頂いてありがとうございます。


 家が完成してルディーン君がこの街に居続ける必要がなくなったという事で、グランリルの村へ帰る事となりました。


 なんか予想よりもはるかに長い間続いてしまいましたが、次回でとりあえずイーノック編は終わる予定です。


 ただ、本編中でも語られている通り、またすぐに来ることになるんですけどね。


 まぁそうは言っても村には村のキャラたちがいますから、そのエピソード次第ではかなり先になってしまうかもしれませんがw


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