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500 作れる人がいないのにいっぱい売れてるから買えなかったんだって


 地面の下にあるお部屋はね、お酒の樽がいっぱい置いてあるお部屋だけじゃないんだよ。


 この奥には扉があって、その先にももうひとつ、ちっちゃなお部屋があるんだ。


「ロルフさん。奥のお部屋を見に行ってもいい?」


「おお、そう言えばこの先には部屋全体を冷蔵庫にすると言っておった場所があるんじゃったな」


 この先にあるのはね、壁や床が全部魔法でつるつるにした石でできてるお部屋なんだよ。


 でね、そのお部屋はロルフさんの言った通り、中が全部冷蔵庫になってるはずなんだ。


 だから僕、そこがどんな風になってるのかが早く見たいからって、ロルフさんの手を引っ張って扉のとこまで行ったんだけど、


「あれ? 近くに来たのに、あんまり変わんないよ」


「確かにそうじゃのぉ。この扉一つで、すべての冷気を防げるとは思えないのじゃが」


 扉の近くまで来たのに全然さぶくならなかったもんだから、僕はなんでかなぁって思ったんだ。


「あっ! もしかしたら、この扉がすっごくぶ厚くって、そのせいでつべたい空気がお外に全然出てないのかもしれないよ」


 目の前の扉は閉まったままでしょ?


 それに、前にここに来た時も中に入ったらちょびっとだけ棚のあるお部屋よりさぶかったもん。


 だから僕、今もきっと閉まってるからさぶくないんだよって言って、目の前の扉をうんしょって開けたんだ。


「あれ? 開けたのに、全然さぶくなんないや」


 でもね、中は冷蔵庫になってるはずなのに、何でか知らないけど中からつべたい空気が出てこなかったんだよね。


 だから僕、頭をこてんってたおしながら中に入ってったんだよ。


 そしたら中も全然さぶくなかったもんだから、すっごくびっくりしちゃったんだ。


「ロルフさん、大変だ! 中、冷蔵庫になってないよ」


「何じゃと? そんなはずは……ふむ。確かにまるで冷えておらぬのぉ」


 びっくりした僕が呼ぶとロルフさんも中に入ってきてくれたんだけど、そしたらお外と全然変わんなかったもんだから僕と同じようにびっくりしてるみたい。


 でもね、大人のロルフさんは前と違ってるところもちゃんと見つけたんだ。


「この部屋、冷蔵庫にはなっておらぬようじゃが、前に来た時よりも少し広くなってはおらぬか?」


「えっと……あっ、ホントだ! 奥の壁が、前に来た時より遠くにあるよ」


 前に来た時はね、このお部屋はあんまりおっきくなかったんだ。


 でもロルフさんに言われてもういっぺん見てみたら、こないだよりもず~っと奥の方までお部屋が伸びてたんだよね。


「もしかして、お部屋が伸びたからここはまださぶくないのかなぁ?」


「いや、広くなったとはいえこの程度の広さじゃからのぉ。流石に冷蔵庫の魔道具として稼働しておったら、入口近くであったとしてもかなり冷えておるはずじゃよ」


 ロルフさんはねそう言うとね、一度お外に出てストールさんを呼んだんだ。


「ライラよ。ちと聞きたい事があるのじゃが」


「はい、何でございましょう。旦那様」


「うむ。この部屋は確か、巨大な魔道冷蔵庫にするはずでは無かったか?」


 でね、お部屋に入って来たストールさんに、このお部屋は冷蔵庫にするって言ってたのに何でなってないの? って聞いたんだよ。


 そしたらストールさんは、ああそう言えばこの部屋の説明がまだでしたねって。


「この部屋ですが、ノートンが申すには、前の広さのままですと場所による温度差がさほど変わらないとの事でしたので、魔法使いを数名呼んで拡張いたしました」


「ふむ。だからこれほどの短時間で、部屋の大きさが変わっておったのじゃな」


 ここって地面の下のお部屋でしょ?


 だから普通に掘って広げようと思うと、すっごく時間がかかっちゃうんだって。


 だからストールさんは魔法使いさんを呼んで、このお部屋をおっきくしたんだよって教えてくれたんだ。


「はい。その工事はノートンの指示に従って行いましたので、魔道具が起動すれば当初の予定通り、場所によって温度が違う巨大な冷蔵庫になるとの事ですわ」


「なるほど、部屋を大きくした理由は分かった。じゃがな、ならば何故魔道具が起動しておらぬのじゃ?」


 僕たち、このお家の工事が全部終わったって聞いたから見に来たでしょ?


 なのにこのお部屋がまだ冷蔵庫になってなかったもんだから、ロルフさんはもういっぺんなんで? って聞いたんだよ。


 そしたらストールさんはちょっと困ったお顔になって、その理由を教えてくれたんだ。


「旦那様もご存じだと思いますが、このイーノックカウには無属性の魔石を氷の魔石に属性変換させられる魔法使いがいらっしゃらないそうでして」


「うむ、それは知っておるが、氷の魔石は常に一定数をよそから仕入れておるはずであろう?」


「そうなのですが、商業ギルドに問い合わせたところ、その入荷分がすでに数か月先まで予約で売り切れてしまっているそうでして」


 今ね、僕が作った魔道クーラーがすっごく売れてるらしくって、そのせいでイーノックカウに入ってくる氷の魔石が売り切れちゃってるんだって。


 だからストールさんは、このお部屋を冷蔵庫にするための氷の魔石を買う事ができなかったんだってさ。


「ですがこの館には普通の大きさの冷蔵庫が調理場に入っておりますから、今すぐにここを稼働させなければ困るような事にはなりませんでしょう? それに涼しくなるころにはこの特需も収まるとの事でしたので、今のところは魔道具だけ先に設置しておいて、氷の魔石が手に入り次第起動させる手はずになっております」


「なるほどのぉ。して、その魔道具を動かすのに必要な魔石は、どれくらいの大きさなのじゃ?」


「わたくしは魔道具の事にあまり詳しくないので、はっきりとどれくらいの大きさが必要とまでは申せません。ですが魔道具職人が申すには、空を飛ぶ魔物から獲れる魔石くらいの大きさがあれば稼働させるには十分であろうとの事ですわ」


 お空を飛んでる魔物って言うと、ビッグピジョンとかブレードスワローの魔石くらいって事かぁ。


 僕のポシェットには、魔石が入った袋が入ってるよね。


 村にいる時はさ、魔道具が欲しいなぁって思った時にどんなのでもすぐ作れるようにって、この中にはいろんな大きさの魔石が入れてあるんだ。


 でも今はイーノックカウに来てるでしょ?


 だからいつもと違って、あんまり使わない魔石は全部お家に置いて来ちゃったんだよね。


「ビッグピジョンの魔石、あんまり使わないから持ってきてないや」


 ビッグピジョンは村の森でいっぱい狩るから、お家に行けばいっぱいあるんだよ?


 でもあれくらいの魔石って、僕が作る魔道具には一番使わない大きさなんだもん。


 だから今は一個も入ってないはずなんだ。


「ふむ。必要な大きさの魔石さえあれば、ルディーン君に属性変換をしてもらえばよいだけなのじゃがな」


「そうでしょ? でもね、僕、今それくらいの大きさの魔石、持ってきてないんだ」


「商業ギルドに誰ぞ人をやって、買ってこさせるしかなさそうじゃのぉ」


 ロルフさんも僕とおんなじで、魔石があったら氷の魔石なんてすぐに作れるのになぁって思ったみたい。


 だからちょっぴり残念ってお顔をしてたんだけど、そしたらそこにバーリマンさんが入ってきたんだ。


「どうなされたのですか、伯爵。そんなお顔をなされて」


「うむ。実はな」


 ロルフさんはね、バーリマンさんにお空を飛ぶ魔物が持ってるくらいの大きさの魔石があったら、すぐにでもこのお部屋を冷蔵庫にできるんだよって教えてあげたんだ。


 そしたらさ、それを聞いたバーリマンさんは不思議そうなお顔をしながらこう言ったんだよ。


「それでしたら、ルディーン君が常に持っている魔石をお借りすればよいだけではないですか」


「いやそれがな、ちょうどそれくらいの魔石を持ち合わせておらぬそうなのじゃよ」


 ロルフさんは僕が持ってたら当然そうしてるよって言ったんだけど、そしたらそれを聞いたバーリマンさんは何を言ってるの? って。


「別にその大きさでなくてはならない訳ではないでしょうに。クラウンコッコの魔石をかなりの数、所持している事を伯爵も知っているではありませんか」


「ん? おお、そうであった!」


「それに冷蔵庫のような設置型の魔道具を作る時には、必要なものより大きな魔石を使う方がよいという事くらい伯爵もよくご存じでしょう?」


 魔道具についてる魔石って、使ってるうちに中にため込める魔力がだんだん少なくなってくんだって。


 だからここを冷蔵庫にする魔道具みたいにずっと使い続ける物を作る時は、ちょうどいい大きさのを使うよりちょっと大きめの魔石を使った方がいいんだってさ。


「すまぬのぉ。この頃は新しいものを作り出す実験ばかりをしていたせいか、常識的な事が頭から抜け落ちておったわ」


 ロルフさんもね、ここの冷蔵庫につけるんだったらバーリマンさんの言う通りクラウンコッコの魔石くらいの大きさがいいかも? って言うんだ。


 だから僕、それだったらまだいっぱいあるからって、ポシェットに入ってる袋の中から一個取り出して氷の魔石に属性変換。


「はい、できたよ。これでこのお部屋を冷蔵庫にできるんだね?」


「うむ。魔道具に魔石を取り付けるくらい、たやすい事じゃからの」


 出来上がった氷の魔石をロルフさんに渡すと、それをどこにあるかストールさんに教えてもらった魔道具に付けたんだ。


「うむ。これでよかろう。それでは、起動するぞ」


 でね、最後に氷の魔石と魔道回路図がちゃんとつながってるのかを確認すると、ロルフさんはすぐにそのスイッチを入れたんだよ。


 そしたらお部屋の一番奥の天井近くにつけてあったおっきな金属製の棚が、ぴきぴきって音をたてながら凍り付き始めたんだよね。


「うむ。どうやらあそこは凍らせたいものを置く場所のようじゃな」


「はい。今はまだ何も置いておりませんから、あのようにすぐ凍り付いてしまったのでしょう」


 でね、その凍った棚からつべたい空気が下に降りてきたもんだから、段々お部屋の中がさぶくなってきたんだよね。


「ノートンが申すには、この部屋の壁や床の石が冷気によって冷えると、この部屋全体が冷蔵庫として使えるようになるそうですわ」


「そうか。ならばそれまで、しばし待たねばならぬようじゃな」


 さぶくはなって来たけど、このお部屋は結構おっきいから全体がつべたくなるのには時間がかかるでしょ?


 だから僕たちは一度お外に出て、全体がつべたくなる頃にもういっぺん見に来る事にしたんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 完全稼働はまだですが、とりあえず部屋型魔道冷蔵庫が動き出しました。


 しかしそこまでが長くなりすぎてしまったため、ノートンさんが考えた冷蔵庫の中の説明がほとんどできなかった……。


 本当なら今回で終わるつもりだったのですが、この時点でいつもよりも長くなってしまっているので今日はここまでにして、次回も冷蔵庫のお話がもう少しだけ続きます。


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