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再開のための幕間その1 お父さんの失敗

 長い間休載が続いてすみませんでした。


 活動報告でも書いた通り、今日からまた月金の更新を再開するのでお付き合い頂けたら幸いです。


 昨日ね、お父さんたちのパーティーが森に行ってブラックボアをいっぱい狩って来たんだ。


 だから今日はみんなして、うちの分のブラックボアを何匹か解体したり、皮をなめすための下処理のために煮たりしたんだよね。


 獲って来たのはみんなおっきなブラックボアだったから、今日中にできるかなぁって言いながらやってたんだけど、何とか全部できて一安心。


 良かったねって言いながら家族みんなで晩御飯を食べてたんだけど、


「しまった、あれを片付けるのを忘れてた!」


 そしたらお父さんが急にこんな事を言い出したもんだから、みんなびっくり。


 何があったんだろうってお父さんの方を見ると……。


「昼にブラックボアの皮を煮た鉄の大鍋、皮を干した後で洗おうと思ってたのに、忘れてそのままなんだ……」


 お父さんはブラックボアの皮を煮終わった後、その皮を干す事ばっかり考えてて、お鍋の事をすっかり忘れちゃってたそうなんだ。


 でね、さっきテーブルに置かれたおかずの入ってるちっちゃな鍋を見て、庭に鍋を出しっぱなしにしたまんまだって事を急に思い出したんだってさ。


「何をやっているのよ、ハンス!」


 そしたらそれを聞いたお母さんはね、すっごく怖いお顔になってお父さんにこらーって怒ったんだ。


 何でかって言うとね。皮を煮たお鍋に残ってるお水は中にいろんなものが入ってるから、つべたくなると洗うのがとっても大変だからなんだって。


「熱いうちなら簡単に洗えるけど、一度冷えてしまうと肉片とか脂が鍋にこびりついて、もう一度温めないと洗うのが大変なのよ! おまけに今日はいつもより皮を多く煮たから、今頃はきっと大変な事になってるわ」


 あっついお湯のまんまだと脂だけじゃなくって、皮から取れたお肉や抜けちゃった毛とかも擦ればすぐ落ちるでしょ?


 でも一度つべたくなっちゃうと中のもんがみんな固まっちゃうから、洗うのが本当に大変なんだって。


「まったく。お湯を沸かすための薪集めも、この時期は大変なのに」


 そのうえ今はあったくなり始めたばっかりでしょ?


 だから森に生えてる木も新しい枝が生えてきてるとこだから、冬みたいに枯れ枝とかが落ちてないんだよね。


 そう言ってぷんぷんしてるお母さんに怒られて、お父さんはしょんぼり。


 それにね、失敗しちゃった日も悪かったんだ。


「あ~、明日はお母さんに休んでもらう日なのに、お父さん、いけないんだぁ」


 お母さんはいっつも僕たちのご飯を作ってくれたり、お掃除やお洗濯をしてくれるでしょ?


 だからなのか、このアトルナジア帝国には1年に一度、お母さんにゆっくりしてもらう日っていうのがあるんだよね。


 それが明日だったもんだから、キャリーナ姉ちゃんはお父さんそう言って怒ったんだよ。


「解ってるよ。俺が明日、もう一度鍋に火を入れなおして洗っておくからそんなに責めないでくれ」


 そしたらそれを聞いたお父さんは、さっきお母さんに怒られた時よりも、もっとしょんぼりしちゃったんだ。




 次の日の朝。


 お父さんと一緒にお庭に出てみると、そこには昨日ブラックボアの皮を煮たお鍋が簡易かまどの上に出しっぱなしになってたんだ。


 でね、その中を覗き込んでみると昨日お母さんが言ってた通り、入ってるお水の表面が脂のせいなのか白っぽい茶色になって固まってるし、鍋はだのとこもいろんなものがくっついてゴテゴテになっちゃってるだよね。


「お父さん。お母さんが言ってた通り、何かばっちい感じになってるよ」 


「ああ。ろうそくを作るために脂だけを煮ると白く固まるだけなんだが、なぜか多くの皮を一度に煮るとこんな風に固まるんだ」


 お父さんはそう言うとね、鍋のふちの方を持って軽くゆすったんだよ。


 そしたら固まってる中のお水がプルプルって揺れたもんだから、僕はびっくりしちゃったんだ。


「お父さん。なんか揺れてるよ」


「不思議だろ。それにな」


 お父さんはね、鍋の近くに置いてあったかき混ぜるためのおっきなお玉みたいなので表面の固まったお水を掬ったんだよ。


 そしたらさ、そこだけがペコってへこんだみたいになって、中のお水まで固まっちゃってるのが解ったんだ。


「あれ? 中のお水まで固まっちゃってる。透き通ってて脂なんかないみたいなのに」


「ああ。脂は上に浮くからそれを取れば下は汚れた水だけのはずなのに、なぜかこっちも固まるんだよなぁ。まぁ、だからシーラは昨日、あんなに怒ったんだが」


 脂が固まってるだけだったら、上んとこをごしごしするだけで簡単にきれいになるでしょ?


 でも皮をいっぱい煮た後のお水はこんな風になっちゃうから、温めなおさないと洗うのが大変なんだよってお父さんは言うんだ。


「そっかぁ。こんなにプルプルしてたら、全部取るのも大変だもんね」


 僕はそう言いながら、もういっぺんペコっとへこんでるぷるぷるしたとこを覗き込んだんだよ。


 そしたらね、


「あれ? これ、何か見た事ある気がする」


 なんか知らないけど、そのぷるぷるしたのを見た事がある気がしたんだ。


 だから僕、何処で見たんだろうって頭をこてんって倒して考えたんだよ。


 そしたらさ、前の世界で見たお菓子に似てるんだって気が付いたんだ。


「そっか! これ、ゼリーってお菓子に似てるんだ」


 ゼリーってお菓子はね、透明でぷるぷるしたお菓子なんだよ。


 それにね、中に入れるものによって色が変わるから、紅茶ゼリーってのがたしかこんな色してたんだよね。


 それを思い出した僕は、もしかしたらこれも同じようなもんなのかも? って思ったんだ。


「ん、どうしたんだ、ルディーン。何か気が付いた事でもあるのか?」


「うん。あのね、お父さん。もしかしたらこのプルプルしたので、おいしいお菓子が作れるかもしれないんだよ」


「これでか? いや、それは流石に無理だろう」


 だから僕、お父さんにお菓子が作れるかも? って教えてあげたんだ。


 でもね、お父さんは無理じゃないかなぁって。


「こんな臭い水で、流石に菓子は作れないだろう」


「違うよ。このお水をそのまんま使うんじゃなくって、このぷるぷるしたとこだけを使えば、おいしいお菓子が作れるかもしれないんだ」


 僕はそう言うとね、お水に向かってこのプルプルしてるのはなんなの? って思いながら鑑定解析をしたんだ。


 そしたら思ってた通り、ゼラチン(コラーゲン)って出たんだ。


 このゼラチンってのが、いろんなお菓子の材料になるんだよね。


 でもさ、鑑定解析の結果を見ると、なんでか知らないけどゼラチンの後ろにコラーゲンってのがついてるでしょ?


 だから何でかなぁって説明を読んでみたんだ。


 そしたらね、このゼラチンってのはブラックボアの皮の中にあるコラーゲンってのが原料で、皮を鍋で煮た時にそれが熱で溶けてできたものみたいなんだよね。


 でもそのコラーゲンってのが全部がゼラチンになってる訳じゃないから、この中にちょっとだけ入ってるよって書いてあったんだ。


「そういえばオヒルナンデスヨでそんなこと言ってたっけ」


 これを見るまで忘れてたけど、たしかゼラチンって牛や豚の皮や骨からとれるなんとかってやつから作ってるって言ってたっけ。


 そっか、このコラーゲンってのがそれだったんだね。


 それにさ、豚とボア系の魔物は大きさは違うけどよく似てるもん。


 だったらブラックボアの皮からそれが取れてもおかしくなんかないよね。


「それでどうなんだ? これから本当に菓子なんか作れるのか?」


「うん。そのまんまじゃ無理だけど、鑑定解析で指定できるようになったから、抽出を使えば大丈夫だと思うよ」


 僕はそう言うとね、早速プルプルのお水に錬金術の抽出をかけてみたんだ。


 そしたらさ、ゼラチンだけを取り出したからなのか、透明な丸っぽい塊が出てきちゃったもんだから、それを見た僕はびっくり。


 だってさ、オヒルナンデスヨに出てたゼラチンって棒みたいのや粉になってるのばっかりだったんだもん。


 でもよく考えたら、あれはお菓子を作りやすいようにあんな形になってただけなのかも?


「どうしたんだ? やっぱりダメだったのか?」


「ううん。ちゃんとお菓子の材料になるよ。ただ、おっきいままで取れちゃったから、びっくりしただけ」


 使いやすいようにするだけなら、簡単な形だからクリエイト魔法でもできると思うもん。


 だから、あとは何を作るかだけど……。


「ゼラチンで作るお菓子って言えば普通はゼリーやババロアだけど、今日はお母さんのお休みの日だからなぁ」


 ベニオウの実もまだ何個かお家にあるし、うん! あれを作ろっと。


 僕はね、前の世界にあった母の日ってのに作ったらいいよってオヒルナンデスヨでやってた、あるお菓子を思い浮かべてニッコリしたんだ。




 皆様、感想欄に数多くの心配やお悔やみ、励ましの書き込みを頂き、本当にありがとうございます。


 受け取った時はとても返答できるような状況ではなかったので一人一人にご返事ができず、このような返答になってしまってすみません。


 とりあえず精神的にもある程度落ち着いたので、連載を再開させていただく事にしました。


 ただ、再開するにしてもそのまま続きを書くと言う訳にもいかないだろうという事で、ちょうど母に日が近かったという事もあり今回と次回の2話は幕間とさせていただく事にしました。


 母の死で止まっていた連載を再開するには、ある意味とてもいいタイミングだったかもしれませんね。


 それでは皆様、つたない文章ですが、これからもよろしくお願いします。 



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[一言] おかえりなさい、待っておりました。
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