46 錬金術ギルドのお爺さん
あんまりのんびり過ごしてないので、副題を頑張りますに変えました。
錬金術ギルドにいたのは白いお髭のお爺さん1人だった。
僕が入って来た時にドアベルが結構な大きさで鳴ったのにこっちの方を見もせずにずっと本を読んでるって事は、ここでは欲しい物を手に取ってカウンターに持っていくまではお客さんに声を掛けないって事なのかな? でもそう言う所を見ると、やっぱりここはお店じゃないんだなぁって思うんだよね。
だって普通のお店だとお客さんが入ってきたら必ず誰かしらが声を掛けてくるし、店員が少なくてそう言う事ができないお店でも入った瞬間にいらっしゃいませ! って挨拶をされるもん。
物を売る気がないって事が、ここは商店では無くギルドである証拠だと僕には思えたんだ。
さて、そう思えたんだけど今の僕の状態に何か変化があったのかと言えばそうでもなくて、未だに一人ぽつんとギルド内にいるという状況はまったく変わらないんだよね。
だから僕は冒険者ギルドでお父さんがそうしたように、カウンターにいるお爺さんに声をかける事にしたんだ。
「こんにちわ」
僕がそう声をかけると、お爺さんは本に落としていた目を此方に向けてにっこりと微笑んでくれた。
「はい、こんにちは。これはまた小さなお客さんじゃな。どうしたんだい、坊や。ここを小物雑貨のお店と間違えて入ってきたのかな?」
どうやらこのギルドをそういう店と勘違いして入ってくる人は少なくないみたいで、お爺さんは僕にそう尋ねたんだ。
でも僕はちゃんと錬金術ギルドだって知ってここに来てるんだから、ちゃんと違うよって教えてあげないといけないよね。
「ううん。ぼくはれんきんじゅつギルドだってわかってて、このお店に来たんだよ」
「おやおや、それじゃあ本当にお客さんじゃったのか。これは失礼した」
お爺さんは僕の言葉を聞くと、微笑をより深めて僕にそう言って謝ってくれた。
だから僕は許してあげる事にしたんだ。
「だいじょうぶだよ。ぼく、気にしてないから。ちっさいのはホントだもんね」
「ほっほっほ、確かにそうじゃな。しかしまだそんなに小さいのに錬金術ギルドに来たと言う事は、これから始めると言う事なのかな? それならばギルドよりもまずは家庭教師を雇うか、本屋に行くべきじゃろうて。ここでは錬金術の使い方は教えておらんからのぉ」
「ちがうよ! ぼく、まだほんのちょっとしかやってないけど、ちゃんとれんきんじゅつ、できたもん!」
どうやらお爺さんは僕を見て、錬金術に興味を持った子供がそれを習う為にギルドに来たって思ったみたいなんだ。
だからちゃんと違うって、僕はもう錬金術を使った事があるんだよって教えてあげたら、お爺さんは本当にびっくりした顔をしたんだよね。
冒険者ギルドでも僕が魔法を使えるって知ってルルモアさんが驚いてたけど、そんなにびっくりする事なのかなぁ?
「坊や、錬金術を使った事があるって、一体何をやったんだい? やっぱり下級ポーションの作成かな?」
「ううん、ちゅうしゅつだよ! デザートのブドウのタネからね、あぶらを取りだしたんだ。でもさ、タネはいっぱいあったのに、ほんのちょっとしかとれなかったけどね」
僕はいっぱい取れると思ってたのに、やってみたら本当に少ししか取れなくてがっかりした事も含めてお爺さんに教えてあげたんだ。
でもお爺さんは油がほんの少ししか取れなかった事より、僕が抽出をしたと言う事に驚いたみたい。
だって、
「なんと! と言う事は坊やはもう解析ができると言うのじゃな? これは驚いた」
って言ったんだもん。
解析って言うのは鑑定解析に名前が似てるけどスキルじゃなくって、目の前のものに何が含まれているのかを魔力を操って調べる錬金術の技術の事をそう呼んでるみたいなんだ。
どうやらこれはある程度魔力の操作がうまくできるようにならないと使えないらしいんだけど、僕の場合は前世の事を覚えているせいか魔力操作に関しては普通の人よりもうまくできるみたいだし、なによりその上位スキルである鑑定解析が使えるようになったから何の問題も無かったんだよね。
で、解析ができないと目の前の物に何が含まれてるか解んないから、そこから何かを抽出する事なんかできるはずがない。だから物の中から何かを抽出できたと言う事は解析も使えたって事でもあるんだ。
「あれはそこそこ熟練した錬金術師の中にも、うまく使えない者がいるというのに。と言う事はもしかして坊やは魔法も使えるのかな?」
「うん。ぼく、まほうも使えるよ。だからまりょくそうさはとくいなんだ!」
僕はエッヘンと胸を張って、お爺さんに魔法が使える事を教えてあげた。
これなら僕がちゃんと解析を使えるって解ってもらえるだろうからね。
「おお、やはりそうじゃったか。しかしそれでも凄いのう。錬金術の基礎は大きく分けて抽出、分解、結合、付与である事は知っておるかな? その中でも抽出は特に難しいんじゃよ。普通は魔力を動かす練習から始めて、それがある程度できるようになってから徐々に物と物を結合させたり、物に魔力を付与する練習に移るもんなんじゃ」
お爺さんが言うには、抽出は解析ができて初めてできるものだから覚えるのは一番最後になる人が多いんだって。
それにすぐに色々な事ができるようになる結合や付与と違って、抽出と分解はある程度高度な錬金術を使えるようにならないと必要としないから、余計に後回しになるんだってさ。
だからなのか、抽出をしたって言った僕にお爺さんはこんな事を聞いてきたんだ。
「坊やはいきなり抽出をやったと言っておったが、下級ポーションの作り方は知っておるかの?」
さっきも僕が錬金術を使った事があるって聞いて下級ポーションを作ったのかって聞いてきたし、たぶんそれが本当に一番最初に覚えるべき基礎なんだろうね。
でも僕は自分がやりたい事を真っ先に調べたし、その基礎を全部すっ飛ばして抽出の場所だけを読んだから実はまったく知らなかったんだ。
だから怒られるかなぁって思いながらも、素直に答える事にした。
「ううん。ぼく、きのう本を買ってもらってちゅうしゅつってのをやってみただけだから、そのほかの所までは、まだよんでないんだ」
そんな僕の返事を聞いてお爺さんは、
「ほう」
と言って目を細めたんだ。
なんだろう、ちょっと怖い雰囲気になった気がする。
やっぱり怒っちゃったのかなぁ? って思ったんだけど、僕が見た印象では別にお爺さんは怒っているわけじゃないように感じるんだ。
僕はちゃんと隠さずに知らないって答えたし、お爺さんも僕に対してじゃ無くて自分の中で何かを考えている内にこんな雰囲気になったように思えるから、たぶんこれは本屋のヒュランデルさんの時と同じような感じなんじゃないかなぁ?
「本を読んだだけでのう。ふむ、所謂天才と言う奴なのか。いや、子供ゆえに難しさなど考えず純粋にやってみた結果なのかもしれんのう」
その証拠にそんな事をぶつぶつ呟いてるしね。
ただ僕は別の事でスキルを手に入れられたから出来ただけで、天才じゃないから勘違いされても困るんだ。だって、ここで変な期待をかけられても後でがっかりさせちゃうだけだもん。
だから僕はちゃんと主張しておく事にしたんだ。うまくできたのは天才だからじゃなくって、僕がいっぱい頑張ったからなんだって。
「ぼく、天才じゃないよ! だってさっきも言ったでしょ。ぼくは小さいころからまほうのれんしゅうをしてて、まりょくをうごかすのがほかの人よりじょうずにできるんだ。で、おじいさんが言ってた、かいせきってのも、本をよんだらお姉ちゃんのまりょくをさがした時とおんなじようなことだったからできただけだもん」
そしたらお爺さんは僕の剣幕に驚いたのか一瞬ぽかんとした後、顔をほころばせて、
「ほっほっほ。これはまた失礼したのぉ。小さい頃からいっぱい練習したのに、その努力を天才の一言で片付けられてしまっては坊やが怒るのも無理はなかろうて。いやはや、本当にすまんかった」
「ううん。ぼくががんばったって、ちゃんとわかってくれたんなら、ゆるしてあげるよ!」
笑いながらだけど、お爺さんはそう言ってちゃんと謝ってくれたから、僕は今度もちゃんと許してあげたんだ。
誰だって間違える事はあるから、相手が謝ったらちゃんと許してあげるのよってお母さんもいつも言ってるからね。
読んで頂いてありがとうございます。
30話を超えて、皆さんがこの作品をどう考えているのか気になっている今日この頃です。
できたら感想を頂きたいのですが、それが無理なら評価だけでも入れていただけるとありがたいです。




