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485 見つけた綺麗なお魚さんは魔物なんだって


 おっきなお魚を売ってるお店からちょっと先に歩いていったらさ、おじさんが言ってた通り僕の村とおんなじくらいの大きさのお魚ばっかり売ってるとこに出たんだ。


 でもね、確かに大きさはおんなじくらいのばっかりだったけど、売ってるお魚の中には僕が見た事無いお魚もいっぱいあったんだよね。


 だから僕、周りをきょろきょろと見ながら、並んでるお魚を見ていったんだよ。


「わぁ、きれいな緑色のお魚だぁ」


 でね。そんな中でも僕が特に気になったのが、あんまりおっきくないけど屋台じゃなくちゃんとしたお店に売ってた、ぴかぴか光ってるきれいな緑色のお魚だったんだ。


「いらっしゃい。おや、こんな小さなお客さんとは珍しい。坊や、エメラルドフィッシュを買いに来たのかい?」


「お兄さん。このお魚、エメラルドフィッシュっていうの?」


「ん? 知らないって事は、この魚を買いに来たわけじゃないのか」


 僕に話しかけてきてくれたのは、僕が見つけたピカピカできれいな緑色をしたエメラルドフィッシュってお魚を売ってる屋台のお兄さん。


 お兄さんはね、最初は僕が誰かに言われてエメラルドフィッシュを買いに来たのかなぁって思ったそうなんだけど、僕がこのお魚を知らないっていったらすぐに買いに来たんじゃないんだって解ったみたいなんだよね。


 でもさ、知らなくたっておいしそうだから買ってこうって思う人もいるかもしれないでしょ?


 なのにお兄さんがすぐに知らないんだったら買いに来たんじゃないんだねって言ったもんだから、僕、なんでそう思ったのかなぁ? って頭をこてんって倒したんだ。


「お兄さん。何でこのお魚を知らないと買いに来たんじゃないって思ったの?」


「なんでって……ああ、こんな小さな坊やでは読めなくて当たり前か。ほら、ここに字が書いてあるだろ? これはね、この魚は魔物だから特殊な調理器具が無いとさばけません。買うなら気を付けてねって書いてあるんだよ」


 僕ね、お魚ばっかり見てたもんだから気が付かなかったんだけど、エメラルドフィッシュってお魚が置いてある台の下っ側には、お兄さんの言う通りこのお魚は魔物だよって書いてあったんだ。


 でね、このお魚はとってもおいしいんだけど、うろこが硬すぎて普通のナイフとかだとはがす事ができないんだよってお兄さんは僕に教えてくれたんだ。


「この魚をさばくには、まずは硬いうろこを特別な道具で全部きれいにはがす必要があるんだ。だからその道具を持っていない人には、欲しいと言われても断るようにしてるんだよ。せっかくの魚が調理されずに腐ってしまったら、獲ってきてくれた人に悪いからね」


「そっか。お料理できなかったらお魚がもったいないもんね」


「説明を聞いた人の中にはうろこをはがす道具を買うからなんて言う人もいるんだけど、道具の値段を聞くと殆どの人がやはりやめておくって言うんだよ」


「うろこをはがす道具、そんなに高いの?」


「そうだよ。なにせその道具は、ミスリルの粉を混ぜ込んだ鋼じゃないと作る事が出来ないからね」


 お兄さんが言うにはね、ミスリルの粉が入ってないので作った道具でもはがせない事はないらしいんだけど、ちゃんとした鋼で作ったのでも2~3匹のうろこをはがしただけですぐにボロボロになっちゃうんだって。


 だから買う人は壊れないようにミスリルを混ぜて作ってもらうらしいんだけど、それだとすっごく高くなっちゃうでしょ?


 そんなのすっごいお金持ちかこのお魚を出してる料理屋さんくらいしか買うわけないから、ミスリルって聞いただけでみんな諦めちゃうんだってさ。


「へぇ。でもそんなお魚、お店に置いてて売れるの?」


「ここは美食の街だからね。領主様が帝国中から一流店を集めてくれているおかげで、このエメラルドフィッシュはうちの店でもかなりの売れ筋商品なんだよ」


 そう言えば前に誰かが、イーノックカウの領主さんはおいしいものが大好きなんだよって言ってたっけ。


 そっか、さっきお兄さんが言ってた通り、このお魚を使ったお料理を出すお店がいっぱいあるなら売れるよね。


「それにな、このエメラルドフィッシュに限らず、この街にはとても高いがよく売れる魚はいっぱいあるんだぞ」


「そうなの?」


「ああ。ここからちょっと離れた場所に行くと、他ではちょっと見られないくらい大きな魚ばかり売ってる区画があってね」


「あっ、僕、さっきそこのお魚屋さんに聞いてここに来たから知ってるよ」


 僕のお話を聞いて、そうか、知ってたのかぁって笑うお兄さん。


「実はこのエメラルドフィッシュもあの辺りで売られてるのと同じくらいの高級魚だから、昔はあっちで売ってたんだ」


「そうなの? じゃあさ、なんで今はこっちで売ってるの?」


「それはね、あそこの魚がみんなデカすぎるからなんだ」


 あそこに売ってるお魚はみんなおっきいから、それに合わせてお店も全部おっきいんだよね。


 でもこのエメラルドフィッシュは、普通のお魚とおんなじくらいの大きさでしょ?


 だからちっちゃな魚を売ってると、お店がガラガラに見えちゃうんだってさ。


「それにね、大きな店を構えるって事はそれだけ場所代を取られるって事なんだ。だからお客さんに説明してこっちに移ってきたってわけ」


「そっか。買いに来てくれるお客さんが知ってるなら、こっちでお店をやってもいいもんね」


 お兄さんが言うにはね、エメラルドフィッシュみたいに高いけどあんまりおっきくないものを売ってるお店がこの辺りには何軒もあるそうなんだよ。


「美味い魚ほど、他の動物に食べられないようにと警戒心が強くて捕まえにくいだろ? そういう魚は、このエメラルドフィッシュのように特殊なものでなくても高いんだ」


「じゃあ、普通っぽいお魚でもすっごく高いのがあるんだね?」


「ああ。それと、森の中を流れている川にしかすんでいないような魚も高いかな。なにせ獲りに行くだけで命懸けだから」


 森の中のお魚っていっても、そんなに奥の方まで行って獲る訳じゃないんだって。


 でもね、それでも森の中には危ない動物や魔物がいっぱいいるから、獲りに行ける人はあんまりいないんだよってお兄さんは教えてくれたんだ。


「森に出入りしている冒険者たちは魚を獲る技術が無いから、ギルドに依頼を出したとしても誰も受けてくれないからなぁ。森の中の魚は美味いから、うちとしても扱えるものなら扱いたいんだけど」


「行く人があんまりいないと、お魚もいっぱい獲ってこれないもんね」


「ああ。でも漁師は魚を獲れるけど動物や魔物から自分の身を守る技術なんて持ってないから、知り合いに頼んでも断られるんだよなぁ」


 そう言いながら、頭をかいて苦笑いするお魚屋さんのお兄さん。


 僕はね、そんなお兄さんのお話を聞きながら、そう言えばロルフさんたちも僕しかベニオウの実を採ってこれないから、肌や髪の毛のお薬がいっぱい作れないって言ってたなぁって思い出してたんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 動物から魔物に変異したものには角が生えたり大きくなったりといろいろな種類がいるのと同じで、魚もいろいろな変異をする魔物がいます。


 前回の養殖で育てられている魚は魔物にこそなってはいませんが、魔力を取り込むことで巨大化していました。


 それに対して今回出て来たエメラルドフィッシュは、うろこが硬くなるという変異をした魚の魔物です。


 ただ、動物の場合は体表が硬くなることによって他の生物から身を守る事ができるようになるかもしれませんが、魚の場合、釣り上げられたり網で獲られたりするので硬さはあまり意味が無いんですよね。


 結果、人間からすると美味しくなるだけという、エメラルドフィッシュからするととても悲しい変異になってしまいました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この世界の高級魚にも詳しくなっていきますね。 魚料理も思い出してオヒルナンデス無双が来るかな? [一言] 悲しい進化ですね、人間にとってはありがたいけど。
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