480 そう言えばお父さんも知らなかったっけ
「そっか。私たちを助けてくれた時って、そのベニオウの実ってのを採りに行った帰りだったんだね」
ニコラさんたちって冒険者だから錬金術の事なんて全然知らないでしょ?
だからお肌つるつるポーションの事は教えちゃダメみたいだけど、どんな材料を使って作ってたのかは教えていいみたいなんだ。
何でかっていうとね、それを知ったからって、それがどんな効果を持ってるものなのかなんて解んないもんね。
「うん。なんかね、街の中で売ってるのよりも、森の奥になってるのは中に魔力がすっごくいっぱい入ってるんだって。だからお薬の材料になるんだよ」
「錬金術ギルドの者たちはな、その実を薬にするために必要な技術を全て修めておるわけではなくてのぉ。それをルディーン君が補っておったのだ」
ロルフさんたちって、皮を乾燥させるのに使ったドライの魔法を知らなかったでしょ?
それにお料理の一般職を持ってないから、お酒を造るための醸造スキルも持ってないし熟成だってできないもん。
だから僕がいなかったら、こんなに早くお薬はできなかったんだよってお爺さん司祭様はニコラさんたちに教えてあげたんだ。
「そうなんだ。ルディーン君、大活躍だね」
「あっ! でもさ、それだったらルディーン君が村に帰っちゃうと、そのお薬を作れなくなるんじゃないの?」
ニコラさんはこのお話を聞いて、僕に凄いねぇってにっこりしただけなんだけど、ユリアナさんはちょっと違ったみたい。
僕がいないと作れなかったのなら、村に帰っちゃったら大変なんじゃないの? って聞いてきたんだよね。
でもね、それを聞いたお爺さん司祭様は、笑いながら大丈夫だよって。
「今日の所はルディーン君しかおらなんだが、使われた魔法やスキル自体はそれほど珍しいものではないのだ。ルディーン君の様に一人ですべて使えるものを探すとなるとちと骨であろうが、それぞれのスキルを使えるものをそろえるだけであれば、ヴァルトたちならたやすかろうて」
「なるほど。そうなんですね」
お爺さん司祭様の言う通り、ドライの魔法は薪を作るために覚えてる人がいるそうだし、醸造や熟成だって使える料理人さんはいっぱいいるはずだもん。
だから僕がいなくったって、今日作ったお薬はロルフさんたちだけでも作る事ができるんだよね。
でね、それを聞いたユリアナさんは、また別の事が気になったみたい。
それが何なのかっていうと、僕がどんな事をやってたかなんだってさ。
「ポーション自体は錬金術ギルドの人たちが作ったんですよね? じゃあ、ルディーン君はどんな魔法やスキルでお手伝いしたの?」
「えっとね。そのお薬にはベニオウの実の皮を使うんだけど、そのまんまだと細かくするのが大変だから、それをドライって魔法を使ってからからに乾かしたんだよ」
「へぇ、物を乾かす魔法なんてのがあるんだ」
こんな風に僕がやってた事を順番にお話したんだけど、
「ええっ! ルディーン君、お酒造れるの?」
つぶしたベニオウの実でお酒を造ったって教えたらニコラさんたち、すっごくびっくりしちゃったんだよね。
だから僕、なんで? って聞いたんだけど、そしたらお酒を魔法やスキルで作れることを知らなかったからみたいなんだ。
あっ! そう言えばお父さんも、醸造スキルでお酒が作れるって聞いてびっくりしてたっけ。
もしかしたら知ってる人、あんまりいないのかなぁ?
「料理人の中でも、酒を造れるものはごく一部。知らないのも無理は無かろうて」
「へぇ、そうなんですか。ルディーン君、すごいね」
僕がそんなこと思ってたら、お爺さん司祭様がお酒を造れる人はあんまり多くないんだよって教えてくれたんだ、
そしたらそれを聞いたユリアナさんが、凄いねって褒めてくれたんだよ。
「それにルディーン君は熟成と言うスキルも持っておってな、これによってその酒の熟成を進める事で中に入っている薬効を変質させて薬の材料にしたのだ」
「えっと、お酒の熟成って確か、何年も置いておかないといけなかったと思うんですけど?」
「よく知っておるのぉ。確かに本来の熟成は長い年月を必要とする。しかしルディーン君の持つ熟成のスキルならば、それを一瞬で終わらせて極上の酒に作り替えてしまう事ができるのだ」
「それ、凄いですね。お酒好きな人にとっては、どんな物より魅力的に思えるスキルかも?」
熟成がどんなスキルか聞いて、ユリアナさんはちょっとびっくりしたみたい。
僕、お酒を飲まないから解んないけど、熟成スキルを使うと、お酒がすっごくおいしくなるんだって。
だからお酒が好きな人は、きっとみんな欲しいって思うスキルなんだろうなぁ。
さっき作ったお酒も、搾った後にロルフさんたちがビンに入れて大事にしまってたんだよ。
特に最初に作ったいっぱい熟成させたのは他の人じゃ作れないからって、ロルフさんとバーリマンさん、それにお爺さん司祭様の3人でおんなじくらいになるようにってみんなで分けっこしてたくらいだもん。
「確かに、それは欲しいスキルですね」
「ん? おお、そう言えばそなたたちも酒をたしなむのであったな」
「はい。あまり強くないので少しだけですけどね」
ニコラさんたちはね、森の奥にまで狩りに行けるようになってちょっとだけお金を稼げるようになったからって、たまの贅沢にお酒を飲むことがあったんだって。
だからニコラさんもおいしいお酒が造れるって聞いて、そんなスキルが使えていいなぁって言うんだよ。
「そっか。じゃあ、お酒造ってあげるよ」
「えっ、いいの?」
僕がお酒を造ってあげよっか? っていったら、ニコラさんは大喜び。
でもね、それを横で聞いてたお爺さん司祭様はダメって言うんだよ。
「え~、なんで造っちゃダメなの?」
「酒を造る事自体を反対しておるわけではない。だがな、その酒はどこで造ってどこに保管するつもりなのかな?」
今日は錬金術ギルドで作ったけど、おんなじことをこの宿屋さんでやる事はできないでしょ?
それに作ったお酒を入れとくものも、僕、持ってないもん。
だからお爺さん司祭様はお酒を造っちゃダメって言ってんだって。
「そうだ! ルディーン君のお屋敷ならどうです? あそこなら」
「今改装工事の真っ最中ではないか。それにな、あそこにはストールがおる。あれの前でルディーン君に酒を造らせようだなどと、そんな恐ろしい事をよく言えるものだと感心するわい」
お爺さん司祭様はね、自分たちが飲みたいからって子供の僕にお酒を造らせたなんて聞いたら、ストールさんがすっごく怒っちゃうよって言うんだ。
「ストールさん、やっぱり怒りますかねぇ?」
「まず間違いなかろう。ルディーン君の親御さんならばともかく、それ以外のものが頼んだと知ればどれほど怒る事か。だからこそわしやヴァルトも、ルディーン君に酒を造ってくれと頼まないのだからな」
ロルフさんたち、僕の作ったお酒をみんなで分けて大事そうにしまってたでしょ?
それを見てて僕、作ってって言えばもっといっぱい作るのになぁって思ってたんだ。
でもそっか、ストールさんにばれたら叱られちゃうから、みんな作ってって言わなかったんだね。
「それにわしとしても、まだ幼いルディーン君に酒造りをさせるのは少々気が引けてのぉ」
「それは確かにそうですね」
それにお酒は大人の人が飲むものでしょ?
なのにそれをまだちっちゃい僕が造るのはダメなんじゃないかなぁって、お爺さん司祭様は言うんだ。
でね、それを聞いたニコラさんたちも、そう言えばそうだねって。
「わざわざルディーン君に造ってもらわずとも、酒など買えば呑めるのだ。それで我慢すべきではないかな?」
お爺さん司祭様はそういうと、遠くにいた給仕さんを呼んでニコラさんたちのお酒を注文してくれたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
前にも本編内でも出て来た通り、発酵や醸造は料理スキルの中でも習得している人があまりいません。
アマンダさんもイーノックカウには使える人がいないから、他の街に運ぶのが難しいベニオウの実ではお酒を造れないと言ってましたよね?
それだけに、スキルでお酒を造ったりそれを熟成できるという事を知っている人はあまりいないんですよね。
ルディーン君がそれをあっさりとやってのけてしまうおかげで、ちょっと意外に思われるかもしれませんがw




