475 今回もおんなじ事で悩んでるんだよ
ベニオウの実の皮、ドライで乾かしてすり鉢でゴリゴリやったらちゃんと粉になったでしょ?
だからそれをバーリマンさんが魔力を注いでくれたセリアナの実の油に混ぜてみたんだけど、
「ふむ。流石にこれだけではポーションにはならぬか」
二つを混ぜただけじゃお肌つるつるポーションにならなかったみたいなんだよね。
「セリアナの油がペースト状のままなせいで、うまく混ざらないようですわね」
「うむ。やはり油を液体にしてからでなければ、ベニオウの実の皮で作った粉がしっかりと馴染まぬようじゃな。しかし、これはちと難問じゃぞ」
セリアナの実の油ってね、34度くらいですぐに溶けちゃうんだよ。
だから頭に塗る時はわきに挟んで温めるだけでよかったんだけど、今回はベニオウの実の皮の粉がちゃんと混ざるくらいいっぱい液体にしないとダメでしょ?
でももし火にかけてあっつくなりすぎちゃうとセリアナの油の中にある何個かの成分が壊れちゃうって前に実験した時に解ったから、ロルフさんたちはどうやって温めたらいいんだろうって考えこんじゃったんだよね。
「前に話していた、お湯で温めるというのはどうでしょう?」
「油を液体にするだけならそれでも良いかもしれぬ。じゃがな、今回はその油にベニオウの粉を溶かさねばならぬからのぉ」
「ああ、そう考えると確かにその方法は取れませんわね」
バーリマンさんが言った通り、お湯を使えばセリアナの実の油はちゃんと溶けるでしょ?
なのに、なんでかしらないけどロルフさんたちはその方法じゃダメだよって言うんだ。
でもさ、僕はなんでダメか解んないんだよね。
だからロルフさんに聞いてみる事にしたんだよ。
「ねぇ、ロルフさん。何でお湯で溶かしたのだとダメなの?」
「それはじゃな、どれくらいの時間をかければベニオウの粉がセリアナの油に馴染むかが解らないからじゃよ」
ベニオウの実の皮で作った粉って、油に混ぜてもお砂糖やお塩みたいに溶けちゃわないでしょ?
だからこの場合、ベニオウの粉がセリアナの実の油をいっぱい吸いこんで馴染ませないとダメなんだって。
でもお湯だとだんだん冷めてっちゃうし、冷めないように火にかけながら温めると今度はあっつくなりすぎちゃうかもしれないもん。
だからお湯でセリアナの実の油を溶かすのはダメなんだってさ。
「しかし、今回は流石に人肌で温めると言う訳にはいきませんよ?」
「それは当たり前じゃ。それではたとえ実験が成功したとしても、十分な量が得られぬではないか」
前に髪の毛つやつやポーションをわきに挟んで溶かしたのは、頭にぬりやすくするためだったよね。
でも今回はベニオウの実の皮で作った粉を混ぜてお薬を作ろうとしてるんだもん。
そんなちょびっとの量じゃ、たとえちゃんとお肌つるつるポーションができたってあんまり意味ないよね。
「困りましたわね。まさかこのポーション作りにこのような障害があったとは」
「前回はルディーン君が人肌程度の温度で溶けると教えてくれたから何とかなったが、まさか今度もまた同じ問題で頭を悩ます事になるとはのぉ」
こう言いながら、ロルフさんとバーリマンさんはまたう~んって考えこんじゃったんだよ。
そしたらさ、それを横で見てたお爺さん司祭様がこう聞いたんだ。
「ヴァルトよ。ちと訪ねたいのだが、風呂に張った大量のお湯で溶かすのではいけないのか?」
「ん? おお、なるほど。その手があったか」
さっきロルフさんは、お湯だと冷めちゃうからダメって言ったよね。
だけどお爺さん司祭様の言う通り、お湯がいっぱいあったらすぐに冷めちゃうなんて事ないでしょ?
だからそれを聞いたロルフさんは、その方法だったらできるかも! って喜んだんだ。
でもね、バーリマンさんがそれじゃダメなんじゃないかなぁって。
「何故じゃ、ギルマスよ。わしにはよい案だと思えるのじゃが」
「確かに大量の湯を用意するのは魔道ボイラーがあれば簡単でしょう。ですが、ここは錬金術ギルド。お風呂も無ければ、魔道ボイラーもありませんわよ」
「あっ!」
バーリマンさんの言う通り、お風呂が無かったらお爺さん司祭様の言ったやり方はできないよね。
それにね、バーリマンさんはたとえそれができたってやっぱりダメだよって言うんだ。
「それにただポーションが完成すればよいというのであれば、少量を人肌で温め続ければよいだけです。でもこの実験は、実用に足るポーション作りを目指しているのですわよね?」
「うむ、その通りじゃ」
「ならば、やはりその方法は取れませんわ。だって油を入れるものより一回り大きな容器に入れた湯で温めるならともかく、それほど大量の湯を使うというのであれば問題が起こる可能性が高すぎますもの」
お風呂の上に油の入った入れもんを浮かべてたら、何かの拍子にひっくり返っちゃうかもしれないでしょ?
それに油の中にお湯が入っちゃう事があるかもしれないもん。
1回だけやってみるんだったら慎重にやればいいかもしれないけど、ずっと続けようって思ったらそれじゃダメなんだってさ。
「大体、ただ成功するかどうか調べるだけでよいのなら、先ほども話していた通り少量を人肌で温めてみればよいだけではないですか」
「確かに、安定して作れなければこの実験の意味は無いのぉ」
という訳で、お湯で温めるというのはやっぱりやめようって事になったんだ。
でもさ、他にいい考えが無いからお風呂に入れたお湯で温めたら? っていうお話になったんだよね?
だからロルフさんたちは、本当に困っちゃったんだ。
「火にかける事も湯で温める事も出来ぬとなると、一体全体セリアナの実の油を溶かすにはどうしたらよいのじゃろうか?」
「一度温めさえすれば、なかなか温度が下がらないようなものが何かあればよいのですが」
そっか! ずっとあったかい物があったらそれで溶かせばいいんだよね。
バーリマンさんのお話を聞いた僕は、どっかにそんなものないかなぁ? って頭をこてんって倒しながら腕を組んでう~んって考えてたんだよ。
でも全然思い浮かばないんだもん。
だからちょっぴりしょぼんとしちゃったんだけど、そしたらさそんな僕の横でロルフさんたちが急にこんなこと言い出したんだよね。
「逆に冷やせというのであれば、魔道冷蔵庫に入れて置けばよいだけなのじゃが」
「ですが、温めるとなると魔道コンロや魔道オーブンしかありませんわよ。しかしそのふたつでは温度が上がりすぎてしまいますから、とても使えませんわ」
ロルフさんの言う通り、冷やすんだったら魔道冷蔵庫があるからすっごく簡単なんだよ?
でも魔道コンロや魔道オーブンはお料理するための魔道具だから、それを使うとあっつくなりすぎるんだよね。
だからバーリマンさんは魔道具じゃセリアナの油を溶かすのは無理だよって言うんだけど……あれ?
僕はそれを聞いて、何か忘れてるような気がしたんだよね。
「何だったかなぁ?」
だから頭をこてんって倒しながらう~んって考えてたんだけど、そしたらそれを見たロルフさんがびっくりしたお顔で聞いてきたんだ。
「どうしたんじゃ、ルディーン君。何かセリアナの油を温めるよい魔道具を知っておるのか?」
「もしかしてルディーン君のお家には私たちの知らない、何かものを温める魔道具があるとか?」
そしたらそれを聞いたバーリマンさんまでこんなこと言い出すんだもん。
だから僕、ちょっぴり困っちゃったんだけど、
「おお、そういえばルディーン君の家には、ちと変わった調理魔道具があったのぉ」
そしたらお爺さん司祭様がなんかを思い浮かべるようなお顔で、僕んちに変わったお料理用の魔道具があったねって。
そっか! あれだったらセリアナの実の油も温められるかも?
でね、僕はそんなお爺さん司祭様のおかげで、セリアナの実の油を溶かすいい考えが浮かんだんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
本当は今回でベニオウ版お肌つるつるポーションの完成まで行きたかったのですが、残念ながら届きませんでした。
なにせみんなで作っているので、各々のセリフを入れようと思うとどうしても長くなってしまうんですよね。
しかし、流石に次回では完成します。
大みそかの更新は流石に休ませていただくつもりなので、そうしないと年を越してしまいますからねw




