474 薪が作れるだけじゃないんだよ
「それでは、試しに二つの素材を使ってポーションを作ってみるかのぉ」
ロルフさんはそう言うと、バーリマンさんと一緒にお肌つるつるポーションを作ってみる事にしたんだ。
「それでは私が、セリアナの実から抽出した油に魔力を注ぎますわね」
「うむ。ではわしは、ベニオウの実の皮を細かくするとしようか」
前にやった時も、セリアナの実の中にある3つの成分だけだったらバーリマンさんでも魔力を込める事ができたでしょ?
だから今回もバーリマンさんがベニオウの実の皮に入ってない、あと3つの成分に魔力を入れる事になったんだ。
でね、その間にロルフさんがそれに混ぜるベニオウの実の皮を細かくしようとしたんだけど、
「薄い上にすぐに破れるほど柔らかいからすぐにペースト状にできるかと思っておったが、これは思ったよりも大変な作業かもしれぬな」
でも細かくしようと思ったら、皮がつるつるしててすり鉢を使っても全然細かくならなくって困っちゃったんだ。
そしたらさ、それを横で見てたお爺さん司祭様が、そのままじゃ無理なんじゃないの? って言うんだよ。
「この皮は確かに破れやすいかもしれぬが、柔らかい上に多くの水分を含んでおるからすり鉢では一定の大きさ以下にはならぬと思うぞ」
「確かにその様じゃ。しかし、ラファエルよ。この方法以外に細かくする方法などないではないか」
セリアナの実の油と完全に溶けちゃうくらい細かくしないと、混ぜたってお薬にはならないでしょ?
だからロルフさんが一生懸命すり鉢でゴリゴリやってたんだけど、ベニオウの実の皮はとっても柔らかいもんだからある程度小っちゃくなるとするりって逃げちゃうんだよね。
それに水分も多いもんだから、いっぱい入れてすると皮から出て来た汁で浮いてきちゃうんだもん。
そのせいで細かくするのがもっと大変になっちゃってるんだ。
「ふむ。のぉ、ヴァルトよ。一つ尋ねるが、この皮に含まれる水分もポーションには必要なのか?」
「それについてはまだ調べておらぬが……おお、そうか。この皮を乾燥させ、それをすればより細かくできるのではと、おぬしは言いたいのじゃな?」
さっき言ったみたいに、中から出てきてるお汁のせいで浮いちゃうから細かくし辛いんでしょ?
それに乾かしたら今は柔らかい皮も硬くなるはずだから、お爺さん司祭様は一度乾かしてすってみたら? って言いたかったみたいなんだ。
「水分がなくなる工程で薬効がどう変質するかは解らぬが、一度試しに乾燥させてみるかの」
ロルフさんはそう言うとね、ベニオウの実の皮を持ってどっか行こうとしたんだよ。
だから僕、どこに行くの? って聞いたんだけど、そしたら厨房に行って火で乾かすんだよって言うもんだから、僕、びっくりしちゃったんだ。
「え~、なんで? ドライの魔法を使えばいいじゃないか」
「どらいの魔法? なんじゃ、それは」
ロルフさんはね、ドライなんて魔法、知らないって言うんだよ?
だから僕、びっくりしてお爺さん司祭様を見たんだけど、
「はて。どこかで聞いた事がある気はするのだが……」
司祭様も聞いた事あるような気もするらしいけど、よく解んないみたい。
あれ? でもこれって普通の一般魔法だよね。
この魔法ってさ、ドラゴン&マジック・オンラインだとNPCが使ってる普通の魔法なんだよ?
だからロルフさんやお爺さん司祭様が知らないような特別な魔法じゃないんだけどなぁ。
それなのに何で知らないんだろう? って考えてみたんだけど、そしたらある事を思い出したんだ。
「あっ、そっか! この魔法って、切ったばっかりの木を薪にする魔法って思われてるんだっけ」
「薪を作る魔法? ……おお、そうだ。そのような魔法の話ならば、聞いた事がある」
この魔法をステータスの魔法欄で探した時にね、切った木や枝にかけるとすぐに薪として使えるようになるって書いてあったんだ。
って事はさ、この世界じゃみんなドライの事を薪を作るための魔法って思ってるって事だもん。
だからお爺さん司祭様もおんなじように思ってたから、乾かす魔法って言われても知らないって言ったんだってさ。
「ルディーン君。ではその薪を作る魔法とやらで、この皮の水分を抜く事ができるというのじゃな?」
「うん、そうだよ。切ったばっかりの木って火をつけると煙がもくもく出てくるでしょ? このドライの魔法はね、そんな木を煙が出なくなる薪にしちゃうための魔法だってみんなが思ってるみたいなんだよ。でもあれってホントは、木が濡れてるからもくもく煙が出てくるんだって。だから濡れたものを乾かすドライの魔法を使うとすぐに薪として使えるようになるんだよ」
僕はお父さんのお手伝いで、前に茹でた魔物の皮を干すのにドライの魔法を使った事があるんだよってロルフさんに教えてあげたんだ。
そしたらロルフさんもドライが薪を作る魔法じゃなくって、物を乾かすための魔法なんだって解ってくれたみたい。
「なるほど。それならば確かに、この皮を乾かす事もできそうじゃの」
ロルフさんはそう言うとね、僕にやってみてってベニオウの実の皮が入ってる器を渡してきたんだ。
だからすぐにドライをかけてからからに乾かしてあげたんだけど、そしたらそれを見たロルフさんとお爺さん司祭様はびっくり。
「まさか、ここまで劇的に変わるとは。その上、熱も加えずに一瞬で乾かしたからか、変色さえしておらん」
「確かに、日に干して乾かしたとしても多少の劣化はどうしても起こるのだが、これにはそのような変化はまるで起こっておらぬようだな」
ドライの魔法って、ほんとに一瞬で乾かしちゃうでしょ?
だからベニオウの実の皮も、からからになってる以外は色もそのまんま、真っ赤っかなんだよね。
「うむ。これならば成分劣化も起こってはおらぬであろうから、水分が抜けた事による薬効の変化も正確に解るじゃろう」
ロルフさんはね、そのからからになったベニオウの実の皮に解析をかけたんだよ。
そしたらさ、治癒の魔力もお薬に使う薬効も、ほとんどそのまんま残ってたんだって。
「これならばポーションを作るのに何の問題もない。後はすり鉢で細かくできるかどうかじゃが」
だからロルフさんはそれをすり鉢に入れて、ゴリゴリやったんだよ?
そしたらからからになって硬くなったベニオウの実の皮は、簡単に粉々になっちゃった。
「おお、あれほど苦労していたものがこんなにあっさりと。後はこれをもう一度調べて、薬効に変化が無ければこの作業は終了なのじゃが」
でね、それにロルフさんはもういっぺん解析をかけたんだけど、
「うむ。粉になっても全く状態は変わっておらぬ。まさに完璧な出来じゃな」
そしたら粉々になる前と全然変わってなかったんだって。
だからね、ロルフさんはにっこり笑いながら僕に、いい魔法を教えてくれてありがとうねってお礼を言ったんだよ。
読んで頂いてありがとうございます。
ロルフさんがドライの魔法を知らなかった理由ですが、単純に貴族であり、元領主であるロルフさんが自分で薪を調達する事など今までに一度も無かったからです。
なにせこの世界ではどんな魔法でも、使えるようになるにはかなりの努力が必要ですからね。
一生使う事も知識として必要になる事もない魔法なので、ロルフさんは知らなかったと言う訳です。
さて、ベニオウの実の皮を無事に粉にする事が出来ました。
これによってポーション作りは一歩前進です。これができない事には、セリアナの実の油とうまく混ぜる事ができませんからね。
と言う訳で、次回はいよいよお肌つるつるポーションが作れるかどうかというお話なのですが……。
すみません。今週末、またも出張です。
コロナが猛威を振るっていたころは出張も無く更新が止まる事も無かったのですが、収束に向かって来たおかげというかせいと言うか、出張が増えているんですよね。
そのような理由なので申し訳ありませんが月曜日の更新はお休みさせていただき、次回は来週の金曜日更新となります。




