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463 そっか、そういえば教えてなかったっけ


「旦那様、魔道コンロの試運転はいかがいたしましょう?」


 僕とロルフさんがお話をしてたらね、ここまで連れて来てくれたメイドさんが魔道コンロを動かしてみる? って聞いてきたんだ。


「ふむ。魔道具屋を信用しておらぬわけではないが、入れたものの確認はせねばならぬのぉ」


 そんなメイドさんにロルフさんはちょっと考えた後、僕の方を見てこう言ったんだよ。


「そうじゃ、ルディーン君。君はこの魔道コンロの試運転で、何を作ったらよいと思う?」


「僕が決めていいの?」


「うむ。この館の主は君じゃからのぉ。そこに入った物なのじゃから、決めるのは君がふさわしかろう」


 ここって僕が買ったお家でしょ?


 だからロルフさんは、そこにいれた魔道コンロで最初に何を作るのか僕に決めてって言うんだ。


「う~ん、僕が決めていいんだったら、やっぱりお菓子が作りたいかなぁ」


「菓子とな? と言うと、前に教えてもらった、パンケーキとやらを作るのかのぉ?」


「ううん。コンロで何かを作るのもいいけど、せっかくおっきなオーブンがついてるんだもん。オーブンが無いと作れないクッキーとかケーキを作ったらいいんじゃないかなぁって、僕、思うんだ」


 パンケーキだったら魔道コンロじゃなくっても、普通のかまどでだって作れるでしょ?


 でもクッキーやケーキはオーブンが無いと焼けないから、僕、せっかく作るんだったらそっちの方が絶対いいと思うんだよね。


「クッキーとケーキ? ふむ。クッキーと言うのはわしの孫がたまに街の菓子屋で買って届けてくれるから知っておるが、ケーキとは何じゃ? パンケーキとは違うものなのかのぉ?」


「全然違うよ! さっきも言ったでしょ? ケーキはオーブンが無いと作れないお菓子なんだ」


 ロルフさんに聞かれて思い出したけど、ケーキってアマンダさんのお店でスポンジケーキを作っただけで、ちゃんとしたのは僕んちでしか作った事なかったっけ。


 それじゃあロルフさんが知らないのも当たり前だよね。


 そう思った僕は、ロルフさんに作ってあげたら喜ぶかなぁって思ったんだよ?


「あっでも、僕一人じゃできないかも?」


 でもね、ケーキって卵の白身がメレンゲになるまでいっぱい泡立てないと作れないし、上に塗る生クリームだってやっぱりいっぱい泡立てないとダメだもん。


 そんなの僕一人で作れるはずないから、それに気が付いた僕はしょぼんってしちゃったんだ。


「ふむ。そのケーキとやらは、少々手間のかかる菓子のようじゃのう」


 でもね、そんな僕を見たロルフさんは、それなら何の心配もいらないよって言うんだよ。


 何でかって言うとね、このお家で働くことになってる料理人さんが違うお部屋で待ってるからなんだってさ。 


「ここには3台の魔道コンロが入っておるじゃろう? 試運転は当然、そのすべてで行わなければならぬであろう? じゃからな、ルディーン君。初めから試作を君一人に作らせようなどとは考えておらなんだのじゃよ」


「3つのうちの一個だけ動かしてみて、後で他のが動かなかったら困っちゃうもん。全部動かさないとダメだよね」


 ロルフさんはね、僕に何を作ったらいいの? って聞いたけど、作るのはその料理人さんたちにやってもらおうって初めから考えてたんだって。


 だから僕一人でやんなくっても、全然大丈夫だったんだ。


「そういう訳じゃから、ルディーン君。そのケーキとやらは知られていない菓子のようじゃから、料理人たちにも当然作り方は秘匿させるようにする。じゃからそのケーキとやらの作り方を料理人たちに教えてもらえるかのぉ?」


「うん、いいよ!」


 スポンジケーキはアマンダさんに作り方教えてあげた事あるから、ロルフさんちの料理人さんたちに教えても別にいいんだよね。


 あっでも、メレンゲの作り方は、アマンダさんのお菓子屋さんのオーナーさんが商業ギルドに登録しに行ったんだっけ。


 これだけは教えといてあげないと、後でロルフさんが困っちゃうかも?


「そう言えば、ロルフさん。このお菓子ね、前にお菓子屋さんのアマンダさんに教えた事あるんだ」


「ほう、そうなのか」


「うん。でね、その時に変わった作り方だからって、お菓子屋さんのオーナーさんが特許ってのを取りに行ってくれたんだ」


「なんと。ではすでに商業ギルドに登録してある菓子なのか」


「ううん、違うよ。登録したのは作り方のうちの一個だけ」


 これは商業ギルドに行けばすぐに解るからいいよね?


 そう思った僕は、ロルフさんに白身を黄身と分けてからかき混ぜると、すっごくふわふわのメレンゲになる事を教えてあげたんだ。


「アマンダさんはね、このやり方を他の人が先に登録しちゃうと大変だからって、僕の名前で特許ってのを取って来てってオーナーさんに頼んでたんだよ」


「なるほどのぉ。わしは料理人ではないからそのような工程の有用性は解らぬが、急いで登録せねばならぬとその菓子職人が申したのであれば、それは凄い発見なのであろうな」


 ロルフさんはうんうん頷きながらそう言うと、


「雲のお菓子の作り方にも驚いたが、いやはや、食材一つとっても調理法次第でかなり変わったものが作れるのじゃなぁ」


 長いお髭をなでながら、ひとりでうんうんって頷いてたんだ。

 読んで頂いてありがとうございます。


 いつもより少し短いですがキリがいい所ですし、ここから料理人を呼んで紹介したりお菓子作りを始めたりするとさらに1話分くらい続きそうなので、今回はここまでで。


 お菓子類って、実を言うとロルフさんの孫である現イーノックカウの領主はよく知っているんですよね。


 なのでアマンダさんが作って店に出している、スポンジケーキは当然知っています。


 でもこの流れだと、生クリームと熟成フルーツのケーキをロルフさんがグルメの孫を差し置いて食べそうです。


 そして、その菓子の価値なんか知らないので当然……。


 ロルフさん、愛しのとまで言っているお孫さんに、あとでまた怒られるかも?w


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― 新着の感想 ―
[良い点] みんな喜んでくれるしお菓子造るのはいいですね。 製法なんかの登録で頭抱えることにならなければw [一言] 美食家の現領主さまと出会ったら ルディーン君の造りたいって言ったお菓子の材料や道具…
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