43 新たなスキルと拗ねるお父さん
「ゆみとおんなじ? えっ、でもマジックミサイルはまほうだよ。おとうさんもみたでしょ? ぼくが、じゅもんではつどうさせたところ」
「ああ。でも、その魔法が物理攻撃だってのは間違いないぞ。ちゃんと傷口を調べて確認したからな」
調べたってのはさっきジャイアントラットの傷口を調べてたあれかな? って事は本当にマジックミサイルは弓と同じ様な攻撃って事なんだろうか。
そう思って聞いてみたんだけど、お父さんが言うには弓と言うより槍か何かで突いて貫通させた傷跡みたいになっていたんだって。
「俺が見た感じでは、あの魔法で傷口の周りに何か影響を与えたような跡は無かったし、炎や雷のようなもので焼かれたような跡も無かったからなぁ。原理は解らないが魔法で杭を作って飛ばしてるってのが一番近いんじゃないか? あの魔法は」
そうなのか、知らなかった。
そう言えばウィンドカッターは風で刃を作って切り裂く魔法だし、ファイヤーボールは爆発する火の玉を作って飛ばす魔法だっけ。
その他の攻撃魔法もみんな魔力を何かに変えて飛ばしているんだから、マジックミサイルも魔力を何かに変えて飛ばしてるって事だよね? お父さんの話が正しいなら魔力の槍を飛ばす魔法なのかなぁ。
「それでだ。物理攻撃であれだけの貫通力があるのなら、これを頭に直接当ててやれば一発で倒せるんじゃないかって考えてルディーンに検証してもらったって訳だ。まぁ、失敗したとしてもジャイアントラットくらいなら俺1人でも楽に倒せるから、安全に実験するにはいい獲物だったしな」
「そっか。ありがとう、おとうさん。きょうやってみなかったら、ぼく、ずっときがつかなかったよ」
そっか、ここはゲームと違って攻撃があたる場所によって魔物に与える影響も違ってくるんだね。
ん? って事は魔法の効果がそのまま出るって事? ならファイヤーボールで倒すと獲物の皮は全部焼け焦げちゃうし、地面から無数の岩の槍が出てくるロックスピアだと穴だらけになっちゃうんじゃないか?
その他にも無数の風の刃で効果範囲内の魔物を切り裂くウィンドトルネードとか、高速で飛ぶ水滴を使った散弾銃のような攻撃をするウォータースプラッシュのような範囲攻撃も狩りに使えないって事だよね?
……なんてこった、レベルが上がって強力な魔法が使えるようになっても、意味がないじゃないか。
ドラゴン&マジック・オンラインでは花形だった強力な殲滅魔法の殆どが、この世界では何の役にも立たないと解って僕は呆然となったんだ。
あまりのショックに唯々立ち尽くす僕をよそに、お父さんはジャイアントラットを木に吊るして血抜きをする。
多分、お父さんはさっきの話から僕が何かに気が付いて、その事を考えているんだろうからそっとしておこうと思ってくれたんだろうけど、正直それがとてもありがたかったんだ。
だってそう簡単に立ち直れないくらいのショックだったんだもん。
僕だって何時かは強大な敵に高威力の魔法を使って立ち向かうなんて姿を想像して、わくわくした事もあるんだよ。でも実際にそんな魔法で戦うと、たとえ倒したとしても素材がぼろぼろで売る事ができなくなるから使えないんだよね。
ああ、なんで僕は賢者なんてジョブになっちゃったんだろう。戦士系なら強力な技で急所に一撃を入れるとかして活躍できそうなのに、賢者じゃ強力な魔法ほどみんなに迷惑をかけちゃうじゃないか。
僕はこれから先、いくらレベルが上がってもあまり意味がないんだなぁなんて考えて、本当にがっかりしたんだ。
そんな状態だからと言っても、お父さんは何時までも落ち込んで居させてはくれなかった。
「ルディーン、血抜きも済んだし、そろそろ商業ギルドの天幕へ運ぶぞ。まだまだ日も高いし、運がよければもう一匹くらい狩れるかも知れないからな」
そう言ってお父さんはジャイアントラットを肩に軽々と担いだまま、僕の手を引いてずるずると引きずっていったんだ。
もう! 自分の子供が先の人生に絶望して落ち込んでるってのに、なんて親だ! そう思いながらぷりぷり怒ってたんだけど、残念ながらそんな気持ちは長持ちせず、僕の興味は商業ギルドに二匹目のジャイアントラットを預けた頃には、次の獲物に飛んでしまっていた。
「おとうさん。さっきはおとうさんがいつもやってるさがしかたでジャイアントラットをみつけたけど、こんどはぼくのやりかたでさがしていい?」
「おっ、ルディーンも自分独自の探し方を持ってるのか? そう言えばお前は兄弟の中でも飛びぬけて獲物を探すのがうまかったな。よし、お手並み拝見と行こうか」
「うん! ぼく、がんばるよ」
お父さんの御許しが出たから、僕はいつもの探知魔法で周りを探る。すると、この方法がいつもとちょっと違っている事に気が付いたんだ。
何と言うかなぁ、前方180度の地形の起伏がなんとなく解るようになっていて、そしてそこにいる獲物の位置や情報が見えるような気がするんだよね。
「あれ?」
「どうした? 何かあったのか?」
「えっとねぇ、なんでか、いつもよりよくみえるというか、よくわかるきがするんだ」
「いつもよりよく見えて、よく解るのか? なら、良かったじゃないか」
ん? そう言えばそうかなのかなぁ? いやいやそうじゃ無くて、どうしてこんな事になってるかの方が、どう考えても問題でしょ。
原因が解らないと、本当にこの探索結果を信じて行動していいのか解んなくなるもんね。
前に狩りをした時と今、何が違うんだろう? 思い出せる中で一番違うのは、やっぱり前は草原でウサギとかを狩るのに使っていたけど今は森の中で使ってるって事だよね。
でも見晴らしが良くて障害物がない草原より森のほうがうまく獲物を探知できるっていうのは、流石に考えられないからこれは無し。
「ルディーン、どうしたんだ?」
「もぉ! おとうさん、いまだいじなこと、かんがえてるから。ちょっとだまってて!」
「おっ、おう」
えっと、後考えられるとしたら新しいスキルが付いたとかかなぁ? そう考えてステータスを開いてスキルのページを覗いてみた見たけど特に変化は……あっ、鑑定解析ができるようになってるからかも!
そう一瞬考えては見たんだけど、鑑定解析は自分の視界に入っているものを調べるスキルだから遠くの生き物を探す探知魔法とは用途がまるで違うものなんだよね。
だから多分これが原因じゃない。
じゃあなんだ? 何が変わった? そう考えて僕は改めて自分のステータス画面とにらめっこをして、そしてやっと気が付いたんだ。
「そっか、レンジャーだ!」
「レンジャー? ルディーンそれは一体?」
そう言えばサブジョブにレンジャーが付いたんだっけ。多分あれが原因だ。
レンジャーは野外行動に特化したジョブだから、それが付いた事で探知能力が強化されたのかもしれないよね。
そう思って僕はレンジャーの使えるスキルや特性を調べてみたんだ。
するとそこには案の定、周辺地形把握ってスキルがあったんだ。
「お~い、ルディ……」
これは戦士の攻撃技やマジックキャスターの魔法なんかと同じタイプの物だから、たとえ習得したとしてもレンジャーのページにしか当然載って無いんだよね。だから覚えているパッシブスキルのページを開いても載ってなかったのは当たり前。
で、このスキルと今までやっていた探知が合わさる事で、今の様な事ができるようになったんじゃないかな? って僕は想像したんだ。
そう思って試しにこのスキルを使わないように意識して探知をしなおしたら、今までと同じ様にしかできなかったんだ。うん、これでもう間違いないね。
「ルデ……」
それともう一つ、いや二つかな? このスキルが付いたことで恩恵を受けた事がある。それは探知できる範囲に居る獲物の大体の大きさや強さ、それに地上にいるかそれとも木の上にいるかなんて事まで解るようになった事なんだ。
場所に関しては多分地形把握が加わったことによる変化だろう。
このおかげで獲物がたとえ隠れていたとしても見逃す事が少なくなるから、狩りを生業とするものにとってはこの効果は本当に喉から手が出るほどほしいものなんだろうね。
けど、言ってしまえばそれは所詮その程度の恩恵を僕に与えてくれるだけでしかない。
それに対して探知できた獲物の強さが解るようになったのは、このスキルの在り方さえ変えてしまう程の有効な変化なんだ。
今までもウサギのように一度でも探索して狩った事がある獲物なら魔力でそれが何なのか解ったけど、それだけじゃなく、この力によって今まで見た事も聞いた事もない初めて出会う生物でも、その危険性が解るようになったと言う事なんだよね。
だから探知魔法に引っかかった時、それが今の自分にとって危なそうな相手だったら避ける事ができるようになったんだ。
森での探索経験が少ない僕は、この探知能力の向上によって森の中を歩く時の危険度が飛躍的に下がったんだよね。
あとステータス画面に書いてあった説明によると、この周辺地形把握ってスキルはレンジャーのレベルが上がると強化されるらしいから、いずれは全方位の探索ができるようになるのかも? もしそうだったら、もっと狩りが楽になるんだろうなぁ。
「……」
こうしてやっと探知魔法が変化した理由が解って、今の僕はとっても上機嫌。
これで安心して獲物が探せるぞって思ってお父さんにそう言おうと思ったんだけど……あれ? なんでそんな離れた所に座り込んでるの?
「おとうさん、なにやってるの? いまからまものさがすんだから、そんなとこですわってちゃだめだよ」
「……、解った」
なんかふてくされてる気がする。
もぉ! 仕方ないんだから。
「なににすねてるのかわかんないけど、ちゃんとしなきゃダメ! おにいちゃんやおねえちゃんだって、おかあさんにいつも、そういわれてるでしょ!」
「それはルディーンが、俺を無視するから……」
「えっ、ぼく、おとうさんをむしなんかしてないよ? いまもちゃんとおはなし、してるもん」
そんな言い訳をするなんて。お父さんは大人なのに、ホント困っちゃうなぁ。
読んで頂いてありがとうございます。
30話を超えて、皆さんがこの作品をどう考えているのか気になっている今日この頃です。
できたら感想を頂きたいのですが、それが無理なら評価だけでも入れていただけるとありがたいです。




