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42 僕の常識、実は非常識?


 しばらくして枝から下ろしたジャイアントラットの前後両足を縛り、それをフックの付いた折りたたみ式の棒に引っ掛けてお父さんはそれをヒョイっと担ぎ上げた。


 血抜きをしたおかげでさっきよりかなり軽くはなってるし魔道具も起動したままだからびっくりはしなかったけど、見た目は物凄く大きいものを小さな体で楽々と運んでるように見えてなんか変な感じ。


「おとうさん、すごいちからもちのひとみたいだよ」


「そうか? みんながやってる運び方なんだけどなぁ」


 そんな会話をしながら僕たちは一旦森の外側、商業ギルドの天幕があるところまで戻ることにしたんだ。


 森に入ってすぐに獲物が獲れた時、それが今回みたいに大きな獲物だった場合は持ち運びながら狩りを続けることができないよね。お父さんが言うには、あの天幕でお金を払うと一時的にそんな獲物を預かってくれるんだって。


 それに獲れた獲物がイーノックカウに持って帰れないほど多かった場合も、お金さえ払えば馬車で運んでくれるそうなんだ。


「冒険者も狩った獲物を持ち帰れないからと森に捨てなくて良くなるし、商業ギルドも運び賃として収入が得られる。どちらも得するってわけだ」


 と言う訳で僕たちは商業ギルドの天幕にジャイアントラットを運び込んだんだけど、どうやら僕が凄いなぁって思ったのは普通の感想だったみたいで、お父さんの今の姿は商業ギルドやその周りの人たちにも物凄く驚かれた。


 流石にこれだけ大きな獲物を1人で担いでくる人は、殆ど居ないんだってさ。


「重さを軽減してるとは言ってもそれ程大きな魔物ですから、普通は運ぼうと思っても体が振り回されて森の中から出て来れませんよ。いやはや、凄いバランス感覚ですね」


 ジャイアントラットを預かってくれた商業ギルドのおじさんもそんな事を言ってたから、やっぱりこんな大きな獲物は普通、何人かで運んで来るんだろうね。




 さて、身軽になったという事で、僕たちはもう一度森の中へ。

 お父さんの言っていた魔法の検証をする為に、さっきいた場所より奥に向かう事になったんだ。


「ルディーン、さっき魔法を使った時は大きな声で呪文を唱えてたけど、あれは小さな声で唱えたら発動しないのか?」


「ううん、ちいさなこえでもだいじょうぶだよ。さっきのは、はじめてまものにつかったから、つい、さけんじゃった」


 前世で読んでたラノベによく出てくる無詠唱ってのは無理だけど、きちんと発音さえできれば小声だって魔法は発動するんだ。


 そもそも呪文って言うのは体の中に循環させた魔法を形にする為のものだから声の大きさなんて関係ないし、むしろ叫ばなきゃいけないようなものだったら怪我を治してくれる司祭様がいっぱい居るような大きな教会なんか物凄くうるさくなっちゃいそうだもんね。


「そうか、なら大丈夫だな」


 お父さんはそんなことを言いながら、一人で納得してる。僕としてはどうしてそんな事を聞いたのか気になったけど、多分もうすぐ解るだろうからそれまでのお楽しみにしたんだ。


 そして進む事数分、道もすでに途切れて完全に森の中になった辺りで、お父さんはいきなり立ち止まった。


 どうしたのかな? って思ってると、お父さんは一度辺りを見渡して、


「あっちの方にいそうだな」


 なんて言ながら歩いている方向を変えたんだ。


 だから僕も周りを見渡したところ、何か動物が通ったような跡を発見! そっか、お父さんはあれを見つけて獲物が居そうな場所に気が付いたんだね。


 僕も獲物の痕跡を見つけることができるようにはなったけど、それはあくまで見つける事ができるようになったと言うだけでお父さんみたいにはいかないんだよね。でもいつかは僕だって、さっきのお父さんみたいにすぐに見つけられるようになるんだ。


 そう心に誓いながら後を付いていくと、お父さんがいきなり右手を横に広げた。止まれの合図だ。


 それを見た僕がなるべく音を立てないように立ち止まると、お父さんはかろうじて僕に聞こえる程度の小さな声でこう言ったんだ。


「ルディーン、痕跡が新しくなってきてる。獲物が近くに居る証拠だから、ここからはなるべく音を立てないように進むぞ」


 その言葉に僕は無言で頷き、それからは細心の注意を払って先へと進んだ。

 そして。


「見えるか?」


「うん」


 お父さんが指差した先にはさっき倒したのよりちょっと大きめのジャイアントラットが、木の実でも食べてるのかな? 近くの草むらに向かって何やらもそもそと口を動かしているのが見えた。


「ルディーン、ここからあのジャイアントラットの頭を狙ってさっきの魔法を撃ってみろ」


「マジックミサイルを?」


 どうやらお父さんは僕に先制攻撃をさせるつもりみたいだ。


 頭を狙えって事は衝撃で頭をふらつかせるのが目的なのかなぁ? 僕の魔法じゃ鳥やウサギなんかと違ってあんな大きな魔物のHPを削り切れないから、どちらかと言うと足とかを狙って動きを鈍らせた方がいいと思うんだけど……。


 でもお父さんにだって考えがあるんだろうし、何と言っても狩りの大先輩なんだからこの攻撃にもきっと意味があるんだよね。


 そう思って僕は魔力を循環させ、


「マジックミサイル」


 声で見つかったりしないよう小さな声で呪文を唱えて、光の杭をジャイアントラットの頭に向かって撃ち込んだんだ。


 マジックミサイルは風切り音も無くまっすぐに進み、やがてジャイアントラッドの頭に命中! これからお父さんが突っ込むだろうから、僕も魔法で援護する為に横に向かって走らなきゃって思ったんだけど。


 ピギャアッ。


 ジャイアントラットはそんな悲鳴を上げながら倒れてその場でピクピクと痙攣した後、そのまま動かなくなってしまった。


 えっ、どうして? 今ので気絶しちゃったとか?


 そんな事を思っていると、お父さんは剣も抜かずに近づいて行って、


「うん、思った通り仕留められてるな。何してるんだルディーン、早くこっちへ来い」


 ジャイアントラットの体を調べた後、そんな事を言って僕に手招きしたんだ。


 なんと、どうやら僕のさっきの魔法でジャイアントラットを倒す事ができちゃったみたい。

 でもなんで? 僕のレベルではマジックミサイル一発だと一番弱い魔物だってまだ倒せないはずなのに。


 何が起こったのか解らなくて首を捻りながら近づいてい来る僕に、お父さんは、


「その顔からすると、ルディーンは何故倒せたのか解らないみたいだな」


 そう言って笑ったんだ。


 ってことは、お父さんはその理由が解るって事? と言うより、こうなると解ってて僕に頭に向かってマジックミサイルを撃たせたって事なのかも。


 そんな疑問の答えを、お父さんは本当に持ってたみたい。


「ルディーンは森の外に運んだジャイアントラットと戦った時、僕の魔法じゃ止めが刺せないって言ってただろ。俺は魔法のことはよく解らないけど、ルディーンがそう考えていたって事は魔法ってのは本来、相手の体力を削りきって倒すものなんじゃないか?」


「うん、そうだよ。だからぼくのマジックミサイルで、なぜジャイアントラットをたおせたのか、わかんないんだ」


 本来なら通ったダメージ分だけHPが減るはずなのに、なぜかあの一発でジャイアントラットは死んじゃったみたいなんだよね。


 考えられる可能性で言うとクリティカルが出て予想以上のダメージが通ったとか予めあのジャイアントラットが何かのダメージを負っていたなんて事が考えられるんだけど、どう見ても怪我をしていたようには見えないし、そもそもクリティカルが出たからと言って魔法の威力が数倍になるわけじゃないからそれで倒せるなんて事は絶対にないはずなんだ。


 知っている攻撃魔法の特性から、どうして今みたいなありえない事が起こったんだろうって考えてたんだけど、


「馬鹿だなぁ。動物だろうが魔物だろうが首を切り落とせば必ず死ぬ。だから俺たちが狩りをする時は複数で気を引いて、その隙を突いて急所を狙うんだ。さっきも俺が首を切り落としてジャイアントラットを倒したのをルディーンも見ただろう? それと同じだよ。マジックミサイルって言う魔法は弓なんかと同じ様に物理攻撃みたいだから、頭を射抜けば魔物だって倒せるのはも当たり前だ」


 お父さんはそんな僕の常識を真っ向から否定する、びっくりする意見を笑いながら言ってきたんだ。


読んで頂いてありがとうございます。


30話を超えて、皆さんがこの作品をどう考えているのか気になっている今日この頃です。

できたら感想を頂きたいのですが、それが無理なら評価だけでも入れていただけるとありがたいです。

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[一言] 前世18歳設定が何処に置き忘れて居ます。
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