41 森の中で大きなネズミさんに出会った
あまりに必死な声にびっくりした僕は、慌ててそっちの方を見たんだ。
そしたら20代後半くらいの男の人が、凄い形相でこっちに走ってくるのが見えた。
腰に丸い採取籠をつけてるってことはGランクの冒険者か、イーノックカウの住人って所かな?
鉈みたいな物を持っているみたいだけど服装自体は町で見かけるような軽装で防具らしきものは何も着けてないから、少なくともFクラス以上の冒険者じゃないと思う。
で、その男の人を追っかけてる大きな生き物なんだけど……カピバラ?
大きさは僕が知っているものとはかなり違ってカバくらいの巨体なんだけど、丸っこい体に長い毛足、そして足の短いその姿は前世のテレビで見たカピバラそっくりだったんだ。
ただその大きなからだとサイズが合っていないからなのか、足が遅いんだよね。
サイズ的に普通の早さで走れてたらあの人もとっくに追いつかれてたんだろうけど、そのおかげでなんとかここまで逃げて来れたんだろうなぁ。
「ジャイアントラットか。こんな場所で見かけるのは珍しいな」
ジャイアントラット? って事はねずみの魔物だよね? ああそう言えばカピバラもねずみの仲間だって言ってたし、僕の考えは間違ってなかったのか。
そんな悠長な事を考えている僕をよそに、事態は深刻さを増してきてるみたいだ。
だってあの逃げてる男の人、物凄く苦しそうで今にも力尽きそうだもん。
「あれは体は大きいが動きは鈍い。見かけの通り体力はあって多少しぶといけど、強さ自体はたいした事ないから初めての魔物狩りの相手としてはピッタリだな。ルディーン、魔法で援護しろ。2人であの人を助けるぞ」
「うん!」
お父さんだけでも簡単に倒せそうだから、てっきり1人で倒しちゃうのかと思ってぼ~っと見てたんだけど、そういう事なら話は別だよね。
よ~し、頑張ってやっつけるぞ!
ふんす! と気合を入れる僕の頭を一度なでた後、お父さんは男の人の方へと走り出した。
それに対して僕はすばやく森の中に入って斜め前の方へと進む。これはお父さんと並走すると、逃げてくる男の人が邪魔で魔法が撃てないからなんだ。
これがドラゴン&マジック・オンラインの頃なら弓や魔法は仲間や助けるべきNPCをすり抜けてくれるけど、現実はそんなに甘くないから魔法を当てないようにこっちが動く必要があるんだよね。
もっと成長して高レベルになれば標的を中心とした範囲魔法が使えるようになったり、単体への魔法でも種類によっては発動場所を指定できるようになったりするんだけど、2レベルの僕にそんな事ができるわけがないからわざわざ森の中に分け入ったってわけ。
「助けに来た! 俺の横を駆け抜けて、そのまま逃げろ!」
「はぁはぁ、ありがとう!」
お父さんが男に人の近くまで行った所でそう声を掛け、腰からブロードソードを引き抜いて身を低くしながらジャイアントラットへと迫る。
僕はその姿を確認してから立ち止まって、魔力の循環を始めたんだ。
そしてお父さんが男の人とすれ違い、ジャイアントラットとあと3メートルくらいになったところで、
「マジックミサイル!」
僕はその大きな体目掛けて魔法を放った。
すると白く光る細い杭の様な形をした魔力の塊が一直線に飛んで行き、ジャイアントラットに命中! そしてそのまま貫通する。
そのダメージを受けて、苦悶の声をあげてのた打ち回るジャイアントラット。
これで僕がもっと高レベルならこの一撃でも倒せるんだろうけど、今の攻撃魔力では後2~3発打ち込まないと倒せないだろうから、この隙にお父さんの追撃で止めを刺してもらおうと思ったんだ。
けど……あれ? なんでお父さん、そんなところで棒立ちしてるの?
「なにやってるの、おとうさん! ぼくのまほうじゃやっつけられないから、はやくたおして!」
「んっ? ああ解った、任せろ!」
僕の言葉に反応したお父さんは、やっと動き出してジャイアントラットとの距離を一気に詰めてブロードソードを一閃! いとも簡単に首を切り落として仕留めちゃったんだ。
流石お父さんだ。あんな魔物なんて本当は僕の援護なんて無くても簡単に狩れたんだろうなぁ。
さっき棒立ちだったのも、きっと僕が何発か撃って、どれくらい威力があるかを見てから倒すつもりだったのかもね。
「おとうさん、やったね。でもぼく、まだマジックミサイルを1どに1ぱつしかうてないから、つぎからはまってくれなくていいよ」
「ん? ああ、そうか」
あれ、なんかお父さんの返事が変。て言うか、何か考えてるみたいだ。
どうしたんだろう? 今狩ったジャイアントラットが何かおかしかったのかなぁ? あっそう言えばこんな所にいるのは珍しいって言ってたっけ。それを気にしてるのかも。
そう思いながら見てたら、お父さんはジャイアントラッドに近づいて胴体の辺りを観察し始めたんだ。
あれって確か僕がマジックミサイルを当てた辺りだよね? って事は、僕の魔法がどれくらい使えるのか見てるのかも。
村に帰ったら狩りの仲間に入れてくれるって話だし、僕の魔法の威力を知っておきたいのかなぁ?
攻撃魔法って言っても、いつもお父さんが一緒に狩りをしている村の人の弓よりも弱いだろうから、どれくらい違うかもしっかり頭に入れておかないと危ないもんね。
そんな事を考えているとどうやら威力を確かめ終わったみたいで、お父さんはジャイアントラットの後足をひもで縛り、前足に店で買ったアミュレットの付いた魔道具を付け始めたんだ。
そして後足を縛った紐を太い枝に引っ掛けてから魔道具を発動させて、
「よっと」
なんと紐を引っ張ってジャイアントラットを吊り上げちゃったんだ。
これにはホントびっくり! だってあのジャイアントラット、どう見ても何百キロもの重さがありそうなんだもん。それを簡単に吊り上げてしまうなんて、いくらお父さんでも考えられない事だからね。
そんな光景に呆気に取られている僕をよそに、お父さんは前足の付け根に切り込みを入れ、腹も割いて血抜きをして行く。そのせいで周りに充満した鉄臭い匂いをかいだ事で僕は正気を取り戻し、やっとその疑問をお父さんに聞いてみたんだ。
「おとうさん、なんできょうはそんなにちからもちなの? いつもならそんなおもいもの、つりあげられないよね?」
「ああ、そう言えば買った時に説明しなかったな。それはこの魔道具のおかげなんだ。これはつけた物を最大1000キロまでを上限に重さを10分の1にする事ができる魔道具でな、こいつがないと大きな獲物なんて狩れないから、グランリル近くの森でも必須の魔道具なんだよ」
そうなのか! なら納得。
たとえジャイアントラットが600キロくらいあっても、この魔道具を使えば60キロになるって事だもん。
それくらいお父さんなら簡単に持ち上げる事が出来るし、枝に引っ掛けた紐で吊り上げるのなんてもっと簡単だろうね。
こうして吊り上げられたジャイアントラットは、このまま血抜きが終わるまで放置。
その間にさっき狩りに使った魔法の事を、お父さんは僕に聞いてきたんだ。
「なあルディーン。さっき使った魔法、胴体に当ててたよな? あれは狙った場所に当てられるのか?」
「マジックミサイル? うん、できるよ! うごいてるのはむりだけど、いつもさきにみつけたときは、おにくがいたまないようにあたまをうってるもん」
その僕の返事に、お父さんはなにやら考え込むようなしぐさをしたんだ。
どうしたのかなぁ? 弓だってある程度狙ったところに当てられるし、別に魔法でもできたっておかしくないよね?
あっそうか、逆だ。弓と同じ様に使えるかどうかを知りたかったのかも?
使い勝手が大きく違うんだったら、一緒に狩りをするのにいつもと違う動きをしなきゃいけなくなるけど、同じ感覚で僕が魔法を使えるならいつも通りの方法で狩りができるもんね。
僕はそう考えて一人うんうんと頷いていたんだけど、どうやらお父さんが考えていたのは違う事だったみたいなんだ。
「ルディーン、これの血抜きが済んで森の入り口まで運んだら、もう一度森の奥へ行くぞ。お前の魔法で検証したい事がある」
どうやらお父さんは、僕の魔法に弓とは違った使い方を思いついたみたい。
僕にはまったく思いつかないけど、いつも狩りをしているお父さんの事だからさっきのを見て物凄い発見をしたのかもしれないね。
読んで頂いてありがとうございます。
30話を超えて、皆さんがこの作品をどう考えているのか気になっている今日この頃です。
できたら感想を頂きたいのですが、それが無理なら評価だけでも入れていただけるとありがたいです。




