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435 おんなじ実でも1個1個違うかもしれないから調べてみるんだって


 ロルフさんがしてたニコラさんたちのお話が終わると、今度はバーリマンさんがペソラさんに声を掛けたんだ。


「ところでペソラ。ベニオウの実はちゃんと届いているわね」


「はい。持って来てくれたフランセン家の人たちにそのまま厨房に運び込んでもらって、今は冷蔵庫で保管しています」


 ロルフさんがバリアンさんに、自分ちの人が近くにいるはずだからローランドさんを呼びに行くついでに声を掛けてベニオウの実を錬金術ギルドに運んでもらっといてって言ってたでしょ?


 そのおかげで僕たちが森から採ってきたベニオウの実は、ちゃんと錬金術ギルドの冷蔵庫に入ってるんだって。


「なら良かったわ。では、伯爵。色々な事で手間を取られてしまって時間もあまりありませんが、せっかくですから森から採ってきてもらったベニオウの皮だけでも今日中に調べてしまいましょう」


「うむ。そうじゃな」


 ホントは今日、午前中にベニオウの実を採ってきて、そのまんまいろんな事を調べるはずだったでしょ?


 でも僕が買ったお家を見に行ったり、ニコラさんたちのこれからの事を決めたりしてたもんだからもう夕方近くなんだよね。


 だからポーションを作る実験はもうできないけど、でも採ってきたベニオウの皮を調べる事くらいはできるから、とりあえずそれだけでもやってみようって事になったんだ。



 という訳で、みんなしてぞろぞろと錬金術ギルドの厨房へ。


 そしたらね、ペソラさんがたったったって冷蔵庫の方へ走ってって、扉を開けながらバーリマンさんに聞いたんだよ。


「調べるだけって事は、あまり多くは必要ないですよね? 何個出せばいいですか?」


「そうね。調べるだけなら1個あれば十分だけど……そんな聞き方をするって事は、ペソラ。あなた、調べるのは皮だけだからと言って実を食べるつもりね」


「ばれました?」


 バーリマンさんに言われて、えへへって笑いながら頭をかくペソラさん。


 ロルフさんとバーリマンさんが作ってみようって思ってるポーションは皮しか使わないって話だから、それを聞いたペソラさんはその間に残った実を食べようって思ったみたいなんだ。


 ベニオウの実、とってもおいしいもんね。


 でも、どうせ食べるんだったらいっぱい食べたいでしょ?


 だからほんとは1個でいいって解ってるのに、何個出したらいい? って聞いたんだってさ。


「まぁ、いいわ。せっかく冷蔵庫で冷やしてあるのだし、人数分出して切ってちょうだい」


「はい、解りました!」


「ただし、調べるのだからちゃんと皮はむくのよ? そのまま食べた方がおいしいからと言って、1個だけむいて後はそのままなんて事はしないように」


 ちゃんと皮をむいて食べる普通のベニオウの実と違って、僕が採ってきた森の奥になってる実は皮に魔力がいっぱい入ってるからそのまんま食べた方がおいしいんだよね。


 それはペソラさんも当然知ってるから、バーリマンさんは1個だけじゃなくちゃんと全部皮をむいてねって。


「えっ、全部ですか? このベニオウの実、柔らかすぎてむくのはかなり大変なのですが」


 でもね、それを聞いたペソラさんはびっくり。


 だってこのベニオウの実、ちょっと力を入れて握っただけでも簡単に潰れちゃうくらい柔らかいんだもん。


 だからそれを人数分、全部むくのはすっごく大変なんだけど、


「それは解っているけど、このベニオウの実は実験のためにとわざわざルディーン君に採ってきてもらった物なのよ? それを食べてしまう訳にはいかないでしょう」


 バーリマンさんにこう言われちゃってもんだから、ペソラさんはしょぼんってしちゃったんだよね。


 でもね、それを見た僕は、なんだか可哀そうになっちゃったんだ。


「バーリマンさん。僕ね、今日は頑張ってベニオウの実、いっぱい採ってきたんだよ。だからちょっとくらい食べちゃっても、多分大丈夫なんじゃないかな?」


「あら、そう? 少しくらいなら食べてしまってもいいの?」


「うん! だからね、ペソラさんが全部むかなくってもいいって思うんだ」


 僕がそう言うと、バーリマンさんはちょっと考えたんだ。


 でね、僕がそう言うんだったら、少しくらいはいいかなって。


「ルディーン君もこう言ってるし、それなら全部むく必要はないわね」


「解りました。ありがとう、ルディーン君」


「うん」


「ただし皮つきで切り分けた後、全部の実から1個ずつ取り出して、その皮をむいて取り分けておいてね。そうすれば実によってどれくらい魔力量が違うのかを調べることができるから」


 バーリマンさんはね、せっかく何個か食べる事になったんだから、その全部からちょっとずつ皮を取って調べてみたいんだって。


 だからペソラさんはベニオウの実を8つずつに切ってって、その全部の実から1個ずつ取り出しては皮をむいてったんだ。


「このようなやり方でよかったですか?」


「ええ。伯爵、これくらいの大きさがあれば、いろいろと調べることができますわよね?」


「うむ。今日はあくまで皮の成分を分析するだけじゃからのぉ。ここからポーションを作ってみようという訳ではないのじゃから、それで十分じゃ」


 でね、その皮を見たバーリマンさんとロルフさんは、これくらいあれば大丈夫だよって。


 って事でむいた皮は一旦そこに置いといて、残った実の方をみんなで食べる事にしたんだ。



「おお。ベニオウの実は何度か食べた事があるが、確かにこれは別物と言っていいほどの美味だな」


 このベニオウの実ってとっても柔らかいから、イーノックカウから村まで持って帰ろうと思ったらすっごく大変なんだよね。


 だからお爺さん司祭様んとこにはお酒は持ってったことあるけど、実の方は持ってったことが無いんだ。


 そんな訳で森の奥になってる方の実は初めて食べたそうなんだけど、そしたらすっごくおいしかったもんだからびっくりしちゃったみたい。


「そうじゃろう。わしも初めて口にした時は、かなり驚いたものじゃよ」


「うむ。帝国広しと言えど、これほどの果実は他の地でも出会った事は無いのぉ」


 お爺さん司祭様はね、まだ偉い大司教様だったころは神殿から、いろんなとこへ行ってねって言われる事が多かったんだって。


 でね、そういう時はせっかく遠くまで来たんだからっておいしいものをいっぱい食べてたそうなんだけど、でもこのベニオウの実ほどおいしい果物はどこでも食べた事ないよって言うんだ。


「惜しむらくは、実がもろすぎて輸送に耐えられない事だな」


「うむ。わが……あ~この街の領主も、もし運べるのであれば次の社交シーズンに帝都でふるまうものをと残念がっておったわ」


 ロルフさんが言うにはね、こんなに美味しいんだからイーノックカウの領主様もいろんな人に食べさせてあげたいなぁって思ったんだって。


 でも柔らかすぎてすぐに潰れちゃうから、持ってくのはあきらめたそうなんだよ。


「社交シーズンにとな? それならばマジックバッグを使えばよいではないか。領主なのだから、当然持っておるであろう?」


「馬鹿を言うな。皇帝陛下への献上品なども運ばねばならぬのだぞ。所有しておるマジックバッグはそれらだけで容量がいっぱいじゃよ」


「ふむ。確かに、言われてみればそうかもしれぬな」


 お爺さん司祭様の言う通り、マジックバッグだったら柔らかいベニオウの実でも大丈夫なんだよね。


 でも領主様が帝都に行く時は、荷物をいっぱい持ってかないとダメでしょ?


 だからその中でも高いものはマジックバッグに入れちゃって、護衛しなきゃいけない馬車の数を減らすんだってさ。


「そして何より、今はまだルディーン君がおらねばこの実を収穫する事さえ出来ぬからのぉ」


「そう言えばそうか。確かにこの子がおらねば、いくら領主が社交の武器にと望んだとて手に入れるのはちと難度が高すぎるであろうな」


 ロルフさんとお爺さん司祭様はそんな事を言うと、二人して僕の顔を見ながらおっきなお口を開けてわっはっはって笑ったんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 休日変更のおかげで時間ができたからと、わざわざ過去の話まで読み返して準備をしたのに、ポーションの下準備にかかるどころか、ベニオウの実をみんなで食べて終わってしまったw


 でもまぁおいしい果物を前にして実験ばかりと言うのもなんだから、こうなるのも仕方ないかもしれませんね。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 司祭様、初ルディーン産ベニオウ!(お酒は除く) 各地を回っても食べたことが無いおいしさ。 まぁ他所にもこの規模の森があったところで グランリル村くらいの人が居ないと取りに行けませんからねw…
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