434 ペソラさんはとっても心配してくれてたんだって
ニコラさんたちとお別れした後、僕たちは見慣れた赤っぽいオレンジ色した三角お屋根の錬金術ギルドに帰ってきたんだ。
カランカラン。
「いらっしゃ……ああ、ギルマスたちでしたか」
でね、赤い扉をうんしょって開けて中に入ってくと、カウンターにいたペソラさんがにっこり笑いながらおかえりなさいって迎えてくれたんだ。
「ただいま。留守中に何か問題は無かった?」
「はい。誰も訪れることなく、いつも通りの錬金術ギルドでした」
冒険者ギルドや商業ギルドは、お仕事のためにどうしても来なきゃダメだからいっつも人がいっぱいいるでしょ?
でも錬金術師さんたちは材料を薬局で買ったり冒険者さんに採取をお願いしたりするもんだから、何かすっごいポーションが見つかったとかみたいに特別な事が無いかぎりこの錬金術ギルドに集まってくる事は無いんだってさ。
「問題が起こっていないのならいいわ」
「それよりギルマス。ルディーン君が巻き込まれたトラブルって何だったんですか? 一緒に帰って来たという事は、無事解決したって事なんですよね?」
そう言えば冒険者ギルドのお爺さんギルドマスターは、ロルフさんを呼んで来てって言ってたんだよね。
でも呼びに行ったボルティモさんが僕がトラブルに巻き込まれたって言い方したもんだから、ロルフさんは詳しい話は行く途中で聞くからって大急ぎでバーリマンさんやお爺さん司祭様を連れて錬金術ギルドを出てっちゃったそうなんだ。
だからね、そのせいでペソラさんはみんなが帰ってくるのを待ってる間、どんな大事件が起こったんだろうってずっと心配してたんだってさ。
「ああ、その事に関してはペソラも察した通り無事解決したわ。事の起こりは、森の中で窮地に陥っていた3人組の冒険者パーティーをルディーン君が助けた事らしいわ。でもその時にルディーン君が治療に使った魔法がかなり特殊なものだったみたいでね、その対処に必要だと冒険者ギルドが判断したせいで伯爵が呼ばれたらしいのよ」
バーリマンさんはね、ニコラさんたちがゴブリンに襲われた事や、その時ユリアナさんとアマリアさんの足首が取れちゃった事、そして僕がその足を魔法で治してあげた事をペソラさんに教えてあげたんだ。
「切り落とされた足を、魔法でですか?」
「ええ。ただその事象を見れば解る通りこの魔法はかなり特殊なものでね、その治療費が問題になったのよ」
ペソラさんは、どうやら取れちゃった足をくっつける魔法がある事を知らなかったみたい。
だからこのお話を聞いてびっくりしたんだけど、その後にバーリマンさんが話した治療費を聞いてもっとびっくりしちゃったんだよね。
「それほどの治療費がかかるのですか……」
普通の人はね、買い物をする時に金貨を出したりしたらおつりが大変だからって、あんまり持ってないんだって。
その金貨が何百枚もいるって聞いて、ペソラさんはそんなすごい魔法なんだってびっくりしたみたい。
でもそんなペソラさんに、バーリマンさんはニコラさんたちが実はすっごく運が良かったんだよって教えてあげたんだ。
「確かに治療費だけを聞けば、今のあなたのように誰もが驚く事でしょう。でもね、ペソラ。彼女たちはとても運がいいのよ。なぜならこの魔法は、お金があるからと言っても必ず使ってもらえるものではないのだから」
「どういう事ですか?」
「ふむ。それに関しては、わしから説明する方が解りやすかろう」
治癒魔法の事をあんまり知らないバーリマンさんが説明するよりもいいだろうからって、ここからはお爺さん司祭様が続きのお話をしてくれる事になったんだよ。
「この魔法はな、そもそも習得しておる者があまりおらぬのだ。実際、帝国有数の人口を誇るこの街の中央神殿でさえ、使えるものはごく僅かであろうな」
「そんなに、大変な魔法なのですか?」
「うむ。神官はルディーン君の住むグランリルの村人たちの様に、魔力溢れた森に巣くう魔物を狩ってレベルを上げるわけではないからのぉ。それゆえ使えるようになるには、長い年月を必要とするのだ」
神官さんたちはね、魔法を使っておケガを治す事でちょっとずつレベルを上げてくんだって。
だからキュア・コネクトを使えるレベルになった頃にはみんな、どうしてもお爺さんやお婆さんになっちゃうらしいんだよね。
「そして使えるレベルに達したものでも、そのすべてがこの魔法を習得できるわけではない。この魔法を使える程修練を積んだものたちは当然皆高位の神官になっておるから、仮に使えるレベルに達したものがおったとしても、その教えを乞うための時間をあまりとってはくれぬのだ」
魔法の呪文って、発音がちゃんとしてないと発動しないでしょ?
だから使える人に目の前で呪文を唱えてもらって、それをちゃんと発音できるように練習しなきゃダメなんだ。
でもこの魔法って使える人は神殿でもレベルが高い人たちばっかりだから、みんなすっごく偉くなっちゃっててとっても忙しいんだって。
そのせいでその人たちに教えてって頼んでも、忙しいからヤダって言われちゃうんだってさ。
「その上覚える方も年を取っておるからのぉ。若人のように簡単に習得する事などできぬのだよ」
「確かにそのような条件下だと、その魔法を使えるようになるだけでも大変でしょうね」
「うむ。それにな、この魔法は切り落とされた体の一部をつなぎ合わせる魔法でな、それ故に治癒をなすのにはつなぐべき体の一部が完全な形で残っておる必要があるのだ」
「完全な形で、ですか?」
「うむ。だから魔物に食い千切られたりした時はもちろん、数日たってその部位が腐ってもこの魔法は成功せぬ。だからこの魔法を使った治療を受けるためには、傷を負った場所の近くにこの魔法の使い手がおり、なおかつそのものがすぐに治療できる状況にあるのが絶対条件なのだ。だからこそ先ほどギルマスが言った通り、この魔法は金があるからと言っても使ってもらえるとは限らないのだ」
イーノックカウみたいなおっきな街の大神殿でも使える人はあんまりいないんだから、もっとちっちゃな町の神殿にはいるはずないよね?
だからこの魔法を使ってもらう場合、普通は条件である取れちゃった手や足が腐っちゃう前に使える人がいるとこまで行く事自体がすっごく大変なんだって。
それに近くにいたとしても、とっても偉くて忙しい人だと行ってすぐに魔法を使ってくれるかどうかなんて解んないもん。
そんな訳で、取れちゃった時に僕がそばにいたニコラさんたちは、とっても運が良かったんだよってお爺さん司祭様は言うんだ。
「これは冒険者ギルドでも話していたことですけど、そもそもこんな高額な治療費、低ランクの冒険者が持っているはずありませんから、ルディーン君がいなければ彼女たちは二度と歩く事ができなくなっていたでしょうね」
「うむ。その上ルディーン君が引き取る事になったおかげで借金奴隷にもならずに済んだのじゃから、あの娘らの運はかなりものじゃろうな」
それに横でお爺さん司祭様のお話を聞いてたバーリマンさんとロルフさんも、ニコニコしながらニコラさんたちはほんと運がいいねって言うんだよね。
でも、
「えっ? ルディーン君が引き取るってどういうことですか?」
「ああ、それはのぉ」
お話を聞いてたペソラさんは、ロルフさんが言った僕が引き取るって言葉の方に反応したみたい。
だからロルフさんはこの後、ニコラさんたちが僕の所属っていうのになるまでのお話をペソラさんにしてあげる事になっちゃったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
留守番してたペソラさんですが、ルディーン君の事で大変な事が起こったからとロルフさんたちが急いで出て行ってしまったものだから、実は結構心配していたんですよ。
なにせ彼女はルディーン君と違ってロルフさんがイーノックカウの元領主であり、伯爵家の人間であることを知っていますからね。
そして当然冒険者ギルドがその事を知っているのも解っているので、そんなロルフさんを呼びよせるだなんてどんな大事件なんだ? っと思っていました。
でもまぁ実際に起こっていたのは心配するような大事件ではなく、ただ単にルディーン君がいつものようにまた無自覚にやらかしたってだけだったんですけどねw




