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40 森の歩き方とサブジョブ


 探索の為に森に入ったと言っても、別にすぐ未開の地になっているなんて訳じゃなかった。


 それはそうだよね、だってここは多くの人が採取や狩りに来ている森なんだから。


 当然森に入ってもしばらくは道が続いているし、周りを見れば薬草を探している人や薪に使える枯れ枝を拾っている人のおかげで、ある程度整備された森のようになってたんだ。


「流石にこの辺りでは森の歩き方を教えるも何もないから、もう少し奥へ行くぞ」


 と言う訳で僕たちはもう少し森の奥へ。


 そのうち道の周りの草もある程度高くなり、木の隙間から見える奥の景色もに葉っぱに太陽が遮られて少し暗くなってきてて、なんか入って来るな! って言ってるみたいに静まり返るようになっていったんだ。


 するとお父さんは立ち止まってから周りを見渡すと、なんか納得したみたいな顔をして小さく頷いた。


「これではまだ手付かずの森とまではいかないけど、これくらい荒れているのなら森の歩き方を覚えるには十分だな。ルディーン、じゃあそろそろ森に分け入るぞ」


「うん! でもおとうさん、こんなにくさがいっぱいはえてるのに、まだひとがはいったあとがあるの?」

 

 周りを見渡したお父さんは、まだ人が入った痕跡があるって言ってるんだけど僕が周りを見渡してもそんな感じがまったくしなかったんだよね。


 だからそう言って聞いてみたんだけど、


「ほらルディーン、あそこを見てみろ、少し先の草が周りに比べて少ないだろ。あれは誰かがあそこから入って草を踏み、折ってしまった跡だ。こう言う痕跡は人だけじゃなく動物や魔物が通った後にも残るから、注意深く見ておかないとダメだぞ。それに村と違ってこういう多くの人が入る森にはたまに人の成果を奪おうとする悪い奴もいてな、そういう奴が待ち伏せしてるなんて事もあるから人が入った跡があるかどうかを見分けるというのは結構大事なんだ」


「そうなのかぁ」


 なるほど、ラノベなんかでよく見る野盗とかが出る可能性もあるんだね。


 野盗ってなんとなく街道を通る商隊とかを襲うってイメージがあったけど、言われてみれば薬草を採取しに来た人を襲う方が護衛が付いている商人を襲うより安全だから、そういう悪い奴がいるというのも解る気がする。


 そんな注意を聞いて、いよいよ森の中へ。


「待ち伏せも怖いが痕跡を見て入ってくる奴もいるからな、道からそれる時はなるべく痕跡を残さないようにするのも大事なんだ」


 お父さんはそう言いながら道近くの草を掻き分け、なるべく背の低い草や石で草が自然と切れているところに足を運んで森の中へと入っていく。


 僕はお父さんが踏んだ後をなぞるようにして歩きながら、どのような場所を選んだらいいのかをしっかりと頭に入れるように観察したんだ。


「おや? ルディーン。お前、草むらの歩き方を知ってるじゃないか。そうだ、森の中では普段とは違って足を常に草の間に滑り込ませるようにすっと静かに入れるようにして、周りの草をなるべく揺らしたり折ったりしないようにするのが基本だ」


「どうぶつに、ちかづいてるのがばれちゃダメだもんね」


 初めの内は知らなくて、獲物の近くまで走って行ってたから毎回逃げられてたんだよね。


 そこがダメなんだって教えてもらってからはなるべく音を立てないようにするように気をつけてたんだけど、どうやらその歩き方は森でも同じみたい。


「その通り。動物や魔物は音に敏感だからな。風で揺れる草木の音にまぎれるようにするのも大事なんだ」


「いつもやってる、かりとおんなじだね。じゃあさ、かざしもから、ちかづくのもおんなじ?」


「なんだ、ルディーンは普段からそんな事までしてたのか。まるで一端の狩人だな。道理で他の兄弟たちより小さいのに、獲物をいっぱい獲って来る訳だ」


 狩人じゃなく見習いレンジャーだけど、その一般職を手に入れるのに必要だった僕の身に付けた技術は森の中を歩くという点では十分に合格点がもらえるレベルだったみたいで、本当なら最初にするはずだったその説明を飛ばして動物の痕跡の見つけ方を教えてもらえる事になったんだ。


「魔物でも普通の動物でも、基本は同じなんだ。どちらも移動するルート、所謂獣道は決まっているから、それを見つけるのが獲物を見つける一番の早道だな。例えばこれ」


 そう言ってお父さんがある場所の草むらをちょっとかき分けると、なんとそこから小さな足跡が出てきたんだ。


 それを見てびっくりした僕は、なんで見つけられたの?! って聞いてみたんだけど、そしたらお父さんは簡単な事だよって笑いながら、


「さっき道から森へ入る時に人が入った形跡があるって話をしただろう? 基本はあれと同じで、周りの景色と違う所を探せば獲物の痕跡と言うものは案外簡単に見つかるもんなんだよ」


 って教えてくれたんだ。


 でも、僕にはそんな違いがあるだなんてまったく解らなかった。だってそこも周りも、みんな普通に背の高い草が生えてるんだもん。


「え~、でもぼくはそんなところにあしあとがあるなんて、ぜんぜんわかんなかったよ?」


「それはな、ルディーンがまだ森と言うものになれてないからだ」


 そう言うとお父さんはさっきかき分けた草むらと、その周りとの違いを詳しく説明してくれたんだ。


 細かいところは省くけど、大まかに言うと獣が歩く道は土が少し固くなって草が生えないから草と草の間がほんの少し開いていて、よく見ると細い線のようになっているんだとか、縄張りを主張する為にマーキング行為をする動物がいる森だと一部の木の周りだけ草が他の場所より育っているだとか。


 お父さんが言うには、まだ森と言うものがよく解っていない僕では見分けが付けられないかもしれないけど、何度も森に入っているうちにそれらが違和感のような感じで見分けられるようになるんだってさ。


「こればっかりは経験を積まないと見分けられないだろうから、すぐに身に付けられるようなもんじゃない。でもな、ルディーン。知識としてこういうものだと知っていなければ、いつまで経っても身に付ける事ができない種類のものでもあるんだ」


 そう言ってお父さんはもう一度、さっき足跡が見つかった草むらを指差した。


「ほら、あそこに痕跡があるんだと教えられてから見直すと、ほんの少しだけ草と草の間に隙間があるように感じるだろ? ルディーン、この光景をよく覚えておけよ。そうすればいずれお前も自力で動物の痕跡を見つけられるようになるからな」


「うん! ぼく、ちゃんとおぼえておくよ」


 僕はお父さんに言われた通り、さっきの足跡があった草むらをいろんな方向からよぉ~く観察した。


 そしたらなんとなく草むらの中にある細い一本道が解るような気がしてきて、それと同時にさっきお父さんが言っていた一部の木の周りだけが不自然に草が育っているような場所まで、なんとなく解るような気がしてきたんだ。


 ただ、そうだと思ったからと言って確かめずにきっとあれがそうなんだって決め付けちゃダメだと思う。だってそう思って覚えたのに実は違ってて、それが後から解ったりしたら大変だもんね。


 変な風に覚えてしまったら、正しい知識を身に付けるのにそれが邪魔になっちゃうだろうから、僕はお父さんに聞く事にしたんだ。


「ねぇおとうさん。さっきいってた、くさがよくのびてるばしょって、もしかしてあんなとこのこと?」


「ん、どこだ? ……ルディーン、何で解ったんだ? 確かにあれはその通りのモノみたいだけど痕跡としては比較的小さなものだから、さっきの説明を聞いただけで見つけられるようなもんじゃないだろ」


 う~ん、そう言われてもなぁ。解っちゃった理由なんて僕には……あっ!


 ある事に思いあたった僕は、こっそり自分のステータスを開いてみたんだ。

 するとサブジョブの欄の横にレンジャー《1/30》の文字が。


 どうやらお父さんに色々教えてもらった事で見習いレンジャーのレベルが10に達してジョブに進化したみたい。多分そのおかげで、僕は森の中の変化をより感じやすくなったんだと思うんだ。


 ただ、それをどうお父さんに説明したらいいのかが解んないんだよね。


 ステータスを見れる事を話してもいいんだけど、そんな事してまた本屋さんの時みたいに盛り上がられてもなぁ。


 僕はお父さんたちみたいな森に入って獲物を獲る人になりたいから、鑑定士の道もあるぞ! なんて言い出されたら困っちゃうもん。


 そんな事を考えてうんうん唸ってたら、その様子を見たお父さんはなんか勘違いしちゃったみたい。


「ああ、もういいから。どうして解ったかなんて聞かれても困るよな。お父さんが悪かった。解るものは解る、それでいいじゃないか」


「えっ? ああ、うん、そうだね。どうしてわかったかなんて、わかんないもんね」


 僕が解った理由が解らずに考え込んでしまったって思ったのかな? そう言って聞くのをやめてくれた。


 まぁ確かに、どうして解ったのかなんてどうでもいい事だもんね。


 そしてこのサブジョブは、それからお父さんに色々と教えてもらうのにとても役に立ったんだ。


 だってその後に薬草の探し方とか森の中での身の隠し方とかを教えてもらったんだけど、その悉くを僕は一度聞いただけでみんなできるようになっちゃったんだもん。


 ただ、そこは僕だって解ってるからちゃんとまだよく解らないって顔をして置いたんだ。だって、これは流石におかしいもん。


 お父さんに変な子だって思われるのはいやだから、僕は黙ってる事にしたんだ。




 ハプニングってのは、いつも突然やってくるんだよね。

 それは色々な事を教わって、そろそろ帰ろうかと森を抜けて先ほどの道まで戻った時の事だった。


 ドドドドドドドドッ。


 何か大きな生き物が僕たちに向かって走ってくるような音と共に、


「だっ誰かぁ、誰か助けてくれぇ~!」


 って言う男の人の叫び声が、道の奥から聞こえてきたんだ。


読んで頂いてありがとうございます。


30話を超えて、皆さんがこの作品をどう考えているのか気になっている今日この頃です。

できたら感想を頂きたいのですが、それが無理なら評価だけでも入れていただけるとありがたいです。

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