表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

430/756

423 なんか変なお部屋、見つけちゃった


 お風呂場を通り越してお家の奥に進んでくと、そこには何にもないおっきなお部屋が何個もあったんだ。


「バーリマンさん。ここは何するお部屋なの?」


「ああ、ここは本来、図書室や執務室、それと書斎などに使うつもりだったようね」


 広いのに何にも入ってないのは、使う時に机とか椅子、それに本棚とかを入れるつもりだったからなんだって。


 でもこのお家、お隣に作るつもりの商会の建物ができる前にバーリマンさんに売っちゃったでしょ?


 だからここには何にも入ってないんだってさ。


「しかし、何もないというのはかえって好都合じゃな」


「なんで?」


「それはじゃな、余計なものが入っておると、必要なものがある時に運び出さねばならなくなるからじゃよ」


 さっきバーリマンさんが教えてくれた通り、ほんとだったらここには本棚とかおっきな事務机とかが並んでるはずだったでしょ?


 でもこのお家には、ロルフさんちの人たちが来ることになってるんだもん。


 その人たちはメイドさんとか執事さんのお仕事のお勉強をするために来るんだから、そんなのいらないんだよね。


 だからもしそんなのがあったら先にお外に出さないとダメだから、何にもなくって良かったんだってさ。


「幸いここは調理場も近いですし、正門側の何部屋かはメイド見習いたちに給仕や接客の練習をさせる場にするにはもってこいですわね」


「うむ。それにこの区画には正門とは別の入口もあるからのぉ。何かの用事で外出する時に便利じゃから、これらの部屋は執事見習いたちの勉強の場に使うのにも都合がよい」


 この何にもないお部屋が並んでるとこは、縦に長いこのお家の真ん中あたりなんだよね。


 そこには、ほんとなら作るはずだった隣りの商会の建物とつなぐための入り口もあるからって、その入口から厨房やお風呂がある方に何個かあるお部屋はメイドさんたちが、そして奥にある何個かのお部屋は執事さんたちがお勉強に使う事になったんだ。


「ローランドよ。そういう事じゃから、後で必要となるものの手配を頼むぞ」


「畏まりました。旦那様」


 ロルフさんにそう言われたローランドさんは、近くのお部屋を見て周っては羊皮紙になんか書き込んでったんだよ。


 でね、一通り全部のお部屋を見て周ると、僕たちんとこに戻ってきたんだ。


「旦那様、お待たせしました。とりあえず必要となりそうなものは、一通り書き留めておきました」


「うむ。それでは、先に進むとしようか」


 と言う訳で、僕たちはまだ、みんなしてぞろぞろとお家の奥の方へ進んでったんだよね。


「あれ? ここ、なんか変」


 そしたらお家の端っこの方で、僕は変なお部屋を発見したんだ。


「ロルフさん。これって何のお部屋?」


「どれどれ? ふむ。これはまた、奇怪な作りの部屋じゃのう」


 そのお部屋はね、僕たちがのぞき込んでる側から全体の4分の1くらいが板の間になってて、その向こう側は全部石畳になってるって言う、変なとこだったんだ。


 でね、その奥の壁にはお外へ出てくためのドアがついてるんだけど、その他にはこのお部屋の中に何にもないんだよね。


「ここも、なんかを入れる前だったのかなぁ?」


「そうかもしれぬが……それにしてもこの造り、何に使うための部屋なのかがまるで想像できぬ」


 僕んちだとお部屋は板張りで、お料理するとこだけは土のまんまなんだよね。


 だから最初はちっちゃな厨房なのかなって思ったんだけど、机とかの家具と違ってかまどは煙を逃がす煙突がいるから最初っから作っとかないとダメでしょ?


 そりゃあ魔道コンロを使うんだったら後からでも置けるけど、おっきな厨房が薪のかまどなんだからこんなとこにそんなのと置く訳ないよね。


 そんな訳で僕たちはお部屋の中を見ながら、ちょっとの間二人して頭をこてんって倒してたんだけど、


「誰か、ここがどのような用途に使われる部屋か、解る者はおるか?」


 ロルフさんはどうやっても思いつかなかったみたいで、周りにいるみんなに聞く事にしたみたい。


 でもね、バーリマンさんやお爺さん司祭様、それに執事のローランドさんまで代わり番こに中を見てくれたんだけど、だぁれもここが何のお部屋なのか解んなかったんだ。


「ふむ。ではそこの娘らはどうじゃ?」


「私たちですか?」


 だからね、ロルフさんはキルヴィさんたちにも聞いてみたんだよね。


「貴族様のお屋敷の中にある部屋の使い方なんて、私たちに解るはずないと思うんですけど……」


 お姉さんたちは、困った顔しながら僕たちと入れ替わってお部屋の中を覗き込んだんだけど、


「あれ?」


「この部屋って、あれよね?」


「でも、ここは貴族様のお屋敷よ。そんなはずないじゃない」


 そしたら今度は変な顔して、なんか3人だけでひそひそ話を始めちゃったんだもん。


 だから僕、このお部屋が何か知ってるの? って聞いてみたんだよ?


 でもお姉さんたちは、間違ってるかもしれないからって教えてくれないんだ。


「え~、間違っててもいいじゃないか!」


「うむ。ルディーン君の言う通りじゃ。そもそも用途が解らぬから聞いておるのじゃから、たとえ間違っておったとしても誰も困らぬであろう?」


「そうだよ! だからね、なんか知ってるなら教えて」


「そこまで言うのなら……」


 キルヴィさんはね、そう言うとお外につながってるドアまでとことこって歩いてったんだ。


 でね、一度周りをきょろきょろと見てからそのドアを開けると、


「部屋の中だけじゃなく外にもこれがあるって事は、やっぱりそうなのかなぁ」


 そう言って小さく頷いてからこっちに戻ってきて、僕たちにここが何のお部屋か教えてくれたんだよね。 


「この部屋とそっくりな場所が、私たちがいつも泊まっている宿にあるんです」


「ほう。して、その部屋はどのような用途の部屋なのじゃ?」


「ここは貴族様のお屋敷だから流石に同じように使うとは思えないですけど、いつも泊まっている宿にあるここに似た場所では私たちのようなお金が無い冒険者が、今のように暖かい季節は井戸の水を頭からかぶったり、寒くなってきたら少しのお金でお湯をもらって体を拭いたりするのに使っています」


「ええっ! じゃあここ、お風呂なの?」


 これには僕もロルフさんもびっくり。


 特にロルフさんは、いくらなんでもそんなはずないよって言ったんだ。


 でもね、キルヴィさんはやっぱりそうとしか思えないんだって。


「でもあそこの扉、あれを開けるとすぐそこに井戸があったんですよ。それにこの石畳もほら、少しだけ外に向かって傾いていているでしょ? それに壁沿いには外に水を出すための溝まで掘ってあるし」


「なんと!」


 そう言われて僕が慌てて見に行くとね、キルヴィさんが言った通り壁の下んとこに溝が掘ってあって、その先にある小さな穴からお水が外に出てくようにしてあったんだ。


 それにね、ドアを開けてみるとそこにはほんとに井戸まであったんだもん。


 それを見た僕は、お姉さんたちが言ってることがあってるんじゃないかな? って思えてきたんだ。


「旦那さま。お嬢さん方の推測は、どうやら合っているようでございます」


 それにね、ロルフさんちの執事さんもお姉さんたちは本当の事を言ってるよって言うんだ。


「それはどういう事じゃ、ローランド」


「はい。今この辺りを見て周ったのですが、この近くには他よりも明らかに小さな部屋がいくつかございました。そこから考えますと、この区画は使用人たちがそれらの小さな部屋で寝泊まりし、この場所で汗を流せるようにと考えて設計したのかと思われます」


 このお部屋があるとこは、このお家で働く人たちが住むはずの場所だったんじゃないかなってローランドさんは言うんだ。


 だからこのお部屋も多分、そういう人たちが体を洗うのに使うとこなんじゃないかなって。


「じゃが、あれほど大きな風呂があるではないか。ならばその残り湯で汗を流せばよかろう?」


 ロルフさんちはね、いっつも住んでるお家だけじゃなくって東門の外にあるお家の方でも、毎日お風呂を沸かしてそのお湯でみんな体を洗ってるらしいんだ。


 だから貴族のお家なのに、そこで働いてる人がこんなとこで体を洗ってるなんて思わなかったみたい。


 でもね、ローランドさんがそれは違うよって。


「確かに日常的にあの浴場を使っていればそうでしょう。しかし先ほど司教様が仰られた通り、よほど重要なお客様が宿泊されない限り使う事はなかったのではないかと思われますので」


「そう言われると、確かにそうじゃのぉ」


 でもね、ここのお風呂はいっつも使ってるわけじゃないでしょ? って言われたら、そうかもしれないなぁって納得したみたい。


「ここの持ち主であった準男爵様は、下級とはいえ貴族です。その館で働く者たちが清潔な身なりをしていなければ、どのような噂が立つか解りません。ですから、このような設備を作ったのではないでしょうか」


「うむ。ここは本宅ではないと言うし、普段管理を任されているものたちのための場所と考えれば、このような部屋を作るのも解らぬでもないか」


 ロルフさんはそう言うと、長いお髭をなでながら深く頷いたんだ。


 でもね、


「家人のための場所と一応は納得してはみたが、下級貴族の中には風呂を沸かす薪代にも困っておる者がいるとも聞く。まさか、準男爵までここを使うつもりであったなどという事は……いやいや、それは流石に……」


 それからちょっとの間、ロルフさんは難しいお顔をしながら、僕たちに聞こえないくらい小さな声でなんかぶつぶつ言ってたんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 本当だったら、前回の話のオチはこれだったんですよ。


 でも流石に長くなりすぎそうだったので二つに分ける事にしました。


 因みにですが、ロルフさんの言う通り、貴族の中には社交シーズン以外は他の貴族に会わないからと言って毎日お風呂に入らない人もいるんですよね。


 でもこの館の元の持ち主である準男爵は本宅にお湯を沸かす魔道具を持っているので、ちゃんと毎日お風呂に入っています。


 そりゃそうですよね、だって失敗したとはいえ商会を立ち上げようとしたほどの人なのですからw


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 貴族本人にはなじみのない部屋だからわからないのも仕方ないですね。 部屋の用途を見抜いたことでお姉さんたち初めて役に立ったのでは!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ