420 すっごい馬車に乗るのは怖いんだって
ルルモアさんがギルド職員さんに僕の居住権申請の書類を渡したもんだから、もうこの部屋でお話する事は無くなっちゃったでしょ?
だから僕たちは、1階の受付横にある休憩場所に移動したんだ。
そしたらね、それからすぐに入口からロルフさんちの執事であるローランドさんが入ってきたんだ。
「旦那様、お呼びとの事でしたので参りました」
「おお、来たかローランド」
でもね、一緒に戻ってくるって思ってたバリアンさんたちは、何でかそこに居なかったんだ。
だから僕、バリアンさんたちはどうしたの? って聞いてみたんだよね。
そしたらローランドさんは、冒険者ギルドまでは馬車で行くから走ってついてくるのは大変だろうし、僕の護衛も終わっちゃったからバリアンさんたちにもう帰っていいよって言ったんだってさ。
「そっか。僕、さようならしたかったんだけどなぁ」
「それは気が利かず、申し訳ありませんでした。ですがルディーン様、これが最後と言う訳ではありません。この街に館を構えるのでしたら、これからも彼らと行動を共にする事はあると思いますよ」
ローランドさんはね、もう会えなくなるわけじゃないんだから次の時はちゃんとご挨拶すればいいよって言うんだ。
そう言えば僕、これからお家を買うんだった。
だったら今までよりもっとイーノックカウに来ることが多くなるだろうし、そしたらバリアンさんたちと会える事もあるよね。
それからちょっとの間、ロルフさんは僕がイーノックカウの居住権をとるための保証人になるから、そのお話を家族のみんなにしてねっていうお話をしてたんだ。
でね、そのお話が終わったところで、バーリマンさんがこんな事を言い出したんだよ。
「ローランドが馬車で来たと言うのでしたら、ちょうどいい機会ですわ。伯爵、これからルディーン君に譲る館を見に行きませんか?」
僕がバーリマンさんからお家を買うってのは決まってるけど、そこがどんなとこかはまだ知らないでしょ?
だから先に見といた方がいいんじゃないかな? ってバーリマンさんは言うんだ。
「館をか? うむ、それは確かによい考えじゃのぉ。ローランドよ。乗ってきた馬車は今ここにおる皆で乗れる大きさか?」
「はい、旦那さま。バーリマン様とルディーン様、それに司教様と3人のお嬢さんでしたら十分に乗る事が出来ます」
そしたらロルフさんも、先に見といた方がいいよねって。
って事でローランドさんに、乗ってきた馬車はみんなが一緒に乗れるくらいの大きさなの? って聞いたんだよ。
そしたら大丈夫だよって答えてくれたもんだから、みんなしてバーリマンさんが持ってるっていうお家を見に行く事になったんだ。
でもね。
「むっ無理です! こんな高級そうな馬車、乗れません」
冒険者ギルドの前にとまってたロルフさんちの馬車を見て、キルヴィさんたちがこんな凄い馬車に乗れないって言い出したんだよね。
「そうです。私たちなんかが乗って、もし汚してしまったりしたら!」
「いやいや、汚れたのならば掃除すればよいだけであろう?」
「しかし、もし防具をどこかに引っ掛けて壊したりしたらと思うと、怖くて震えが止まりません」
「私たちは冒険者ですから、走っても十分ついて行けます。ですから馬車には皆さんだけで乗っていってください」
こんな風にキルヴィさんたちは、走ってついてくからいいよって言うんだ。
そしたらそんなキルヴィさんたちを見て、ローランドさんがロルフさんにこう言ったんだよ。
「旦那様。深緑の風の皆さまでも、この馬車に乗るのは無理と申しておりました。乗せた時の緊張による心労を考えますと、ここは無理におすすめせず、彼女たちの言う通りになされた方がよろしいかと」
「うむ。無理強いはよくないからのぉ」
って事で馬車には僕たちだけが乗って、キルヴィさんたちはその後ろから走ってついてくる事になったんだ。
バーリマンさんが持ってるって言うお家は、商業地区の端っこにあるんだって。
だから冒険者ギルドからはちょっと離れてるんだけど、途中には屋台街があって人がいっぱい居たもんだから馬車もそんなに早く走れなくって、キルヴィさんたちはそのお家に着くまで何とかついてこれたみたいなんだよ。
でもね、そんなに頑張って走って来たのに、ついた場所に建ってたお家を見たキルヴィさんたちはすっごくびっくりしたお顔になっちゃったんだ。
「あの、錬金術のギルドマスター様」
「キルヴィさんでしたっけ? どうかしました?」
「えっと、さっき敷地は広いけれど、館はそれほど大きくはないと言ってませんでしたか?」
そこはね、入口んとこに鉄でできた立派な門があって、その奥にはすっごくきれいなお庭があったんだよ。
でね、そのお庭の向こうには、青いお屋根の立派な二階建てのお家が建ってたんだ。
「あら、それほど大きくはないですわよね、伯爵」
「うむ。東門の外にある、わしの別宅よりも小さいな」
ロルフさんの言う通り、そのお家はいっつも行ってるロルフさんちよりちっちゃいんだよね。
でも、僕んちとかと比べるとすっごくおっきいんだ。
だからキルヴィさんたちは、こんなおっきなお家だなんて思ってなかったみたい。
「まさか、こんな立派なお屋敷だなんて……」
「あら。仮にも準男爵が所有していた館ですよ? 本宅ではないからこの程度の大きさですが、そんな粗末なところであるはずが無いでしょう」
バーリマンさんはそう言って笑うと、僕の手を引いてお庭の中に入ってったんだ。
「この館はね、別宅とはいえ準男爵家が使用するつもりで建てたのですから、小さいとはいえ設備は整っているのですよ」
「そうなの?」
「ええ。簡単に説明するわよ」
商業地区はね、お金持ちの商会があるところだからお水がいっぱい要るでしょ?
だからこの辺りの地下には、魔法で作った地下道を通ってイーノックカウの横を流れてるおっきな川の水が引いてあるそうなんだ。
でね、そのお水はこのお家にある何個かの井戸から汲み上げる事ができるんだってさ。
「後、この街にはそれとは別に、生活排水やトイレなどの汚物を捨てる地下道もあるのよ」
「えっと、それって僕の住んでる村にもある、スライムがお水をきれいにするとこ?」
「あら、ルディーン君。よく知ってるわね。ええ、そうよ。その地下道にもスライムがいて、それらの水を綺麗にして近くに流れている大きな川のイーノックカウよりも下流に流しているわ」
このスライムを使ってお水を綺麗にするところ、グランリルの村にもあるから僕はそんなにびっくりしなかったんだけど、こういうのって他の村とかちっちゃな町だと無いとこがあるんだって。
だからそんなとこから来た人たちは、イーノックカウはおトイレが臭くないってびっくりするんだってさ。
「ただ貧困街とかになると各家にまでこの地下道は通ってないから、この街でもそういう所に住んでいる人達はわざわざ自分で汚物を捨てに行かないといけないらしいわ」
「あのね、グランリルの村もおトイレはお家じゃなくって別のとこにあるんだよ」
「グランリルのような裕福な村でもそうなの? ああ、でも村のような共同体では、そのような使い方がいいのかもしれないわね」
僕のお話を聞いて、バーリマンさんはちょっとびっくりしたみたい。
でもね、こういうのはお金がかかるから、人があんまりいない村とかだとその方がいいのかもって。
この二つのお水が流れてる地下道って、お家の中まで引いてあるところはそれを使うためのお金を払わないとダメなんだって。
だからイーノックカウでも、お金持ちが住んでるお家にしかないんだってさ。
「僕、お家買ってもここに住まないよ? そのお金はどうしたらいいの?」
「ああ、それは大丈夫よ。お金がかかると言っても年間に銀貨数十枚しかかからないから、ルディーン君のギルド預金から勝手に落ちるようにしておけば何の問題もないわ」
僕のギルド預金、ロルフさんやバーリマンさんがいろんな物を特許申請してくれたおかげで毎年いっぱいお金が入ってくるんだって。
だから最初からいるお金はそこから落ちるようにしとけば、わざわざ払いに行かなくってもいいんだってさ。
「イーノックカウにはこの他にもいろいろと便利なサービスはあるのですよ。ですが、それは家を買ってから説明した方がよいでしょう」
このお家、お姉さんたちだけじゃなくってロルフさんちのメイドさんや執事さんたちも使うでしょ?
だからどんなのがいるのかまだ解んないからって、それは後にしましょうってバーリマンさんは言うんだ。
「それよりも、今は他を見て周る方がいいでしょう。それでは次はいよいよ、館の中を案内する事にいたしましょう」
バーリマンさんはそう言ってニッコリ笑うと、僕の手を引いてお家の入口に向かって歩き出したんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
イーノックカウほどの大きな街となると、流石に井戸を掘っているだけでは水が足らなくなります。
なので上下水道が完備されているんですよ。
ただ本文にあった通り、川からそのまま水を引いてくると雨が降ったりした時は水が濁ったりしますよね?
なので、実はここでも前に出てきたピュリファイの魔道具を使って水を浄化しているんですよ。
そしてこれは当然帝都などの中央にある都市でも同じですから、この魔道具を唯一作りだす事ができる(ルディーン君は除くw)神殿は、これでかなりのお金を稼いでいるという訳です。




