414 今じゃなくって将来の為なんだって
「何を言い出すのじゃ、ラファエル」
お爺さん司祭様が僕の商会を作ればいいなんて言ったもんだから、みんなびっくり。
その中でもロルフさんは特にびっくりしたみたいで、お爺さん司祭様に何言ってるの? って聞いたんだよ。
そしたらお爺さん司祭様は不思議な顔をして、逆に聞き返したんだ。
「ヴァルトよ。わしからすれば、何故おぬしがそれに思い至らぬのかが解らぬ。これから先の事を考えると、どう考えてもそれが一番正しい選択ではないのか?」
「正しい選択とな? ふむ。クーラーが売れているからそのような考えにいたったのかもしれぬが、目新しい魔道具とは言えいずれは世の中に浸透し需要も落ち着くじゃろう。ならば商会など作らなくてもよいのではないか?」
「ええ、そうですわ。それに自ら販売するのならともかく、特許にまつわるお金の管理だけでしたらわざわざ商会を作らなくてもよいと、私も思うのですが」
そしたらそれを聞いたロルフさんとバーリマンさんが、別に商会なんて作んなくてもいいんじゃないの? って。
でもね、そんな二人にお爺さん司祭様は呆れた顔して、そんなんじゃダメだよって言うんだ。
「まったく。おぬしらこそ何を言っておるのだ。今、わしらがなぜこの街に滞在しておるのかを忘れたのか? それともわざと、とぼけておるのかのぉ?」
お爺さん司祭様がそう言うと、ロルフさんとバーリマンさんは、はっとしたお顔をしたんだよ。
「どうやら思い出したようだな。考えてもみよ。あれがもし完成したら需要が途切れる事は未来永劫あるまい。そしてその時の功績は、開発者であるルディーン君が得るべきであろうが」
「うむ。確かにその通りじゃのう」
「はい。私も失念しておりました。もしあれが作れるようになれば莫大な利益を生むことになります」
そう言えば僕とお爺さん司祭様、お肌と髪の毛のポーションの事でロルフさんたちに呼ばれたんだっけ。
って事は、お爺さん司祭様はあのポーションを売る時の事を考えて、僕の商会を作んなきゃって思ったのかなぁ。
う~ん、でも僕、お薬屋さんになる気なんてないんだけどなぁ。
そんな事を考えてると、
「ちょっと待ってください。皆様、一体何のお話をなさっているのでしょう?」
話についてこれなかったルルモアさんが、お爺さん司祭様に何のことを言ってるの? って聞いてきたんだよね。
でもそれを聞いたロルフさんはね、それは教えられないよって言うんだ。
「これに関しては、匿名でさえ特許登録をする事ができないほどの内容なのじゃよ」
「フランセン老がそこまで言うとは。それはまた、かなりの大事のようですな」
そしたら今度は冒険者ギルドのギルドマスターまで、ロルフさんたちが何のことを言ってるのか知りたいって言い出したんだよね。
「おぬしは関係なかろう?」
「いやいや。これからルディーン君は、冒険者であるこの娘たちの主人になるではないですか。という事は必然的に巻き込まれることになる。ならば冒険者を預かるわしとしては、首を突っ込まざるを得ないのですよ」
そう言うとギルドマスターのお爺さんは、ちょっと怖い顔でニカッて笑ったんだ。
これにはロルフさんも、流石にちょっと困っちゃったみたい。
一度バーリマンさんとお爺さん司祭様の方を見た後、仕方ないなぁって言いながら教えてあげる事にしたんだよ。
「じゃがこれは先ほども言った通り、多くの者に知られては困る内容なのじゃ。じゃから話すのはギルマスのおぬしだけ……」
「待ってください。私はこのギルドでルディーン君の担当をしております。ですから私にもその内容をお聞かせいただけないでしょうか?」
でもね、本当なら他の人に話しちゃいけない事だからって、最初はギルドマスターのお爺さんにだけこっそり教えるつもりだったみたいなんだ。
だけどそれを見てたルルモアさんが、私にも教えてって言い出したんだよね。
「じゃがな、これはルディーン君の安全にもかかわる事じゃから」
「ロルフさん。僕もルルモアさんだったらいいと思うよ」
「ルディーン君……」
ルルモアさんはさ、僕がイーノックカウの冒険者ギルドに来るといっつも真っ先に気付いて話しかけて来てくれるもん。
そんなルルモアさんだったら、僕に悪い事するはずないでしょ?
だからお肌と髪の毛のポーションのお話をしたっていいんじゃないかな? って僕、思うんだよね。
「ルディーン君が話しても良い言うのであれば、わしらから反対するわけにはいかぬか」
「ええ、そうですわね。でも事が事ですから、ここで話すわけにはいきません。別に部屋を用意してもらって、そこでお話する事にしましょう」
僕がいいよって言ったおかげで、ルルモアさんもお話を一緒に聞くことになったみたい。
でね、そのお話をする場所を用意するために、ルルモアさんは部屋のお外に出てっちゃったんだ。
「ところでラファエルよ。商会を開くのはいいのじゃが、ルディーン君はこのようにまだ幼い。そして何より、この街に住んではおらぬ。これでどうやって商会を運営していこうと言うのじゃ?」
「何を言っておる、ヴァルトよ。ルディーン君の館をメイドの教育の場に使わせてほしいと、先ほど言っておったではないか」
待ってる間暇だからなのか、ロルフさんとお爺さん司祭様は僕が作るって言う商会のお話を始めちゃったんだよね。
「なんと。メイドに商会の運営をさせようと言うのか?」
「いや、そうではない。教育が必要なのは執事見習いや使用人見習いも同じであろう。ならばその者たちに商会の運営をやらせればよいではないか」
「なるほど。しばらくの間は実際に商品を扱う事もないじゃろうから、主な業務は特許に関する事務作業だけか。であるならば、執事見習いや使用人見習いの教育にはうってつけじゃな」
「ああそれでしたら、私の家からも数名出しましょう。ちょうど新しく雇った者たちがおりますから」
ロルフさんたちはね、こういうお話になれてるのか、いろんな事がどんどん決まってくんだよ。
でね、そんな中で一つ、僕がすっごくびっくりする事が決まったんだ。
「それではルディーン君が買うイーノックカウの館は、わしの所のライラ・ストールが取り仕切るという事で問題は無いな」
「はい。あの子でしたら、ルディーン君もよく知っているから安心ですものね」
なんとストールさんが、ロルフさんちから僕んちに引っ越してきてみんなの教育をするって事になっちゃったんだ。
これには僕、本当にびっくりしちゃった。
「ロルフさん。ストールさんって、ロルフさんちでも偉いメイドさんなんでしょ? ほんとにいいの?」
「うむ。彼女は元々わしの本宅におったのじゃが、新人を教育するのが上手くてのぉ。じゃから今は別宅を任せておったのじゃ」
ロルフさんが言うにはね、今まで別宅でやってたメイドさんや使用人さんたちの教育を僕んちでやるんだったら、ストールさんも一緒に引っ越した方が便利なんだよって教えてくれたんだ。
それにね、今ロルフさんちにある僕のお部屋のお掃除をしてくれてるメイドさんたちも僕んちに来るんだってさ。
「ルディーン君が家を買うのであれば、あの部屋ではなく自分の家に直接訪れた方がよいじゃろう? ならば新たに人を教育するよりも、今まで担当しておった者がそれにあたる方が都合が良いからな」
ジャンプの魔法って、他の人には秘密にしなきゃダメって言われてるでしょ?
だから新しいお家にジャンプのポイントを作るんだったら、今のお部屋を管理してくれてる人にやってもらった方が秘密が他の人にばれる心配が無いからいいんだって。
と言う訳でロルフさんたちがお話してる間に、なんとストールさんだけじゃなく僕のお部屋担当のメイドさんたちまで僕んちに引っ越してくることが決まったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
クーラーなどの魔道具と違ってお肌つやつやポーションや髪の毛つるつるポーションはルディーン君にしか作る事ができません。
そして今ロルフさんたちが研究している廉価版でさえ、ある程度錬金術のレベルが高い人でなければ作れないんですよね。
それに前に開発が成功した肌用石鹸にしても、実を言うとルディーン君が作ったお肌つるつるポーションを薄めて作っているだけなのでまだ売り出すどころか本当に一部の人にしか知られていなかったりします。
このような事情なので、仮に貴族限定で売り出すとしてもそう簡単に他所が作れるようになるなんてことはありませんから、必然的に製造販売する商会が必要となるんですよね。
お爺さん司祭様は、そのことを指摘してルディーン君の商会を作りましょうと提案したと言う訳です。




