閑話 クリスマスケーキが作りたかったのに
カールフェルト家次女、レーア目線。ルディーンが7歳の頃のお話です。
「ふんふんふぅ~ん、ふんふんふぅ~ん」
何かルディーンが楽しそうに歌いながら作業をしてる。
だからなにそれ? って聞いてみたら、外国のお祭りの歌だって教えてくれた。
ルディーンは色々と変な事を知ってるのよね。
まぁそれはいつも図書館で本を読んでるからだと思うんだけど。
かく言う今も私たちは、ルディーンが図書館で仕入れてきた物を作ってるんだけどね。
それは今朝のことだ。
「レーアねえちゃん。けーき、けーきつくろ!」
「けえき? なによ、それ?」
「あのね、あまくてふわふわのおかしだよ」
ルディーンが言うには、図書館にある本の中からお菓子の作り方が書いてあるものが見つかったそうなのよ。
「お菓子かぁ。でも何故私なの? お母さんに言えばいいじゃない」
「おかあさんにも、いったよ! でもさぁ、もうすぐあたらしいとしになるでしょ? だからレーアねえちゃんに、いいなさいって」
なるほど。そう言えばこの時期は年越しで休む為に森に入って獲物を獲ってきたり、料理を作り置きしないといけないんだっけ。
その作業で忙しいから、お母さんはルディーンを私のところに寄越したのね。
「解ったわ。でもルディーン。私もお母さんの手伝いはしてるけど、あまり料理はしたこと無いからうまくできるかどうか解らないわよ」
「だいじょうぶだよ! そのためのどうぐもつくったから」
道具? お菓子を作るのよね?
家には調理に必要な道具が一通りそろってるはずだ。なら何を作ったと言うんだろう?
そう思いながらルディーンに手を引かれて調理場に行くと、机の上に見慣れない道具が置かれていた。
「えっと、これって?」
「あわだてきだよ! これがあれば、らくちんなんだ」
あわだてき?
それがなんなのかは解らないけど、ルディーンが作った変な物って事は多分魔道具ね。
ルディーンは6歳くらいから魔道具というものに興味を持ち出して、簡単な物を作り出し始めたんだ。
初めの頃はただ羽根がくるくる回るだけの物を作っては、キャリーナと二人でそれを見ながらけらけらと笑ってたんだけど、つい先日、ついに役に立つ魔道具を作り出したのよね。
それは台車に回転する小さな鎌を取り付けた草刈機だ。
これは本当に便利なもので、今まであった草刈機と違って刃がむき出しになってないから安全に作業ができるのよ。
どうやらルディーンは自分が庭の草むしりが楽になるようにって作ったみたいなんだけど、それに目をつけた大人たちにずっとその台車式草刈機を作らされたもんだから、今まで以上に大変になっちゃったんだ。
そして目の前にはまたも怪しげな魔道具が。
この子は懲りると言う事を知らないのかしら? 私はそう思いながらその魔道具を見ていたんだけど、
「あっ! レーアねえちゃん。これのことは、ないしょね。まだおかあさんしか、しらないんだから」
あら、これはみんなには秘密なのね。
どうやら先日の騒ぎはルディーンを成長させていたらしい。素直なところは可愛くていいんだけど、考え無しでは困るからね。
「内緒にするのね? うん、解ったわ。で、それは何に使う魔道具なの?」
「さっきもいったでしょ? あわだてき。あわをたてるんだ」
???
あわをたてる? ああ、泡を立てるか。
でも泡って石鹸を使うと出るあれよね? それと料理がどう繋がるのかしら。
そう思った私が不思議そうな顔をしていると、ルディーンは、
「もう! おねえちゃんなのに、こまっちゃうなぁ」
って言いながら、実際に使い方を見せてくれたのよ。
「たまごをね、こうして」
そう言いながら卵をボウルに割り入れ……盛大にやらかして殻が入りまくってるけど、助けなくていいの? えっ? 自分でやるから見ててって? そう、解ったわ。
なんとか頑張って卵を4つボウルに割り入れると、いよいよさっきの魔道具の登場だ。
ルディーンは魔道具に取り付けられた、曲がった3本の銅線を組み合わせて作られたものをボウルの中に入った卵に浸すと、
「すいっち、おん!」
そんな掛け声とともに、魔道具を起動した。するとその銅線がくるくると回り始めたのよね。
で、冒頭のシーンに繋がるわけ。
鼻歌交じりでくるくる回る魔道具をつかって、楽しそうに卵をかき回すルディーン。
なるほど、あれは卵を溶くのを楽にする道具なのか。
卵の白身を綺麗に切るのって大変なのよね。でも、あれがあれば確かに楽そうだわ。
そう思いながら見てたんだけど、十分に白身が切れた後も何故かルディーンはその作業を続けたのよね。
「ルディーン。もうそれくらいでいいんじゃない? 白身は完全に切れてるし、黄身ともしっかり混ざってるわよ」
「ちがうよ、おねえちゃん。あわをたてるって、いったじゃないか!」
だからそろそろいいんじゃない? って声をかけたんだけど、こう言われちゃったの。
そう言えば確かにルディーンは泡を立てるって言ってたっけ。
よく解らないけど、この作業がそれなんだろうなぁと思って見ていたら、驚く事にだんだんと卵が固まってきたのよ。その姿は確かに石鹸で作った泡みたいで。
「そっか、泡立てるって、こう言う事だったのね」
「だから、そういってるでしょ」
ルディーンのやりたい事は解ったわ。でもこれ、どうするんだろう?
そう思ってるとルディーンは泡だて器とやらを使うのをやめて、調理場においてあった壷を取り出した。
確かあれって。
「ルディーン、お砂糖を使うの?」
「うん。あまいおかしだからね」
どうやらお母さんには許可を取っているみたいで、壷の中から結構な量のお砂糖を泡立った卵に入れていく。そして壷を置いたかと思ったら、また泡だて器を使ってかき混ぜ始めたんだ。
「レーアねえちゃん。これ、もうすぐできるから、こむぎこをおさじで3ばいぶん、ふるっておいて」
「小麦粉を振るうって、パンでも作るの?」
「だから! おかしをつくるって、いってるじゃないか」
う~ん、どうやらルディーンが作っているものには小麦粉も入れるみたい。
でも、パンを作るとき生地を膨らますのに使うワイン酵母ってのが入ってるつぼは用意してないみたいね? どうするつもりなのかなぁ。
そんな事を考えながらも、新しいボウルの中に粉を振るい、それを再度新しいボウルに振るいなおす。
これは二度やらないと後でだまになったりするから、面倒だなぁって思ってもきちんとやっておかないといけないらしいんだ。
「おねえちゃん、ふるった? ならこのたまごにいれて」
丁度二度目を振るい終わった頃にルディーンから言われたので、そのまま卵の中へ。
「これもその魔道具でかきませるの?」
「ううん。これはへらでまぜないといけないんだ」
そう言いながら取り出した木べらを使って卵と小麦粉を一生懸命混ぜようとするんだけど、ルディーンの小さな手ではうまく混ざらないみたい。
「おねえちゃん、やって」
私はしばらくの間その様子を微笑ましく見ていたんだけど、どうやら自分では無理だって解ったみたいで、ルディーンは私にヘラを渡してきたんだ。
それも上目使いで頼んできた物だから、私はその可愛らしさに心の中で悶絶。
よしよし、お姉ちゃん頑張っちゃうからね!
ルディーンからはゆっくりと、泡をつぶさないように混ぜてねって言われたから慎重に、でもできる限り手早くやって行く。
お母さんのお手伝いでパンを作った時に言われた事なんだけど、あんまりゆっくりやってると失敗しちゃう事があるらしいからね。
そして出来上がった生地を受け取ると、ルディーンは干した果物をその中に入れて行く。
そっか、そう言えば干した葡萄でもワイン酵母と同じような物が作れるって聞いたことがあるわ。だからこれを入れておけばワイン酵母ってのを入れた時と同じように、生地が膨らむんだね。
なんて思っていたんだけど、
「おねえちゃん、おなべでおゆ、わかして」
生地が膨らむのを待たずに、こんな事を言いだしたのよ。
えっと、これって生地を寝かせるんじゃないの? なんて思ってはいるんだけど、ルディーンは図書館で本を調べてきたんだから間違ってるなんて事は無いよね?
と言う訳で、指示に従って鍋の半分よりちょっと下位までの水を入れて火にかけたんだ。
「ほんとは、オーブンがあるといいんだけどなぁ」
ルディーンはそんな事を言いながら、さっき作った生地を小さな器に入れていく。
そしてお湯が沸くと、鍋の中にお湯から顔を出す位の大きさの石を幾つか入れたあと、そこに小さな穴がいっぱい開いている銅でできた板を置いて、その上に生地を入れた器を並べた後、鍋に布をかけたんだ。
「これで20ぷんくらいすれば、できるはずだよ」
えっと、本当にこれでいいの? なんて思いながら20分後。
「何これ!? おいしい!」
ふわっとした甘いパンが出来上がってびっくり。
時間もおいてないから生地は膨らんでないはずよね? なのにこのやわらかさって。
私はその初めて感じる食感のお菓子に、ひたすら感心したのよ。
ただ。
「やっぱりふくらしこがないと、だめかぁ」
ルディーンは気に入らなかったみたいだけど。
ふくらしこ? って何だろう。それがあればこれ、もっと美味しくなるのかなぁ?
読んで頂いてありがとうございます。
クリスマス記念の閑話です。
ですが、何故かこんな内容になってしまいました。
これじゃあ、グルメ系小説じゃないかw
30話を超えて、皆さんがこの作品をどう考えているのか気になっている今日この頃です。
できたら感想を頂きたいのですが、それが無理なら評価だけでも入れていただけるとありがたいです。




