３９７ 悪もんが来るかもしれないんだって
「光り輝いておるは余分だ」
大笑いしてるロルフさんに、お爺さん司祭様はちょっとぷんぷんって顔したんだよ。
でもすぐにいつものお顔に戻ると、だからわしが呼ばれたのかって頷いたんだ。
「神殿が相手では、ヴァルトとギルドマスターが効果の低い髪の毛用ポーションを作ったとしても、これは偽物だと言いかねないからな」
「うむ。実際に使い、これこの通り毛が生えたのだとお主が言えば、多少疑わしいと思ったとしてもそれ以上の追及はできぬからな」
えっと、何のお話？
ロルフさんとお爺さん司祭様、急に二人して難しい事言い出したでしょ？
だから僕、よく解んなくってバーリマンさんに何言ってるの？ って聞いてみたんだ。
そしたらね、二人とも僕の事を守ろうとしてるんだよって。
「守るの？」
「ええ、そうよ。一部の人にとって、髪の毛が生えると言うのはすごく大変な事なの。だからもし、ルディーン君が作った本来の髪の毛用ポーションの存在がばれてしまうと、それこそ大変な事になってしまうわ」
僕の作った髪の毛つやつやポーションはね、どんな人に使っても髪の毛が生えてくるんだよってバーリマンさんは教えてくれたんだ。
だからね、髪が薄い人や頭がつるつるの人はみんな、それを知ったら絶対に欲しいって思うんだって。
でもさ、髪の毛つやつやポーションは僕にしか作れないから、いくらみんなが欲しいって言ってもそんなにいっぱい作れるはずないんだよね。
「これがもし私たちも作れると言うのであれば、何の問題もないのよ？ でも一人しか作れる者がいないとなると、何とかしてその作れると言う人を手に入れようと考えるわ」
「僕を？」
「ええ、そうよ。でもそんな事になったら大変だから、ロルフさんと司祭様はルディーン君を隠そうとしているの」
そっか。
もし髪の毛つやつやポーションを悪もんが知ったら、僕の所に来るかもしれないもんね。
僕ね、もし悪もんが来たらやっつけてやる！ って思うんだよ？
でもそんなの来ない方が絶対いいからって、ロルフさんたちは僕の事を内緒にしようとしてるんだってさ。
「そうなると、ヴァルトたちでも作れる髪の毛用ポーションの完成を急がねばならぬな」
「うむ。わしもそう考えたからこそ、ラファエルだけでなくルディーン君も招いたのじゃよ」
僕とバーリマンさんがお話してる間に、ロルフさんたちのお話も終わったみたい。
話からすると二人とも早く髪の毛用ポーションを作んなきゃダメって意見らしいんだけど、どうやらそれには僕が何かやんないといけないらしいからロルフさんはお爺さん司祭様に一緒に連れて来てねって頼んだみたいなんだ。
「ルディーン君が、ポーションを作るために必要だと言うのか？」
「うむ。先ほども話した通り、今の所この街には森の奥になっておるベニオウの実を収穫できる者がおらぬのでな」
「なるほど。だがそれならば親であるカールフェルト夫妻でもよかったのではないか？ このタイミングでルディーン君をこの街に連れてくるのはリスクしかないであろう？」
ロルフさんがベニオウを採ってきてもらうために僕を呼んだんだよって話すと、お爺さん司祭様はお父さんたちでもよかったんじゃないの？ って聞いたんだよね。
でもね、お父さんたちだけが来てもベニオウの実を採るのは無理なんだよなぁ。
「確かにルディーン君の親御さんが採りに行けると言うのであれば、わしらもそうしたのじゃが」
「司祭様、ベニオウの実はルディーン君でなければ採る事ができないのですよ」
お爺さん司祭様はね、森の奥のとっても危ないとこにしかベニオウの実がなってないから誰も採りに行けないんだろうなぁって考えてたみたいなんだ。
でもさ、採れないのはベニオウの木がつるつるしてて誰も登れないからでしょ？
だからその事をロルフさんが教えてあげると、お爺さん司祭様はすっごくびっくりしたお顔になっちゃったんだ。
「ヴァルトよ。まさかおぬしは、ルディーン君にベニオウの実を採ってきてもらおうと考えておるのか？」
「うむ。今のところクリエイト魔法で土や石を自在に加工できて、なおかつ森の奥深くにまで足を踏み入れることのできる魔法使いなど、このイーノックカウにはおらぬからな」
森の入口のすぐそばにあるんだったら登るためのはしごとかを持ってけばいいのかもしれないけど、ベニオウの木はすっごく奥の方にあるでしょ？
だからどうしてもクリエイト魔法を使える人が一緒に行かないと、高いとこになってるベニオウの実を採る事はできないんだよね。
でもね、街にいる魔法使いさんたちは狩りになんか行った事ない人ばっかりだから、魔物とかがいる森の奥には危なくってだぁ～れも行ってくれないんだってさ。
「そっか。僕だったら森の奥にいる魔物だってやっつけられるもんね」
ロルフさんのお話を聞いて、それじゃあ僕がいかないとねって思ったんだよ。
だってこの街の近くにある森には、僕が簡単にやっつけられるくらい弱っちい魔物しかいないんだもん。
それにお父さんもイーノックカウの森だったら一人で狩りに行ってもいいよって言ってたもんだから、僕はロルフさんにすぐに採ってきてあげるよって言ったんだよね。
でもさ、それを聞いたロルフさんとお爺さん司祭様は、二人しておっきな声でダメって言うんだよ。
「え～。さっき僕に採ってきてもらうって言ってたじゃないか！」
「それはその通りなのじゃが、流石にルディーン君一人で森にやる訳にはいかぬじゃろう」
「うむ。ルディーン君がほかの同世代の子たちと違って狩りが上手いと言うのはわしも聞いておる。だが流石に幼子を一人で森にやるなど、許可できるわけが無かろう」
「でもでも、お父さんはイーノックカウの森だったら一人で狩りに行ってもいいよって言ってたよ」
僕ね、お父さんがこの近くの森だったら一人で狩りに行ってもいいよって言ってた事をロルフさんたちに教えてあげたんだ。
そしたらきっと、お父さんが言うのなら大丈夫だねって言ってくれると思ったからね。
「カールフェルトさんが許可を？ ……いや、やはりだめだ。ヴァルトよ、その実は森の奥の方になっておるのであろう？」
「うむ。親御さんが森に入るのを許可したとの事じゃが、流石にルディーン君が一人で奥の方まで分け入ろうとするとまでは考えておらぬじゃろうからな」
でもロルフさんたちは、森の入口の近くならいいけどベニオウの木が生えてるとこまでは行っちゃダメって言うんだよ。
う～ん、あそこら辺の魔物、みんな弱っちいから大丈夫だと思うんだけどなぁ。
そう思った僕はその事をロルフさんたちに教えてあげたんだけど、それでもダメだよって。
「一人で行って、もし森の奥で何か不測の事態が起こったらどうするつもりなのじゃ！」
「うむ。グランリルであれば助けに行ける者も多いが、この街ではそこまでたどり着ける者すら殆どおらぬではないか」
「そっかなぁ。あそこだったら僕一人でも、きっと大丈夫だと思うんだけど」
僕、まだちっちゃいでしょ？
だから魔物はやっつけられるかもしれないけど、もしかしたら根っことかにつまずいて怪我しちゃったりするかもしれないでしょってロルフさんたちは言うんだよね。
でも僕、キュアが使えるからお怪我をしても直せるでしょ？
だからころんじゃっても大丈夫だよって言ったんだけど、そしたら今度はそれを横で聞いてたバーリマンさんがほっぺたに手を当てながら頭をこてんって倒してこう言ったんだよね。
「確かにルディーン君は、たとえ森の奥で怪我をしたとしても大丈夫かもしれないわね」
「でしょ！ だから僕一人でも、ベニオウの実を採りに行けるよね？」
「でもルディーン君。森の奥になっている実はとても柔らかかったと思うんだけど……あの実を本当に一人で採りに行けるのかしら？」
「あっ！」
そう言えばベニオウの実って、真っ赤になってるのはちょっと力を入れただけでぐちゃってなっちゃうくらい柔らかかったんだっけ。
そりゃあさ、僕一人で行ってもベニオウの木に登るのはできると思うよ？
でもバーリマンさんの言う通り、あの実を持って下に降りるのは多分無理だと思う。
「ポーションの材料にする実は、なるべく多くの魔力を含んでいる方がいいのよ。だから私としては真っ赤に完熟したものが欲しいと思っているのだけれど……ルディーン君。一人で採ってこれそう？」
「ううん。僕、誰かと一緒に行かないと柔らかいのは採ってこれないと思う」
「そうでしょ？ それじゃあ、一人で行く事はできないわね」
バーリマンさんはそう言うと、僕の頭をポンポンって慰めるように叩いたんだ。
それでね、その手を僕の頭にのっけたまま、ロルフさんに向かってニッコリ。
「伯爵、ルディーン君と一緒に行く冒険者には、当然声を掛けてあるのでしょう？」
「うっ、うむ。わしが専属契約しておるＣランク冒険者パーティーがいるのでな、今回はその者たちに同行してもらおうかと考えておる」
「ルディーン君。そういう事らしいから、その人たちと一緒にベニオウの実を採ってきてくれるかしら？」
「うん、解った！ 僕、いっぱい採ってくるね」
こうして僕は、ロルフさんちの冒険者さんたちと一緒に森に行く事になったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ルディーン君が自分でも言ってる通り、イーノックカウの森の魔物は弱いので一人で採りに行っても何の問題もありません。
でも８歳の子供が魔物のいる森に一人で行きたいなんて言い出しても、普通の大人は許可しないですよね。
と言う訳でルディーン君の安全のため、ロルフさんが個人的に契約している、この街では比較的高ランクに値するＣランクパーティーと森に入る事になりました。
……ルディーン君に振り回される大人がまた増える予感ｗ
