396 こっそり見てたんだって
「わしが原因? いったい何の話だ?」
お爺さん司祭様はホントに何の事か解んないのか、ロルフさんにどういう事? って聞いたんだよ?
そしたらロルフさんはもう一回おっきなため息をつくと、お爺さん司祭様にこう聞き返したんだよね。
「ラファエル。前回ここに立ち寄った時、帰る前に大神殿に寄ったじゃろう?」
「うむ。流石に顔を出さぬわけにはいかぬからのぉ」
大神殿に寄ったって聞いたロルフさんは、小さな声でやっぱりかと言った後、
「おぬし、そこで誰かに髪の生えた頭を見られたであろう。そのせいで遠まわしにではあるが、神殿から髪の毛をはやす薬があるのではないかと探られ始めておる」
お爺さん司祭様の頭を見た人が、もしかすると錬金術ギルドに髪の毛のお薬があるんじゃないかって調べに来てるんだよって教えてくれたんだ。
でもそれを聞いたお爺さん司祭様は、びっくりしてそんな事あるはずないじゃないかって言うんだよね。
「わしはこの街にいる間、常にこの帽子をかぶっておるようにしておる。そしてそれは神殿でも同じであった。それなのに、わしの頭を見る事などできるはずが無かろう」
「なるほど。では、本当に一度も帽子を取ってはおらぬのじゃな?」
「うむ。ここでそこのギルドマスターに見せるために外した時以外は、ずっとかぶって……あっ!」
そこまで言ったところで、お爺さん司祭様はすっごく慌てだしたんだよね。
でね、それを見たロルフさんはやっぱりって顔をして、やっぱりどっかで脱いでたんだねって。
「して、何処で脱いだのじゃ?」
「大神殿の中の、高位神官のみが祈りをささげる事のできる祭壇の前だ。流石に神に祈りをささげるのに、帽子をかぶったままと言う訳にはいかぬからな」
「なるほど。では、その時に見られたと言う訳か」
「うむ。だがな、先ほども言った通り、あそこは高位の神官しか立ち入る事が出来ぬ。そしてわしが大神殿に訪れた時、高位の者たちは皆それぞれの仕事をしておったはずで、誰にも見られるはずはないのだが……」
お爺さん司祭様はね、一人で祭壇のあるお部屋に入ったから誰かに見られるはずはないのにって言うんだよね。
でもそれを聞いたロルフさんは、ほんとにひとりだったの? って聞いたんだ。
「これはわしの予想なのじゃが、おぬしがその祭壇の間に向かう際、案内をした者がおるのではないか?」
「ああ、わしはこれでも元司教だからな。流石に一人で大神殿の中を歩かせてはもらえなんだ」
「ふむ。では、その者が見たのであろう」
ロルフさんは、それじゃあそのついてきた人が見たんだねって言ったんだけど、でもお爺さん司祭様は、それは無いよって。
「案内する者は祭壇の間には入ってはおらぬ。だから帽子を取ったわしを見る事はできぬはずだ」
「確かに普通に考えればな。だがな、普通でないとしたらどうじゃ?」
ロルフさんはね、その人が扉をちょこっとだけ開けて中を見てたんじゃないかって言うんだ。
「まさか! なぜわざわざそのような事をせねばならぬ?」
「そうじゃのぉ。それは多分、おぬしがいきなりイーノックカウに現れ、その上神殿ではなく、真っ先にこの錬金術ギルドに来たからじゃろうな」
「ではヴァルトよ。おぬしは先に錬金術ギルドに顔を出したから、その神官がわしを見張っておったと言うのか?」
「うむ。可能性としては、それが一番高いであろうな」
これを聞いたお爺さん司祭は、なんで錬金術ギルドに来たらそんな事されるのさって聞いたんだよね。
そしたらロルフさんはね、ちょっと困ったように笑って領主様のせいなんじゃないかな? って。
「領主? フラ……あ~、なぜ伯爵の名がここで出てくるのだ? わしには関係なさそうに思えるのだが」
「それが、いろいろあってのぉ」
そう言うと、ロルフさんは僕の方をちらっと見たんだよね。
でも何で見られたのか解んないでしょ?
だから僕、ロルフさんを見ながら頭をこてんって倒したんだ。
そしたらそれが面白かったのか、僕と一緒にロルフさんたちのお話を聞いてたバーリマンさんがクスクス笑ってから、
「ロルフさん。そこでルディーン君を見たら、彼が原因だと白状したも同然ではないですか」
「えっ! 僕、何にも悪いことしてないよ!」
って急に僕がなんか悪いことしたみたいに言い出したんだもん。
だから僕、びっくりして何にもしてないよってバーリマンさんに言ったんだよ。
でもそしたらバーリマンさんは、ごめんなさいねって。
「別にね、ルディーン君が何か悪い事をしたって話じゃないのよ」
「うむ。どちらかと言うと、良い事をしすぎた影響が出ておると言ったところかのぉ」
ロルフさんたちはね、何でこんな事になってるのかを僕とお爺さん司祭様に教えてくれたんだ。
「ルディーン君はこれまでクーラーや簡易冷蔵庫など、いろいろな魔道具を作っては私たちに教えてくれたでしょ?」
「うん」
「それにじゃ、雲のお菓子やパンケーキなどの新たな食べ物もいくつか教えてもらったのぉ。そしてそのすべてが、世に広めれば皆が豊かになれる可能性が高いものばかりじゃった」
「でもそのすべてをこんな小さな子が考えたなんて、他の人たちに知られるわけにはいかないもの。だから権利だけは秘匿特許としてルディーン君名義にして、表向きは錬金術ギルドが方々から集めた情報だという事にしてきたのだけど……」
「ある日の事じゃ。わしらがそれほど重要だとは思っておらなんだあるものが、領主の目に留まってしまったのじゃ」
ロルフさんたちがあんまりすごいと思ってなかったもんを、領主様はすごいって思ったの?
でも、何の事だろう?
クーラーとかの魔道具はすごいすごいって言ってくれたし、雲のお菓子やパンケーキだってロルフさんたちはびっくりしてたよね。
あっ、もしかしたらこないだのお酒かなぁ?
でもあれはアマンダさんに教わったものだから、僕が教えてあげたもんじゃないし……。
そう思って何の事かなぁ? って考えてたら、それを見たお爺さん司祭様が代わりに聞いてくれたんだよね。
「ヴァルトよ。それが何か、もったいぶらずに早く教えよ。ルディーン君が困っておるではないか」
「おお、これはすまなんだ。その領主が注目したものと言うのはな、ルディーン君が前に教えてくれたある焼き菓子なのじゃ」
焼き菓子? そんなの、ロルフさんに教えてあげた事があったっけ?
せっかく教えてもらったんだけど、僕、それが何の事かよく解んなかったんだよね。
そしてそれはお爺さん司祭様もおんなじだったみたい。
「焼き菓子と言うと、ついこの間ルディーン君が村で作ったと言うクッキーとやらの事か?」
「クッキーですか? いえ、それはこの街でもかなり前から売られているものですから違いますわ」
だからクッキーの事? って聞いたんだけど、バーリマンさんは違うよって。
そりゃそうだよね、だってクッキーだったら アマンダさんのお店で売ってるもん。
でね、じゃあ何なの? って事になったんだけど、そしたら逆にロルフさんたちが何で知らないの? って言い出したんだ。
「どういう事だ?」
「いえ、私たちはルディーン君から、この焼き菓子はグランリルでよく食べられていると聞いていたものですから」
「グランリルで食べられておる焼き菓子? ……おお、解ったぞ! それは油や塩を練り込んで作る、棒状の携帯食の事だな」
お爺さん司祭様がそう言ったおかげで、僕も思い出したんだよね。
そう言えばそんなのもあったっけ。
でもあれって……。
「ねぇ、ロルフさん。あのお菓子、同じようなのが兵隊さんのおやつにあるって言ってなかったっけ?」
「うむ。だからわしも、あの菓子の事はそれほど気にはしておらなんだのじゃがのぉ」
ロルフさんはね、兵隊さんのおやつにするには高すぎるけど、お菓子としてならそうでもないからって一応商業ギルドに教えてあげたんだって。
でも商業ギルドでも地味で売れそうにないからって、ロルフさんと一緒でこのお菓子の事をあんまり重要だと思ってなかったみたいなんだ。
それにね、そのころはクーラーとかの魔道具やパンケーキみたいな、僕が教えてあげた売れそうなのがいっぱいあったでしょ?
そのせいもあってつい最近まで忘れられてたらしいんだけど、過去の書類を調べてた人が一応新しい技術には違いないし、領主様はおいしいものや珍しいお菓子が大好きだからって作って持ってったそうなんだよね。
そしたらそれを見た領主様が、何だこりゃ! ってびっくりしたんだってさ。
「それでね、領主様はその場で商業ギルドの人に、この菓子は外に漏らす事を禁ずると命令したらしいのよ。次の社交シーズンの目玉にするからって」
「何? あのような素朴な菓子をか?」
「うむ。わしもその話を聞いた時はまさかと思ったのじゃが、その後こっぴどく怒られてのぉ」
領主様はね、あのお菓子をロルフさんが商業ギルドに教えたんだよって聞いて怒ってきたんだって。
だから何で? って聞いたらしいんだけど、そしたらこう言われたそうなんだよ。
「この菓子はそのままで食べても美味であり、何本食べても飽きが来ないほどの高い完成度に仕上がっている。その上混ぜ込むものによって幾百ほどのバリエーションを作る事ができ、またその味付けによって千差万別のディップが楽しめる。そのような菓子など他に聞いた事が無く、社交の武器として考えればミスリルどころかオリハルコンにも匹敵するほどの価値があるではないか! と叱られてしまってのぉ」
「そっか! トマトとかのお野菜を混ぜて焼いてもおいしいもんね」
「うむ。確かにその様なものを混ぜれば、おいしいものができそうじゃな」
「それでね、そのお菓子の話の流れから、この頃ロルフさんや私から商業ギルドにいろいろな情報が入ってきてると言う話になったらしくて」
「でも、流石にルディーン君の話をする訳にはいかぬであろう? じゃから口をつぐんでおったら、方々に聞いて回るようになったようでな」
「なるほど。だから突然この街を訪れ、そのまま錬金術ギルドに向かった行動を不審に思った誰かがわしを見張らせたのではないかと考えたのだな」
お爺さん司祭様の話を聞いたロルフさんは、そうだよって頷いた後、
「うむ。そしてこっそりおぬしをうかがっていた者が、先日まで光り輝いておったおぬしの頭に毛が生えておるのを発見したと言う訳じゃ」
そう言ってカッカッカって笑ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
プ〇ッツの重要性が領主様にばれてしまいましたw
この話、実は焼き菓子の話を書いてすぐにロルフさんの所に怒鳴り込んでくると言うエピソードを書くつもりだったんですよ。
でもどうやっても1話分の話にできそうになかったのでお蔵入りとなり、改めて今回お爺さん司祭様の頭の秘密がばれた理由として日の目を見る事になりました。
個人的には孫に叱られてしょぼんとするロルフさんの描写が好きなエピソードだっただけに、独立して書けなかったのは残念なんですけどね。




