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384 僕が忘れてた事


 近くの森はお父さんが行っちゃダメって言ったし、村の周りでの狩りはすぐに終わっちゃうからつまんないでしょ?


 だから僕、やっぱり狩りには行けないのかなぁって思って、ちょっとしょぼんってしちゃってたんだ。


 でもさ、その時急に、何か忘れてる気がしたんだよね。


「何忘れてるんだろ?」


 きっとそれを思い出せばなんかいい事あるんじゃないかって思った僕は、う~んって一生懸命考えたんだ。


「あら、ルディーン。どうしたの、急に黙っちゃって」


 そしたらね、そんな僕を見たお母さんがどうしたの? って聞いてきたんだよ。


「あのね、何か忘れてる事がある気がするから、何を忘れてるのかなぁって考えてるの」


「忘れてる事?」


 だからなんかを忘れてるんだって教えてあげたんだけど、それを聞いたお母さんはちょっと困った顔になっちゃった。


 そりゃそうだよね。


 だって自分が忘れた事だったら思い出せるけど、僕が忘れた事なんてお母さんに解るはずないもん。


 でもお母さんは、僕が忘れてる事を思い出すお手伝いをしてくれるみたいなんだよ。


「ねぇ、ルディーン。なぜ忘れてる事があるって気が付いたの?」


「あのね、さっきお父さんに森に行っちゃダメって言われたでしょ? だからしょんぼりしてたんだけど、なんでかさっき、その忘れてる事を思い出したらなんかいい事があるって気がしたんだ」


「いい事? それは、狩りの代わりになる楽しい事なのかしら?」


「う~ん、解んない!」


 何忘れてるのか解んないのに、思い出したらそれが狩りの代わりになるのかなんて解んないよね?


 だから解んないって言ったんだよ。


 そしたらお母さんが、


「そっか、解んないか。ならきっとそれは、思い出したら狩りに行ける何かなのかもしれないわね」


 なんて言い出したもんだから、僕はすっごくびっくりしたんだ。


「え~、何でそう思の?」


「それはね、ルディーンが忘れてる事は多分、それそのものが楽しみではないんじゃないかなって思ったからよ」


 お母さんはさっき、それは楽しい事なの? って聞いたのに、僕は解んないって答えたでしょ?


 でもね、もし僕が楽しみにしてた事を忘れてたんだとしたら、お母さんに聞かれた時に思い出すんじゃないのって言うんだ。


 って事はさ、僕が忘れてる事はそれ自体が楽しい事じゃないって事だもん。


 だからお母さんは、狩りに行けないってしょんぼりしてる時に忘れてる事を思い出したんだから、きっと狩りに行くための何かなんじゃないかなって思ったんだってさ。


「そっか。でも、お母さん。森には一人で行っちゃダメなんだよね? それにロルフさんちに魔法で飛んでくのもダメなんだから、狩りになんていけないんじゃないの?」


「言われてみれば、確かにそうよねぇ」


 おかあさんもね、狩りに関係があるんじゃないかって思っただけで、それが何なのかまでは全然解んないんだって。


 だから僕とお母さんは、どういう事何だろうって二人並んで頭をこてんって倒したんだ。



「森がダメって事は、草原での狩りが面白くなる何かなのかしら?」


「でも僕、魔法で獲物がどこにいるか解るから、狩りがすぐに終わっちゃうもん。だから多分違うと思う」


「となるとやっぱり森に行く方法なのかしら? でも、ハンスも私もルディーンが一人で森に入るのは何があったとしても反対するだろうし……。そう考えると、やっぱり狩りは関係ないのかしら?」


 いくら考えても思いつかないもんだから、僕とお母さんはやっぱり狩りとは関係なかったのかなぁ? って考え始めてたんだよね。


「あれ? お母さん、ルディーンと二人で何してるの?」


 そしたらさ、そこにキャリーナ姉ちゃんが来て、頭をこてんって倒してる僕たちに何をしてるの? だって。


 だからお母さんは、今までの事をキャリーナ姉ちゃんに教えてあげたんだよ。


 そしたらさ、


「村の近くの草原でも森でもないんでしょ? だったらイーノックカウの近くにある森の事じゃないの?」


 だって。


 でもね、ロルフさんのお家の人に迷惑がかかっちゃうから、魔法で飛んでっちゃダメでしょ?


 だから僕、イーノックカウの森には行けないんだってキャリーナ姉ちゃんに言ったんだ。


「だったらさ、何かに乗ってって、入り口から入ればいいんじゃないの?」


 そしたらさ、キャリーナ姉ちゃんはみんなで馬車に乗ってった時みたいに、乗り物で行けばいいんじゃないのって。


 でもね、それを聞いたお母さんは大反対。


 僕ね、こないだお尻が痛くない馬車を作ったでしょ?


 だからお母さんはキャリーナ姉ちゃんが言ったのを聞いた僕が、そっか! 乗り物を作ってそれに乗ってけばいんだって思ったら大変って思ったみたいなんだ。


「何を言ってるの、キャリーナ。ルディーンはまだ幼いのよ。一人で村からイーノックカウまで行かせられるはずないじゃない」


「そっか。ルディーンはちっちゃいもんね」


 ロルフさんちに飛んでくんだったら、魔法であっという間についちゃうから危ない事なんてないでしょ?


 だからお父さんもお母さんも行っていいよって言ってくれるけど、この村からイーノックカウまで行こうって思ったら馬車に乗ってもすっごく時間がかかっちゃうもん。


 だからそんなとこまで僕一人で行っちゃダメだよねって、キャリーナ姉ちゃんは笑ったんだ。


 でもね、


「そっか! イーノックカウの入口から入れば、ロルフさんちの人たちのお仕事の邪魔しなくってもいいんじゃないか!」


 僕が急にそんな事言い出したもんだから、お母さんもキャリーナ姉ちゃんもすっごくびっくり!


「何言ってるの、ルディーン。私たちの話を聞いていたの?」


「そうよ、ルディーン。あんな遠くまで一人で行ったりしたらダメなんだから!」


 村の大人の人だって、イーノックカウまで一人で行くのは大変なんだよね。


 だってもしかしたら途中で馬車が壊れちゃう事があるかもしれないし、それに途中で悪もんが襲ってくることがあるかもしれないでしょ?


 だから僕一人で行くなんて絶対ダメだよって、僕はお母さんとキャリーナ姉ちゃんの二人に怒られちゃったんだ。


 でもね、僕、別に村からイーノックカウまで乗り物で行くつもりなんかないんだよね。


「違うよ! 僕、忘れてた事を思い出したんだ」


「忘れてた事?」


「うん! 僕ね、ジャンプの魔法で行けるとこがもう一個あった事を思い出したんだ」


 すっかり忘れてたけど、僕、今のレベルでもジャンプの魔法で飛んでける場所を3つまで設定できるんだよね。


 でも僕んちとロルフさんちはよく使うけど、もう1個は全く使わないし、他に設定したいとこができたら上書きしようって思ってたもんだからすっかり忘れてたんだよね。


「僕ね、ジャンプの魔法を覚えたばっかりの時はまだロルフさんとこを使わせてもらえるなんて思ってなかったもんだから、いつでもイーノックカウへ行けるようにって、西門の近くにあるおっきな木のとこにも飛べるようにしといたんだよ」


「えっ? じゃあルディーンは、イーノックカウのすぐそばにも魔法で行けちゃうって事なの?」


「うん! だからね、ロルフさんちに行かなくたってジャンプの魔法でイーノックカウに行けるんだ」


「すごい! すごい!」


 僕がジャンプでイーノックカウの西門近くにも行けるんだよって聞いて、キャリーナ姉ちゃんは大興奮。


 お目めをキラキラさせてすごいすごいって言うもんだから、僕もうれしくなっちゃってお姉ちゃんと二人して両手を上げて大喜びしたんだ。



 そうやってちょっとの間二人で大騒ぎした後、僕はウキウキしながらお父さんとこに行ったんだよ。


 でね、最初にジャンプの魔法を使った時の事を話して、あそこには今でもすぐに魔法で飛んでけるんだって教えてあげたんだ。


 そしたらさ、お父さんはちゃんとその時の事を覚えててくれたみたい。


「ああ、そう言えばあそこで初めてルディーンが魔法で移動するのを見たんだよな」


 だから僕、あそこからだったらイーノックカウまですぐそばだし、一人で行ってもいいでしょ? って聞いてみたんだよね。


 そして当然、お父さんはいいよって言ってくれると思ったんだけど……。


「いや、だめだろ」


 え~、なんでぇ!?


 読んで頂いてありがとうございます。


 ルディーン君が初めてジャンプの転移場所として選んだのはイーノックカウの西門近くの大木の陰、街道からは見えない場所でした。


 でもその後、イーノックカウへはロルフさんの家を利用して飛んでいたので、その事をルディーン君もすっかり忘れていたと言う訳です。


 でもまぁ、いくら便利なものでも必要がないとその存在を忘れるなんて事、よくありますよねw


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― 新着の感想 ―
[良い点] 思い・・・出した!!! ひっかかってた魚の骨が取れたかのようにスッキリ! [一言] 勝手にジャンプで移動しててもしもってこともあるだろうから 思い出したからっていっても使い放題ではないです…
[良い点] 家族がなかよくほんわかしてるところ [気になる点] 親や年長のきょうだいが下の弟に甘いものや酒を作ってもらったり それなりに便宜をはかって貰ってるのに、下の弟が狩に行きたいのは都合がつかな…
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