369 そっか!混ぜればいいんだ
魔道泡だて器の事をみんなが内緒にしてくれるって約束してくれたもんだから、僕は安心してまた生クリームを泡立て始めたんだ。
でね、その生クリームがほわほわってしてきたもんだから、それを木のさじでちょこっとだけ掬って味見。
「う~ん。レーア姉ちゃん、もうちょっと入れるからお砂糖頂戴」
「あれ? いつもこれくらいしか入れてないんじゃなかったっけ?」
「うん。でも今日はそのまんま食べるでしょ? だから僕、もうちょっと甘い方がいいって思うんだ」
お姉ちゃんが言う通り、パンケーキにかける時はいっつもこれくらいしかお砂糖を入れないんだよね。
でも今日はあったかいパンケーキの上にのっけるのと違って、生クリームをつべたいプリンや果物にのっけて食べるでしょ?
だったら、もっと甘くした方がおいしいんじゃないかなぁって僕、思うんだ。
「そうなの。解ったわ、ちょっと待ってね」
レーア姉ちゃんはそう言うと、お砂糖をちっちゃな器に入れて渡してくれたんだよ。
だから僕はそれをいつもより細かくなるようにって、クラッシュの魔法を3回かけたんだ。
何でかって言うと、最初から入れるんだったら2回でいいけど、今から入れるんだったらいつもより細かくしないとちゃんと溶けないかもしれないもんね。
そしてその細かくしたお砂糖をほわほわした生クリームの上全体に広げるようにかけると、魔道泡だて器をスイッチオン!
パンケーキにのっけるんだったらふわふわの方がいいけど、今日はそのまんま食べるって事でケーキに塗るくらい硬めになるまで泡立てたんだ。
「そろそろ、いいかな?」
魔道泡だて器の事をみんなに教えてあげたり、いつもより念入りに生クリームを泡立てたりしてたもんだから結構時間が経ってるんだよね。
だからさっき出しといたプリンが、もうそろそろ冷めたんじゃないかな? って思った僕は、そのうちの一つを手に取ってみたんだ。
「うん。大丈夫みたいだね。レーア姉ちゃん。プリン冷やすから、冷蔵庫から氷取って」
「もういいの?」
「うん。これくらいならもう余熱で硬くなっちゃう事ないから、冷やしても大丈夫だよ」
蒸しあがったばっかりのを冷やすと余熱のせいでふちっこと真ん中の硬さが違っちゃうけど、これくらいまで冷めればもうその心配はないもん。
だから僕はレーア姉ちゃんの取ってくれた氷をクラッシュの魔法で細かくしてから鍋に入れると、そこにその氷をよけるようにしてテーブルの上のプリンを並べていく。
そして全部入れ終わると、プリンの中に入っちゃわないようにって気を付けながらお鍋の中にお水を入れてったんだ。
「後はちょっと待てば冷えるから、その間にアマショウの実を切っちゃお」
「ええ、いいわよ」
後はもう冷えるまで待つしかないでしょ?
だから今度はさっき僕が熟成させたアマショウの実をむいて、レーア姉ちゃんと一緒に食べやすい大きさに切ってたんだ。
でもね、そんな僕たちを見てたミラさんが、不思議そうにこう聞いてきたんだよ。
「ねぇ、レーア。そっちに置いてあるのは切らないの?」
「そっち?」
ミラさんがそう言って指さしたのは、さっき僕とレーア姉ちゃんが一口ずつ食べた熟成させすぎたアマショウの実。
「ああ、それはルディーンがやりすぎちゃったやつで、さっき食べたけど甘すぎてちょっとおいしくないのよ」
「甘いのに美味しくないの? う~ん、よく解んないけど、食べてみてもいい?」
「ええ、いいわよ」
ミラさんはお姉ちゃんの言った、僕がやりすぎたって意味がよく解んなかったみたいで、とりあえずそれを手に取ってパクリ。
そしたらね、う~んって顔になっちゃった。
「わぁ、ほんとに甘いわね。でも、何か少しぬめってしておいしくないかも」
「でしょ?」
「うん。でもこれ、これだけ甘いんだったら潰せばジャムみたいになるんじゃないかな?」
そっか。
確かにそのまんまだとおいしくないけど、潰してみたら食感も変わるもんね。
と言う訳で、早速潰してみたんだけど、
「わぁ、潰すとよりぬるっとして、もっと気持ち悪くなっちゃった」
「確かに、これは食べられないわね」
そしたらもっとぬるぬるになっちゃったんだ。
だからそれを食べたレーア姉ちゃんとミラさんは、これはダメだねって。
でもね、その潰したアマショウの実を見た僕は、別の事を考えてたんだ。
「ねぇ、レーア姉ちゃん。牛乳ってまだある?」
「あるけど、どうするの?」
そう言ってお姉ちゃんが取ってくれた牛乳をボウルに入れると、そこにさっきつぶした熟しすぎたアマショウの実を入れて、魔道泡だて器でかき混ぜてみたんだ。
「ちょっと、ルディーン。何やってるのよ」
「えっとね、ぬるぬるしてるだけなんでしょ? だったらさ、こうしたらおいしくなるんじゃないかな? って思ったんだ」
でね、牛乳と潰したアマショウの実が十分に混ざったところで魔道泡だて器を止めて、それを木のさじで掬ってペロリ。
「う~ん。牛乳を入れすぎちゃったかな? でもこれ、結構おいしいかも?」
前の世界にあったバナナって果物は、牛乳とはちみつをませてジュースにするとおいしかったんだよね。
だから僕、バナナに似た味で、それよりもっと甘いんだから牛乳に混ぜてみたらおいしいんじゃないかなぁ? って思ったんだ。
「えっ、ほんと?」
でね、おいしいって聞いたレーア姉ちゃんは、僕から木のさじを受け取るとおんなじように掬ってペロリ。
「あら、ほんとだ。アマショウの香りがして、おいしいわね」
アマショウの実はね、熟成が進むと甘くなるだけじゃなくって香りも良くなるでしょ?
僕は牛乳を入れすぎちゃってあんまり甘くないなぁなんて思ったんだけど、レーア姉ちゃんは香りがいいからおいしいよって。
「ほんとにいい香りね。これだったら他のお菓子にも使えるんじゃないの?」
「ああ、確かにいい香りだものね」
それにね、エイラさんがそれを飲んでお菓子にできるんじゃないの? って言ったもんだから、僕、そう言えば前の世界にもそんなのがあったっけって思いだしたんだ。
「そっか! クッキーとかに入ってたらおいしいかも」
「クッキー? ああ、イーノックカウにあったお菓子の事か。そうね。今度アマンダさんに会った時に、教えてあげたら?」
「うん! そうするよ」
レーア姉ちゃんの言う通り、アマンダさんは熟成が使えるんだから教えてあげたら喜ぶかも。
そう思った僕は、今度イーノックカウに行ったら必ず教えてあげなきゃ! って思ったんだ。
「なにこれ? ホントにおいしい!」
「レーアがおいしいって言ってたけど、まさかこれほどとはね」
この後、冷えたプリンと果物、それに生クリームをスープ用の深皿に入れて作ったプリンアラモードをみんなで食べたんだよ。
そしたらみんな、おいしいおいしいって。
「それにこのアマショウの実のジュース、さっきのよりもさらにおいしいわよ」
後ね、ミラさんがどうしても飲みたいって言ったもんだから、アマショウの実と牛乳と混ぜたジュースも作ってあげたんだ。
それもさっきのよりも、もっとでろんでろんになるまで熟成させたやつで。
だってジュースにするんだったら食感なんて関係ないもん。
だからもっと熟成が進んで甘くなったり、香りが強くなってるのを使った方がおいしいんじゃないかな? って思ったんだよね。
そしたら大成功! みんな作ったジュースを、さっきのよりずっとおいしいねってニコニコしながら飲んでくれたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
そのまま食べるとぬるぬるした食感でおいしくないアマショウの実。でも、他のものと混ぜればその香りと味のおかげで極上の素材になります。
そしてこの後、この実をパンケーキに練り込む事で新たな名物が甘味処カールフェルトに生まれるのはまた別のお話w




