表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

372/757

366 アマンダさんに教えてもらったんだよ


 ミラさんたちがプリンの材料を取りに出てっちゃったでしょ?


 だから僕、みんなが帰ってくるまでの間に他の準備をすることにしたんだ。


「レーア姉ちゃん。準備するから手伝って」


「準備? 別にいいけど、何をするの? ミラたちが帰ってこないと、プリンは作れないんでしょ?」


 だからレーア姉ちゃんに手伝ってって言ったんだけど、そしたらお姉ちゃんは不思議そうにこう聞いてきたんだ。


 そっか。お姉ちゃんはプリンだけを作ってるって思ってるもんね。


 でも僕、どうせならもっといいものを作ってあげようって思ってるんだ。


「プリンはみんなが材料を持ってきてくれないと作れないけど、どうせ作るんならもっとすごいのの方がいいでしょ?」


「もっとすごいもの?」


「うん! イーノックカウでいいものを買って来たから、それでプリンを使ったすごいのを作ろうって思ってるんだ」


 実はね、お菓子屋さんから帰る時に、アマンダさんからイーノックカウに売ってるおいしい果物の事を教えてもらったんだ。


 だから村に帰る前に、露店街とかでそう言うのを買ってもらったんだよね。


 僕、せっかく作るならそれをつかってプリンアラモードにしてあげようって思ったんだ。



「なるほど。そのすごいものって言うのは、買って来た果物の事なのね」


「そうだよ。プリンはそのまんまでも美味しいけど、果物とか生クリームとかと一緒に食べてもおいしいんだ」


 そう言いながら僕は果物をしまってある箱のふたを開けると、そこから二つの果物を取り出したんだよね。


 そのうちの一つは、前の世界と全く同じ形と名前で売ってたリンゴって果物。


 これはね、食べると甘酸っぱいしシャリシャリって食感だから、プリンとの相性がいいんだよね。


 そしてもう一つはアマショウっていう、前の世界にあったバナナって果物を太くて短くしたような果物なんだ。


 このアマショウってね、実はそのまま食べてもあんまりおいしくないらしいんだ。


 だから普通はお野菜と一緒に炒めたりして食べる事が多いらしいんだけど、アマンダさんはこれをとってもお甘くする方法があるんだよって僕に教えてくれたんだよね。


 その方法ってのは熟成のスキルを使うこと。


 このアマショウはね、追熟って言うのをすれば甘い果物に変わるそうなんだよ。


 でもそれをするには一定の温度の所でかなり長い間置いとかないとダメだから、やろうと思うとかなり難しいんだって。


 だから普通は魔道具を使ってその追熟ってのをするらしいんだけど、でも熟成のスキルを使うとあっという間にできちゃうし、温度だって別に気にしなくてもいいから楽ちんなんだ。


「その熟成ってのを使うのは解ったわ。でも、それはルディーンがやるんでしょ? だったら私は何を手伝えばいいの?」


「あのね、僕がアマショウの熟成をやるから、レーア姉ちゃんにはその間にリンゴを切って欲しいんだ」


 確かに熟成スキルを使えばあっという間に出来上がるけど、やるのは初めてだから最初っからうまく行くかどうか解んないでしょ?


 だから最初は一個だけやってみて、それがうまく行ったら他に使う分のもやろうって思ってるんだ。


 だってもし失敗してあんまりおいしくなってなかったら嫌だし、その時は何本か使って練習しなきゃダメかもしれないんだもん。


 でもそしたら時間がいっぱいかかっちゃって、もしかしたらミラさんたちが帰ってきちゃうかもしれないでしょ?


 そうなったらみんなに待ってもらう事になっちゃうから、レーア姉ちゃんには先にリンゴを切って欲しいなぁって思ったんだ。


「なるほど。いいわ、任せて。それで、どんなふうに切ればいいの?」


「あのね、プリンや生クリームと一緒に食べるから、芯を取った後に薄く切って」


「薄切りね。解ったわ」


 いっつもお母さんと一緒にお料理をしてるレーア姉ちゃんは、それだけ聞くとナイフを使ってリンゴをスパスパスパって綺麗に切ってっちゃった。


 そんなお姉ちゃんを見て、これならリンゴは大丈夫だねって思った僕は、アマショウの熟成にかかる事にしたんだ。



「アマンダさんは、ちょっと強めにかけた方がいいって言ってたよね」


 アマショウの熟成ってホントだったらすっごくいっぱい時間がかかるから、軽くかけちゃうと熟成が足らなくって甘くならないんだって。


 それに熟成が進みすぎるとその分甘くはなるけど実がでろでろになっちゃうらしいから、お酒の熟成ん時みたいに力いっぱいやる訳にもいかないみたい。


 でも結構難しいらしいんだけど、甘くならないよりはでろでろになった方が使い道があるからって、最初はちょっと強めにやるといいよって教えてくれたんだ。


「とりあえずやってみよ」


 と言う訳で僕はアマショウを一本房からちぎると、目の前に置いて熟成スキルを発動。


 そしてちゃんとできてるかを調べるために、皮をむいてみたんだ。


 そしたら実はちゃんとしてて、全然でろでろにはなってなかったんだよね。


「あれ? ちょっと強めって言ったのに、これだとまだ弱かったかな?」


 そう思った僕は、とりあえず目の前のアマショウをパクリ。


「わっ! これ、すっごく甘くなってる」


 そしたら食感は前の世界にあったバナナって言う果物そっくりのねっとりした感じだったんだけど、こっちの方がそれなんかよりすっごく甘かったからびっくりしちゃった。


「えっ? そんなに甘いの? ルディーン、私にもちょっと頂戴」


「うん、いいよ!」


 でね、僕がすっごく甘いなんて言ったもんだから、レーア姉ちゃんはリンゴを切るのをやめて私にも頂戴って。


 だから僕、残ってたアマショウをレーア姉ちゃんに、はいって渡してあげたんだ。


 そしたらお姉ちゃんも、それをパクリ。 


「あら、本当に甘いわね。それにふしぎな食感」


「ねっ、おいしいでしょ?」


「ええ。ベニオウの実もおいしかったけど、それとはまた違ったおいしさね」


 ベニオウの実はすっごく美味しかったけど、ああいう果物は他にもあるんだよね。


 でもこのアマショウは似てる果物が他にないから、レーア姉ちゃんもちょっとびっくりしたみたい。


 それに甘さも森の奥から採ってきたベニオウの実とおんなじくらい甘かったもんだから、レーア姉ちゃんは幸せそうに残りのアマショウを全部食べちゃったんだ。


「ルディーン。まだあるんでしょ? もうちょっともらえないかな?」


「いいけど、みんな食べちゃったらダメだよ。これから使うんだし、それにお母さんやキャリーナ姉ちゃんにもあげないとダメだもん」


「それは解ってるわよ。それにこれ、かなり食べ応えがあるから、いっぱい食べるとあっという間にお腹が膨れそう。だから食べるにしても、あと一本くらいでいいわよ」


「1本だけ? うん、それならいいよ」


 このアマショウはバナナとおんなじでひと房に実がいっぱい付いてるから、1本くらいなら減っても大丈夫なんだよね。


 だから僕、もう一個房から取って熟成スキルを使おう……と思ったんだけど。


「そうだ! レーア姉ちゃん。これ、もっと熟成させてみてもいい?」


「もっと? そうしたらどうなるの?」


「えっとね、やりすぎると実がでろでろになっちゃうんだって。でも、さっきのはまだあんまり柔らかくなかったでしょ? だから僕、もうちょっと強くやっても大丈夫なんじゃないかな? って思うんだ」


 アマンダさんは熟成させすぎるとでろでろになるって言ってたけど、その分甘くもなるって言ってたんだよね。


 だったらさ、もうちょっと熟成させたら実は柔らかくなるかもしれないけど、もっとおいしくなるんじゃないかなぁって思うんだ。


「そうなの? さっきのでも十分おいしかったけど、でもそっか。もう少し柔らかくなったらまた食感が変わっていいかも。うん、やってみましょう」


 レーア姉ちゃんがいいよって言ってくれたから、僕はもうちょっと強く熟成をかけてみる事に。


 でもね、やってみても皮をむく前はさっきと全然変わってないんだ。


「あれ? あんまり変わんないなぁ」


 前の世界にあったバナナってやつだと、熟成が進んだら皮に黒いてんてんが出てくるんだよね。


 アマショウって色は緑だけどその他はバナナそっくりだから、僕、熟成が進むと同じようになるんじゃないかなぁって思ってたんだ。


「失敗したの?」


「ううん。さっきと変わんないからびっくりしただけ」


 でも似てるだけで違う果物だから、僕はそんなもんかな? って思って皮をむいてみたんだけど、


「あら、中は全然違ってるわね」


「ほんとだ、ちょっと透き通ってきてる」


 そしたらさっきは普通のバナナっぽい色だったのに、今度のはそれがちょっと透き通ってる感じになっててびっくり。


 でも、こんな風になったって事はやりすぎたって事かな?


「色が変わったって事は、でろでろになってるのかも?」


「そんなの、食べてみれば解るじゃない」


 レーア姉ちゃんはそう言うと、僕が持ってるアマショウをパクリ。


「あら、確かにさっきよりは柔らかいけど、まだ実はしっかりしてるわよ。でもこれ、ちょっと甘すぎかも」


 そしたらお姉ちゃんは、でろでろにはなって無いけど、そのまんま食べるには甘すぎるんじゃないかなぁって。


「そうなの?」


 と言う訳で、僕もパクリ。


 そしたら確かに甘くなりすぎてて、どっちかって言うとさっきの方がおいしかったかも。


「何事もやりすぎはよくないって事ね」


「そうだね。やっぱりさっきくらいにしとくよ」


 シャーベットにするんだったらこれくらい甘い方がいいかもしれないけど、そのまんま食べるんだったらこれはちょっとダメかも。


 って事で、僕とレーア姉ちゃんはさっきくらいのが一番おいしかったねって笑ったんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 村での初熟成は肉でもお酒でもなく、アマショウと言う果物でした。


 因みにこのアマショウと言う名前ですが、元ネタはそのままバナナの漢名です。


 調べたところ、甘蕉かんしょうって言うらしいんですよ。


 でもそのままだと流石にあれだなぁと思って甘を”かん”ではなく”あま”と変えてみました。ベニオウの時はひねりすぎて、イチゴみたいな名前になってしまいましたからねw


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] やり過ぎはよくない、また一つ学べましたね! 材料持ってきてもらう過程でデザート作るのバレて 食べに来る人が増えそうな予感!!! [一言] 読み方・読み替え、加減が大変なのですね。 ベニオウ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ