34 レベルキャプが理由なの?
下での一件が解決したので、やっと今日冒険者ギルドに来た目的である僕の登録をする事になった。
「それじゃあルディーン君、ちょっと視せてもらうわよ」
「みる?」
何を見るんだろう? いきなりこんな事を言われた僕は何の事だか解らず、頭をこてんっと倒す。
僕の顔ならさっきからずっと見てるし、この世界では病気になっても神殿に行くだけで医者にかかるわけじゃないから、胸をはだけて聴診器を当てるなんて事もしないんだよね。
だからこれ以上何を見るのか、僕にはさっぱり解らなかったんだ。
そんな僕に、ルルモアさんはこれはうっかり! とばかりに自分の頭を軽く叩いてから教えてくれた。
「ああ、そう言えば説明してなかったわね。私たちギルドの登録職員はみんな鑑定士と言う職を持っているの。この職を持つ人は、相手の能力を数値化して視る事ができるのよ」
「のうりょくをみるの? ならジョブとかもわかる?」
鑑定士と言っているけど、話の流れからすると多分盗賊の鑑定解析じゃなくてステータスチェックの事かな? だったらジョブとかスキルとかも解るかもしれない。
でもそうなると驚かせちゃうかもしれないなぁ。多分賢者ってジョブはかなり珍しいだろうからね。
ところが僕のそんな心配は杞憂に終わることになる。
「あら、ジョブの事を知っているなんてルディーン君は物知りなのね。でも残念、私は能力値を詳しく視る事はできるんだけど、その他はまだ視る事ができないのよ」
「そっか、ジョブはわかんないのかぁ」
残念ながらルルモアさんはステータスチェックはできるけど、ジョブとかスキルまでは見る事ができないらしい。
あっ、でもまだって事は。
「まだってことは、いつかみえるようになるってこと? じゃあ、みえるひともいるの?」
「ジョブが視える人? いるわよ。でもそんな人はこんな辺境じゃなくて帝都とか有名なダンジョンや遺跡が近くにある都市の冒険者ギルドに配属されているわ。後はそうねぇ、私は視えるようになれるよういつも努力してるから、いつかは視られるようになるって言っておくわ。今はまだ能力値だけだけど、ね」
なるほど、ステータスを詳しく見る事ができる人は本部とかもっと重要な場所に配属されてるってことなのか。
まぁ、確かにイーノックカウの近くにある森は採取専門の人が入っても問題がないくらい安全なところみたいだし、そんな場所にそこまで優秀な鑑定士を置く必要も無いだろうからここに居ないというのも解る気がする。
と、そんな事を考えていると、お父さんがいやいやそんな事はないとルルモアさんの優秀さを僕に教えてくれたんだ。
「ルディーン、本人はこう言っているけどお前はツイてるんだぞ。この冒険者ギルドの鑑定士の殆どは身体的能力値しか見る事ができない人ばかりなのに、ルルモアさんは攻撃魔力と治癒魔力まで見る事ができるくらい優秀なんだ。お前の場合、ショートソードの扱いはともかく体が小さいからなぁ。もしかしするとFクラス登録を断られる可能性があるかもしれないと心配していたんだけど、この人なら攻撃魔法の能力を加味して登録の許可を出してくれるだろうから安心だな」
「ふふふっ、煽てても何も出ませんよ。私はまだそこまでしかできないのだから、あまり自慢できることではありませんし。ああ、せめて成長限界くらいは視られたらいいのに」
お父さんの言葉を微笑みながら否定するルルモアさん。
こんな言い方をしているけど、本当はお父さんに褒められて嬉しかったんだろうね。
ところで成長限界って、ジョブの横に出てくるあれだよなぁ。
「せいちょうげんかい?」
「ああ、ジョブは知っているけどそれは知らないのね。上級の鑑定士はね、人の身体能力を視るのと同じ様にその人の強さも数値で知る事ができるの。これを私たちの間ではレベルと呼んでいるんだけど、そのレベルの上限の事を成長限界と言うのよ」
やっぱりか。
でも、と言う事はあれってジョブごとの上限じゃなく本人自体の成長の限界、レベルキャップって事?
僕の場合、賢者は30だけど魔道具職人は50が限界となってるからてっきりジョブによってキャップが違うんだと思ってたんだけど、あれはジョブと生産職のレベルキャプの違いを表してただけって事なのか。
って言う事はもしかして、人によってキャップが違うなんて事もあったりする?
「せいちょうげんかいがみえるようになるって、げんかいはひとによってちがうものなの?」
「ええ、そうよ。普通の人は大体20レベル前半が限界で、それを超える人は能力が高い人と言われているわ。そしてその成長限界値は、そのままその人のレベルの上がりやすさを現してもいるのよ」
ん、それってどういう事? レベルキャップの違いが才能の違いと言うのは解るんだけど、それがレベルの上がりやすさとどう関わってくるんだろう?
あっ、そう言えばこの世界では体が大きい人は体力のステータスも小さい人に比べて高かったりするし、レベルキャップが高い人は能力値の上昇率も低い人より良かったりするんだろうか?
そんな僕の疑問が顔に出てたんだろうね。
「次のレベルに上がるためには後どれくらい頑張ればいいかを視る事が出来る鑑定士がいないから、これはあくまでこう考えられていると言う話ね」
ルルモアさんはこう前置きをしてから、先ほどの話を詳しく説明し始めた。
「例えば成長限界が20の人と30の人がいるとするわよね。30レベルが上限の人が10レベルになるのに同じ魔物を1000匹倒さないといけないとして、ルディーン君は20レベルの人は何匹倒せば10レベルになれると思う?」
「おなじ10れべるなら、1000ひきでしょ?」
これはあくまでドラゴン&マジック・オンラインの話ではあるんだけど、あのゲームの中では狩ったら経験値が10もらえるモンスターは誰が狩っても10もらえる。
そりゃ格上の魔物を狩れば補正がかかって余分に経験値はもらえたけど、ことレベルキャップと言う話で言うのなら実装されていたレベル上限開放クエを全てクリアして50キャップになっている人でも、初期限界である30キャップの人でも10もらえる魔物は誰が狩っても同じ様に10だった。
だから僕はレベルキャップで取得経験値は左右されないと思ってこう答えたんだけど、次のルルモアさんの言葉でこの世界ではそれは間違いだって知らされることになったんだ。
「それが違うのよ。20レベルが限界の人が10レベルになろうと思ったら1500匹の魔物を狩らなければならないわ。実はね、どんな人でも成長限界に達するまでに必要な経験は誰もが同じだと考えられているの」
ルルモアさんは、実際はレベルが上がるごとに倒さないといけない魔物の数は増えていくから本当はこんな単純な話ではないし、正確にはここまではっきりとした違いは出ないけどと前置きしてから詳しい説明してくれた。
「仮に30レベルが上限の人が1000匹狩れば10レベルになるのなら、限界までに必要な魔物の数は3000匹って事になるわよね。なら20レベルが上限の人にとって10レベルは上限の半分だから3000匹の半分である1500匹の魔物を狩らないといけないのよ」
なんとびっくり、それじゃあレベルキャップって成長の限界であると同時に経験効率の限界でもあるって事じゃないか。
でも待って、と言う事はあれもこれが理由なのかも。
僕はルルモアさんの話を聞いて、2人のお兄ちゃんの事を思い出したんだ。
うちのお兄ちゃんたちなんだけど、狩りを始めたのもジョブを取得したのもディック兄ちゃんのが先なのに、後から始めたテオドル兄ちゃんの方がなんでかレベルが高いんだ。
これを僕はてっきりテオドル兄ちゃんの方がディック兄ちゃんよりも獲物である魔物を見つけるのがうまくって、いっぱい狩ってるからレベルが二つも上なんだろうなぁって思ってたんだ。
だけどレベルキャップによって取得できる経験値が違うと言うのなら、こんな差が付いても変じゃない。
お家に帰って調べてみないと解んないけど、たぶんテオドル兄ちゃんの方がディック兄ちゃんよりレベルキャップが高いんじゃないかなぁ? だからこんな差ができたんだろうって、僕はそう思ったんだ。
「そっか、だからなんだぁ」
「ん? どうしたのかな、ルディーン君」
僕は自分の考えがきっと正しいんだろうなぁって思ってつい口に出したんだけど、いきなりそんな事を僕が言い出したもんだからルルモアさんが不思議がって聞いてきたんだ。
だから僕は教えてあげる事にした。
「あのねぇ、ディックにいちゃんよりテオドルにいちゃんのほうがつよくなったけど、それはいっぱいみつけたからじゃなかったんだってわかったんだよ」
「???」
あれ? 僕が折角説明してあげたのにルルモアさんが不思議そうな顔をしてる。なんで?
そんなルルモアさんは何か僕に話し掛けようと口を開きかけたんだけど、それを取りやめてお父さんの方へと目を向けたんだ。
するとお父さんはちょっと苦笑い。
「ああ、きっとルディーンは一番上の兄であるディックよりも二番目の兄であるテオドルの方が狩りがうまくなったのを、今までは獲物を多く見つけて狩ったからだと考えていたんだと思います。ところがルルモアさんの話を聞いて、成長限界? ですか、実はそれのせいでテオドルの方が強くなったんだと解ったと言いたかったんじゃないかと。そうだろ、ルディーン?」
「そうだよ。だからそういってるじゃないか!」
どうやらお父さんが説明したら、ルルモアさんも僕が言っていた意味が解ってくれたみたいだね。
でもあんなにきちっと話してあげたのに解らないなんて、大人なのにホント困っちゃうなぁ。
読んで頂いてありがとうございます。
30話を超えて、皆さんがこの作品をどう考えているのか気になっている今日この頃です。
できたら感想を頂きたいのですが、それが無理なら評価だけでも入れていただけるとありがたいです。




