358 お酒をおいしくする技術はお肉にも使えるんだって
アマンダさんに聞いたら、まだ皮の付いたベニオウの実があるそうだから、僕はそれを使ってお酒を造る事に。
「それじゃあ、やってみるね」
僕たちが採ってきたベニオウの実はブドウよりすっごく甘いでしょ?
だからきっと、中の甘いのをワインを作った時とおんなじくらいの割合でアルコールにしちゃえばもっと強いお酒になるんじゃないかな。
あっ、でもさっきアマンダさんがちょっとアルコールが強めの方がお菓子には向いてるって言ってたっけ。
ならちょびっとだけワインより多めの割合にしとこっかな。
僕はそんな事を考えながら、皮がついたまんまつぶしたベニオウの実に醸造スキルを使って行く。
「う~ん、これくらいかなぁ?」
それでね、なんとなくこれくらいでいいんじゃないかなぁ? って感じたところでスキルを使うのをやめて、アマンダさんに見てもらう事に。
「できたの? それじゃ、一度味見してみるわね」
アマンダさんはそう言うと、木のさじを器に突っ込んで、つぶした実ごとパクって食べちゃったんだ。
でもね、それを見たルルモアさんはびっくり。
「アマンダさん。搾る前のものを口に入れても大丈夫なんですか?」
「ん? ああ、大丈夫ですよ。ワインと違って種は入ってないし、皮も食べられるって話ですからね。それにこれ、普通の酒造りと違って長時間の発酵をしているわけではないから不純物もありませんし」
ワインとかだと、普通はつぶしたブドウを長い時間をかけて発酵させることで作るでしょ?
だから一緒に入れた種とか皮がバラバラになっちゃって、それが粉みたいな不純物になるんだって。
でもこのお酒は僕がスキルであっという間に作っちゃったもんだから、糖分がアルコールになってる以外の中身はさっきつぶした時とおんなじだもん。
これならそのまま食べたって大丈夫なんだよって、アマンダさんは言うんだ。
「なるほど。それじゃあ、私も一口」
それを聞いたルルモアさんは、それだったら私にも頂戴って同じように木のさじでアルコールの入ったベニオウの実をパクリ。
「そうねぇ。食べた感じ、ワインよりは強いけど蒸留酒よりはアルコールが弱いって感じかな?」
「ええ。それと元々の甘みが強いおかげで、お酒にした後でもかなりの甘さが残ってますね」
二人して、味の感想を言い合うアマンダさんとルルモアさん。
それを聞いてる感じからすると、結構うまくできたって事かな?
「アマンダさん。これ、ちゃんとおいしくできてる?」
「ええ、これくらいのアルコール度数がベニオウの実に一番合っているかどうかはまだ解らないけど、これを搾れば十分に美味しいお酒になると思うわよ」
「そうなの? やったぁ!」
アマンダさんに聞いてみたら、おいしくできてるよって言って貰えたもんだから、僕は大喜び。
でもね、ベニオウのお酒造りはこれで終わりじゃなかったんだ。
「これはこれでいいとして、ルディーン君。できたらもう一度、もっとアルコール度数が高いお酒を造ってもらえないかな?」
「もっと強いのを作るの?」
「ええ。このお酒はそのまま呑むのにはいいけど、お菓子に入れた時に香りを際立たせることを考えるともう少し糖分を減らしてアルコール度数を高くした方がいいと思うのよ」
さっき作ったのはちゃんとおいしくできてたんだよ?
けど、アマンダさんが欲しかったのはお菓子に使うお酒だよね?
だから今度は飲んでおいしいのじゃなくって、もっとアルコールがいっぱい入ってるのを造って欲しいんだってさ。
「うん、わかった! 今度はもっといっぱいアルコールにするね」
と言う訳で、新しいベニオウの実にさっきよりアルコールの量が多くなるように考えながら醸造スキルを使ってみる事に。
でもね、いっぱいって言ってもどれくらいやればいいのか解んないでしょ?
だからとりあえず、さっきのの倍くらい甘いのをアルコールに変えてみたんだ。
「できたよ、アマンダさん」
「ありがとう。それじゃあ、味を見てみるわね」
アマンダさんはそう言うと、さっきとおんなじように木のさじで掬ってパクリ。
「けほっ。こっ、これはさっきのよりかなり強くなってるわね。あっでもその分甘さが減ったから、香りは際立ったかも」
そんな意見を聞いて、今度はルルモアさんがパクリ。
「うわぁ、これ、蒸留酒の中でもかなりきつい物レベルの度数っぽいわよ。お菓子にはいいかもしれないけど、でもこのままではとても呑めそうにないわね」
そしたら、こっちの方は強すぎるからそのまま飲むのは無理だねって。
でもこれはお菓子用に作ったお酒だから、そのまんま飲めなくっても大丈夫だよね?
そう思った僕は、アマンダさんにこれでいいの? って聞いてみたんだ。
そしたら、アマンダさんはにっこり笑ってこう言ったんだよ。
「さっきも言った通り、お菓子作りにはこちらの方が向いていると思うわよ。それにね、ルルモアさんはああ言ったけど、これにちょっと手を加えれば呑んでもかなり美味しいお酒になると思うわよ」
「そう言うけど、アマンダさん。これは流石にちょっときつすぎるんじゃないかな? ドワーフたちならともかく、私たちエルフやあなたたち人間には向いてないと思うんだけど」
ドワーフなら大丈夫?
僕はルルモアさんのこの一言に、ちょっとびっくりしたんだよね。
だって僕、今まで一度もドワーフにあった事ないんだもん。
でもそう言えば薬屋のおじさんの種族がハーフリングだよって教えてくれた時に、エルフやドワーフとおんなじ亜人なんだよってロルフさんが言ってたっけ。
う~ん、あった事は無いけどやっぱりドワーフもいるんだなぁ。
「確かにこのまま呑むのは流石に無理です。でも先ほども言った通り、一つ手を加えるだけで充分おいしく呑めるようになると思いますよ」
「そう言えば、そんな事を言っていたわよね」
僕がそんな事を思ってる間も、二人のお話は続いてたんだよね。
だからドワーフの事は一度置いといて、僕もそのお話を聞く事にしたんだ。
「ええ。ルルモアさんも知っているとは思うけど、強い蒸留酒って作ったばかりのものはとても飲めたものじゃないの」
「そうね。だから普通は、樽に詰めて何年も寝かせて味を熟成させるのよね……って、そうか。このお酒も熟成させればおいしく呑めるようになるって事ね」
「その通りです。そしてその熟成を強制的に行う技術が私たち料理人にはある」
アマンダさんはルルモアさんにそう言うとその後、今度はにっこり笑いながら僕の方を見たんだ。
「そしてそれこそがさっきルディーン君に話した、次に教えようと思っている技術なのよ」
「なるほど。アルコール度数を調節できるルディーン君がもしそんな技術を手に入れる事が出来たら、きっとどんなお酒でも自由に作り出すことができるようになるでしょうね」
アマンダさんのお話を聞いて、それがあれば完璧ねって笑うルルモアさん。
でもね、そんなアマンダさんたちに今度はお母さんが怒っちゃったんだよね。
「完璧にお酒が造れるようになるって、あなたたちはこんな小さな子に何をさせようと思ってるんですか!」
「あっ、すみません。つい調子に乗ってしまって」
そんな風にお母さんに叱られたもんだから、二人とも大慌て。
でもね、アマンダさんだって、別にお酒だけを僕に作ってもらおうと思って熟成のやり方を教えようと思ったわけじゃないみたいなんだ。
「でも、熟成は別にお酒造りだけに使われる技術ではないんです。だからきっと、ルディーン君もこの技術を身につけることによって大きな利益を得られると思いますよ」
「利益、ですか?」
熟成スキルは僕にもいい事があるんだよって聞かされて、お母さんもちょこっと興味がわいたみたい。
だからそれって何なの? ってアマンダさんに聞いたんだ。
そしたらね、この熟成ってのはお酒だけじゃなく、お肉とかをおいしくする事もできるんだって。
「カールフェルトさんたちが住んでいるグランリルの村は、多くの魔物が獲れると言う話ですよね。ならばこの熟成と言う技術は、特に効果を発揮すると思います」
「そう言えば、熟成させることによって生まれる肉のうまみは魔力との相性がいいって聞いた事があるわ。そのおかげで魔物の肉を使うと普通の肉を熟成させるよりも、はるかにおいしいものができるって話よね」
「まぁ、そうなんですか!」
お母さんはおうちでご飯を作ってはいるけど、別に料理人って訳じゃないでしょ?
だからお肉を熟成させるとすっごくおいしくなるなんて事、アマンダさんたちから聞いて初めて知ったみたいなんだ。
おまけに普通のお肉よりも魔物のお肉の方がその熟成ってのの効果が高いって聞いたもんだから、そのお話にものすごい勢いで食いついたんだよね。
「それにこの熟成って言う技術は、お酒やお肉だけじゃなく発酵食品に幅広く使える技術ですからね。よりおいしいものを求めるのであれば、やはり覚えておいて損はないと思いますよ」
「解りました。聞いたわよね、ルディーン。しっかりと教えてもらうんですよ」
お母さんはさっきまであんなに怒ってたのに、最後には僕の方を見て熟成ってのもできるようにちゃんとお勉強しなさいねって。
でもまぁ僕もおいしいお肉は食べたいから、その熟成ってスキルも使えるようになろっと。
読んで頂いてありがとうございます。
ルディーン君自体はあまり深く考えていないようですが、この時点でもうすでにアルコール発酵の度合いを自由調節できるようになってしまいました。
でもこれって、よく考えるとかなりすごい事ですよね? だって思い通りのお酒を作り出せるって事なんですから。
ただ、大人たちは大雑把にスキルを使ってるんだろうなぁなんて考えているので、その技術が有効に使われる事はけして無いのですがw




