356 戦闘スキルってどうやって覚えるのか解んないんだって
ルルモアさんがすごい顔してたもんだから、僕、ちょっとびっくりしちゃったんだよね。
でもそう言えばロルフさんたちには話してたけど、ルルモアさんにはスキルを見れることを教えてなかったっけ。
「うん。覚えてるスキルなら見れるよ」
そう思った僕はついルルモアさんに見られるよって答えちゃったんだけど、そこである事を思い出したんだ。
あっ! そう言えば前にロルフさんから、ステータスの事は内緒にしなきゃダメって言われてたんだっけ。
言っちゃダメって言われたのは魔法の事だけだったけど、でも人に話しちゃうと悪もんが寄ってくるかもしれないよってロルフさんは言ってたよね。
他の人のステータスを見る事ができるルルモアさんがこんなにびっくりしてるくらいなんだから、もしかしたらスキルの事も内緒にしなきゃダメだったのかも。
「ルディーン君。なら、もしかして……」
そう思ってたら、ルルモアさんが僕に聞いてきたんだよ。
だから、何を言われるんだろう? って思ってドキドキしてたんだけど、
「冒険者が覚える、戦闘系のスキルの内容も知っていたりするの?」
そしたら思ってもいなかったことを聞かれたもんだから、ぽかんってしちゃったんだ。
だってさ、スキルを見られるんだったらもしかして魔法も説明も見る事ができるんじゃないの? って聞かれるかもって思ってたんだもん。
なのにこんな事を聞いてきたんだから、びっくりしたんだよね。
「知らないよ。だって僕、そんなスキル、持ってないもん」
「えっ? でも、君はもう一人で魔物を狩れるのよね? なら一つくらいは覚えてるんじゃないの?」
「ううん。戦闘用のスキルって、お父さんやお兄ちゃんたちみたいに剣で狩りをする戦士さんが使うやつだよね? 僕、そんなの使わないもん。だから一個も覚えてないよ」
僕のジョブは魔法職の賢者でしょ? 実はさ、戦う時に使うスキルって魔法系のジョブでは一個も覚えないんだよね。
何でかって言うと、魔法が全部その代わりになるからなんだ。
前衛職が使うスキルって、大きく分けると攻撃する時に使う必殺技と自分の攻撃力や防御力を上げる強化スキルとの二つに分かれるんだよね。
でもね、魔法職だとその二つとも魔法でできちゃうから、スキルで覚える必要が無いんだよね。
例えば戦士とかには、自分の攻撃力や会心率を上げるスキルがあるでしょ?
ゲームによってはこれと同じように魔法職にも攻撃魔力や回復魔力を高めるスキルがあったりするんだけど、ドラゴン&マジック・オンラインだとこういうのにもそれぞれ専用の魔法があるんだ。
それに戦う時は攻撃魔法を使うんだから、前衛職が使う大ダメージが出るのや多くの敵を巻き込むみたいな必殺技スキルだっていらないでしょ?
だから魔法職は、戦闘に関するスキルを覚える必要が無いんだよね。
そんな訳で、僕はそういうスキルは一個も持って無いよって教えてあげたんだ。
「そう。でも、ルディーン君はまだ幼いもの。ならいずれそう言うスキルを覚えることも……」
「いえ、多分それは無いと思うわよ」
だけどルルモアさんは、今は覚えてなくてもいつかは覚えるんじゃないかなぁって思ったみたいなんだよね。
でもその話を横で聞いてたお母さんが、多分それは無いよって。
「何故ですか? カールフェルトさん」
「だってこの子、狩りでは魔法以外使わないもの。武器を使わなければ、それを使ったスキルを覚えるはずないわよ」
だから何で? って聞いたんだけど、そしたらお母さんは魔法しか使わないんだから覚えるわけないじゃないって笑ったんだ。
そしたらその通りだって思ったのか、それを聞いたルルモアさんはすっごくしょんぼりしちゃった。
何でかって言うとね、もし僕が何でもいいから一個でも攻撃スキルを持ってたら、その詳しい話を聞かせて欲しいって思ってたからなんだってさ。
「ルディーン君がステータス画面の説明を読むことでスキルについての詳しい内容が解ると言うのなら、もしかしたら戦闘スキルの習得方法も解るかもと思ったのに」
「確かにそうよね。でもさっきも言った通り、それをこの子に期待するのは多分無駄よ」
ルルモアさんが言うには、前衛職の必殺技と言える攻撃スキルって、その習得方法がほとんど知られていないらしいんだよね。
でも、それを聞いた僕はびっくりしたんだ。
だってドラゴン&マジック・オンラインの時は、レベルが上がればそれだけで戦闘スキルが使えるようになってたんだもん。
「ルルモアさん。攻撃スキルって、覚えてないと使えないの?」
「あら、そんなの当たり前じゃない。ルディーン君が使ってる攻撃魔法だって、まずは魔力の使い方から覚えないとダメでしょ?」
そう言えばゲームの時はそのジョブを選択するだけで魔法が使えるようになったけど、ここだとまずは魔力を体に循環させる練習から始めないとダメだっけ。
それじゃあ攻撃スキルも、そういう使う前に覚えなきゃいけない事があるって事なのかな?
「でもね、魔法と違ってその手のスキルは習得方法がよく解っていないのよ」
「そうなの?」
「ええ。使える人たちに聞いてみても、いつの間にかできるようになっていたからどうやって習得するのか解らないっていう人ばかりなのよねぇ」
魔法は魔力を循環させるって言う、誰にでも解るはっきりとした工程があるよね?
でも戦闘系スキルは使おうと思った瞬間に出るから、そう言うのが無いんだって。
だからそのせいでどうやって覚えるのかが解んないから、もし僕が戦闘スキルの詳しい説明を見る事が出来たら、それを調べて欲しかったんだってさ。
「でも、覚えていなんじゃ仕方がないわよね」
ルルモアさんはそう言うと、もういっぺんちょっとだけしょんぼり。
でもその後に、何かに気が付いたような顔して僕にこう聞いてきたんだ。
「そう言えばルディーン君。戦闘以外でもいいから、何かスキルを覚えてない?」
「それ以外で? えっとね、さっき発酵と醸造を覚えたよ」
「それは流石に解ってるわよ。それ以外には? 何でもいいから、覚えてたら教えてくれないかしら?」
「なんかあったかなぁ?」
スキルって言うと鑑定解析を覚えてるけど、これは言っちゃダメってロルフさんに言われてるんだよね。
あと、何かあったかなぁ?
そう思った僕は、ステータス画面を見てみたんだ。
そしたら探索ってのとマップってのがあったんだけど、これってスキルの欄にあるだけで魔法の一種だからなぁ。
他にも良く調べてったら、錬金術の解析や抽出、それに料理の素材解析とかもスキルの一種らしくて一緒に載ってたんだよ?
でも、それを覚えてるって教えてあげても、ルルモアさんはそんなの知ってるよって言うだろうし……。
と、そんな中、一つだけ特別なスキルがあったんだ。
「あっ、そう言えば治癒魔法UP小ってのがあったっけ」
それをやっとの事で見つけた僕は、大喜びでルルモアさんに教えてあげたんだけど、
「あら、やっぱり持ってたのね」
それを聞いてもルルモアさんはちっともびっくりしなかったんだよね。
だから何で? って聞いてみたんだよ?
そしたら前に冒険者ギルドで僕のスキルを見た時に、僕の回復魔力が一つだけ他のよりすっごく高かったから、きっと持ってるんだろうなぁって思ってたそうなんだ。
「でもこのスキルって生まれた時に授かるものだから、習得方法なんか解るはずないのよねぇ」
でもね、こういうスキルは生まれた時に神様から貰えるやつだから習得方法なんて解るはずないし、その効果も名前とおんなじだからわざわざ教えてもらう意味が無いんだって。
「はぁ、ルディーン君と同じように自分のスキルを見る事ができる人たちは研究がすべてって人ばかりだから、その道を究めるだけにすべての労力を費やしてきた人しかいないのよ。だからなのか、他のスキルなんて一つも持っていないのよねぇ」
自分のスキルを見る事ができるのって言ってしまえばただの自己満足だから、他人のジョブを見られるようになるのとかと違ってできる人より少ないんだって。
だからそれができるようになるような人は、鑑定士の中でも長い間その事ばっかり一生懸命練習してきた人ばっかりでしょ?
そのせいでみんなお年寄りだから、いくらそれが大事な研究だからと言っても今から他の職業のスキルを覚えるのなんて無理なんだって。
「それだけにルディーン君ならって期待したんだけど……」
だから僕だったらもしかして! ってすっごく期待したんだってさ。
でも何にも覚えてなかったって解ったルルモアさんは、がっかりして机の上にぐでぇって倒れこんじゃったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ルディーン君ですが、実を言うと今までにいくつものスキルを覚えて来ています。
でもその殆どが錬金術や料理に関してで、その他のも魔道具作りに関してだったりするんですよね。なのでルルモアさんに話しても、そんなのを教えてもらってもと言われると思って話しませんでした。
まぁ実際のところ、教えてもらってもその手のスキルは習得方法がはっきりと確立しているものばかりなので確かに意味は無かったんですけどね。
そしてロルフさんが言った通り、鑑定解析は秘匿スキルなので絶対話すわけにはいきません。と言うより、ここで話したりしたらルルモアさんやシーラお母さんはともかく、アマンダさんは国によって隔離されてしまったでしょうから話さなくて良かったんですけどね。
因みにですが、前衛系のスキルの習得方法って実はそんなに難しい物じゃないんですよ。
使えるようになるレベルに達した人が、そのスキルの構えや使った時の武器の軌道、それに属性などの性質をよく理解して放とうと思ってたら自然と習得できちゃったりします。
ここまで読んでもらえば解ると思うんですが、これって料理人のスキルである発酵や醸造と同じような習得方法なんですよね。
このような習得方法なので、そのスキルを使える人とパーティーを組んでいる人やその人をよく観察している人はいつの間にか習得してしまい、そのせいもあって使える人に聞いても習得方法が解らないと返事が返ってくると言う訳です。




