33 思惑と純真な村人
よく解らないけど、お金があると冒険者にはならないらしい。
でもそれだとちょっと変じゃない? だってお父さん、とっても高い魔道具や錬金術の本を僕に買ってくれるくらいお金持ってるのに冒険者じゃないか。
お金をいっぱい持ってたら冒険者にならないのなら、お父さんが冒険者なのはおかしいよ。
そう思って、その疑問をお父さんにぶつけてみたんだ。
「うそだぁ。おとうさんもおかあさんも、おかねいっぱいもってるんでしょ? まどうぐとれんきんじゅつのほん、にさつもぼくにかってくれたもん。なのにぼうけんしゃじゃないか!」
「あ~それは違うぞルディーン。お父さんたちはお金があるのに冒険者になったんじゃなく、冒険者ギルドに所属して依頼の入っている魔物の素材を納品したり、それ以外の素材を売ったりしているからお金があるんだ」
えっと、じゃあお父さんがお金を持ってるのは冒険者だからって事だよね? じゃあ冒険者はお金をいっぱい持ってるって事? ならお金をもっと増やす為に魔法使いも冒険者になったほうがいいんじゃないかなぁ?
そう思ってお父さんに聞いてみたら、
「初めからお金があるのなら、危険な冒険者になんかならなくてもいいだろ」
なんて言われちゃった。
ああそう言えば冒険者って危険なんだっけ。
「そうよ、ルディーン君。冒険者と言うのは本来、家族が多くて村にいても自分の畑が持てなかったり、街に住んでいても次男以降の生まれで家の跡を継げない子供たちが他の職に就けなかったりした時に仕方なくなるって場合が殆どなの。そんな人たちだから多少危険でもお金になる冒険者をしてるのよ。それなのに他にいくらでもお金が稼げる魔法使いが、危険な冒険者になろうなんて言いだしたら普通は驚くでしょ?」
なるほど、そう言われればその通りかもしれない。
街で仕事をしている分には戦争でも起こらない限りはそうそう危険な目に会うことも無いよね。
そりゃ中には悪い人もいるから絶対に安全とは言わないけど、衛兵さんたちが見回ってるんだからそこまで危険なことに出会う事はないし、そもそも変な人に絡まれたとしても魔法使いなら簡単にやっつけられるはずだ。
なら安全でお金もいっぱい稼げるはずの魔法使いが冒険者になります! ってギルドに来たら、みんなそりゃあびっくりするよね。
「そっか。いたいのはみんないやだし、おしごとがあるならぼうけんしゃになるのはへんだもんね。ぼくわかったよ」
「そう言う事。だからみんなルディーン君が魔法を使えるって聞いて驚いたのよ。解ってくれて安心したわ」
そうルルモアさんは、心底安心したような顔で僕に微笑みかけてくれた。
そう言えば僕、初めにこの部屋に来た時、泣いちゃったんだよね。
きっとルルモアさんはそんな僕を見て心配してたんだと思う。
「ごめんね。ないちゃったりして」
「いいのよ、ルディーン君もきっと不安だっただけですもの。解ってくれただけで私は満足です」
きちっと謝ったらルルモアさんはそう言って許してくれた。
だから僕は、
「うん!ありがと」
そう言って笑ったんだ。
■
良かった、なんとか納得させる事ができたわ。
実を言うと神官職だけじゃなく、普通の魔法使いも冒険者には殆ど居ないから新人冒険者がもし魔法が使えると周りにばれた場合、予め入るパーティーが決まっている時以外はまず間違いなく勧誘合戦が起こる。
実際癒しの魔法や攻撃魔法を使えるメンバーがパーティーにいたら、他のパーティーに比べて圧倒的に有利な立場になるのよね。
何せ癒しの魔法があれば多少の怪我を負ったとしてもすぐに治療できるから格上の獲物に挑む事ができるし、攻撃魔法は弓と違って発動してしまえばよほどの事がない限り外す事はない上に、素材が高く売れる属性持ちの魔物の殆どは普通の武器での攻撃に耐性があって効果が薄いのに対し、弱点属性の攻撃魔法ならば大ダメージを与えられるから倒すのが容易になるからだ。
それだけに魔法使いも神官同様、誰だってぜひともパーティーに入れたいと思う存在なのよね。
でも普通は癒しの魔法が使える神官職持ちはSクラスのパーティーにしか入りたがらないし、魔法使いだっていくら勧誘されたとしてもBクラス以下のパーティーに入ってくれるなんて事はまずありえない。
だから普通は今、下に居るような低クラスの冒険者たちが声を掛けてくる事はないんだけど、今回はルディーン君の年齢が問題なのよね。
子供と言うのは誰しもヒーロー願望がある。
だからその力を使って多くの人を苦しめている魔物を一緒に狩ろうなんて言われたらその気になってしまうものなのよね。
これが魔法使いを入れるだけの力量があったり、いずれそのレベルまで達するほどの将来性があるパーティーなら別にいいけど、こういう勧誘をする者は得てして自己顕示欲は強いのに実力が伴っていない愚物が多いのだ。
ましてや相手がこんな小さな子供で、なおかつ周りには知り合いしか居ないような小さな村出身では騙して仲間に入れるのは簡単だろう。
そう言う輩からルディーン君を守るには、彼が魔法を使えるということを隠すのが一番なのよ。
だからこそ、あまり魔法が使えるという事を言って回らないように念を押して置きたかったのよね。
それにカールフェルトさんも魔法使いが冒険者の中では貴重な存在であると知っているはずなのに、私の先ほどまでの説明に対して何も言ってこなかったという事は同じ考えなんだと思う。
そうじゃなかったら、あんな苦しい言い訳を黙って聞いているはずないものね。
するとその時、
「なるほど。では魔法が使えるルディーンが冒険者登録するというのは変わり者の烙印を押される可能性があるという事なのですね?」
カールフェルトさんが私にそんな質問を投げかけてきた。
なるほど、確かに変わり者と噂されるのは誰しも嫌なものだ。
冒険者登録はグランリルの村の人は必ず行う以上、変わり者と言われたくなければ魔法が使える事は隠さなければいけないと考えるだろうから、この言い訳は確かに有効だ。
「ええ、そうですね。一般的には魔法使いとしての職を探す方が有効なのにわざわざ冒険者になろうと考えるのはかなり酔狂な話ですから」
「そうですか。ルディーン、お前も周りの人から変なのって言われたくはないだろ? だからな、魔法が使えるってのはなるべく秘密にしておけ。村でならいくら話してもいいけど、他の場所ではな」
「うん! ぼく、ひみつにするよ」
おお、カールフェルトさんのナイスアシストでルディーン君は自分が魔法を使えるということを内緒にしてくれると約束してくれたわ。
これで一安心ね。
いずれは今日の話が嘘だったとばれる日が来るだろうけど、その頃にはルディーン君も成長して物事が解るようになっているだろうし、変な人に騙される事も無くなっているでしょう。
もしかしたらちょっと恨まれたりするかもしれないけどきちんと話せば解ってもらえるだろうし、もし恨まれたままだったとしてもこの子が変な連中に騙されるよりは何倍もマシよね。
こうして私は、この結果に大変満足した。
余談ではあるが、実の所ルルモアの言葉に騙された純真な者はルディーンだけではなかった。
そうか、魔法使いがあまり冒険者に居ないのは変わり者と思われるからなのか。
確かに魔法は強力で魔物を狩るのにとても便利なものではあるけど、危険と隣り合わせな冒険者にならずとも大金を手にする事ができるのであればそちらの職に付く方が賢い選択だ。
それにかなりの金が必要なのだから、魔法使いの殆どは裕福で何不自由無く育った者たちだろう。
それなのにそんな生活の中から抜け出してわざわざ危険な冒険者になるなどと言い出したら、親は嘆き悲しむだろうし周りの人たちからも変わり者と蔑まれるであろうと事は簡単に想像がつく。
よかった。村の司祭様からキャリーナの癒しの魔法は邪なものを呼び寄せるからあまり言いふらすべきではないと言われていたけど、ルディーンの攻撃魔法に関しては誰も何も言ってなかったからな。
『カールフェルトさん! こういう事は先に言ってくださらないと困ります』
1階の冒険者登録カウンターでルルモアさんが、物凄い剣幕で喰って掛かって来た事を思い出し、俺は心の中で苦笑いする。
あの時ルディーンが言い出さなければ、俺が下の冒険者登録カウンターで先に言っていただろうからなぁ。
危うく大事な末っ子を周りから変わり者扱いされる原因を自分で作ってしまう所だったと俺は一人、心の中でホッと胸を撫で下ろした。
読んで頂いてありがとうございます。
30話を超えて、皆さんがこの作品をどう考えているのか気になっている今日この頃です。
できたら感想を頂きたいのですが、それが無理なら評価だけでも入れていただけるとありがたいです。




