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32 魔法使いは冒険者にならない


 そう言えば最初、キャリーナ姉ちゃんも魔力の事を話しても何のことか解んなかったっけ。


 あの時は僕、図書館で本を読んだらやり方が書いてあったからそのままお姉ちゃんが魔法を使えるまで教えたけど、もしかして僕がいなかったらお姉ちゃんは魔法を使えるようにならなかったの?


 僕は前世の記憶があるからか魔法を使うと言う事がそれ程難しいとは思わなかった。

 だからてっきりもっと簡単に、誰でも覚えられるものなんだって思ってたのに……。


 魔法の本にも解らなかったらできる人に教えてもらおうって教え方まで書いてあったから、村では誰も使えないけどきっと町に行けばみんな使ってるんだろうなぁなんて僕は考えていたんだよね。


 それなのにまさかそんなにお金が掛かるなんて。


「でもなんで? なんでそんなにおかね、かかるの? おねえちゃん、10かくらいおしえたらつかえるようになったよ」


「10日? ……って、もしかしてルディーン君がキャリーナさんの魔力制御を指導したの!?」


 もう! また変な所に引っかかって! 話が進まないじゃないか。


 本が高いのは解ったけど、それでもなんでそんなにお金が掛かるのか解らなかったから聞いたのに、ルルモアさんは僕の質問より10日くらい教えたって方に気を取られてしまったんだ。


「そうだよ。それで、どうしてそんなにおかねかかるの? もしかしておねえちゃんがてんさいで、ふつうのひとはおぼえるのに1ねんとかかかるの?」


「えっと、確かに早い方ではあるけどお姉さんは天才ではないと思うわよ。普通は半月もあれば魔力制御はできるようになるし、長い人でも一月も指導を受ければできるようになるからね」


 それならなんでそんなにお金、掛かるんだろう? それに知り合いに魔法使いがいれば教えてもらえるだろうから、家庭教師とかが居たとしてもそんなに高いお金は取らないと思うんだけど。


 そう思って聞いてみたら、ルルモアさんからは意外な答えが返ってきた。


「あのね、ルディーン君。君、魔法が使える人は全員、魔力操作の指導ができると思ってるでしょ?」


「ちがうの?」


「魔法を使える人でも自分の体の中の魔力ならともかく、それ以外の魔力を自分の意思で動かせる人は多分10人に1人か2人しか居ないでしょうね。そしてそんな人たちが長い間訓練して、初めて他人の魔力を操れるようになるのよ」


 なんと、魔力制御の指導は普通の魔法使いにはできないらしい。


 自分の魔力は感じ取ってしまえば元々は自分の中にあるものだから制御できるようになるのに苦労しないらしいんだけど、それ以外の魔力となるとそうはいかないんだって。

 僕らの周りに漂っている意思のない魔力でさえ、自分の魔力とはまるで別のものだから動かせる人はあんまりいないらしいんだ。


 そしてこれが他人のものとなるとその難易度は大きく跳ね上がって、普通はきちんと専用の教育機関で練習しないと動かせるようにならないんだってさ。


「それくらい人の意思が働いている魔力を動かすと言うのは難しいのよ」


 そう言えばキャリーナ姉ちゃんに魔法を教えてる時でも、お姉ちゃんが少しでも自分で動かそうとしたら僕も動かせなくなったっけ。


 今考えると僕、確かに結構難しい事をやってたのかもしれないなぁ。


「ルディーン君、お姉さんが魔法が使えるようになるまで指導したって言っていたけど、それも本を読んで覚えたの?」


「うん。むらにあったまほうのほんにやりかたがかいてあったから、そのままやったよ」


 そう言ったらあきれられてしまった。


 う~ん結構どころか、キャリーナ姉ちゃんに教えたと言う事は、僕が思っていた以上に大変な事だったみたいだね。


「さっきの話に戻るわよ。いい、ルディーン君。驚かないで聞いてね。魔法を教える家庭教師の相場は、1回1時間の指導で金貨20枚よ。ルディーン君がキャリーナさんに行った指導をもし家庭教師に頼んでいたとしたら、金貨200枚は掛かっていたと言う事になるわね。そしてその他に普通は魔法の教本も買わないといけないからプラス金貨60枚。お姉さんはキュアを村の司祭様の呪文を聞いて覚えたからお金が掛からなかったけど、普通はそれも指導してもらうから後20枚追加で、合計280枚ほどかかるってわけ。どう? お金、いっぱいかかるでしょ」


 なんとびっくり、家庭教師ってそんなに取られるんだ。


 でもそんなにお金掛かかるのなら魔法を覚えようって人、いないんじゃないかなぁ? と、そんな事を考えたんだけど、それはまったくの見当違いらしい。


「魔法はね、色々な事ができるのよ。ルディーン君、このイーノックカウの周りには大きな壁があるでしょ? あれ、どうやって作ったと思う?」


「もしかして、まほう?」


「正解。あの壁は魔法の力によって作られているのよ」


 一般魔法には材料さえあれば物を作る事ができる魔法が幾つかあって、その中には結構高レベルの魔法ではあるものの建物を作る魔法もある。

 もしかしてそれを使ってあの高い壁を作ったのかなぁ? でもいくら材料があったとしても、あれだけの高さがある壁を作れるなんて相当高レベルじゃないとできないと思うんだけど。


 そう思った僕はどんな凄い魔法使いが造ったんだろうって思って聞いてみたんだ。


「あんなたかいかべをまほうでつくるなんて、すごいひとがいるんだね。やっぱりおうちを作るまほうでばばぁ~ってつくっちゃったの?」


「家を作る魔法? ああ、《びるど》の事か。いいえ、いくら優秀な魔法使いが居たとしてもあれだけ大きな壁を作るのは流石に無理かな」


 ありゃ、魔法で作ったと言ってたのに建物を作る魔法で作ったわけじゃないのか。

 ならどうやって作ったんだろう?


「魔法にはね、土から石を作ったり重いものを軽くしたりできる魔法があるのよ。この二つはある程度熟練した魔法使いなら比較的簡単に覚えられるから、多くの魔法使いがその二つを使ってあの壁を作り上げたのよ」


「なるほど。いっぱいいれば、あんなおおきなものでもつくれるのか」


 そう言えば重さ軽減魔法は1レベルから使えたっけ。


 確かあの魔法は1レベルでは1割位しか軽くできないけど、それから2レベルが上がるごとに1割ずつ軽減できる量が増えて、17レベルで9割まで減らせるようになったはず。

 必要MPは増えるけど、そこまで軽く出来ればあの壁に使われている大きな石だって積み上げられるだろうね。


 そっかぁ、お父さんよりレベルが上の魔法使いがあの壁を作れるくらいいっぱいいるんだね。

 やっぱり街は凄いなぁ。


「このように大きな壁を作ったり、川に橋を架けたりする仕事は魔法使いが居ないとかなり大変だと言う事がルディーン君にも解るわよね。だからそんな仕事をしている魔法使いたちはいっぱいお金がもらえるのよ」


「そっか、だからいっぱいおかねをつかっても、まほうつかいになりたいってひとがいるんだね」


「そういう事よ。確かに最初の出費は大きいかもしれないけど、長い目で見ればそれを回収して余りあるくらいのお金は軽く稼げるのが魔法使いってわけ。あとね、領地を持つ貴族も魔法が使えれば色々と便利だから子供に魔法の勉強をさせる人が多いわね」


 そうだよなぁ、自分で工事ができるのなら人を雇わなくても良くなるし、そうじゃなくてもここをこうして欲しいと説明するにしても自分でできた方が伝えやすそうだもん。

 それに魔法は攻撃や防御に使えるから、いざと言う時に身を守る方法として覚えて損はないんだろうなぁ。


「だったら、いどうがおおいしょうにんさんたちもおぼえてるひと、おおいだろうね。ぼうぎょのまほうがつかえたほうがいいとおもうし」


「そうね。確かに大きな商会の跡取りの中には魔法を覚える人もいるわ。でも殆どは算術や商売を小さい頃から勉強するのに忙しくて魔法まで手が回らないから、魔法使いを雇う方が多いかな? 魔法って人間の場合はかなり小さい頃から、それこそ3~4歳くらいから練習を始めてやっと使えるようになるものですもの」


 なんと、そんなに小さいうちからやらないといけないのか。


 って、よく考えたら僕も4歳から練習をしてたっけ。

 案外それも僕が賢者のジョブを取得した理由なのかもしれないね。


「えっ、そんなに小さい頃から練習しなくてはいけないのですか? うちのキャリーナは7歳の頃から魔法の練習を始めたみたいなんですが」


 そんな事を考えていたらお父さんが、キャリーナ姉ちゃんの事をルルモアさんに質問した。


 そう言えばお姉ちゃんは僕の3つ上だから、7歳で練習を始めたんだよね。

 早いうちから始めなければいけない理由がもしあるとしたら、これから問題が出てくるかもしれないもん。そりゃあお父さんも気になるよね。


 でも、そんな心配は要らなかったみたい。


「ああ、それくらいなら問題は無いんじゃないでしょうか。早いうちから練習を始めた方がいいと言われているのは、外国語と同じ様に呪文の発音も小さいうちの方が覚えやすいと言う理由ですから」


 どうやら呪文を覚えるのに早く始めた方が有利だから、普通は4歳くらいから始めるんだってさ。


 でもそうなると、僕が賢者のジョブになったのは始めた歳は関係ないのか。

 なら一体なんでなれたんだろ? なぞは深まるばかりだね。


「さて、ルディーン君。最初に君が持った疑問は覚えてる?」


「ぎもん?」


 そう言われて僕は、何故みんなが僕の方を一斉に見たのかって話で大騒ぎしたのを思い出した。

 いろんな事を聞いているうちに、すっかり忘れてたよ。


「その顔からすると思い出したみたいね。ではここまでの話を聞いて、何故ギルド内に居た人たちがルディーン君が魔法を使えると聞いてあんなに驚いたのか、解った?」


 魔法を覚えるのにはお金が掛かると言うのは解ったよ。

 でも、逆から言えばお金があれば魔法を覚えるのはやっぱり誰にでも出来ることだと解ったから、それで驚かれたという事はないと思うんだよね。


 じゃあ貴族様は魔法を覚える人が多いそうだから間違えられたとか? う~ん、これもないなぁ。

 だってどう見ても普通の村の子供だもん。


 同じ様に大商人の子供にも見えないだろうし、お父さんは見るからに戦士だから魔法使いの子供だって勘違いされたって事もないよね。


「う~ん、わかんない」


「解らないかぁ」


 僕の答えに苦笑いするルルモアさん。

 そしてお父さんもそんな僕を見て、


「まぁ、ルディーンはこのイーノックカウに来るまでお金を見たことも無かったから仕方がないだろうなぁ」


 なんて言ったんだ。


 そしてそのお父さんの言葉を聞いて、僕はある事を思いついたので、それを試しに言ってみた。


「もしかしておかね? まほうつかいはおかねもちだから、ぼうけんしゃにならないの?」


 そんな僕の言葉にルルモアさんとお父さんは笑顔で頷いた。

 そっか、お金持ちは冒険者にならないのか。


読んで頂いてありがとうございます。


30話を超えて、皆さんがこの作品をどう考えているのか気になっている今日この頃です。

できたら感想を頂きたいのですが、それが無理なら評価だけでも入れていただけるとありがたいです。

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[気になる点] 瞬間的に幼児退行するように直ぐに泣くのが…変過ぎる。
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