337 錬金術だとすっごく時間がかかっちゃうんだってさ
ロルフさんはバーリマンさんにペソラさんをいじめちゃダメだよって笑うと、今度は僕に話しかけてきたんだ。
「ところで、ルディーン君。もし都合がよければ、ちと手伝ってほしい事があるのじゃが、これから何か予定はあるのかな?」
「手伝ってほしい事?」
「うむ。先ほども話した通り、ベニオウの実には皮や実に魔力がこもっている可能性が高い。じゃからの、それを調べる手伝いをして欲しいのじゃよ」
錬金術には解析って技術があってね、それを使えば調べたものにどんな魔力や成分が含まれてるかがある程度解るんだよね。
その解析は錬金術のギルドマスターであるバーリマンさんや僕に錬金術を教えてくれたロルフさんだけじゃなく、ペソラさんだってこのギルドの職員なんだから当然使えるんだって。
でもそんなみんなが使える解析だけど、それだけだとあんまり詳しくは解んないから鑑定解析が使える僕にベニオウの実を調べるのを手伝って欲しいんだってさ。
「このような食材を解析する専門家は、このイーノックカウにも一応住んではおる。じゃがな、彼らに任せると時間がかかってしまうのが難点でのぉ」
「その点、ルディーン君の鑑定解析ならすぐに詳しい結果が解りますもの。なるほど、だからもし時間があるようなら手伝って欲しいと思われたのですね」
僕が使える鑑定解析ってのはね、名前の通り鑑定しながら解析するスキルだから、それで調べるとそれを食べた時にどんな効果があるかとかまですぐ解っちゃうんだよね。
でもね、解析はそこに何がどれくらい含まれてるかってのが解るだけでしょ?
だから鑑定解析とおんなじ事を解析だけでやろうと思ったら、出てきた結果をいろんな偉い人たちが研究した資料と見比べて、それがどんな効果なのかを調べないとダメなんだって。
「わしの家にも食材解析の専門家はおって、彼らならばわしが命じればすぐに動いてはくれるじゃろう。しかしあの者たちはわしらが口にする食材に害があるものが入っているかどうかを調べるのが専門でのぉ、今回のようにどんな魔力が含まれているのかを調べようと思うとどうしても専門の者に頼む必要が出てくるから時間がかかってしまうのじゃよ」
「食の安全を調べるだけの私やロルフさんが雇っている人達と違って、そう言うものを調べる人は研究者が多いのよ。だから下手にこだわる人に任せてしまうと、結果が出るまでに半年とか一年くらい、平気でかかってしまうのよね」
ロルフさんたちはベニオウの実や皮に魔力が入ってるのかどうかとか、もし入ってるのならどんな効果があるのかを知りたいだけなんだって。
だってそれが解れば、それがどんな事に使えるのかを研究できるでしょ?
なのに、調べるだけですっごく時間がかかっちゃったらその研究を始めるのも遅くなっちゃうから、できたら僕にお手伝いして欲しいんだってさ。
「そっか。いいよ。じゃあ、このベニオウの実を鑑定解析で調べればいいの?」
「いや、それだけではない。これとは別に、このイーノックカウで普通に売られているものを手に入れて、その実や皮とこのベニオウの実の実や皮との違いを調べて欲しいのじゃよ」
「ええ。それに、できたらその結果を踏まえて、より詳しい事も調べて欲しいのよね」
鑑定解析ってスキルはね、これを調べたいって思いながら調べるとその事について、もっと詳しく解るんだよね。
だからロルフさんたちは、僕がこの街にいるうちに時間をかけてしっかりと調べたいんだってさ。
でもさ、さっきみんなでお菓子にしていっぱい食べちゃったから、お土産に持ってきたベニオウの実がかなり減っちゃってるでしょ?
だから僕、あとでお兄ちゃんたちと一緒にもういっぺん森の中に行って、ベニオウの実を採って来ようって思ってたんだよね。
「だったらすっごく時間がかかっちゃうよね。じゃあダメだよ」
「どうして? この後に何が用事でもあるの?」
「うん。僕たち、お土産のベニオウの実をいっぱい食べちゃったでしょ? だから後でお兄ちゃんたちと一緒に、森ん中までもういっぺん採りに行こってさっき話してたんだ」
僕は食べちゃった分をまた採りに行かないとダメなんだよって話したんだけど、そしたらそれを聞いたバーリマンさんが不思議そうな顔してこう聞いてきたんだ。
「もうベニオウの木の場所は解っているんですよね? ならば、お兄さんたちだけで採りに行くと言うわけにはいかないのかしら?」
「無理だよ。だってお兄ちゃんたち、僕がいないとベニオウの木に登れないもん」
さっき採る時に使った階段はもう壊しちゃったから、僕が一緒に行ってクリエイト魔法で登り棒を作んないとお兄ちゃんたちはベニオウの木に登れないでしょ?
だからベニオウの実を採ろうと思ったら、僕が絶対一緒に行かないとダメなんだよね。
「なるほど。ベニオウの実を収穫するには、どうしてもルディーン君の力が必要なのですね」
「うん。だからね、僕はお兄ちゃんたちと行かないとダメなんだ」
僕のお話を聞いて、それならば仕方ないねってバーリマンさんは解ってくれたみたい。
でもね、そしたら今度は横で聞いてたロルフさんがとんでもない事を言い出しちゃったんだ。
「兄たちと一緒に、ベニオウの実の収穫に向かうとな? ふむ、それは興味深い。のぉ、ルディーン君。その収穫に、わしが同行する事はできぬか?」
「えっ!?」
ロルフさんはね、ベニオウの実だけじゃなくって、それが採れる木やその周りの環境も調べたいんだって。
だから一緒に連れてってってなんて、言いだしちゃったんだよね。
でもそれを聞いたバーリマンさんは、すっごく怖い顔になっちゃった。
「何を言い出すのですか、伯爵! それはご自分の立場や年齢をよく解っている上での発言ですか!?」
ロルフさんはいつも錬金術ギルドで店番なんてしてるけど、ほんとはおっきな家を二つも持ってくるくらいのすっごいお金持ちなんだよね。
それにもうお爺さんでしょ?
だから僕たちと一緒に行くのは危ないよとか、自分の歳を考えてってバーリマンさんは一生懸命止めたんだ。
でもロルフさんは、どうしても一緒に行きたいって言うんだよね。
「ギルマスはわしの事を年寄り扱いするが、森の入口辺りまでなら薬草の採取のために今でもたまに足を運んでおるのじゃぞ?」
「それは入口付近だからです。でもルディーン君たちが向かうベニオウの木は森の奥深くにあるのですよ? そんな危険な所まで、伯爵を連れて行けるはずないではありませんか!」
動物しかいない森の入口と違って、僕たちが採ってきたベニオウの実が採れる場所はすっごく森の奥だから魔物とかも当然出るんだよね。
だから今でも森に行く事があるんだよってロルフさんが言っても、バーリマンさんは絶対ダメって。
「じゃがな、今回は探知魔法で周りを探る事ができるルディーン君が一緒におるし、それにグランリルの村で狩人をしておる兄たちも同行するとの事。ならばじゃ、そなたの言う危険な場所に生えているベニオウの木の変異種をこれほど安全に調べられる機会など、これから先二度とはあるまいて。ギルマスよ、そうは思わぬか?」
「それはそうですけど……」
確かに僕が探知魔法で周りを調べながら進んでくのなら、魔物に襲われる心配はないよね。
それに今回はお兄ちゃんたちも一緒だもん。
だったら、ロルフさんが森の中で魔物にやられちゃう心配はそんなにないんだよね。
それに、
「そう言えばディック兄ちゃんが、ベニオウの木のそばの魔物が僕を見て逃げてったって言ってたっけ」
そう言えばあの辺りの魔物は、僕を見ただけで逃げてっちゃったそうなんだよね。
だったらさ、僕たちと一緒に行くならもしかすると全然危なくないのかも?
「なに!? ルディーン君。それは誠か?」
「うん。僕が木の下で箱とか干し草を作ってる時に、ディック兄ちゃんは危なくないようにって上から見ててくれたんだって。その時、僕に気が付いた魔物はみんな、こっち来ないで逃げてったって言ってたよ」
「ギルマスよ。そういう事ならば、ルディーン君やその兄たちが同行するのならば、魔物に襲われる可能性は限りなく低くなるとは思わぬか?」
僕の話を聞いたロルフさんは、それなら危なくないよね? って大喜び。
それとは逆に、バーリマンさんはすっごく困った顔になっちゃったんだ。
「確かに、それならば……いえ、やはりいけません」
でもね、もうちょっとで行っていいよって言いそうになったところで、バーリマンさんはやっぱりダメって、にっこり笑ったんだ。
「何故じゃ? ギルマスも、この状況ならば危険はないと解っておるのじゃろう?」
「ええ、確かに危険は少ないと思われます。ですがロルフさんはもうお歳ではないですか。それなのに、そんな森の奥地まで歩いて行けるはずがないでしょう?」
もうちょっとだったのにやっぱりダメって言われたもんだから、ロルフさんはなんで? って聞いたんだよ。
そしたらさ、バーリマンさんはニコニコしながら、もうお爺さんだからそんな森の奥まで行けるはずないよでしょって。
そっか。そう言えばあそこって、森の入口からすっごく遠いもん。
いっつも馬車に乗ってるロルフさんが、歩いて行けるはずないよね。
読んで頂いてありがとうございます。
ルディーン君たちが採ってきたベニオウの実が収穫できる木ですが、幻獣が居た場所の近くなので当然かなり森の奥地なんですよね。
だからいつもロルフさんが行っている森の入口と違って、馬車どころか馬に乗っていく事さえできません。
でもロルフさんの言う通り安全にその場所を調べるのなんてこんなチャンスでもなければ無理ですから、実を言うとバーリマンさんもそれならば私も行こうかな? なんて考えていました。
でも、いざ自分でそこまで歩くという事を考えて、そう言えばそもそも歩いて辿り着くことが無理なんじゃないかな? と言う考えにいたったと言うわけです。
バーリマンさんも貴族ですから、普段は馬車移動ばかりでそれほどの長距離を歩くなんてできるはずがないですからね。




