334 みんなは思いつかないんだってさ
「何じゃ、こんなところにおったのか」
お父さんやお兄ちゃんたちが作ってくれるベニオウの実のお菓子を僕たちがおいしいねって言いながら食べてたら、そのお部屋にロルフさんがドアを開けて入ってきたんだ。
「ふと気付けば姿が見えなかったからのぉ。帰ってしまったのかと思って、ちと慌てたぞ」
「すみません、ギルドマスターとのお話を邪魔してはいけないと思って、私がこちらへお連れしたのです」
ロルフさんはね、バーリマンさんとお話してるうちに僕たちが帰っちゃったんじゃないかって思ったんだって。
そしたらそれを聞いたペソラさんが、僕たちが怒られるかも? って思ったのか、お話の邪魔しちゃダメだから自分がここに連れてきたんだよって言っちゃったんだよね。
でもさ、僕たちがここにいるのはペソラさんが行こって言ったからじゃないよね?
「違うよ! ペソラさんがベニオウの実を食べた事ないって言ったから、僕とキャリーナ姉ちゃんが一緒に食べよって言ったんだもん」
「そうだよ。ペソラお姉さんは何にも悪くないんだよ!」
だから僕とキャリーナ姉ちゃんは、二人してペソラさんを怒らないでってロルフさんに言ったんだ。
そしたらロルフさんは、僕とキャリーナ姉ちゃんに笑いながら大丈夫だよって。
「そう心配せずとも、ちと慌てただけで別に怒っているわけではない。して、皆はこんなところで何をやっておったのじゃ?」
「あのね、持ってきたベニオウの実でつべたいお菓子を作って、みんなで食べてたんだよ」
「ほう。ベニオウの実を使った菓子とな?」
僕がみんなでお菓子を食べてたんだよって教えてあげたら、ロルフさんはそれに興味を持ったみたいなんだよね。
そう言えば前に雲のお菓子を持ってきた時も、ロルフさんはおいしそうに食べてたっけ。
もしかして、甘いものが好きなのかなぁ?
「はい。ルディーン君がキャリーナちゃんのために考えたもので、甘氷のように果汁だけを使ったものではなく皮や果肉まで使った珍しいお菓子なんですよ。ロルフさんもお召し上がりになりますか?」
「ルディーン君が考えた菓子か。それは頂かねばなるまいて」
どうやらペソラさんも僕と同じように考えたみたいで、ロルフさんも食べる? って聞いたんだよね。
そしたら食べるよって返事が返ってきたんだけど、
「あっ! 申し訳ありません。先ほど作ったものは、どうやらすべて食べてしまったようで……」
さっきお父さんたちが作った分までみんな食べちゃったみたいで、ボウルの中には何にも入って無かったんだ。
「もう無いとな。それは、ちと残念じゃのう」
「大丈夫だよ! ベニオウの実はまだいっぱいあるから、すぐに次のを作ればいいだけだもん」
「ほう。その菓子はすぐに作れるものなのじゃな?」
「はい。それほど時間がかかる訳ではないので、すぐにお作りしますね」
それを聞いて一度はしょんぼりしちゃったロルフさんだけど、僕が簡単に作れるんだよって教えてあげたらすぐににっこり。
そんな笑顔のロルフさんを見て、ペソラさんも早く作んなきゃって大急ぎでボウルにベニオウの実を入れて持ってきたんだ。
「ほう。このベニオウの実の皮は、普通のものと違ってかなり薄いと見える。果肉だけではなく皮も入れると聞いてどんなものができるのかと思ったのじゃが、なるほど、これならばいっしょに食しても問題は無さそうじゃな」
「はい。このようにしっかりと潰してしまうので、果肉と混ざりあって口にしても違和感がありませんでした」
でね、ペソラさんがそのベニオウの実をつぶし始めたのを見て、ロルフさんはこれなら皮も食べられるねって。
そっか。そう言えば僕もルルモアさんが皮をむかずに食べた時はびっくりしたもん。
ロルフさんだって皮も一緒に食べるんだよって言われたら、ホントかなぁ? って思っちゃうよね。
でも作ってるとこを見たら皮が普通のよりすっごく薄かったもんだから、ロルフさんもこれなら食べられるねって安心したみたいなんだ。
そんなお話をしてる時もペソラさんはベニオウの実を一生懸命つぶしてたおかげで、あっと言う間に実と皮のペーストが完成。
出来上がったのを見るとそれだけでも十分おいしそうなんだけど、流石にこれで終わりじゃないよね? って思ったロルフさんはペソラさんに、これをどうするの? って聞いてきたんだよね。
「このままでもかなり美味そうじゃが、ルディーン君が考えた菓子という事は流石にこれで仕舞いという事はあるまい? 彼が先ほど冷たいお菓子と言っておったが、もしや砕いた氷をこの中に入れるのかな?」
「いえ、違います。次は先ほどルディーン君が作ってくれた、この魔道具を使うんですよ」
そう言うとペソラさんは、横に置いてあったつべたいお菓子を作る魔道具を持ってスイッチオン!
それをボウルに突っ込んで、かき混ぜ始めたんだ。
「はて、これは一体何を? ……いや待て、その魔道具の頭についているのはもしや、氷の魔石か?」
「はい。これを使えば、かき混ぜるだけで材料を凍らせることができるそうなんですよ」
「なんと! かき混ぜただけで凍らせる事ができる魔道具を作ったと言うのか!?」
でね、これが何の魔道具なのかをペソラさんが教えてあげたら、ロルフさんはびっくりした顔になっちゃって僕にほんと? って聞いてきたんだ。
でもさ、何でこんなにびっくりしたんだろう。
だって僕、今までにも冷蔵庫とかクーラーとかを作ってきたよね?
だからこういう魔道具を作ったからって、そんなにびっくりする事ないと思うんだけどなぁ。
そう思った僕は、ロルフさんに何でそんなにびっくりしてるの? って聞いてみたんだよ。
そしたらさ、こんな魔道具は他で見た事が無いからびっくりしたんだって。
「ルディーン君も知っての通り、確かに物を冷やす魔道具はある。じゃがそれらは皆、魔道具の中に物を入れて冷やすというものばかりなのじゃ」
「そうなの?」
「うむ。そしてその形状ゆえに、それらの魔道具は使い方が限られておるのじゃよ」
例えばさ、冷蔵庫で何かを冷やそうと思ったら中に入れっぱなしにしないとダメだし、当然冷蔵庫自体も動かせないよね?
だって動かしちゃったら、中のものがこぼれちゃうかもしれないもん。
それにね、物を冷やそうと思ったら使う魔石もある程度の大きさが無いとダメなんだって。
「氷の魔石で物を短時間に冷やすのはそれほど難しい事ではない。じゃがそれは、氷の魔石から直接魔力を流し込んだものに限った話なのじゃよ」
「そっか。氷の魔力を通せばその入れ物の中はすぐにつべたくなっちゃうけど、中に入れた物はなかなかつべたくならないもんね」
例えば中だけ冷たくできる程度の力しかない魔石で魔道具を作ったとするでしょ?
そしたら何かを入れただけで、その魔道具は中が温かくなっちゃうんだよね。
だから魔道冷蔵庫を作ろうと思ったら僕が作った簡易版みたいに魔石で氷を作ってそれで中を冷やすか、ちゃんと中のものまで冷えるくらいおっきな魔力がある魔石を使わないとダメなんだ。
「うむ。そして大きな魔石を使わなければならないという制約ゆえに、その魔道具はどうしても大きなものにせざるを得ないのじゃ。小さなものを作ってしまえば、どうしても入れられるものが限られてしまうからのう」
でね、おっきな魔石を使おうと思ったらお金がいっぱいかかっちゃうでしょ?
それなのにわざわざちっちゃなものを作る人はいないから、物を冷やす魔道具はみんなおっきいんだよってロルフさんは言うんだ。
「じゃが、この魔道具は違う。なにせ氷の魔力を通した棒を材料に入れてかき混ぜる事によって中の物を冷やすと言う、今までとはまるで違った発想の元に作られておるのじゃからな」
実はね、入れ物に氷の魔力を通して入れた物を冷やそうって考えた人は他にもいたそうなんだよ。
でもそうすると入れ物にくっついてるところにも氷の魔力が直接流れちゃうから凍っちゃうし、その上入れたまま放っておくとそのうちに全部凍っちゃうんだって。
そしたら中に入ってるものを取り出せなくなっちゃうでしょ?
それじゃあせっかく冷やしても使えないねって事で、今ではそう言う魔道具を作ろうなんて誰も思わなくなっちゃったんだってさ。
「その点この魔道具はかき混ぜるという工程を加える事で、材料がずっと魔道具に接触しているという状況にはならぬから凍ってしまう心配がない。これはまさに、発想の勝利じゃな」
僕が作ったのはちょっとおっきめだけど、作ろうと思えばもっとちっちゃいのでも作れるんだよね。
と言う事はだよ、例えばカップに入ったお水を冷やすだけなら筆みたいに持ち運べるくらいの長さで作ればいいだけだもん。
そう考えるとこのかき混ぜるだけでものをつべたくできる魔道具は、いろんな事に使える可能性があるんだって。
「一度ギルマスと話し合わねばならぬが、これもやはり特許申請した方がいいじゃろうな」
「そうなの?」
「うむ。一見すると誰でも思いつきそうなアイデアじゃが、魔道具作りに精通した者ほど気が付きにくい品じゃからな。特許を取って広めた方が世のためじゃろうて」
ロルフさんはそう言いうと、
「しかし、本当に子供の発想というものはすごいのぉ。既存の技術をそのままに、予想外の魔道具を作り出すのじゃから」
白くて長いあごのお髭をなでながら、今回の魔道具も発表したら騒ぎになるじゃろうなって笑ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ルディーン君の作る魔道具って、中には画期的なものを含まれますけど基本的には普通にある技術の延長でしかないんですよね。
だからそれほどすごい事をやっているわけではないのですが、それを生業にしている人ほど気が付かないような小さな盲点を見つけるので一見するとすごい事をやっているように見えてしまいます。
後、実を言うとこれらの発想はルディーン君だけが思いつく物ではなかったりもします。なにせ、子供たちの考える、こんな事できたらいいなって言うドラえもんの旧主題歌のような子供の発想なんですから。
でも普通の子供はそれを実際に作ったりはできませんよね? それを実際に形にしてしまう。そんなルディーン君だからこそ、大人が驚くようなものを作り出していけていると言うわけです。




