31 思い込みと勘違い
はぁ~綺麗な人でもこんな顔、するんだ。
ルルモアさんの呆けた顔を見て、僕はちょっとびっくり。
なんとなく美人さんって、いつもカッコイイってイメージない? それにエルフと言う種族も僕の中ではそんなイメージだったから、彼女のその表情はかなり新鮮だった。
「はっ! る、ルディーン君。それはどういう事なの? あなた、攻撃魔法が使えるのに癒しの魔法まで使えるって言うの? いや、でもそんな事……」
そんなルルモアさんの顔をじっと見ていたら、彼女はいきなり再起動したかのように僕に詰め寄ってきた。
そして何か自分の新たな葛藤が生まれたかのように、また自分の世界に帰って行ってしまった。
忙しい人だなぁ。
「でも、それしか考えられないし」
あっ、ルルモアさんの中で何か結論が出たみたい。
それでなんか深刻な顔して、こう僕に問い掛けてきたんだ。
「普通、魔法使いと神官の魔法は一人では使う事ができないのよ。もしそれができ……」
「え~、そんなはずないよ。だってキャリーナねえちゃんはキュア使えるけど、ライトつかったらゆび、ひかったもん」
ルルモアさんがなんか話してたけど、僕からしたら信じられない事を言い出したから途中で声をあげてしまった。
確かに魔法使いと神官を同時にメインジョブにする事はできないけど、練習する事は可能だよ。
これに関しては僕だけじゃなくキャリーナ姉ちゃんもできたから、前世の記憶持ちである僕のチートスキルじゃない事は証明されてるからね。
「ルディーン、それは本当なのか?」
ただ、この言葉に驚いたのはルルモアさんじゃなくお父さん。
どうやらお父さんは、お姉ちゃんが魔法使いの魔法も使える事を知らなかったみたいなんだよね。
だから僕は教えてあげたんだ。
「ほんとうだよ! ライトってとなえると、ちゃんとゆびがひかったもん。ちょっとくらかったけど、ちゃんとできてた!」
「ルディーン君、指が光ったってどれくらい? お日様くらい? それともロウソクくらい?」
ところが、今度はルルモアさんが僕にそう聞いてきたんだ。
もう! いろんな方向からいっぺんに色々聞かれて、ホント困っちゃうなぁ。
「まだろうそくのひかりよりくらかった。けど、ちゃんとひかってたよ。でもおねえちゃんも、ずっとれんしゅうしてたらキュアみたいにうまくつかえるようになってたのに、つまんないってやめちゃったんだよね」
「そうなの。ぼぉっと光るだけだったのね」
なんかホッとしたような顔をするルルモアさん。
う~ん、一体何が聞きたかったんだろう? よく解らないけど、とにかく自分の中で何か答えが出たようで一人納得しちゃってる。
僕は何がなにやら解んなくって困ってるのに、ずるいなぁ。
そんな僕をよそに、ルルモアさんはその答え合わせをするようにお父さんに質問したんだ。
「ルディーン君も癒しの魔法が使えるようですけど、普段はどのように使われているのですか?」
「ルディーンですか? そうだなぁ、兄弟たちが訓練で作った手の肉刺を治療したり、弓の練習で荒れた指先を治したりしてましたね」
「あとね、おかあさんの、てあれ? ってのもなおしてるよ。ぼく、おねえちゃんよりキュア、うまいんだから」
「そうなの。ルディーン君、偉いわね」
ルルモアさんに褒められて僕は得意満面、エッヘンと胸をそらした。
えへへ、そしたら偉いねって頭をなでてくれたんだ。
■
なるほど、ルディーン君が言っていたのは、癒しの魔法が発動したって意味だったのね。
それならあり得るわと、私は一人納得する。
そもそも魔法と言うものは攻撃魔法であろうと癒しの魔法であろうと基本は同じものだ。
体内の魔力を感じ、その力を動かす訓練をして体中に循環させて発動すると言う行程はどちらも変わらないのだから。
ただその両方を覚えようと練習したとしても、いずれはどうしてもそのどちらかに傾倒して行ってしまうことになるものなの。
それは循環までは同じでも発動プロセスが違うからだと考えられていて、魔法の練習段階ではかろうじて両方とも発動していた人でも、いずれは魔法使いか神官のどちらかのジョブを習得して片方の魔法しか使えなくなってしまう事がその根拠とされているのよね。
ただその両方の魔法を使える人がまったく居ないと言うわけじゃない。
ごくまれにだけど、ジョブとは別にサブジョブと言うものを身に付ける人がいるのだから。
もし魔法使いのジョブを持つ人が神官をサブジョブにした場合、神官がメインジョブの人よりも劣るとは言え癒しの魔法を使えるようになるのよ。
でもね、それには物凄く大変な修行と長い時間が必要とするわ。
それに今までに魔法系統二つをジョブとサブジョブに持った存在は歴史上数人しかいないと言われているもの。それはほぼ不可能と言っても良い事なのよね。
それだけにルディーン君がウサギや鳥を魔法で狩っているのに癒しの魔法まで使えるときいて私は驚いたわ。まさかこの歳で!? ってね。
でもその後の話を聞いて、ああ、この子は癒しの魔法が発動する事を使えると言っているのねって納得できた。それならばありえない事ではないものね。
危ない危ない、危うく勘違いをして恥をかくところだったわ。
■
どうやら僕が両方の魔法を使える事を解ってもらえたようで一安心。
やっぱり両方の魔法を使えてもおかしくないんだと思って安心した僕は、最初の疑問をルルモアさんに聞く事にしたんだ。
「ねぇ、かいふくじゅもんがつかえるとみんなおどろくというのはわかったよ。でも、ぼくがこうげきまほうがつかえるってわかったらみんな、なんでおどろいたの?」
キャリーナ姉ちゃんの話でうやむやになったけど、本来はこの話題だったんだよね。
僕があそこで回復魔法が使えるって話したのなら、キャリーナ姉ちゃんと同じで大騒ぎになるだろうけど、僕があそこで言ったのは魔法でウサギを取ってるって話だもん、それとはまったく違う。
だからこそ、僕は納得する理由が聞きたかったんだ。
「それはさっきも言ったでしょ? ルディーン君が魔法を使えるって聞いたからよ」
「うそだぁ、ぼくがつかえるっていったのはこうげきのまほうだよ。だれでもおぼえられるまほうなんだから、おどろくはずないよ」
そんな僕の言葉に思案顔になるルルモアさん。
そしてしばらく考えた後、
「それはね、何度も言うけど普通の人は簡単には魔法を覚えられないからなのよ」
そう言ったんだ。
でもそれには僕、納得できない。
だからもう一度口を開こうとしたんだけど、その時ルルモアさんがそれを制した。
「ちゃんと説明するから話を最後まで聞いてね。あのね、ルディーン君。魔法は確かに誰でも覚えられるかもしれない。でもそれにはとてもお金が掛かるのよ」
「おかね?」
「そう。普通の人はそのお金が払えないから魔法が覚えられないのよ」
お金……。
僕にはルルモアさんが言った魔法とお金の関係がまったく解らず、一体この人は何を言い出すのだろうか? って思ったんだ。
だけど、彼女の次の言葉で僕はびっくりしすぎてひっくり返る事となる。
「あのね、ルディーン君。魔法って使えるようになるまでに、普通は早い人でも金貨200枚、遅い人だと金貨500枚以上かかるものなのよ。その上呪文を発音一つ覚えるのには更に20枚はかかるわね」
200枚? 500枚? えっ? えっ? そんな……。
あまりに大きな数字が出ていて僕の頭は混乱する。
「でっでも、ほんをよんでもおぼえることができるよね? それなら」
「ルディーン、本屋さんで聞いただろう? 知識を得る専門書は初級のものでもかなり高額なんだよ」
そう言えばお父さんに買ってもらった本はどっちも金貨60枚位したっけ。
って事は、村の図書館に置いてあった魔法の本も同じ位したって事なのか。
あっ、でも。
「それでもきんか60まいくらいでおぼえられるでしょ? 200まいもかかるなんておかしいよ」
「あのねぇルディーン君。本に書かれている事を読んだだけでは一番の基本である体内の魔力の事でさえ、普通の人は何の事だか理解できないものなのよ」
っ!?
『……? ルディーン、まりょくってなあに?』
『え? まりょくはまりょくだよ? からだのなかにあう、ふしぎなちから』
『わたし、ふしぎなちからなんてないよ? ルディーン、もしかしてそのふしぎなちからがないとまほう、つかえないの?』
そんなルルモアさんの言葉を聞いて僕は不意に、魔法を教えてって初めて言われたあの日のキャリーナ姉ちゃんとの会話を思い出したんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
30話を超えて、皆さんがこの作品をどう考えているのか気になっている今日この頃です。
できたら感想を頂きたいのですが、それが無理なら評価だけでも入れていただけるとありがたいです。




