330 僕ね、前からみんなにお礼がしたかったんだ
「どうしたの、ロルフさん」
僕たちが持ってきたベニオウの実はとってもおっきいから、見せてあげたらちょっとはびっくりするだろうなぁって思ってたんだ。
でもね、まさかこんなにびっくりするなんて思わないでしょ?
だから僕、心配になって聞いてみたんだ。
そしたらそれを聞いたロルフさんは、やっと僕の方を見て謝ってくれたんだよ。
「これはすまなんだ。このベニオウの実が魔力の影響で変質しておると聞いて、思わず興奮してしまってのぉ」
「それってすごい事なの?」
「それは詳しく話を聞かねば解らぬが、場合によってはかなり貴重な発見になるやもしれん」
ロルフさんはね、魔力が多くあるところに生えてるからって、そこにある植物が全部魔力の影響を受けるわけじゃないんだよって僕に教えてくれたんだ。
魔力の影響を受けるのはね、ポーションを作る時に使う薬草みたいに魔力を注げる成分が入ってるのだけなんだってさ。
「そっか。じゃあベニオウの木は、その魔力を入れることができるのがいっぱいあったって事なんだね」
「この実が魔力を吸って大きくなったという事はそうなのじゃろうな」
そう言って頷くロルフさん。
ベニオウの木ってさ、普通の木から魔木に変わっちゃってるくらいだもん。
って事は普通の木なんかよりもっといっぱい魔力を注げる成分が多いんだろうなぁって、僕はロルフさんのお話を聞いてそう思ったんだ。
「ところで、ルディーン君。君は先ほどこのベニオウの実をわしらへの土産だと言っておったな? しかしこれほどの数があるところを見ると、これからまたほかの人の所に持って行かねばならぬという事かな?」
「ううん、違うよ。僕、いっつもロルフさんのお家のお部屋を使ってるでしょ? それに錬金術ギルドに来るときには馬車にのっけてもらったりしてるから、バーリマンさんやペソラさんの分もあるけど、その他はみんなロルフさんとお家の人たちにあげる分なんだ」
僕ね、いっつもメイド長のライラさんや料理人のノートンさん、それに馬車の御者さんや他のメイドさんたちに色々やってもらってるんだよ。
なのに今まではありがとうって言うだけで、他にはなんにもできなかったんだよね。
だから僕、前からず~っとなんかお返しできることが無いかなぁ? って思ってたんだ。
でね、そしたらこのベニオウの実を持って帰れるって解ったでしょ?
僕、その時に、そうだ! これをみんなのお土産にしたらいいじゃないかって思ったんだ。
「あっ、でもやっぱり全部はダメ。お母さんやお姉ちゃんたちはきっとお宿に帰っても食べたいって言うから、みんなの分だけは残してね」
「ほっほっほっほっ、大丈夫じゃ。館の者たちはルディーン君のその気持ちを聞くだけでも十分満足するじゃろうて」
でも、全部あげちゃうとお母さんやお姉ちゃんたちに怒られちゃうかもしれないでしょ?
だからここにあるのを全部はあげられないよって言ったんだけど、そしたらロルフさんは笑いながらいいよって。
でね、その後ロルフさんはパンパンって手をたたいて、だぁれもいないはずの周りに向かってこう言ったんだ。
「さて、誰か居るじゃろう? ルディーン君の兄たちにいつまでも見張りをさせるわけにはいかんからのぉ。この箱をギルドの裏手から中に運んでおいてくれ」
「畏まりました、旦那様」
そしたらどこからか男の人たちが出てきてびっくり。
でね、その人たちは自分たちがこの箱を錬金術ギルドの中に持っていくから、お兄ちゃんたちは僕たちと一緒に中に入っていいよって言ってくれたんだ。
「それではルディーン君、我々も中に入るとしようか。奥にはギルマスもいるし、彼女の事じゃ、この実の話を聞けば興味津々で話を聞きたがるじゃろうからな」
「うん! ディック兄ちゃん、テオドル兄ちゃん、中に入ろ」
「「ああ」」
出てきた男の人たちがベニオウの実が入った石の箱を錬金術ギルドの裏口の方へと運び始めるのを見た僕は、そこは任せてお兄ちゃんたちと一緒に錬金術ギルドに入る事にしたんだ。
「あっ、バーリマンさんとペソラさんだ! こんにちわ!」
「こんにちは。ルディーン君はいつも元気ね」
「こんにちは。皆さんの分のお茶も今、入れてきますね」
僕たちがお外に出てる間に、お姉ちゃんたちの声が聞こえたからってペソラさんが中から出て来てくれたんだって。
でね、ペソラさんがみんなにお茶を出した後、奥で仕事してたバーリマンさんを呼んで来てくれたそうなんだ。
だから僕は元気にご挨拶したんだけど、
「おお、ギルマス。ちょうどよい所に。今から呼びに行こうと思っていたところじゃ」
「あら、伯……ロルフさん。どうなされたのですか?」
「うむ、実は先ほどルディーン君から、興味深い話を聞いてのぉ」
そしたらロルフさんはそこにいたバーリマンさんに、さっき僕から聞いたベニオウの実のお話を教えてあげたんだ。
「ベニオウの実は、生えてる土地の魔力濃度が高いと肥大化すると言うのですか?」
「うむ。ルディーン君が調べたところ、そのような結果が出たそうじゃ」
「うん、そうだよ! ベニオウの木はね、周りの魔力を吸って大きくなるんだ。だから森の奥に生えてるのは、入口んとこに生えてるのよりずっと大きいんだよね」
その話を聞いてバーリマンさんがびっくりした顔したもんだから、僕は実だけじゃなくって木もおっきくなるんだよって教えてあげたんだよ。
でね、そのままベニオウの木は普通の木じゃなくって魔木なんだよって事も教えてあげようと思ってたんだけど、
「それは興味深いですね」
「確かに。薬草が魔力でその効果を上げると言うのはよく聞く話じゃが、樹木がそのような影響を受けると言う話はあまり聞かぬからな」
でもそれを聞いたロルフさんとバーリマンさんは、難しい顔して二人でお話を始めちゃったんだ。
「あらあら二人とも、また始めちゃいましたね」
それを見たペソラさんはちょっと困った顔になっちゃったんだけど、
「まぁ、ああなってしまっては二人ともしばらく帰ってきませんから、皆さんはお茶を飲んでくつろいでいてください」
すぐに僕たちの方を見てニコって笑うと、僕やお兄ちゃんたちの分のお茶も入れてくれたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ルディーン君はいつもロルフさんの別宅にジャンプで飛んでイーノックカウに来ているのですが、その度ライラさんに付き添ってもらって馬車で錬金術ギルドに来てますよね?
それだけじゃなく料理人のノートンさんや色々と陰でやってくれているメイドさんや館の使用人たちにも、彼はとっても感謝しているんですよ。
そしてそれはルディーン君を送り出しているお父さんやお母さん、それにお兄ちゃんやお姉ちゃんたちも同じで、だからこそ森から持って帰ったベニオウの実を館のhとたちへのお土産にする事に誰も反対しなかったと言うわけです。




