326 ルルモアさんでも知らなかったみたい
イーノックカウに帰ると、僕たちはそのまま冒険者ギルドへ向かったんだよ。
そしたら中途半端な時間で冒険者さんも依頼にくるお客さんもいなくって、カウンターの中で暇そうにしてたルルモアさんが僕たちを見つけて話しかけてきたんだ。
「あら? どうしたんですか、カールフェルトさん。今日は森に行かれると言う話でしたが」
「こんにちは、ルルモアさん。ええ、そのつもりだったのですが、ちょっと用ができまして」
でも僕たちって、今日はずっと森にいるはずだったでしょ?
なんで帰ってきたの? って聞かれたもんだから、お父さんはちょっとしたご用事ができたんだよって答えたんだ。
「用事、ですか?」
「ああ、それについては私からお話します」
でもほんとにご用事があるのは僕たちじゃなくって商業ギルドの人なんだよね。
だから不思議そうな顔してるルルモアさんに、一緒についてきた商業ギルドの人が何でここに来たのかを教えてあげたんだ。
「森の奥にあるベニオウの実の収穫依頼、ですか?」
「はい。この方たちの話によると、どうやら森の奥には入り口付近とは違って、とても大きな実がたくさんなっているベニオウの木があるようなのです」
商業ギルドの人は冒険者ギルドで普通に依頼を出しても、採りに行ってくれる人なんかいないって言ってたよね?
でもね、もしかしたらお父さんが言ってたみたいに高ランクの冒険者さんたちを雇ってる人たちの中には、僕たちが持ってきたベニオウの実が欲しいって人がいるかもしれないでしょ?
だからもし高ランクの冒険者さんを雇ってる人の中にそんな人が居そうだったら、採りに行くための費用の一部と採れたベニオウの実を運ぶための人を出すから商業ギルドの分も一緒に採ってきてほしいって依頼をしてくれないかなぁ? って、商業ギルドの人はルルモアさんに話したんだよね。
「ベニオウの実ですか? 確かに高値で取引されている果物ではありますけど、普通に流通しているものですよね? それが少しくらい大きいからと言って、高ランクの冒険者を派遣してまで欲しいと思う人は、はたしているでしょうか?」
「その疑問は、私にもよく理解できます。ですが、実際に現物を見てもらえれば解ります! あれはもう、まるで別の果物ですから」
でもね、そう言われてもルルモアさんはホントにいるかなぁ? って言うんだよね。
だって値段は高いけど、買おうと思ったらいつでも買えるものだもん。
だけどそんなルルモアさんに、商業ギルドの人は絶対欲しい人はいるよ! って。
ルルモアさんだって僕たちが持って帰ってきたベニオウの実を見たらきっとそう思うはずだよって、おっきな声でそう言ったんだ。
そんな商業ギルドの人の勢いに、ルルモアさんもおっきなベニオウの実を見る気になってくれたみたい。
「そこまで仰るのであれば一応拝見します。ただ、一つお聞きしたいのですが……その大きなベニオウの実と言うのはどこにあるのでしょう? 今、お持ちではないようですが」
でもね、見るのはいいけど、そんなのどこにあるのさ? ってルルモアさんはちょっと怖い笑顔で商業ギルドの人に聞いたんだ。
ベニオウの実はね、普通のでもすっごく甘くておいしそうなにおいがするんだ。
それもすっごく強い香りがするもんだから、もし持ってたら袋とかに入れてたってすぐに解るんだよね。
だけど今はそんなにおいが全然しないでしょ?
だからルルモアさんは多分、ここには持って来てないんだろうなぁ? って思ったみたい。
「ベニオウの実はお外に置いてきたよ! だって冒険者ギルドの中まで持ってこれなかったもん!」
でもそれを聞いた僕はルルモアさんに、持ってきたベニオウの実はお外にあるんだよって教えてあげたんだ。
だって持ってきたベニオウの実は全部石の箱に入れてあるでしょ?
だからいっぱいありすぎて冒険者ギルドの中まで持ってけそうになかったもんだから僕、お外で一度フロートボードからおろしたんだよね。
でもさ、商業ギルドに人がわざわざ採ってきて欲しいって言うくらいなんだから、こんなとこに置いといたらもしかすると悪もんが盗ってっちゃうかもしれないでしょ?
だからお兄ちゃんたちが僕に、
「俺たちがちゃんと見てるから、ルディーンはそんな心配しなくても大丈夫!」
って言って、二人してベニオウの実が入ってる箱を、お外で見張ってくれてるんだ。
「えっ? ルディーン君。それってどういう事? って言うか、まさかルディーン君が持ってきたの?」
「違うよ。引っ張ってきたのはお父さんだもん」
でもね、外に置いてきたってのを聞いたルルモアさんは、僕が持ってきたって思っちゃったみたい。
だから僕はあわてて、お父さんがここまで引っ張ってきたんだってちゃんと教えてあげたんだよ?
でもそしたら何でか知らないけど、ルルモアさんは変な顔になっちゃったんだ。
「はははっ。ルディーン、それじゃ解らないだろ。ルルモアさん。正確には採れたものが入った箱を物を運ぶ魔法で浮かせて、俺がそれを引っ張ってここまで運んで来たんですよ」
「ああ、なるほど。そういう事だったんですね」
よく解んないけど、お父さんがお話したらルルモアさんはちゃんと解ってくれたみたい。
う~ん。お父さん、僕が言った事とおんなじ事しか言ってないんだけどなぁ?
でも解ってくれたみたいだから、まぁいっか!
って事で僕たちは採ってきたベニオウの実を見せるために、商業ギルドの人と一緒にルルモアさんを連れて冒険者ギルドの外に出たんだ。
「なっ、何なのですか、これは!?」
「へへへっ、すごいでしょ。僕が見つけたんだよ」
箱が置いてある場所につれてってあげて一番上の箱のふたを採って見せてあげたら、ルルモアさんはすっごくびっくりした顔になっちゃったんだよね。
う~ん、どうやらこんなおっきなベニオウの実は、いくらルルモアさんがすっごく長生きのエルフでも流石に見た事が無かったみたい。
だから目をキラキラさせて、おっきくて真っ赤なベニオウの実を見つめてたんだよね。
「どうです? これなら、欲しがる人もいると思いませんか?」
そんなルルモアさんを見た商業ギルドの人も、これだったら採りに行ってくれる人が見つかるよね? って得意顔だ。
「ええ、確かにそうですけど……でも、なぜこんなに大きな実がついたのですか? もしかして、森の奥地でずっと放置されたから大きく育ったとか?」
「いえ。私たちが知る限り、ベニオウの実はたとえ採らなかったとしても、ある一定の大きさになるとそこで成長が止まってしまいます。ですからこれはあくまで私の想像なのですが、この実がなっていたベニオウの木は入り口付近に生えているものよりはるかに樹齢が長い木なのではないでしょうか?」
商業ギルドの人はね、多分僕たちが見つけた木が森の入口近くにある木よりもっと昔から生えてる木で、そのせいでこんな大きな実がなってるんじゃないかなぁ? って考えてたみたい。
でもさ、僕たちがとってきたベニオウの実がおっきくなったのは魔力をいっぱい吸ったからだよね?
だから僕、それを教えてあげようと思ったんだけど、
「そう言えば、森の入口近くのベニオウの木って、幹の太さはどれくらいなんですか?」
そしたら、お父さんが商業ギルドの人のこう聞いたんだよね。
「木の幹ですか? そうですね、大人が抱え込めるくらいでしょうか?」
「えっ!? そんなに細いのか?」
ところが帰ってきた答えに、僕だけじゃなくってお父さんもびっくりしたんだよね。
だって僕たちが実を採ってきたベニオウの木は、もっとずっと太かったんだもん。
それにそんなに細かったら階段なんか作らなくったって、お父さんやお兄ちゃんたちだったら多分何にもなくたって登れたんじゃないかなぁ?
あれ? って事はもしかして魔力をいっぱい吸ったからだけじゃなくって、商業ギルドの人が言ってるみたいにずっと昔から生えてる木だから、入口近くの木よりもっとおっきな実がなってるのかも?
とまぁ、こんな事を僕が考えてる間も、大人の人たちのお話は続いてて、
「という事は、やはりこの実がなっていた木の幹はもっと太かったんですね?」
「ああ。少なくとも俺では、木の幹の半分より少し先くらいまでしか手が回らなかったな」
この話をお父さんから聞いた商業ギルドの人は、どうやらそれがこのベニオウの実がおっきくなった理由だって思ったみたい。
そんなに太い幹なら多くの栄養を実に蓄えられてもおかしくはないなぁってうんうん頷きながら、一人で納得しちゃったんだよね。
おまけに実がなってる枝が5メートルくらい上の方に生えてたんだよってお父さんが教えてあげたもんだから、商業ギルドの人は余計にそれがあってるって思っちゃったみたいなんだよね。
「そんなに高い位置に実がなっていたのですか?」
「ああ。だから採るのにも、本当に苦労したんだ」
「でしょうね。私たちが買い取っているベニオウの実がなっている木の枝は、その半分より少しだけ高いくらいの位置から生えてますから」
森の入口に生えてるベニオウの実は、僕たちが採ってきた木より、ずっと小さいみたいなんだよ。
って事はもしかして、実だけじゃなくベニオウの木も魔力を吸っておっきくなるのかなぁ?
あっでも、もしかしたら実を採るためにみんなが登ったりしないからおっきく育ってるのかも?
僕はお父さんたちのお話を聞きながら、一人でそんな風にいろんな事を考えてたんだ。
でもそのせいで、ベニオウの実が魔力を吸ったおかげでおっきくなったんだよって教えてあげる前に、ルルモアさんたちの間では木がおっきかったから実もこんなにおっきいんだって事になっちゃってたんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
冒険者ギルドで長い間受付嬢をしているだけでなく、昔からイーノックカウで生活していろいろな店を渡り歩いている美味しいものに目が無いルルモアさんでも、流石にそんな奥地に生えているベニオウの木は知らなかったようです。
まぁ、下から見上げただけではそんな大きな実がなってるのなんて専門家でもなければ解らないだろうし、いっぱいなっているからと言っても5メートルくらい上になっている実をわざわざ苦労して採ろうなんて考える冒険者がいるはずがないので当たり前ですよね。
でも、ルルモアさんはこの実を知ってしまいました。そしてルディーン君なら、その実を採ってくることができる事も……。
ルディーン君、逃げてぇ~!w




